一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

市場混乱封じた植田総裁、賃金・サービスに手応え 注目される10月展望リポート 

2024-09-20 17:28:10 | 経済

 注目されていた20日の植田和男・日銀総裁の会見は、「安全運転」に終始した結果、ドル/円もややドル高・円安に動いただけで乗り切り、日銀としては大成功だったのではないか。また、8月上旬以降の円高が輸入物価上昇を通じた物価全体の上振れリスクを減少させ、利上げを判断する際に時間的な余裕があると指摘したことは、ドル売り・円買いを仕掛けようとしていた短期筋の動きを封じることになった。

 同時に今後は賃金上昇の継続やサービス価格上昇への波及などを注視していく姿勢も鮮明にし、次の利上げ判断では賃上げとサービス価格の上昇、消費動向が重要である点を明確にした。10月の金融政策決定会合で公表される経済・物価情勢の展望(展望リポート)の中で、賃上げとサービス価格、消費動向で判断を前進させることができるなら、次の利上げの姿が浮かび上がってくると筆者は指摘したい。

 

 <輸入物価起点の上振れリスク減少、判断に時間的余裕ある>

 この日の会見では、日銀が展望リポートで示したような経済・物価見通しに沿った動きが確認できれば、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくというこれまでの見解をあらためて表明した。

 一部の海外勢を含めた短期筋は、植田総裁が上記のような利上げパスに関する発言をすれば、円買いを仕掛けようと身構えていたが、反対に円安方向に振れる結果になった。

 最大の要因は、8月上旬以降の円高進展で輸入物価上昇を起点にした物価上振れのリスクが「相応に減少している」と明言。合わせて経済・物価状況と利上げによる緩和度合いの調整に関する判断をする際に「確認していく時間的余裕がある」と指摘したことだ。この結果、ドル/円は143円台後半までドル高・円安が進んだ。

 市場の一部では、米連邦公開市場委員会(FOМC)と日銀金融政策決定会合の2大イベントを経て、ドル安・円高が進展すると予想する声が根強くあり、140円割れを想定する参加者も少なくなかった。もし、そうなれば、円高→日本株安という8月上旬のような市場変動の再来も予想され、日銀の想定する利上げパスにもかなりの影響が出かねないリスクがあった。

 だが、植田総裁は市場変動をじゃっ起しかねない発言を回避し、複数の質問にも同じような趣旨で回答するなどの「安全運転手法」を駆使し、相場変動の地雷原を乗り切ったと言えるのではないか。

 

 <賃金上昇や消費データ注目、判断引き上げてよい材料>

 同時に次の利上げ時期を判断する際のヒントに関し、かなりの情報を提供したと筆者は考える。まず、賃金動向をかなり重視し、データが高めに出ていることに手応えを感じている点について率直に認めている点を指摘したい。 

 所定内賃金が高めの伸びを示し、夏季ボーナスもしっかりと増加していることに植田総裁は言及した。会見では細かいデータの出所について説明がなかったが、日銀が重視している毎月勤労統計の共通事業所の所定内給与(一般)は7月に前年比プラス3.0%と高い伸びを示している。

 これが消費に波及すると予想しているとみられ、植田総裁も会見の中で、日銀が出している消費活動指数が2024年第2四半期に増加に転じ、7月も増加が続いているほか、日銀のヒアリングの結果や高頻度データなどからも緩やかな増加基調が今後も続くとの見解を示した。

 その上で、7月以降も日本経済は「(日銀の)見通し通りに動いている」とし、基調的な物価上昇率の判断を上げても「よいような材料」と指摘した。

 

 <円高の物価への影響、米経済判断含め10月展望リポートで分析結果公表へ>

 他方、米経済をはじめとする海外経済の動向がリスク要因であるとも指摘。米経済がソフトランディングするのか、それよりも厳しい景気動向になるのか先行きは「若干、不透明感を高めている」とも述べ、現状では国内の好材料と「相打ちしている」との表現を使って、利上げ判断に踏み込む時期が接近しているわけではないことをにじませた。

 また、足元で140円台前半まで進んできた円高が国内物価に与える影響に関して、米経済がどうなるかという点を見極める中で、為替変動の物価への影響を分析し、10月に公表する展望リポートの中で判断を示してくとの方向性を示した。

 

