邪悪なGAFAから世界を救うには
2021.1.21(木) JBpress ラナ・フォルーハー
前編
GAFAはなぜ邪悪に堕ちたのか
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/63732
(※)本稿は『邪悪に堕ちたGAFA ビッグテックは素晴らしい理念と私たちを裏切った』(ラナ・フォルーハー著、長谷川圭訳、日経BP)より一部抜粋・再編集したものです
不完全な規制でも無規制よりはマシ
資本主義のルールは石版に刻み込まれて伝承されてきたのではない。私たちが決め、変えることが
できる。ビッグテックの活動に制限を課さない限り、自由民主主義と個人の自由と安全が危機にさら
されることになると、私は確信している。以下、デジタル規制のパラメータとしてどのようなものが
想定できるか、例をいくつか紹介する。
手始めに、私たちがずっと前から知っていながら、忘れてしまっていると思える事実を指摘したい。
業界による自主規制がうまく機能することはめったにないという事実だ。世紀の変わり目の鉄道に
始まり、1990年代のエネルギー市場、あるいは2007年ごろの金融業界など、この主張を裏づける例は
いくらでも見つかる。
その最新の例がテクノロジー業界だ。2016年以降、ビッグテックの幹部たちは何度も議会で懺悔や
謝罪の言葉を口にしてきたが、ビジネスモデルという点でも、経営理念という点でも、明らかな変化を
見せることはなかった。むしろ、「もっとうまくやる」という彼らの曖昧な口約束や、自らのプラット
フォームを監視するのは単純に不可能だなどという嘘が、あまりにも大きな力を得た民間企業を集中的に
規制する枠組みが必要である事実を証明していると言える。
反トラスト法を巡るGAFA公聴会で証言するグーグルCEOのサンダー・ピチャイ(ビデオ画像、2020年7月29日)
ただし、賢い規制方法を考えるのは非常に難しいと言わざるをえない。ここでもまた、金融業界が
完璧な例だ。2008年以後の規制状況はとても複雑なうえ、世界各地で統一性がなかったため、体制に
新たなリスクをもたらしてしまった。その結果として、トランプ政権はそのような規制の一部を撤廃
することを正当化できたのである。しかしだからといって、何もしないほうがまし、という理由には
ならない。近年、不完全な規制よりも無規制のほうが大きな問題になることがわかったのだから。
では、政府がビッグテックを監視する状態をつくり、消費者と社会の利益を守り、成長の妨げになる
独占を抑制し、私たちに欠かせないデジタルの利便性を維持するには、どうすればいいのだろうか?
法的な責任の免除を見直すべき
一つの方法として、ビッグテックがプラットフォーム上で起こる出来事に対して法的に責任を免除
されている現状を見直すことが挙げられるだろう。この問題点は、2019年の3月にニュージーランドの
クライストチャーチにおけるモスク2カ所で礼拝者50人が殺害され、その様子を映した17分のビデオが
配信された事件が発生したことを受けて、同国のジャシンダ・アーダーン首相が世間に問うたのだった。
そのビデオは24時間以内でフェイスブックに150万回、ユーチューブには2秒に1回の頻度でアップ
ロードされた。事件後に行った力強いスピーチで、アーダーンは次のように述べている。
「我々は、これらのプラットフォームが存在し、そこで繰り広げられる言動にそれらが公開
(パブリッシュ)される場所は何の責任もとらないという話を、ただじっと座って受け入れるわけには
いかない。彼らは発行者(パブリッシャー)であり、郵便配達ではない。責任を度外視して利益だけを
追えばいいということはありえない」
ほかのメディアには理解のできないことに、通信品位法の第230条の例外により、プラットフォームは
憎しみや暴力の流布に対して責任をとる必要がない。この点を見直すのは難しい作業になるだろう。
もし、法的に義務づけられた場合、プラットフォームはヘイトスピーチの取り締まりに必要以上に
力を入れ、それが結果として言論の自由を脅かす恐れがある。しかし、現状のままではいけないことも
明らかだ。
今こそプラットフォームの運営者は、彼らが管理しているのは街の広場ではなく、ほかのメディア
企業と同じで、コンテンツを現金に換える広告ビジネスなのだという事実を認めるときだ。
そんなことはないと言い張るのは、彼らにとって不公平なだけでなく、危険なことでもある。
反トラスト法を巡るGAFA公聴会で証言するフェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグ(ビデオ画像、2020年7月29日)
インターネットこそ21世紀の鉄道だ
次に検討すべきおもな規制として、プラットフォームと商業を分離してより公平で競争的なデジタル
環境をつくることが挙げられる。ビッグテックの力は、19世紀の鉄道王たちが誇っていた権力に似ている。
彼らもまた、自らの業界と社会を支配していた。政治家を買収することで、自由に価格をつり上げ、
ライバルを業界から締め出し、課税と規制を回避することもできた。しかし最終的には、州間通商委員会
が設置され、業界が支持し、ロビー活動に反対する数多くの条項が定められるなど、数多くの規制が
変更されたことで、その力が抑えつけられたのだ。州間通商委員会はイノベーションを押しつぶすのでは
