一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

10月全国CPIはオントラック、12月利上げ判断左右する円安や内外の市場動向

2024-11-22 13:09:00 | 経済

 22日に発表された10月全国消費者物価指数(CPI)は、コアCPI(除く生鮮食品)が前年比プラス2.3%と堅調な結果だった。日銀が注視しているサービスは9月の同1.3%から同1.5%へと伸び率が着実に高まっており、日銀の見通し通りの展開(オントラック)だったと言えるだろう。

 次回の12月金融政策決定会合で利上げを決断するかどうかは、それまでにドル/円でどの程度の円安が進展しているか、内外市場の変動がどのようになっているのかなどを総合判断することになると予想する。

 

 <コメ価格が60.3%上昇、コアコアCPIは3カ月連続で伸び率拡大>

 10月全国CPIの中で目立っていたのは、コメ価格の急上昇ぶりだった。うるち米(除くコシヒカリ)は前年比プラス60.3%と大幅に上昇し、コメを含む穀類は同プラス13.5%と高い伸びを示した。

 生鮮食品とエネルギー価格を除いた総合(コアコアCPI)は、同プラス2.3%となり、7月の同プラス1.9%から3カ月連続で伸び率を高めた。

 

 <サービスは着実に伸び率高まる>

 10月31日の会見で、日銀の植田和男総裁は10月東京都区部CPIに言及し「ある程度サービス価格への転嫁の動きが広がっているということは確認できたが、これが全国でみてもそうか、あるいは今後も一段と広がっていくかというところについては、丁寧にみていきたい」と述べていた。

 10月全国CPIのサービスが9月の同プラス1.3%から同プラス1.5%に伸び率が拡大していたことで、賃上げがサービス価格に着実に反映されていると日銀は判断している可能性が高い。

 

 <円安進展なら、輸入物価起点に物価に上昇圧力>

 このように見てくると、足元までの物価動向は「オントラック」と日銀が見ていることは間違いないだろう。それが次の利上げに結びつくかどうかは、為替動向とそれ以外の内外情勢ではないかと筆者は考える。

 円安が一段と進行するなら、輸入物価の上昇を起点に生鮮食品を除く食料の価格が騰勢を強め、CPI全体の上昇率を加速させる要因になる。

 10月の輸入物価は円ベースで前年比マイナス2.2%だったが、前月比はプラス3.0%と3カ月ぶりに上昇した。10月のドル/円の平均値は145.87円(財務省調べ)だったが、足元では154-155円近辺で推移。さらに円安が進むようなら7月に利上げを決めた時と同様に、円安が物価押し上げのリスクとして意識される展開になる可能性がある。

 

 <足元の短期市場、12月利上げを64%織り込み>

 また、12月の米連邦公開市場委員会(FOМC)における利下げの可能性について、市場の織り込みは15ベーシスポイント(bp)となっており、ひところに比べて織り込み幅が縮小している。さらに縮小するようになれば、ドル/円はドル高・円安方向に圧力を受けやすくなり、これが日銀の政策判断にも影響するだろう。

 足元で日銀の12月利上げは16bpと64%の織り込み幅となっている。円安の進展などでこの織り込みがさらに進むなら、そのことも日銀の政策判断の視野に入ってくるのではないか。

 22日の会見で、植田総裁は次回会合までに「非常に多くのデータや情報が利用可能となるだろう」と述べていた。

 上記で指摘した点を含め、日銀が総合判断した結果、利上げを決断するのか現状維持を決めるのか、内外情勢の変化が大きな影響を与えそうだ。

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地政学リスク、ドル資金調達コスト押し上げへ ドル高・円安に待ち受ける落とし穴も

2024-11-21 15:19:32 | 経済

 ドル/円が155円近辺で高止まりしている。いわゆる「トランプトレード」でドル指数が高水準で推移しているだけでなく、ロシアとウクライナをめぐる地政学リスクの高まりでドル調達の意欲が高まっており、今後、年越えのドル資金調達圧力の高まりで一段とドルが買われやすくなり、ドル/円も年末に向けてじり高になるとの観測が市場で高まっている。