 <植田総裁が示した重視する5つのポイント>

 さらに注視していくデータとして、1)秋以降も賃金上昇の動きが継続していくのか、2)最低賃金引上げの影響がパートの賃金などに具体的に出てくるのか、3)賃金引き上げの影響がサービス価格への転嫁継続として出てくるのか、4)来年の春闘への動きがどうなるのか、5)サービス価格に影響を与える消費の動向──などを挙げた。

 サービス価格の上昇に関しては、多くの企業で10月に価格改定が予定されていることにも言及し、10月のサービス価格の変動を注していることにも触れた。

 

 <10月展望リポート、市場との対話の節目になるか>

 このように見てくると、国内の賃金上昇の動向やサービス価格、消費動向に一段と前向きの動きがあると日銀が判断すれば、10月の展望リポートでそうした情報を盛り込んで、市場への情報発信を積極化させる展開がありうると筆者は考える。

 他方、リスク要因として提示した米経済のソフトランディングの行方は、米連邦準備理事会(FRB)が年内に50ベーシスポイント(bp)の利下げを実施するかどうかや、11月の米大統領選の結果にも左右されるため、10月の金融政策決定会合の時点で明確な方向性を見出すのは難しいのではないか。

 したがって10月の日銀金融政策決定会合の段階では、国内における賃金から物価への波及、消費の堅調さを確認しつつ、本格的な利上げ判断をスタートさせるのは12月会合以降になると予想する。

 この日の会見では、日銀の賃金や消費などへの積極的評価と米国などの海外経済や市場変動へのリスクをにらみつつ慎重に判断する姿勢を織り交ぜた絶妙の配分が目立ったと言えるだろう。

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米大幅利下げと円安の理由、市場が注目する植田総裁会見と高市氏の当落

2024-09-19 14:04:31 | 経済

 18日の米連邦公開市場委員会(FOМC)で0.50ベーシスポイント(bp)の大幅な利下げが決まったが、ドル/円は一部の市場参加者の予想とは正反対のドル高・円安で反応し、19日の東京市場では一時、143円後半まで円安が進んだ。米金利が利下げ発表後に上昇してドル買い・円売りを促す要因になったという。

 今後は20日の植田和男・日銀総裁の会見内容次第で、再びドル安・円高方向に傾くかどうか市場の関心が集まっている。ここでにわかに注目度合いを高めているのが、自民党総裁選(27日投開票)における高市早苗・経済安全保障相の健闘報道だ。もし、日銀の利上げに難色を示している高市氏が決選投票に残って議員票を引き付けて当選した場合、日銀の利上げパスに大きな影響を与える可能性があり、これまで以上にマーケットで円安バイアスがかかりやすくなるの見方が出ているためだ。

 植田総裁の利上げに関するスタンスのニュアンス次第で円買いを仕掛けたい市場参加者と、高市氏の動向に関心を示す向きとのパワーバランスがどうなるのか、20日の東京外為市場の行方に内外市場参加者の注目がこれまで以上に集まりそうだ。

 

 <利下げ後に米金利上昇>

 FOМC後のドル/円の動きは、17日の当欄で筆者が指摘した展開にほぼ沿っていたと言えるだろう。市場では、利下げ幅をめぐって25bpと50bpの見方が拮抗しているとの見方が出ていたものの、50bpの市場織り込みは80%を超えていた。したがって50bpの利下げ発表で新たな円買いポジションを構築する動きにはならなかった。

 それどころか、ドル/円はドル高・円安方向に動き出し、円買いを計画していた市場参加者にとっては想定外の値動きになったと思われる。

 最も大きな要因は、米金利がそろって上昇したことだ。指標の10年債は前日の3.64%から3.71%、30年債が3.95%から4.03%、5年債が3.43%から3.49%に上昇。米金融政策の影響を受けやすい2年債も3.59%から3.62%に上昇した。

 

 <背景にあった3つの要因>

 では、大幅利下げでどうして米金利は上昇したのだろうか。1つは、見かけの大幅利下げとは対照的に米連邦準備理事会(FRB)の内部における意見の対立が大きいと市場が見たからだ。ドットチャート(FOМCメンバーが適切と考える政策金利の水準の分布図)をみると、2024年末までに50bpの利下げを予想していたのは9人で最も多かったが、25bp予想が7人、利下げなしが2人もいた。75bp利下げが1人いて年内の50bp利下げはかろうじて多数派を形成していたが、きわどい形勢であるとマーケットは判断したとみられる。

 また、2025年末の政策金利の水準に関し、マーケットは3%割れまで織り込んでいるのに対し、ドットチャートの中央値は3.25%-3.5%となっている。25年中に100bpしか利下げしないのであれば、現在の織り込みは行き過ぎとなって米金利の上昇という現象になりやすい。

