自燈明・法燈明の考察

法華経の思想性について(4)

 さて法華経の思想性について続けていきます。
 この法華経は天台大師智顗の解釈では「迹門」と「本門」に分かれているとしています。日蓮の法華経に関する理解も、この天台大師の解釈を元にしています。

 法華経(鳩摩羅什訳の妙法蓮華経)は全部で二十八品という章立てで構成され、前半十四品を迹門、後半十四品を本門としています。

 そして迹門では仏は未だ人々から超絶した存在として位置づけられていますが、人々の中にも「仏知見」があるという事、そして仏とは万人を成仏させる事を常に念頭に置いて説法した事。また声聞・縁覚・菩薩という三乗の境涯も仮の境涯であって、そこに至る事を目的にしている事では無い事が語られています。

 これらについては、法華経の迹門において、舎利弗への未来の成仏への約束(記別)から始まり、その他の二乗や多くの弟子達への記別により表現されました。

 二乗不成仏という観点は、恐らく大乗仏教の勃興時の思想の様に思えます。釈迦滅後、原始仏教では出家僧が中心となり、そこで釈迦の教えを学び、研鑽する事を主眼にしていたと言いますが、釈迦入滅直後から様々な解釈により部派仏教と言われるように教えの解釈毎に分派していきました。そして年月を経る事で、現実から遊離した議論を好み、出家者優遇の意識も発生していった事が容易に想像できます。

 大乗仏教の根底には、釈迦が悟りを開き、法を説いたのは、そういう出家者優遇のためではなかったであろうし、もっと現実に即した生活者の為であったのではないか。在家であっても成仏は可能なのだ。そういう事から、先の有様であった出家者を「二乗」に見立て、そんな輩が逆に成仏できるわけがないという事で「二乗不成仏」という理屈も出来上がったのでは無いでしょうか。

 また原子仏教において出家者が目指す境地は阿羅漢果と言われ、声聞の最高位の境涯だと言われていますが、開三顕一という理論についても、その事に対するアンチテーゼがあった様に思うのです。

 あくまでも阿羅漢果とは言っても、それは成仏への道程の一つなんだと。

 とは言いながら、大乗仏教において、仏と衆生は未だ分断した存在であった事は、この法華経迹門を見ても理解できます。

 では本門に向けて、どの様に展開していったのか、そこについてつらつらと私の私見について書かせてもらいます。

 ◆宝塔について
 法華経を読む上で、無視できないのが宝塔という存在です。これが説かれているのは「見宝塔品第十一」です。その前の授学無学人記品第九までで、釈迦の弟子達への記別は終了しました。恐らく弟子達は自分達が未来に仏に成れると釈迦から約束され、宝名(仏の名前)まで与えられて、大いに盛り上がった処であったと思います。そして法師品第十では、法を説く事の功徳の大きさ、そして説く人の心構えについても語られていました。

 宝塔はいきなり出現します。見宝塔品の冒頭では以下の様に書かれています。

「爾の時に仏前に七宝の塔あり。高さ五百由旬、縦広二百五十由旬なり。
地より涌出して空中に住在す。」

 一由旬とは王が一日に進む距離と言われ、諸説ありますが約10キロ前後とも言われていて、それを採用すると縦5000キロ、横2500キロの大きな塔です。そしてその塔は七つの宝で飾られており、その塔の中には多宝如来が居たのです。

 この多宝如来の出現と、その後に起きた「三変土田」という事については、ここで割愛します。ただこの見宝塔品から「虚空会」という場所へと法華経の説法の場が移っていきます。

 この宝塔の出現と多宝如来、そして虚空会という説法の場の移動という事には、一体どの様な意義があるのか。そこには様々な事があると思いますが、私はこの事について、この後に続く久遠実成の説法に向けた壮大なる序章としての位置づけであったと思います。

 法華経の説法の場とは、霊鷲山であり、今でもインドのビハール州のほぼ中央に位置する山です。そしてここで法華経を説法をする仏は釈迦仏だけです。これはつまり始成正覚の姿の釈迦です。これは如何にも現実的なものです。

 しかし見宝塔品では多宝如来という、釈迦とは違う稀有壮大な仏が出現し、説法する場も地上ではなく虚空という場所になります。つまり想像を絶する荘厳な宝塔の出現と、釈迦以外に法を説く仏としての多宝如来の出現は、多くの弟子達が「記別」を受けて、自分たちも未来に成るという「仏」のスケールの大きさをまざまざと見せつけら、驚く様な展開であるとも言えます。

 この様な想像を絶する様な大展開の先に、久遠実成というのが明かされていく事になるのです。

(続く)


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