 ただ、来年1月20日の米大統領就任式以降、トランプ氏が持論の「ドル安礼賛」を強く主張するなら、ドル高・円安の水準からドル安・円高の方向へ一気に急降下するリスクを懸念する見方もある。「トランプ政権2.0」の特徴とも言うべき不確実性の高さが象徴的に現実化するのがドル/円相場かもしれず、旅客機にたとえれば乱気流に備えた「シートベルト着用」のウォーニングが出てもおかしくない状況がやってくるだろうと予想する。

 

 <米利下げペースの鈍化観測、材料視されたボウマン理事の発言>

 足元のドル/円は、ドル高・円安に向かいやすい材料がそろっている。トランプ氏の次期大統領就任が決まり、トランプ政権が遂行しようとしている政策の効果を見越して、ドル高・株高・長期金利上昇の「トランプトレード」が顕在化しているのは、11月19日の当欄で指摘した通りだ。

 そこに米連邦準備理事会(FRB)の利下げペースが鈍化するのではないかとの思惑が浮上。これもドル買い・円売りの材料となっている。トランプ氏の大統領1期目にFRB理事に指名されたボウマン氏は20日、「2023年初頭からインフレ率の低下にはかなりの進展が見られたが、ここ数カ月は停滞しているようだ。私は政策金利の引き下げを慎重に進め、終着点までの距離をより良く見極めたい」と述べた。

 CMEフェドウオッチによると、12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.25%ポイントの利下げが決定される確率は1週間前の82.5%から52%へと低下した。

 

 <米英長距離ミサイル、ウクライナからロシア領に発射>

 さらにドル買い要因として意識されだしたのが、ロシアとウクライナをめぐる軍事的な緊張の高まりだ。米欧の複数のメディアは20日、ウクライナ軍が英国製の長距離巡航ミサイル「ストームシャドー」を使用して、初めてロシア領内を攻撃したと報じた。

 ウクライナ軍は19日に米国供与の地対地ミサイル「ATACMS」をロシア領内に発射したとされ、ロシアのプーチン大統領が同日、核兵器の使用条件の緩和につながる核ドクトリン(核抑止力の国家政策指針)の改定を公表。国際金融市場では、地政学リスクの高まりが意識され、ドルが対主要通貨に対して買われやすくなっている。

 

 <年越えのドル資金調達、水準切り上がり観測>

 複数の市場関係者によると、ドル調達を急ぐ市場心理が刺激されつつあり、年末越えのドル資金の調達コストが上昇するだろうとの観測が台頭しているという。今のところ、年末越え資金の調達は2カ月物となっており、目立って金利が上がっているわけではないが、これが1カ月物での調達になると、金利水準が急速に上がり出す可能性が高まっているという。

 世界の主要な銀行が競って年末越えのドル資金を調達しようとすれば、ドルの相対的な不足が意識され、ドル/円にはドル高・円安の圧力が一段とかかりやすくなる。

 

 <ドル安志向のトランプ氏、発言次第でドル急降下のリスク>

 ただ、この流れには要注意な落とし穴が待ち受けているリスクがある。それがトランプ氏のドル安を促す発言だ。米国の貿易赤字削減を政策の優先項目として挙げているトランプ氏にとって、輸入が増えて輸出にとって障害の多いドル高は「害悪」であり、その逆の現象を生み出しやすいドル安を志向する独自の見方を変えていない。

 マーケットの一部は、トランプトレードだけを材料にしたドル高・円安には限界があるとの根強い予測が存在するほか、1期目の就任式直後に起きた現象などを参考にドル高からドル安に転じやすいと予想する向きも少なくない。

 こうした市場の複雑な心理状況の下でトランプ氏の「ドル安歓迎」という発言が飛び出せば、たとえ短期的な現象になったとしても、大きな振れ幅でドル安・円高方向に相場が振れる可能性がありそうだ。

 

 <市場変動率の上昇、常態化の可能性も>

 だが、移民の強制送還や対中関税の大幅引き上げなど市場へのショックが大きい政策をトランプ氏が実行するなら、その反射的な効果によってドル買いの需要が強まる公算が大きく、マーケットが上下に大きく振らされるという展開も十分にあり得る。

 トランプ大統領が何を最優先の政策として実行に移そうとしているのか、それがいつまでたっても判明しないようなら市場の疑心暗鬼が強まって価格変動の大きな相場が「常態化」するシナリオも現実味を帯びてくると予想する。

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3党合意で補正予算成立へ、「103万円の壁」引き上げ財源は先送り 織り込めない市場に2つの理由