 さらにパウエルFRB議長は会見の中で、経済が堅調でインフレが続くなら、政策をよりゆっくりと縮小するとの見解を示した。米アトランタ地区連銀のGDP NOWが今年第3四半期の成長率を2.9%と試算している中で、市場の織り込みよりも利上げテンポが緩やかになる可能性を敏感に感じ取った参加者が少なからず存在したとも言えるだろう。

 

 <日本株運用者にとって望外の展開>

 このところドル/円の上下動に対して素直に反応することが多くなった日経平均株価は、19日の取引で円安を材料に大幅高となり、前日比775円16銭高(2.13%高)の3万7155円33銭で取引を終えた。日本株の運用者にとって50bpの米利下げ予想が大きな下落要因として意識されてきただけに、円安→日本株の大幅高という結果は「望外の展開」だったのではないか。

 ただ、ここからの展開は単純ではなさそうだ。1つは20日に予定されている植田日銀総裁の会見が為替変動の材料になりやすく、もし、円高に振れればたちまち株安の地合いに戻ることになるからだ。

 

 <植田総裁の発言、繰り返しでも円高材料視される可能性>

 植田総裁の国会における発言や直近に行われた3人の日銀審議委員の講演・会見をみれば、8月5日の市場大変動を経ても、物価が見通し通りに展開すれば、実質の政策金利の水準が大幅にマイナスであることを考慮すると緩和度合いを調整する目的の利上げを実施していく、との方針を繰り返し述べている。

 20日の会見でも植田総裁が同様の趣旨の発言をする可能性があり、それはこれまでの見解の繰り返しないし再確認の意味合いを持つだろう。

 だが、FOМC後に142円台から143円台で取引されているドル/円は、大方の予想よりも「円安水準で取引されている」(国内銀関係者)とみられており、これまでの見解を繰り返したとしても一部の参加者に「タカ派的」とみられ、ドル売り・円買いが加速する材料となる可能性を指摘する声が市場の一部に出ている。

 

 <意識され出した高市氏の反利上げモード>

 他方、ここにきて円安が復活するのではないかと予想する見方がにわかに多くなっているとの指摘も出ている。その中心に存在するのが、自民党総裁選に立候補している高市氏だ。14日の総裁選イベントでは「金融緩和は我慢して続けるべき、低金利を続けるべき」と発言。もし、新総裁・新首相になった場合、日銀が進めようとしている利上げ路線に真っ向から反対し、日銀の利上げパスに大きな障害となるとの予想が市場の中で浮上し始めている。

 直近の自民党員・党友を対象にした複数の調査では、石破茂元幹事長、小泉進次郎・元環境相と肩を並べるかもしくは凌いでいる結果もあり、市場参加者の間では急速に「高市氏当選のシナリオを構築する必要が出てきた」という声も漏れだした。

 

 <円高と円安、どちらのパワーが優勢か>

 こうした状況を踏まえると、植田総裁の会見途中や終了後に円買いを仕掛ける動きが出て円高/日本株安の値動きが活発化する展開と、植田総裁の想定以上の利上げに対する慎重な発言や自民党総裁選における高市氏の健闘を材料視した円安/日本株高の動きのどちらが鮮明になるのか注視する必要がありそうだ。

 筆者は2つの力が均衡し、20日の会見後に大きな値動きは発生しないのではないかと予想するが、FOМC後の円高が進展しなかったことから、新たなに円安を仕掛ける動きが出てくる可能性もゼロではないとみている。

 20日午後3時半からの植田総裁の会見への注目度は、金融政策の維持が予想される中では異例なほどに上がると予想している。

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自動車輸出の不振は不吉な前兆、自民党総裁候補に足りない危機感と具体策

2024-09-18 13:56:22 | 経済

 18日に公表された8月貿易統計の結果を見ると、輸出の主力である自動車の不振が目立っている。かつて自動車とともに輸出の花形だった電気機器の国際競争力が低下し、日本の稼ぐ力の源泉ともいうべき自動車輸出の足元における不振は、新たな成長産業を見出せない日本経済にとって「不吉な影」とも言える。

 論戦が活発化している自民党総裁選では経済成長もテーマになっているが、このままでは主力打者が不在になりかねないという危機感が見えない。日本経済はどこで稼ぐのか、新たな成長の芽をどこに見出すのかという議論がなければ、総裁選後にお決まりの経済対策を打ち出し、補正予算で公共投資を増やしても潜在成長率の底上げにつながらないという「空騒ぎ」を繰り返すことになると指摘したい。

