小動物の獣医が書くのは、かなり勇気が要りますけども。やっぱり、どう考えてもおかしいから。
まずは、人間の「疝痛経験者」の方の経験談をご覧ください。
この方の入院体験談がこちら。
この方は、潰瘍性大腸炎の既往症があり、何回も入院や手術の経験をされています。ので、腸閉塞の症状は、その後遺障害の一種であろうと考えられます。でも、テニスを頑張っていらっしゃるんですよ~~。ワタクシ、この方のやってる大会にお邪魔したこともあります。コテンチョンにやっつけられたな~~。そう、テニスってやってる人ってムードが明るいんですよ~~。馬周りの人って暗いでしょ。やなんだなあ。もっと明るくいきませんか
それはさておき、この方のお話は、馬の疝痛の症状を馬が言えたとしたら、こうでしょう、というのがよ~~く分かる内容になっています。症状に浮き沈みがある、そのうち七転八倒状態になってしまう、点滴を打ってもらうとかなりやわらぐ、この中に「運動したらよくなった」という話はこれっぽっちも出てないでしょう。というか、運動どころじゃなくなってるのが、良くご理解いただけると思います。
疝痛馬に対して「調馬索で運動させる」というのが、今も手広く行われている治療(というか対処?)のようですが、完全に間違い。十分な輸液・鎮痛・安静がキモだし基本で、なにかというとバナミンというけど、辛そうなら、メデトミジン&ブトルファノールの投与をためらってはいけない。バナミンは人間でいうところのロキソニンの親戚薬で、有効といってもたかが知れてる、筈なんですよ。メデトミジンとブトルファノールの効果は抜群なだけでなく、痛くてパニックに陥ってる馬を鎮静することで、安静も守れるようになる。落ち着かせるというのは、草食獣に対しては非常に重要な対応です。
そういう基本対応を間違っているから、疝痛馬の死亡率が高いんでしょうね。
で、輸液。夏場に多発する疝痛は、脱水が原因であることが多い。この場合はとにかく輸液して水分を補給しなければならないんだけど、馬では、その輸液剤として酢酸リンゲルや乳酸リンゲル液しか用いられてないのはなぜ?このリンゲル液は、水分欠乏型脱水を改善することはできません。等張液だから。だから、3号液等々の低張輸液剤を使わないと。この手の輸液剤はナトリウムを含まない分低張液になるので、細胞内に入り込んで脱水を効率的に補正する。だけど、低張液をそのまま体内に突っ込んだら、当然血球が壊れてしまう(浸透圧の違いのせいですね)ので、そこをブドウ糖で補って等張にしている。この辺はこちらを読んでください。輸液の理論って結構難しいんですが、正確な知識に基づいて使うと効果は抜群。
馬は輸液ができる(つまり、血管確保をしやすい)のが有利で、ウサギなんかよりよほど治療しやすいと思うんだけど。
で、おそらくこれに対する反論として「糖質を入れると蹄葉炎になる」というのがあると思います。これは、確かに事実としてあります。しかし、蹄葉炎になる、その原因は、実は糖質ではない。これについてはおいおい書きます。自分が馬の医療で理解したことは、今まで言われていることを全て覆すことになってしまうことになりそうなんですよね・・・・・。
つまり、疝痛に対する対応は、1~5くらいが「予防」で、6くらいに「正しい内科治療」7以降に外科(できるならね)となる。現実には7なんか無理なんだから、1~5を頑張らないといけません。ので、予防について、詳しく書こうと思います。
あとですね、そこらじゅうの乗馬クラブで、どうやら勝手に輸液やったり注射したりしてるらしいんですけど、それ、獣医の仕事なんですよ。こんな記事を書くと、途端に「じゃあメデトミジン分けてくれ」とか言われそうで。冗談じゃない。埼玉県では「愛犬家殺人事件」が起きてますからね~。獣医から横流しされた筋弛緩剤でもって人を殺しちゃった、という事件でしたけども。「疝痛くらいで一々獣医なんか呼んでられるか」というセリフは漫画「動物のお医者さん」に出てきましたけど(罪作りな漫画だ…困ってます)、獣医を呼んでください。ちゃんとした知識のある、勉強している先生を。