ハミなし頭絡で楽しい馬生活!日本ビットレスブライドル協会

テーマ別に連載形式になっています。テーマ別に最初の記事からお読みください。

蹄病を理解するー14 蹄の洗浄法とか蹄油とか

2020年03月23日 | 裸蹄管理

 過酢酸はいいことづくめの除菌剤(これも医薬品ではないので、除菌剤の扱いになります)のようなんですが、欠点も当然あります。「金属腐食性」があること。ステンレスは大丈夫なんですが、鉄はダメ。つまり、装蹄した蹄には使いにくい。鉄釘を腐食する恐れがあるからです。

 でもねえ、だったら、そもそも装蹄なんかしなければいいじゃないですか。

 サラブレッドの蹄がダメになりやすい、蹄底が薄い、全部白癬菌感染のせいだとしたら?今までの蹄の常識が全て覆る。装蹄をやめる、という判断、あっていいと思う。金もかからなくなるし。オーストラリアでは裸蹄馬のサラがガンガン競走してますから。ただ、装蹄するもんだ、という思い込みが相変わらずだし~~、その場合には、二酸化塩素系の除菌液を使う方がいい。但し、水=鉄を腐食するものであることには変わりがないですから。過酢酸だからよりマズイ、っていえるのかどうか?

 さて、消毒ですけど、いきなり消毒してうまくいかない場合は、意外と多いです。家畜の蹄が汚くなってしまうのは、ある程度もう、やむを得ない面が大きいですよね。特に二酸化塩素系の除菌液は、有機物に触れたとたんに失活してただの水に戻ってしまうので、使う意味がない。ので、事前に蹄をきちんと洗浄して、消毒薬が届きやすくするようにするのが重要。汚れた皿に消毒剤シュッとやって、それにすぐ料理盛ってっていうのは引きますもんね、同じこと。

 で蹄の洗浄法ですが。その前に「蹄油」。これ、なぜ塗るんでしょうか?必要あるのか?

 かねがね不思議でしょうがなかったんですよ。自分の爪に油なんか塗らないし。目的というか効果を聞くと「蹄の水分保持」とか逆に「蹄に水が浸み込まないようにするため」とか。矛盾・・・・。
 そもそも、健康な爪組織は水を通しません。もし通しちゃってたら、我々の指先は今頃ひょうそだらけになってます。細菌感染は、水に乗って起こるからです。なのに蹄は水を通すということは・・・・・。白癬菌に食い荒らされた爪組織に水が侵入している、という事を意味する。そうなっている蹄はすでに病気なのです。油で病気は治せません。

 もう一つ、蹄油ってめっちゃ汚いですよね。乗馬クラブでは一個の蹄油をいろんな馬に使っているし。使い回ししてるから、蹄油を介して白癬菌や二次感染を起こす細菌を広げる恐れが高い。結局「ばい菌を塗りたくってる」のと同じ。油を足元に使えば滑りやすくなるし。危ない。それに、蹄鉄も外れやすくなる。釘が滑って緩みやすくなるから。

 結論。蹄油は百害あって一利なし。塗るのはやめましょう。 

 ってことで、洗浄。石鹸で洗えばいい、んですが。何の石鹸がいいか?ホースシャンプーなんか使わなくてOKです。オススメは

のような薬用ボディーソープ。この柿渋系は最近あちこちに置いてあります。ボディーソープは泡立ちがいいわりに泡切れが良く、ぬるぬるしないのが良い点です。含まれている薬用成分は「蹄病9」でご紹介した「イソプロピルメチルフェノール」。洗う道具は?蹄ってガシャガシャ洗いたくなりますが・・・・・。やっぱり優しめに洗うほうが、既に傷ついている蹄に菌を擦り込まなくて済む。洗う側の安全も考えるとのような、ボディーブラシがよさそうです。これも百均やドン・キホーテで売ってる安物で十分。面積が広いので簡単に蹄全体を洗えるし、柄が付いてますから、危険が少ない。こうしたブラシや鉄爪等はできれば使うたびに塩素系のハイターに浸漬して消毒した方がいいと思います。それを考えると、オールプラスチック製が一番便利ですよね。

