「核のごみ」減らす切り札 理研が新型加速器を考案
核変換に関する基礎データの取得に用いられた理化学研究所仁科加速器科学研究センターの超電導リングサイクロトロン「SRC」(理化学研究所提供)
原発の使用済み核燃料から生まれる高レベル放射性廃棄物は「核のごみ」と呼ばれる。地下に埋める
処分方法が進まないなかで期待されるのが、廃棄物に含まれる放射性物質をより安全な物質に変換する
手法だ。その根幹となる新型加速器が理化学研究所で考案され、技術的なめどがついたとして、
2040年の実用化に向けた開発が本格化する。
20秒で死に至る放射線量
高レベル放射性廃棄物は、原発を稼働させて生じた使用済み核燃料を処理し、再利用するウランや
プルトニウムを取り出した後の残留物のうち、特に放射線量が高いものだ。
人間が近くにいると20秒足らずで致死量に相当する放射線を浴びてしまう。廃棄物にはさまざまな
放射性物質が含まれ、崩壊によって量が半分に減る半減期も異なるが、中には1000万年を超える
ものもある。
現在は原発の敷地内で保管されているものも、将来は高温で溶かしたガラスと混ぜ合わせた上で
冷却して固めた「ガラス固化体」と呼ばれる状態で保管される予定だ。ガラス固化体は地下深くに
埋められ、半減期が来るのをひたすら待つことになるが、近隣住民の不安などから埋設する場所は
決まっていない。
この状況を打開する将来技術として期待されるのが、廃棄物に含まれる放射性物質をより安全または
処理しやすい物質に置き換える「核変換」の技術だ。
原子核を壊して別の物質に“変身”
放射性物質には放射能を持つ原子が含まれる。原子の構造は、中心に陽子や中性子から成る原子核が
あり、周りを電子が回るイメージで、陽子などの数は物質によって違う。
言い換えれば、人工的に原子核の陽子や中性子の数を変えれば、他の物質に“変身”する。放射性物質を、
放射能を持たなかったり、半減期が短い別の物質に置き換えられるわけだ。
そこで、理化学研究所仁科加速器科学研究センターの櫻井博儀副センター長らの研究チームが考案
したのが、新型加速器で作り出した中性子を原子核にぶつけて壊す手法だ。
新型加速器の全長は200~250メートル程度で、発射装置から陽子1個と中性子1個が組み
合わさった重陽子のビームを打ち出す。
重陽子ビームはプラスの電荷を帯びている。プラスの電荷はマイナスの電極に引き寄せられるという
性質を利用して、重陽子を新型加速器を通過中に光速の約6割まで加速。加速器の出口で容器に入った
液体リチウムにぶつけ、重陽子から陽子をはがして中性子だけのビームを作り出す。
この中性子ビームを放射性物質にぶつけると、原子核を構成する陽子や中性子の数が変わって別の
物質に置き換わるわけだ。
研究チームが目下のターゲットとしている放射性物質は「ヨウ素129」(半減期1570万年)と
「テクネチウム99」(同21万1千年)の2種類だ。
このうちヨウ素129は水に溶けやすく、地中で長期間保管した場合、地下水に溶け出す可能性が
他の物質に比べて高いため、核変換への期待が大きい。核変換に関する基礎データの取得には、理研の
超電導リングサイクロトロン「SRC」を使った。
原発20基分のごみ処理が可能
核変換自体は既存の加速器でも可能だが、ビームの出力が弱く、原発の稼働に見合った十分な
処理量を確保できない。
これに対して新型加速器は、ビームの出力が既存の加速器の300倍という400メガワットで、
打ち出すビームの直径は10センチにも達する。新型加速器1台で、原発20基分のヨウ素129や
テクネチウム99を処理できる計算だ。
実現にあたっては、重陽子ビームを加速する空洞を90個連続して並べるなどの手法を考案。
今後の課題はビームの安定化に向けた加速器の詳細な設計や素材選びなどだ。
理研の奥野広樹・大強度標的開発チームリーダーは「加速器の開発はまだ始まったばかりで、
長い戦いの『始めの一歩』を踏み出した段階にある。核のごみという人類の課題を解決するため、
何とかやり遂げたい」と意気込む。