2024-11-20 16:01:59 | 経済

 自民、公明、国民民主の3党は20日、経済対策の内容などで合意し、2024年度補正予算案の早期成立に関し文書を交わした。この結果、少数与党の第2次石破茂内閣は補正予算案の成立という第一関門の突破にメドが立ち、次の焦点は2025年度予算案をめぐって国民民主の支持取り付けに移る。

 だが、国民民主の主張しているいわゆる「103万円の壁」の撤廃やガソリン税減税などの財源問題は、12月中に行われる3党間の税制協議に事実上、先送りされた。財源問題の決着内容によっては赤字国債の発行が増えることにもつながりかねないが、今のところマーケットは国債発行の増額問題を全く織り込んでいない。市場が財源問題に関心を持ち始めれば、長期金利に上昇圧力がかかる可能性もあり、3党間の政策協議に影響が出る展開も予想される。

 

 <補正予算の早期成立、3党間で合意>

 20日にまとまった3党間の合意では、「年収103万円の壁」について、25年度税制改正で議論し、引き上げると明記。ガソリン減税に関しては旧暫定税率の廃止を含め、自動車関係諸税全体の見直しに向けて検討、結論を得るとの文言が盛り込まれた。

 3党間では補正予算案の早期成立を期すとの文書も交わされ、今月28日から召集される臨時国会において、3党の賛成多数で可決、成立することが確定した。

 

 <103万円の壁引き上げは恒久減税、財源問題は26年度以降にも波及>

 だが、基礎控除と所得税控除の合算額である103万円を178万円まで引き上げる国民民主の主張をそのまま容認すれば、7-8兆円の財源が必要となる。これは1回だけの給付金交付とは異なり、恒久減税になるためはっきりとした財源手当てがない場合、赤字国債の発行を継続して賄うことにつながりかねない構造的な問題が存在する。

 国民民主党の玉木雄一郎代表は、これまでの国内メディアからの取材に対し、予算の使い残しや税収の上振れ分で対応可能との見方を示してきた。玉木氏は22年度が11兆円、23年度が7兆円の予算使い残しがあるとし、それに税収の上振れ分を加算すれば「7兆円くらいの減税は十分にできる」と説明していた。

 ただ、この手法で25年度は対応可能だとしても、26年度以降の財源はどうなるのかという問題は残る。さらにガソリン税の減税分の財源もどうするのか、という問題も別途存在する。

 

 <財源問題に名案なし、赤字国債増発の可能性>

 この日の3党間の合意では、25年度の税制改正や予算案について「政策本位の協議を続け、合意事項の実現に向け誠意をもって行動する」との文言が盛り込まれた。つまり、103万円の壁引き上げやガソリン税減税の引き上げは、12月の3党間における25年度税制改正の協議に先送りされた格好だ。

 先送りしても、政府が試算している7.6兆円の「103万円の壁」の引き上げ財源をめぐって「名案」が直ちに浮かび上がるわけではないだろう。自民・公明が衆院で過半数を維持していれば、国民民主の178万円への引き上げは、直ちに却下されたに違いない。

 しかし、少数与党で国民民主の賛成がなければ、内閣の死命を制する25年度予算案を成立させることができない現状では、自公側が大幅に譲歩して予算案の成立を図るしか具体的な事態打開策はない、と筆者は指摘したい。

 178万円までの引き上げなのか、それ以下の妥協的な水準での決着になるのか、12月の3党間での税調メンバーによる協議の結果を見ないと着地点は見えないが、数兆円規模の財源が必要になるのは確実だ。

 トランプ次期米大統領の下には、2兆ドルの歳出削減を掲げるイーロン・マスク氏が存在しているが、石破政権を支える自公両党にそのようならつ腕を振るう「大物政治家」は存在しない。とすれば、赤字国債の発行が不可避なのではないか。

 

 <財源問題織り込んでいない市場、国債の前倒し発行の存在が心理的な支えに>

 ところが、複数の市場関係者によると、円債市場の多くの参加者はこの「財源問題」をほとんど織り込んでおらず、外為市場や株式市場では話題にもなっていないという。

 1つは24年度補正予算案の国費投入額がはっきりしていないため、25年度予算案まで含めた新規の国債発行額の規模が明確ではなく、国民民主の主張する政策の財源だけを切り取って問題にするほど、市場関係者の精緻な予測ができていないことがあるようだ。