 削蹄・装蹄したら即、こうした洗剤で蹄をキチンと洗い、更に消毒する、できれば、削蹄・装蹄前にもこれを行っておくと、白癬菌はかなり減る、あるいは消滅させられると思います。勿論、馬房に戻せば、すぐ雑菌に取り巻かれてしまうんですが。白癬菌はその辺に転がっている菌では、基本、ない、はず。但し、水虫感染した蹄の削りカスは白癬菌だらけです。この辺の衛生管理は、次回。


蹄病を理解するー13 蹄の消毒 どうすればいい?

2020年03月22日 | 裸蹄管理

 装蹄や削蹄の現場って、本当に汚いですよね。こないだ、削蹄に来た方が、「グラインダーで削蹄すると、埃が目に入って結膜炎になる」なんておっしゃってました。仕事中に作業者が健康被害を起こす事態はあってはならないはずですが。。。。作業環境等々改善しないと、本当に誰も削蹄師なんかやらなくなっちゃいます。グラインダーで蹄を削る場合、ゴーグル&マスクは当たり前、みたいな衛生教育をやってください、関東装蹄師会様。

 蹄は汚いもの、床が汚いから、掃除が行き届いてないから、という削蹄師やオーナーの言い分はごもっとも、とは言えない。だって、無理ですもん。但し、床の環境整備ができないかというと、これはできる。という提案はあります。今後書きます。今回は、どうやって蹄を消毒洗浄するべきか、について。それには、まず、消毒薬の種類について、理解しなければなりません。

 消毒薬の分類に関しては、健栄製薬のページに詳しいですが、その中から、図版をちょっとお借りします。

 白癬菌は真菌のうち「糸状真菌」に分類されています。従って、低水準消毒薬は全く無効ということになります。白癬菌を殺滅したくば、中水準~高水準の消毒薬を使わなければなりません。

これを、具体的な商品でみてみますと

低水準消毒薬

    1. クロルヘキシジン:オスバン・ノルバサン等
    2. 塩化ベンザルコニウム:ヒビテン・パコマ等

中水準消毒薬

  1. 次亜塩素酸ナトリウム:塩素系ハイター等
  2. ヨード:ポピドンヨード等
  3. アルコール:エタノール等

この辺までは商品が出てきますが、高水準消毒薬となると、なかなか一般販売はされていない。

 で、大動物業界でやたら使われてる「パコマ」なんですが。これの主成分は逆性石鹸=低水準消毒薬なんです。だもんで、ウイルスにも真菌にもほぼ無効、なだけでなく、高濃度では細胞毒性もあって(つまり、動物に有害)、環境負荷が大きい。効果より副作用が強い。

 なのに、なんでパコマパコマ言うんだろうと思ってたんですが、どうやら、この本のせいらしい。

 

この本には、大動物の畜舎衛生の方法が色々書かれています。著者の方が、パコマを売り込んだ人、なんだって。この方の営業努力のおかげでパコマが浸透したんだけども、残念ながら、今や時代遅れになってしまった・・・・。真菌にもウイルスにも無効じゃ意味なし。おまけに動物に有害&環境負荷あり、とくれば、もはや使うべきではない薬と言えます。

 では、中水準消毒薬はどうか。塩素系ハイターはその辺のドラッグストアで売っていますが、強アルカリで、勿論動物の皮膚なんかに使っていい薬剤ではありません。蹄に対してもそう。塩素系で最近クローズアップされているのは、いわゆる「除菌剤」系のもの。昨今のコロナ騒ぎでスーパーでも扱うようになりました。例えば当協会でも取り扱っていますバイオウイル等。これらの塩素系除菌剤は、おおむね二酸化塩素を殺菌成分として含んでいます。この化合物の殺菌力は強力で、しかも動物に無害なので、急速に広まってきています。
 ただ、この手の塩素系除菌剤の大欠点は、「有機物に触れると、即分解してしまい、殺菌力を失う」こと。これを「失活」といいますが、要は汚れた場所に使ったら、その効果は気休め程度になりかねない。最近、この液を噴霧して除菌している大動物畜舎が増えてきていますが、その効果には懐疑的なものがある。基本有機物まみれの汚い場所なので、どうなんでしょう?ただ、きちんと洗浄した蹄に使う分には効果が高い。洗浄が欠かせないのは、消毒効果を十分に発揮させるためにも重要だという事です。