 

 <円安でも貿易赤字体質>

 8月の貿易統計によると、輸出は前年同月比5.6%増の8兆4419億円。半導体等製造装置や半導体等電子部品、科学光学機器などの伸びが目立った。輸入は前年同月比2.3%増の9兆1372億円となり、貿易収支は6953億円の赤字になった。市場が予想していた1兆3000億円台の赤字幅を下回ったものの、8月のドル/円が150.89円と前年より6.1%の円安だったにもかかわらず、輸出数量が同2.7%減と7カ月連続で減少。貿易赤字体質から脱却できる兆しが見えないことは7月と同じだった。

 

 <目立つ自動車輸出の減少幅、対中減少にみえるEⅤ苦戦のインパクト>

 それよりも深刻なのは、日本経済にとって最大の稼ぎ頭である自動車の輸出不振が顕著になったことだ。輸出額は前年同月比9.9%減、輸出数量は同11.8%減だった。

 中でも対米国、欧州連合(EU)、中国の落ち込みが目立った。輸出金額は対米が同14.2%減、対EUが同22.6%減、対中が同30.9%減と軒並み縮小。さらに輸出数量は、対米が同22.5%減、対EUが同31.2%減、対中が同29.4%減と落ち込みが目立った。

 8月は日本に台風が接近、上陸した影響で自動車工場の操業停止日数が大幅に増えたことが影響したが、問題はそれだけにとどまらない。ついに自動車産業にも国際競争力の低下の兆しが出始めている可能性が一部の専門家の間でささやかれ出している。

 例えば、中国では政府からの販売補助金が電気自動車(EⅤ)に偏重して給付されていることもあり、EⅤで出遅れている日本勢の販売が劣勢となっているようだ。中国では、資産デフレの兆候が一段と顕著になっているため、消費者は自動車などの耐久消費財の購入を控えており、補助金支給の有無が販売の優劣に直結している。

 9月以降、自動車輸出に回復の動きが見えないようなら、日本経済を怪しい黒雲が包み込むリスクも上昇しかねない。

 

 <23年度の電気機器、ネットで5644億円の輸入超過>

 筆者が輸出動向に懸念を抱くのは、日本が「貿易大国」と言われた1980年代から90年代にかけて自動車とともに日本の輸出の両輪と言われていた電気機器の凋落が甚だしいからだ。

 2023年度の貿易統計によると、電気機器の輸出総額は17兆0736億円なのに対し、輸入総額は17兆6380億円と差し引きで5644億円の輸入超過に転落している。

 このまま自動車の輸出不振が継続するようなら、輸出で稼ぎ出す「主力打者」が不在となり、貿易赤字の構造が定着するだけでなく、円安の地合いが長期化してさらに貿易収支を悪化させるサイクルに突入しかねない状況にあると筆者は懸念している。

 

 <貿易赤字定着なら、120円割れの円高に高いハードル>

 足元でいったん161円台まで進行した円安は輸入物価の上昇を起点にした食料品などの値上げを招き、消費者からの評判が悪くなっている。こうした状況下で与党政治家の中にも「行き過ぎた円安は物価上昇を招いて不適切」との声が上がりだした。

 だが、貿易収支の構造が赤字定着に傾くなら、日米の金融政策のベクトルが逆方向になっても、かつてのようなドル/円の100円割れの可能性は限りなくゼロに接近し、120円割れも簡単には実現しなくっているのが現状ではないか。

 

 <どこで稼ぐのか、見えない自民党総裁候補の具体策>

 ここで現在進行中の自民党総裁選での論戦を見ていると、経済成長の重要性を強調する候補者が多いものの、具体的にどのような手法で成長率をアップさせるのか全く具体先が見えてきていないのが実情だ。

 貿易統計の視点から見ても、国内の製造拠点の海外流出で円安のメリットはほとんど生かされておらず、最後の頼みの綱の自動車の先行きにも大きな懸念が生じていることは、これまで指摘してきたところだ。

 この厳しい現状をどのように打破していくのか。掛け声だけでは、これまで繰り返されてきた公共事業の積み増しを中心にした経済対策の実施で当座の成長率は支えられるものの、潜在成長率は上がらずに国の債務だけが累増していくということになりかねない。

 日本経済のどこを強化して、どの分野で具体的に稼ぎ出すことを構想しているのか。27日の投開票日までに一人でも現実的なプランを提示するなら、まず、マーケットが真っ先に反応するだろう。