 また、財務省は年度間の国債発行の平準化等のため、翌年度に発行する予定の借換債の一部を前倒して発行。仮に数兆円規模の赤字国債発行になったとしても前倒し発行分で吸収され、年間にマーケットで発行される国債規模に変化が生じずに対応することができる、という国債発行の需給調整策が存在している。市場関係者の多くは、この仕組みが存在しているため、国債の需給が大崩れしないと判断しており、したがってテレビのワイドショーが注目するほどには、円債市場関係者の関心が盛り上がらないという事情がある

 だが、国債が増発されるということに変わりはなく、いずれどこかの段階で円債市場関係者の注目度が上がる可能性もある。市場は先回りする性向があり、恒久的な大規模減税で国債の増発が回避できないとみれば、どこかの段階で長期金利が反応する展開もありうる。

 自公の「聖域だ」だった与党税調に国民民主が加わる今年12月の税制の議論は、久しぶりに日本の長期金利に影響を与える可能性も出てきた、と指摘したい。

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「トランプ政権2.0」が内包するトリプル安リスク、火種は米長期金利の上昇加速

2024-11-19 14:22:57 | 経済

 トランプ前米大統領が来年1月20日、第47代米大統領に就任する。その直後に不法移民の大規模送還計画を実施する意向がSNSで示され、関税の大幅引き上げも実行されそうだ。その結果、一定のタイムラグを伴って米消費者物価指数(CPI)が上昇基調に転じ、それを先取りするかたちで米長期金利が上昇ペースを速めるだろう。

 問題はその先だ。米長期金利が5%を突破してさらに上昇を続けた場合、米株が変調をきたして上昇から下落に転じる可能性がある。もし、2025年のどこかでマネーの逆回転が鮮明になり、米長期金利の上昇加速を起点にしたドル安・米株安・米債券安というドル建て資産のトリプル安に陥れば、世界経済の大きな下押し圧力となり、日本経済にも大きなマイナスの影響が波及するのは必至だ。「トランプ政権2.0」の不確実性は、経済分野に限定しても膨大な負のエネルギーを抱えていると指摘したい。

 

 <不法移民の強制送還、国家非常事態宣言へ 軍も動員>

 トランプ氏は18日にSNSへの投稿で、大規模な不法移民の送還実施のため、国家非常事態宣言を出して軍隊を動員するとの一部報道は本当かと問われ、「本当だ!」と答えた。1100万人ともいわれている米国内の不法滞在者の何割を強制送還するのか不明だが、もしも国家非常事態宣言を発令すれば、そのメッセージは強烈で、金融市場へのインパクトも大きくなるだろう。

 米国の労働力人口は2023年の段階で、米国生まれが81.4%、外国生まれ(移民)が18.6%を占めている。それ以外にも統計に表れない不法移民が労働市場に流入しているとみられ、現実に「不法滞在者」として実際に労働している移民の人々が多数、強制送還された場合は、人手不足が顕在化して賃金が上昇。時間差でCPIが上昇して前年比で3%を超す展開になることが予想される。

 

 <IEEPA適用なら、関税引き上げの迅速実施も可能>

 さらに「タリフマン」の異名を持つトランプ氏が、選挙公約通りに対中関税を60%、その他の国向けの関税を10-20%引き上げた場合、米国のCPIを相当程度押し上げることになる。実施時期は明らかにされていないが、国際緊急経済権限法(IEEPA)を適用する場合、通商法301条の適用時に事前の要件となっている米通商代表部(USTR)による事前調査なしに関税を引き上げることも可能という法解釈が米国内で存在しており、大統領就任直後に特定国を対象に関税を引き上げることは可能だとみられている。

 関税の引き上げは、CPIの押し上げに直結する。対中関税を60%、その他の国に対する関税を10%引き上げた場合、米CPIを1.4%-1.7%押し上げるという試算も一部の欧州系金融機関から出ている。

 

 <米財政赤字が7.5兆円拡大の試算、米長期金利の一段上昇要因に>

 米国におけるインフレの再燃は、米長期金利を一段と押し上げることになる。すでに米長期金利は今月15日に4.505%まで上昇。市場では、トランプ政権の下で5%台に乗せるという見方が広がりつつある。

