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新型コロナが引き起こす世界的食料危機。 貧困国を脅かす加工と輸送の障害・豊かな国のパニック買い「豊穣の中の食料危機」

2020-05-15 13:14:04 | 食べ物・食の安全

新型コロナが引き起こす世界的食料危機

貧困国を脅かす加工と輸送の障害・豊かな国のパニック買い「豊穣の中の食料危機」

2020 年 5 月 14 日 13:21 JST  WSJ  By Yaroslav Trofimov in Dubai and Lucy Craymer in Hong Kong

5月初旬、ロックダウン中のパキスタン・ラホールで無料の食事を受け取る人々 RAHAT

 

 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が世界を襲った時、農作物は

豊作で食料備蓄は潤沢だった。しかし、保護主義的規制、輸送経路の途絶、加工の

障害などの頻発が世界の食料供給を混乱させ、特に地球上の最も脆弱(ぜいじゃく)な

地域が危機に陥っている。

 

 国連食糧農業機関(FAO)のシニアエコノミスト、アブドレザ・アバシアン氏は

「多くの食料があるのに、食料危機に陥る恐れがある。それが、われわれが今、直面

している状況だ」と語った。

 

 コメ・小麦など主要食料の価格は、多くの都市で急上昇している。その一因は、

十分な国内供給量の確保を急ぐ国々による輸出規制をきっかけとしたパニック買いだ。

貿易の途絶とロックダウン(都市封鎖)によって、農場から市場、加工工場、港への

産品の輸送が困難になり、一部の農産物は畑に放置されたまま腐っている。

 

 また、経済の縮小と所得の減少や喪失を受け、資金不足に陥る人々が世界中で

増えている。原油など相場が下落している商品や観光に依存する開発途上諸国の

通貨価値は下落しており、輸入食料の価格を一層手の届きにくい水準にするという点で、

問題を深刻化させている。

 

 国連世界食糧計画(WFP)のチーフエコノミストを務めるアリフ・フセイン氏は

「これまでわれわれが対処してきた危機は常に、需要面の危機と供給面の危機のどちらか

一方だった。しかし今回は、その両方だ。供給と需要の危機が、世界規模で同時に起きて

いる」と述べた。「これは前例のないことであり、未知の領域だ」

 

 WFPは、最多で36の国々が今年末までに深刻な食料不足に直面する可能性があり、

飢餓状態に陥る恐れのある人々の数が1億3000万人増加するかもしれないと警告している。

 

 米国のような農業面で自給自足が可能な国々では、これまでのところ影響は軽微だ。

スーパーの棚に並ぶ商品の種類が若干減少し、食肉加工業界の一部に支障が出ている

ものの、目立った食料不足は起きていない。

 

 しかし他の国々は、富裕な国でも貧しい国でも、今後何カ月か、あるいは何年間か、

国民のために十分な食料をどう確保するかという厳しい課題に直面している。

 

 南スーダンは、長年にわたった内戦終結に向けて統一政権が樹立されたばかりであり、

最も危機にさらされている国の1つだ。FAOが公表したデータによると、首都ジュバの

小麦価格は2月以降62%も急上昇した。タピオカの名でも知られる同国の主要食糧キャッサバ

の価格は41%上昇した。

 

 同国内務省の副大臣に就任予定のマビオル・ガラン(Mabior Garang)氏は「どれほど

深刻な事態になるのか、想像もしたくない。国境は閉鎖されており、われわれの国には

自国で生産した食料は全くない。新型コロナ以前から飢餓に直面しており、そこに

コロナが加わるのだから、狂気の沙汰だ」と語った。

 

 FAOのデータによると、インドのチェンナイでは2月以降、ジャガイモの価格が27%

上昇している。ミャンマーのヤンゴンでは、ひよこ豆の1種であるグラムの価格が20%

上昇した。

飛行機から投下された配給食料を集める南スーダンの村人(2月)。同国は食料の供給途絶で最も危機にさらされている国の1つ

 

 パキスタンのラホールに住む運転手、ムハンマド・アシフ氏の家族は、パンデミック

前は鶏肉を週2回、羊肉を月1回食べていた。現在はできるだけ食べる量を抑え、主食で

食いつなごうとしているという。彼の所得が60%減った一方で、地元の食料品店で

売られている食料品の価格は少なくとも25%上がっているためだ。

 

 アシフ氏は、「ウイルスのせいで、われわれのような人々の生活は非常に困難になった。

こんな状況があと2カ月続いたら、人々は必要に迫られて他の人から食物を奪ったり、

盗んだりするようになるだろう」と話す。

 

 人類の歴史を通じて、食料不足は政治的な混乱をもたらしてきた。2008年の金融危機後、

何年かにわたって起きた世界の食料価格の上昇は、中東およびアフリカの多くの国で

混乱や暴動が相次ぐきっかけとなった。アラブの春の一連の反乱の発端となった出来事の

1つは、2010年にチュニジアの野菜売りをしていた男性が焼身自殺したことだった。

現在、多くの国の政府は食料供給の崩壊が似たような混乱を招く恐れがあることを懸念

している。

 

 世界最大のコメの輸入国であるフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は先月、

ASEAN(東南アジア諸国連合)の首脳らとのテレビ会議で、「食料安全保障は、社会経済的

および政治的な安定を維持するカギだ。それを無視するなら、自らが責任を負うことに

なる。われわれにとって最も喫緊の優先課題は、国民のために十分なコメの供給を確保

することだ」と述べていた。

 