 ほかにヨードがありますが、これは簡単に揮発してしまいます。定着してくれない。だけでなく、着色しちゃうから評判悪いですよね。価格が高いのも難点。大量・長期間使うと、甲状腺に悪影響を与えかねないのも、問題ではあります。アルコールは、カビに対して確かに効果が高いんですが、引火性があるからねえ、装蹄のような現場(ごうごう火を使ってます)で使うには、かなり気を付けなければなりません。

 では、高水準消毒薬は?グルタルアルデヒド等は、完全に業務用の消毒剤になってしまいます。毒性も高くて、とても生体に使える代物ではない。

 ここで、最近大きくクローズアップされている薬剤が「過酢酸」です。この薬剤の成分は非常にシンプルで、酢酸+過酸化水素なんですが、広域&強力&生体に無害&すぐ分解されて(但し、有機物には関連しない)環境負荷0、というまことに優れた除菌剤です。

で、これは、例えば

のように、市販もされるようになってきました。現時点では、この薬剤が最強&最善でしょう。最近では、この過酢酸は、原液を全農で扱うようになっています。原液はそれなりに高いんですが、これ、600~2000倍希釈で十分有効なので、一回買えば、どこまでも長持ちしそうなんですよ。

過酢酸製剤について、全農の解説

過酢酸製剤の解説ー関東化学(株)


UMALife 4月号

2020年03月22日 | ハミなし頭絡

最新版「UMAライフ」4月号に、FRC代表の田中氏がハミなし頭絡について書いておられます。

 当協会については触れていらっしゃいませんが、田中氏の主張は、その通りと思います。ぜひ、お読みください。


蹄病を理解する ちょっと番外編ー消毒・除菌・殺菌等々2

2020年03月17日 | 裸蹄管理

 対象物周辺の環境から病原性のある生き物を何らかの方法でいなくなるようにする・あるいは数をうんと減らす、病原性をグンと落とす、というのが「消毒・殺菌・滅菌・除菌・抗菌」等々のフレーズで表現されています。ドラッグストアに行くと、商品がごちゃごちゃ並んでいるように、見える。ポイントは、「消毒薬」は医薬品の棚に置いてあって、「除菌剤」は普通の商品棚に陳列されている、点。

 これには、日本の薬剤についての法律である「薬機法」が絡んでいるのです。

 薬機法とは、かつては薬事法といわれていた法律のことです。「殺菌」や「消毒」という言葉は、「医薬品」や「医薬部外品」以外の商品には利用することが禁止されているのです。「薬」として扱うには「認可」を取らなければならず、臨床試験をちゃんとやって云々、と莫大なお金がかかる。それだけでなく、特に「医薬品」と分類されてしまうと、置ける棚が「医薬」部門に限られてしまい、薬剤師を通す等々、販売が逆に難しくなる。そんな諸々の事情があって、あえて「消毒・殺菌」という言葉を使えない雑貨部門にハイター(漂白剤となっている場合が多い。強力なのは塩素系)やアルコール除菌スプレーなんかが置いてあるんです。医薬品の棚に置いてあるオキシドールや逆性石鹸


 

等の消毒剤が強力なのか、というと全然そんなことありません。法律上「こうしなさい」となっている事と、各商品の実際の効能効果は今現在では全くかけ離れているわけ。

 この辺りについては、以下に、より詳細に書かれています。特にモノタロウのページはすっきりしていて分かりやすい。

  1. 除菌・殺菌・滅菌・消毒・抗菌の違い
  2. 次亜塩素酸水と「薬機法(薬事法)・医薬部外品」の注意点
  3. 殺菌剤・消毒剤・抗菌剤の特徴と分類(モノタロウ)