 さらにトランプ氏の政策を実行に移した場合、減税の拡大などにより米国の財政赤字が膨張するとみられている。米シンクタンク「責任ある連邦予算委員会(CRFB)」は、2035年度までの10年間に7兆5000億ドルの財政赤字拡大をもたらすとの試算を明らかにしている。

 この部分のリスクプレミアムが米長期金利に上乗せされると、5.5%を突破して6%台に乗せる展開もあるという予測がすでに複数の市場関係者から出ている。

 

 <米一極集中のマネー、逆回転ならトリプル安も 関税引き上げでGDPに打撃>

 足元で展開されてきた「トランプトレード」では、米株高と米長期金利の上昇が併存してきたことが特徴だった。他国にかけた関税を米国内の減税の財源とし、米企業の国際競争力の強化と米国内の消費活性化が同時に達成され、米国経済の「独り勝ち」が現実化。米株買いと米国債買いのマネーが世界中から流入し、米長期金利が上昇するとしても、その勢いは緩慢であるという大前提がそこにあるのが特徴だ。

 しかし、上記で見てきたように、3つの大きな流れによって米長期金利が上がりだし、どこまで行っても上昇基調が緩和される気配が見えず、5.5%を突破した場合は長期金利の上がり過ぎを嫌気して、米株価が下落に転じる可能性が高まる。

 最高値を更新し続けてきた米株は、その資産効果で消費を支え、経済成長を支えてきた。それが逆回転するなら「短期的な調整」との声はかき消され、米資産のトリプル安が一時的な現象にとどまらず、そのインパクトが世界中に拡大するリスクシナリオの可能性を十分に認識しておくべきだろう。

 実際、JETROのアジア経済研究所の試算では、対中関税60%。その他の国に10%の関税をかけたケースで、2027年に米国の国内総生産(GDP)を1.9%下押しするという試算結果を公表している。

 CPIと長期金利を押し上げ、GDPが2%近くも下押しされるなら、ドル建て資産のトリプル安が発生しても、何ら驚くべきことにはならないだろう。

 

 <日本への影響、短期的には株高・円安>

 米CPIや長期金利の上昇が起きた場合、日本経済には何が起きるのか──。米株高と米長期金利の上昇が併存している局面では、円安の進行と日本株高という現象が発生していると筆者は予想する。

 そのケースでは、円安と輸入物価高のパワーが増大するリスクが意識され、日銀が利上げを検討している可能性もあると予想する。

 ただ、日銀が利上げして政策金利を0.5%に引き上げたとしても、円安が止まるのは一時的で、どこかの時点で円安がリスタートする展開もありえるのではないか。米長期金利を押し上げるマグマのパワーが上記で説明したように非常に大きく、かつ長期間にわたる可能性が高いからだ。

 

 <米トリプル安なら、日本勢の米国債売りと円高加速も>

 一方、2025年のどこかの時点で米トリプル安が現実化した場合、政府・日銀は苦しい状況に直面することになる。このシナリオが現実になると、米経済に急ブレーキがかかって日本経済にもマイナスの影響が出てくるだけでなく、米長期金利の上昇(米国債の下落)が短期間に大きくなると、日本の銀行や生保が損失を膨張させないためにまとまった額で米国債を売却し、そのマネーフローが円高方向に傾きかけていたドル/円の流れの背中を押し、円高が加速するということもあり得るためだ。

 これが日本経済にとって最悪のシナリオになるだろう。「トランプ政権2.0」の不確実性が高い分、日本の政策当局や市場参加にとって、米インフレの再燃や米長期金利の上昇加速は、非常に厄介な存在になる。

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12月日銀利上げ、次第に整う環境 植田総裁が示したヒントから考える

2024-11-18 15:15:45 | 経済

 今年12月の金融政策決定会合で利上げするのかどうか、注目されていた植田和男日銀総裁の講演・会見は、マーケットの反応を見る限り、決め手に欠けるとの受け止め方が多数だったようだ。だが、講演の内容を詳細にチェックしてみると、複数のヒントが隠されていたと指摘したい。日銀は現段階で12月会合での利上げを決め打ちしていないだろうが、利上げを決断したとしても「不思議ではない」という情勢判断が隠されている。

 

