ベルリンでヒットラーを倒しドイツを降伏させたソ連軍(赤軍)のある
部隊、意気揚々と故国へ凱旋するはずだった。しかし故郷のウクライナや
モスクワを過ぎても軍用列車は止まらない。
騒然とする兵たちを載せて着いたのは、何と東の果てカムチャッカ半島。
ドイツ軍との戦闘と長旅に疲れた部隊に下された命令は、対岸の千島列島
北端の占守島の日本軍への攻撃であった。
降伏前の日本領を侵略、占領した「事実」を作ることが狙いだが、疲れ
果てた赤軍部隊は「武装解除は米軍の仕事だろう」の士気は上がらない。
一方、満州から移された戦車大隊を中心に、歩兵隊、砲兵隊、高射砲隊
などからなる帝国陸軍九十一師団は、練度、装備から見てまさに最強部隊
だが、戦闘もなく力を持て余していた。
そこへ着いた奇妙な3人の補充兵の一人は、英語を解する出版社の翻訳
編集長。他の二人は招集四度目で歴戦の勇士の軍曹と弘前医専を卒業した
ばかりの軍医見習い生。降伏の通訳要員(編集長)のカモフラージュで
あった。それを知るのは、これも唐突に前線視察の名目で派遣された第五
方面軍(北海道)の少佐だけ。降伏担当士官である。
彼ら四人が占守島に着いて幾日か後、降伏を知った九十一師団は連合軍
(米軍)への武装解除の準備を始める。しかし、攻め込んだのは何とソ連軍。
売られた喧嘩は買わにゃならん。
武装解除を注視し、意気が上がらないソ連軍をほゞ壊滅するほどの圧倒的
優位に立ったところで、軍使を送り降伏を告げ、武装解除する。
捕虜となるはずの日本軍はシベリアに送られ、極寒の中の重労働で次々と
命を落としていく。カモフラージュで補充された若き軍医は、薬もない中で
先輩軍医などを看取るだけ。
浅田次郎の「終わらざる夏」のメインストーリーは以上だが、本土決戦へ
向けた根こそぎ動員、児童疎開、東京市民の暮らしぶりなど、終戦(敗戦)
の夏、昭和二十年八月の国民の生活や思いも詳しく描かれる。
愚かな指導者による愚かな戦争、被害者はいつでもどこでも国民である。
昨日の日の出と飛行機雲、南の空から東へ追った連続写真で