 ちなみに「消毒法」には色々あって、例えば熱湯や熱蒸気・紫外線や日光等々も「消毒」として紹介される場合があります。寄生虫卵については、今でも熱湯や熱蒸気による消毒が一番有効。卵には薬なんか全然効かないんです。薬で消毒する場合、それに使われる薬剤を「消毒剤」と呼んでいるのだ。

 それから、アルコールについて。アルコール系消毒剤で一般販売されているのは、ほぼエタノールだけですが、消毒剤としては、別の種類のアルコールにもちゃんと消毒作用があります。例えばイソプロパノール


 

も同等クラスのパワーがあります。エタノールの価格には「酒税」が含まれているから、若干お高い。イソプロパノールには酒税はかかりません。従って、比較的安い、筈なんですが。。。やっぱり、一般にはあまり販売されてないですね。万一飲み込んだら困る、というのがあるんでしょう。


蹄病を理解するーちょっと番外編 消毒・除菌・殺菌等々1

2020年03月16日 | 裸蹄管理

 世の中「コロナウイルス」で大騒ぎになってますね~~。で、もう一度この図を。

 前回は蹄の消毒や蹄洗について書いていません。これ、きちんと理解して行わないとやるだけ無駄になることも多いので。昨今とにかく「消毒だああ!」となっているようですので、その件も踏まえて書いてみようと思います。

 いわゆる感染症というのは、病気の元になる生物が体内に入り込んで体の細胞に悪さをする、で下手をするとそのせいで死んじゃう、という病気の総称です。細菌という単細胞生物(一匹=1細胞のこと)、あるいは細胞の体もなしていないDNAやRNAの固まりであるウイルスが原因で起こるものです。ウイルスは極小で、光学顕微鏡なんかでは全くつかまりません。野口英世博士が悩んだ挙句罹患して死んじゃった「黄熱病」もウイルス性感染症です。野口博士は光学顕微鏡を駆使して色々な細菌感染症を見つけ出したすごい方なんですが、ウイルスを映像化できる顕微鏡が当時皆無だったので、ウイルスの存在を確認できなかったんですね。ウイルスを映像で映し出せるのは、現在電子顕微鏡だけです。コロナウイルスの映像がやたら出回っていますが、電顕で極大にまで拡大してやっとこさ確認できる代物、その辺に「いるなあ」なんて分かるわけないものだから、対策が難しい。

 寄生生物による病気、となると、多細胞生物が宿主にはりついて悪さをすることをいいます。真菌&寄生虫&ダニやノミのような虫類あたりまで。虫クラスなら、肉眼でもまあ見えます。かなり小さい単細胞生物の寄生虫もいることはいて、例えばマラリアのようなもの。これらは「原虫」と総称されますが、これも光学顕微鏡の低倍率で引掛けることができます。

 このように、体に悪さをする生物の種類は多種多様で、それにそれぞれ対応してそれなりにやっつけることができる、体内の「免疫」システムは相当なものですが、これだけで完治できるかどうかは、もう「運」的なものが大きい。だから未だに感染症でばったばった人が死ぬ。感染症との闘いは、今現在でも医学の大きな一分野といえます。

 感染症に薬で対抗する方法のうち、最初に発展したのは対細菌感染症で、それすなわち抗生物質ですね。抗生物質は細菌を殺したり、増えないように抑え込んだりできる物質のこと。色々種類があって、なんでもかんでも有効です、なんて都合のいいものはありません。次がウイルスで、すなわちワクチン接種です。ワクチンは要するに体の免疫をそれ用に強化して対抗するもので、ワクチン自体がウイルスをやっつけているわけではない。

 真菌や寄生虫に対する薬は発展が遅れがちでした。ただ、最近はなかなかいい薬がどんどん開発されてきてはいるんですが。

 薬は、このように、体内からどうにかする、という対抗策です。一方、消毒だ、除菌だ、というのは、悪さをしてくる病原体を周囲の環境からなるべく減らして、感染の可能性自体を減らす、のが目的。

 でね、消毒だ、除菌だ、殺菌だ、滅菌だ、と、色々あるんです。非常に混乱している。なぜかというと、言葉の種類に法律が絡んでくるから。