 だが、残念ながら今のところはその兆しすら見えていない。

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FOМC後のドル/円、140円維持の声も すでに米大幅利下げ織り込み済みの指摘

2024-09-17 14:02:40 | 経済

 3連休明けの東京市場では、円高進行を背景に日経平均株価が下落した。17-18日に開催される米連邦公開市場委員会(FOМC)で50ベーシスポイント(bp)の利下げがあるとの観測が広がり、円高が日本株を圧迫するとのムードが広がった。

 ただ、マーケットはすでに年内や2025年中の大幅な利下げを織り込んでおり、さらにドル安・円高が進行するためには米景気の失速懸念が台頭するなど一段の米金利低下予測が必要との見方もある。FOМC通過後に140円前後でドル/円が維持されれば、そこから日経平均株価が買い戻されると予想する声もあり、市場の見方は「円高一色」とはなっていない。ドル/円が135円前後に円高シフトするのか、それとも140円台での取引が長期化するのか。日本時間の19日早朝に明らかになるFOМCの結果とパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の会見内容が大きなヤマ場になる。

 

 <16日に139.58円まで円高進行、その後に戻す>

 東京市場が休場だった16日のドル/円は、一時139.58円まで下落し、2023年7月以来の安値を付けた。市場は9月FOМCでの50bp利下げを82%織り込んでおり、13日の当欄で指摘したとおりにFOМCでの50bp利下げを織り込みに行ったマーケットがドル売り・円買いで反応した結果と言えるだろう。

 ただ、16日のNY時間は140円台に押し戻し、17日の東京時間でも140円後半での取引が多かった。

 

 <12月末の米FFレート、市場は123bpの低下織り込み>

 この点について、複数の市場関係者はすでに大幅な米利下げを織り込んでいるマーケットの現状について、多くの参加者が冷静に判断している結果ではないか、との見解を示している。

 マーケットは足元で、今年12月末のフェデラルファンドレート(FF金利)が現行の水準よりも123bp低くなると予想している。これは9月に50bpの利下げがあったとして、さらに11月、12月のFOМCで合計50bpの利下げが最低限行われると予想していることを意味する。

 さらに2025年12月末は、現行の水準よりも256bp低い水準になると見込んでいる。つまりFF金利の3%割れまで織り込んでおり、ここから先の金利低下は米景気の失速の現実味が高まっているとの判断に傾かなければ難しいとの声が、市場関係者の間で広がりつつある。

 つまり、大幅な米利下げが年明けも継続していくとの前提で、ドル/円は140円後半で推移しているのであり、その均衡を破るような一段と弱い米経済データが出てくるまでは、ドル/円の下値は案外固いのではないか、という見方だ。

 

 <FOМC後に米株下落なら、日本株追随の展開も>

 今の市場織り込みから一段と米金利を低下させるようなドットチャートやパウエル議長の発言が明らかになる可能性はほとんどない、と筆者は予想する。

 逆に市場織り込みよりも、この先の米利下げの幅が明らかに小さいと市場が判断した場合、失望感が広がって米株が下落に転じ、これが日本株に波及して日経平均株価が大幅に下落する展開はありうるだろう。

 今の日本株は、円高→株安のルートだけでなく、米株安→日本株安のルートもあり、上値を二重に重くする構造となっている。

 

 <注目される20日の植田日銀総裁会見>

 その意味で19日朝(東京時間)の段階でのドル/円の位置は、日本株にとって極めて重要だ。もし、140円台を維持していれば、ドル/円の下値は想定を超えて堅いとの声が広がるだろう。それは日本株にとってプラスになる。

 ただ、FOМC後の市場の注目点は19-20日の日銀金融政策決定会合に移り、20日の植田和男総裁の会見が注目されることになる。植田総裁がこれまでの発言を繰り返したとしても、マーケットが何らかの理由で「タカ派的」と受け止めると、ドル安・円高が進行する可能性もある。

 ドットチャートやパウエル議長の発言を踏まえた新たな市場の均衡について、植田総裁がどのような見解を示すのか。米利下げの今後の幅と日銀の利上げパスを重ね合わせた結果として、円高に振れるのか円安方向に動くのか、今週末の市場動向への注目度は一段と上昇しそうだ。

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米利下げ50bpなら円高加速も、注目度高まるドットチャート