 世界中の国々で都市封鎖が解除されるに伴い、物流上の問題が解決し、国境が開かれ、

食料貿易が回復する可能性はある。しかし、それに何カ月かかるかは不明だ。

それはパンデミック自体の成り行きという変わり得る要素にかかっている。

フィリピンは世界最大のコメ輸入国。写真はフィリピンの国家食糧庁の倉庫

 

 エコノミストらは、パンデミックの混乱が既存の食料在庫のみならず、向こう何カ月

間の作付けや収穫にも影響を及ぼすことが目先の最大のリスクだと述べる。一部の地域

では既にそうしたことが起こっており、アフリカとアジアの一部地域では、バッタの

大群によって農作物が被害を受けている。

 

 3月25日から全国で都市封鎖を行っているインドでは先月、農家のミナティ・スワイン氏

(33)の畑のトマトとバナナが腐ってしまった。移動が制限されたため、農産物を東部

オリッサ州の市場に持って行くことができなかったからだ。その後、大雨が降り、ナスも

駄目になった。

 彼女は「もう市場で食料を買うためのお金もない。お金がなければ、次の季節に向けた

作付けもできない」と話した。

 

 世界中で物流が混乱しているために、多くの生鮮食品、とりわけ果物、野菜や魚が

とんでもなく高価になったり、生産者から消費者に届けられなくなったりしている。

 

 

 1月1日から4月10日までの間、貨物運搬用のコンテナ船の輸送能力は欠航を理由に3

0%低下した。貨物が港に到着したとしても、多くの場所で税関などの施設の検疫や閉鎖が

行われているため、手続きがさらに遅れる事態となっている。これによって、積み荷が

腐ってしまう場合もある。

 

 コンサルティング大手のマッキンゼーによると、世界の旅客便の約85%が欠航となり、

航空貨物の輸送能力が約35%低下した。

 

 インドは世界最大のコメ輸出国であり、アフリカやアジアの国々に食料を供給している。

しかし最近では、ニューデリーを拠点とする輸出業者のシュリラル・マハル・グループ

(Shri Lal Mahal Group)の出荷量は、通常の15%~20%にとどまっている。

 同社のプレム・ガーグ会長は「インドにはたくさんの米がある。物流の問題で輸出

できないだけだ」と話している。問題の1つは輸送のための船だ。以前は2~3日に1隻の

ペースで欧州市場向けの輸送船が出港していたが、現在は2週間に1隻だけだ。

 

 コメ輸出量で世界10位以内に入る他の国の中には、輸出制限によって混乱をさらに

悪化させている国もある。世界3位のコメ輸出国であるベトナムは、3月に全てのコメ輸出

出荷を停止した。ミャンマーとカンボジアも輸出制限を導入した。

 

タイは鶏卵の輸出を制限した。写真はバンコクのスーパーマーケット

 

 世界最大の小麦輸出国であるロシアは4月に、7月までの輸出停止を決めた。他の小麦の

主要輸出国であるルーマニア、ウクライナ、カザフスタンも輸出制限を導入した。

ほかにもトルコがレモン、タイが鶏卵、セルビアがヒマワリの種の輸出を制限した。

 

 その後、一部の輸出制限は緩和され、ベトナムはコメ輸出を再開している。

しかし、豊作にもかかわらず、こうした保護主義の脅威が、一部の主食となる食料品の

国際価格上昇をあおっている。タイ産のコメ価格は4月に14%上昇し、7年ぶりの高値を

つけた。黒海沿岸産の小麦は7%値上がりしている。飼料用穀物の世界的な価格は下落

しているが、これは各国の食肉産業で発生している問題が主な原因だ。

 

 不確実性が続く中で、主要な食料輸入国は基礎的な食品を買いだめすることで対応

しており、これが価格をさらに押し上げる可能性がある。

 

 世界最大の小麦輸入国であるエジプトは、現在進行している国内の収穫期には、

外国から小麦を輸入することはほとんどない。しかし今年の4月、エジプトは国内需要の

8カ月分を備蓄するという新しい方針の一環として、フランスとロシアから穀物を大量に

購入した。業界関係者は、この取引が小麦の国際価格押し上げにつながったとみている。

 

 FAOの主任エコノミスト、マキシモ・トレロ・カレン氏は「各国政府が求めているのは

備蓄だ。これは大きな問題をもたらす。まず、価格は先々は下落する。さらに、備蓄食料

を適切に保管する施設が足りない」と指摘する。

 

小麦輸出世界1位のロシアは7月までの輸出を停止

 

 日本や台湾、アラブ首長国連邦(UAE)などの豊かな輸入国は高い輸入価格を提示して、

既に食料不足に直面している貧しい国々に競り勝つことができる。食料品価格の上昇で

最も深刻な打撃を受けるのは、こうした貧しい国々、特にサハラ以南のアフリカ諸国だ。

 

 ナイジェリアは2億人の人口を抱え、世界最大級のコメと小麦の輸入国だが、輸入価格の

高騰、現地での生産の問題、物流の混乱に加え、主要輸出産品である原油の価格暴落と

いった複合的なショックに苦しんでいる。

 


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