 <5%超える最低賃金の伸び、「賃金上昇促す」と日銀が指摘>

 まず、日銀が賃金から物価へのメカニズムで重視しているサービス価格について、講演の中で前期比のプラス幅は安定していると指摘。その上で10月東京都区部消費者物価指数(CPI)では「サービスを含む様々な品目で、賃金上昇等を背景とした価格改定――年度下期のいわゆる「期初の値上げ」――を行う動きがみられた」と改めて確認し、10月全国CPIでも同様の動きが確認できれば、日銀のシナリオに沿った動きが進展していることを確認できるという認識をにじませた。

 また、今後の賃金上昇の行方に関連し「今年度の最低賃金が前年比でプラス5%超の過去最大の伸びとなり、今後も上昇が見込まれることも、賃金上昇を促すことになる」と指摘。合わせて連合が賃上げ率5%以上を全体の目安としつつ、中小労組などは格差是正分を積極的に要求するという来年の春季労使交渉の基本方針を示したことにも言及し、企業の中で人手不足への対応として賃上げが必要との認識が強まっているとの認識を示し、来年の春闘に明るい見通しを持っていることも示唆した形だ。

 

 <名目賃金の上昇、消費にプラスと評価>

 さらに、一部のエコノミストから弱いと指摘されている個人消費についても「最近では、全体としてみた個人消費のトレンドは、緩やかな増加基調に復している」と分析するとともに「個人消費に前向きな動きがみられている背景には、春季労使交渉を受けた所定内給与の上昇や高水準の企業収益に支えられた夏季賞与の増加を反映して、名目賃金がはっきり増加していることがある」という判断をあらためて強調した。

 植田総裁は会見で「(利上げを決めた)7月の時点で見ていた姿に比べて、どれくらいオントラックの度合いが上方修正されたか、毎回の決定会合で確認しながら進んでいく」とも述べたが、講演での情勢分析の結果を総合すれば、7月時点と比べてオントラックの度合いが確実に上方修正されていることを素直に認めていると言えるだろう。

 

 <実質金利の大幅マイナス強調、利上げの打撃小さいと説明か>

 植田総裁は講演で「経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになる」という日銀の方針を再度確認したが、この日はさらに詳しい説明を加え「金融政策は、主として名目の金利から予想物価上昇率を差し引いた実質金利の変化を通じて、経済活動に影響を及ぼす」とし、実質金利の水準は「物価情勢が好転するもとでも、極めて低い名目金利の水準を維持していることから、2010 年代と比べてもマイナス幅が拡大しており、金融緩和の度合いはむしろ強まっている」と説明しました。

 筆者は、与党内に根強くある利上げけん制の声に対し、実質金利水準が大幅なマイナスであることを丁寧に説明し、仮に12月に25ベーシスポイント(bp)の利上げを実施しても、依然として緩和的な環境にあることを示したと受け止めた。

 

 <12月会合、円安起点の物価上昇リスクが焦点の1つに>

 この日の植田総裁の講演や会見では、8月5日に内田眞一副総裁が函館市で講演した際に述べた「金融市場が不安定な状況で、利上げすることはない」という状況とは全く別の外部環境になったということを言外に示したと筆者は感じた。つまり、金融市場の混乱を原因とした利上げの「封印」は、解除されたということだろう。

 さらに市場環境という面では、ドル/円が154円台というドル高・円安になっている下で、講演の中では「昨年まで物価を大きく押し上げてきた食料品や、その他の財の前年比は、既往の輸入物価上昇の影響が和らぐ」という評価になっていた。

 これが再び物価押し上げの影響を注視せざるを得なくなった場合、新たな物価上昇の要因として利上げの判断に大きな影響を与えると予想する。植田総裁は会見で「各会合で点検していきたい」と述べたが、12月会合では、円安と物価も大きな焦点の1つになるだろう。

 

 <12月利上げ、14bpまで織り込んだ市場>

 18日の市場では、利上げの時期について植田総裁は決め手になるような発言を控えたとの受け止めが多かったが、短期金融市場での12月利上げの予想は、14bpまですでに織り込まれている。円金利市場のフロントでは、12月利上げの可能性を半分以上は意識しているということだろう。

 金融政策判断は、その直前まで何が起きるのか予断は禁物と言われてきたが、利上げを判断する材料は相応に整ってきたのではないか。

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