なく、テクノロジーがもたらす利益を広く共有できるようにすることで時代を繁栄に導くことに成功した。
専門家の多くは同じ考えだと思うが、強力なネットワーク効果を享受するビッグテック企業はそれ
自体が独占企業であり、公共事業と同じように規制されるべきだ。競合他社もネットワークを公平に
使えるようになっているか、略奪的価格設定が行われていないか、インターネットを不当にコントロール
するために不正な利用規約が定められていないか、などといった点を政府が監視する。インターネット
こそ、21世紀の鉄道なのだから。
そう考えると、「不可欠施設の法理」のような反トラストにまつわる古い考えを思い出す。
1912年に最高裁判所が、セントルイス内でミシシッピ川にかかる唯一の橋を支配する鉄道会社に、
他社にも差別なくその橋を使わせるよう指示する際に用いた考えのことだ。
現在のグーグル、アマゾン、フェイスブック、あるいはアップルなどとの類似点は見落としようがない。
どの企業もそれぞれのエコシステムを強大な力で支配している。一般的にもビッグテックと鉄道会社が
比較されることが増えているし、為政者の一部も指摘している。
反トラスト法を巡るGAFA公聴会で証言するアマゾンCEOのジェフ・ベゾス(ビデオ画像、2020年7月29日)
例えばマサチューセッツ州選出の上院議員にして民主党大統領候補のエリザベス・ウォーレンなどだ。
ウォーレンもビッグテックと鉄道を比較したうえで、世界での収益が250億ドルを超える会社はプラット
フォーム“公共事業”を所有すべきではなく、そのプラットフォームに自ら参加すべきでもないと考えて
いる。
私たちは権力をより広い視点から解釈したうえで、つまり消費者だけではなく社会全体の幸福を
考えて、反トラスト政策を見直すべきだろう。それだけが、ワシントンを現金とロビイストで席巻する
巨大なテクノロジー企業が政治経済を牛耳っている時代に、公平さと経済競争を強化する唯一の方法だと
思える。
誰が誰に合わせるべきか
ビッグテックはビッグだ。この点が、今までそのような対策があまり行われなかった理由の一つだと
言える。今後も当分のあいだは同じ状態が続くだろう。
過去20年の変化があまりにも広く、そして深かったため、私たちはそれをいまだに消化しきれていない。
シリコンバレーは歴史上最も豊かな産業であり、どんな問題に遭遇しても、金の力で解決することができ
た。その製品は明るく輝き、あまりにも画期的だったので、その暗黒面に私たちは自ら目を閉ざしてきた
部分もある。
そこには矛盾が横たわっていた。それらの利点──情報の共有、人間関係の構築、生産性の向上など──
は、暗黒面──スパイ行為、情報販売、真実や信用の侵害──の上に成り立っていたのだ。
利点──一瞬のうちに事実やタクシーを呼び出すことができる能力──があまりにも神々しかったので、
私たちは暗黒面の悪魔的な力を見過ごしてきた。
反トラスト法を巡るGAFA公聴会で証言するアップルCEOのティム・クック(ビデオ画像、2020年7月29日)
しかし、意図的に目をつぶるのはもうやめにしよう。富と力を手に入れたビッグテックは、あまりにも
傲慢になってしまった。社会のほうがビッグテックの望むように変わらなければならないという考え
すら広まっている。私たちはもっと速く動き、もっと多く働き、あらゆるものを破壊する心構えを
もっておくべきだという考え方が。
しかし真実はその逆で、ビッグテックが私たち一般の人々に合わせるべきなのである。アメリカは
最も豊かで最も影響力の強い一部の人々により、今にも独占されようとしている。そして人々は自分
たちには企業運営のルールを変えるだけの力がないと思い込んでしまっている。
私たちがやらなければならないこと
私たちはその無力感を払い落とし、自分たちにもデジタル化した経済と社会のルールを“自分たち
自身が”望み必要とする形に変える力があることを理解しなければならない。でなければ、失うものが
あまりにも多い。
技術の歴史は変革の歴史でもある。そして、変革に終わりはない。産業革命は機会を拡大したが、
それが工場労働者の搾取につながり、労働者の搾取が政府に改革を強制し、それがさらにシカゴ学派の
支配、ネオリベラルな経済観、あるいは政治的自由主義の台頭を引き起こした。その延長線上として、
ビッグテックが過剰なまでに成長できたのである。この流れが今も続いている。
ビッグテックは規模が大きく、動きも速いため、追跡するのもコントロールするのも簡単ではない。
しかし、私たちはようやく、きらきらと輝く新デバイスを得るのと引き換えに何を差し出してきたのか、
正確に理解しはじめている。
変更されない技術も、人々を永遠に支配しつづける技術も存在しない。一時は強大な権力を誇った
鉄道業も、賢明な役人たちがそれらを悪徳資本家だけでなく広く一般のためにも奉仕するように規制
したことで、大きく様変わりした。
新しい機械をつくるのは人間だ。人工知能が世界を乗っ取るというディストピア的な妄想は別として、
今も人間が機械の支配者なのだ。その力には、私たちが、私たちと子供たちのためになるように、
ビッグテックに望む未来を選び、創造する能力が、いや責任がともなう。
GAFAはなぜ邪悪に堕ちたのか。 ビッグテックは素晴らしい理念と私たちを裏切った 前編