2024-09-13 14:35:30 | 経済

 今月17-18日の米連邦公開市場委員会(FOМC)を前に市場は、50ベーシスポイント(bp)の利下げの可能性を意識しだしている。13日の東京市場でドル/円は一時、140.65円までドル安・円高が進んだ。もし、米連邦準備理事会(FRB)が50bpの利下げを決断するなら、その理由が大きな注目を浴び、その次の会合での50bp利下げの声が高まってドル安・円高が加速する可能性が高まるだろう。

 その意味で18日に公表される2024年末と2025年末のドットチャート(FOМCメンバーが適切と考える政策金利水準の分布図)の結果は、市場における利下げ織り込みに大きな影響を与え、円高進行の行方を大きく左右しそうだ。

 

 <注目されたWSJ記事とダドリー前NY連銀総裁の発言>

 13日の東京市場で円高が進んだ要因の1つとしてマーケットの注目を集めたのは、FEDウォッチャーとして著名な米ウォールストリートジャーナル紙のニック・ティミラオス記者が来週のFOМCに関し「0.25%の利下げか0.50%の利下げかという判断に直面している」と書いた記事だった。

 9月会合は0.25%の利下げになると見方に傾いていた市場は敏感に反応。さらにダドリー前ニューヨーク連銀総裁が13日のシンガポールでのイベントで、50bpの利下げを実施する強い論拠があるとの認識を示したことも市場の関心を集めた。ダドリー氏は強い論拠として米労働市場の軟化を挙げ、雇用へのリスクがインフレの根強い脅威より大きいとの見解を表明した。

 

 <50bp利下げなら、理由は何か>

 一部の市場関係者は、仮にFRBが50bpの利下げを決断した場合、それが1回限りでとどまらず11月会合でも50bpの利下げが実施される可能性が急速に高まると予想している。なぜなら、通常の利下げペースである25bpを選択せず、50bpの利下げを決めるからにはFRBが懸念する重大なリスクが存在し、そのリスクを利下げで最小化させるには連続して50bpの利下げを実施することが効果的であるからだ。

 ダドリー氏が言及した米労働市場の軟化によるリスクが、インフレ再燃の脅威よりも大きいとの判断があれば、足元の国内総生産(GDP)成長率が2.5%(米アトランタ地区連銀のGDP NOW)という現状でも大幅な利下げの合理性を説明できる。

 50bpの利下げが決まった場合は、パウエルFRB議長の会見が一段と重要性を増す展開になる。その理由次第で今後の利下げパスがより鮮明になるからだ。

 同時にドットチャートの結果をみて、年内に100bpの利下げの可能性が高まるなら、市場の「前のめり」の利下げ織り込みをFRBが容認したと受け止め、今よりもドル安・円高が進みやすくなる可能性もある。

 

 <25bp利下げなら米金利上昇、それでも日本株安になる構図>

 他方、9月会合で25bpの利下げを決め、その先も利下げペースも「より抑制的」なことがドットチャートから判明すれば、米金利が上昇してドル高・円安のパワーが再浮上する展開になるだろう。

 そのケースでは、米利下げを過剰に織り込んだ反動として米株が下落し、円安に戻っているにもかかわらず日本株の戻りが鈍いということもありそうだ。

 いずれにしても米市場の動向に振らされ、円高→日本株安、米株安→日本株安という日本株にとって逆風の吹きやすい地合いがしばらく続く可能性があると予想する。

 

 <円高進行なら日本経済に影響、注目される植田日銀総裁の会見>

 来週はFOМCとともに日銀も19-20日の日程で金融政策決定会合を開催する。こちらは7月利上げから間がないこともあり「無風」の予想が大勢を占めている。注目点は、8月上旬の株価大変動を経ても日銀が実質政策金利の大幅なマイナスを着実に修正させる目的で利上げの構えを持続させている点だ。

 展望リポートに示された経済・物価の見通し通りに進めば、緩和度合いの調整のための利上げをしていく、というスタンスを改めて示すとみられる。

 とはいえ、FOМCで50bpの利下げが決まり、その後の利下げパスもかなりのペースになると市場が予想してドル安・円高が進んだ場合、日本経済や日銀の政策判断に影響が出る可能性も否定できない。

 そのケースで日銀の植田和男総裁が、円高の与える影響の経路やインパクトの規模に対してどのような見解を示すのか、市場は大きな関心を持って見守るだろう。このところ、日銀総裁会見中やその直後にドル/円が大幅に動くケースが目立っており、植田総裁の発言の微妙な変化にもマーケットが敏感に反応する展開が予想される。

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