「大して安くない」いきなり!ステーキ、いきなり深刻な客離れ…値上げ連発で行く意味消失
飽きられ始めているのか、「いきなり!ステーキ」の集客力に陰りが見えている。
運営会社のペッパーフードサービスによると、8月の「いきなり!ステーキ」既存店客数は前年同月比
0.9%増と、わずかな増加率にとどまった。客単価が落ち込んだため、売上高は2.8%減となっている。
「いきなり!ステーキ」といえば、行列ができるステーキ店として知られ、多くのメディアでも紹介される
人気店だ。しかし、ここにきて集客力の衰えが目立っている。
客数に異変が起きたのは今年4月だ。前月の3月は13.9%増、2月は12.7%増と大幅に伸びていた。
それ以前では30%以上の増加率を叩き出すことも珍しくなく、2017年12月期通期は23.9%増と大幅な
伸びを見せていた。
ところが、4月は一転して1.5%減とマイナスに陥った。それ以降も減少が続き、5月が9.0%減、6月が9.6%
減、7月が9.4%減と4カ月連続でマイナスとなっている。しかも、悪いことに5〜7月のマイナス幅は
いずれも9%台と決して小さくはない。
5〜7月が大幅な減少となったのは、まず値上げの影響が考えられる。
5月16日から、「国産牛サーロインステーキ」の1グラム当たりの価格を10円(税別、以下同)から11円に、
「国産牛リブロースステーキ」も10円から11円に値上げした。それぞれ値上げ率は10%にもなる。
一部店舗では販売していない商品ではあるが、販売店舗の利用客がそれを嫌って利用しなくなっていった
ことが考えられる。
「いきなり!ステーキ」は、手頃な価格でステーキを食べられることで人気を博した。立ち食い形式を
採用しているため、狭い敷地に多くの来店客を収容することができ、高い回転率を実現することができる。
これにより家賃比率を抑え、その分を食材の原価に充てることができ、高品質のステーキを低価格で
提供することが可能となった。
立って食べなくてはならないという不便はあるものの、おいしいステーキを低価格で食べられるメリットが
それを超越し、行列ができるほどの人気店となっていった。
しかし、最近は「大して安くない」といった声を耳にすることも少なくない。「いきなり!ステーキ」は、
立て続けに値上げを実施している。それにより商品の価格が高騰しており、たとえば、全店舗で販売している
「リブロースステーキ」(現在、1グラム当たり6.9円)の1グラム当たりの価格は、昨年7月より前と比べ
0.4円高くなっている。
同じく全店販売の「ヒレステーキ」(同9円)は昨年3月に値上げし、0.5円高くなった。このほかにも
いくつか値上げしており、値頃感は急速に低下している。
大量出店の勢いは維持
依然として続く肉ブームのなかで、おいしいステーキを提供する店が増えていることも
「いきなり!ステーキ」の競争優位性を低下させる要因となっている。
日本フードサービス協会によると、17年の飲食店売上高は前年比で3.1%増えたが、そのなかでも特に
「焼き肉」カテゴリーの伸長が著しく、7.8%増と大幅な伸びを示している。近年は、大小さまざまな企業が
肉料理を提供する飲食店を出店しており、「いきなり!ステーキ」を取り巻く環境は厳しさを増している。
舌の肥えた利用客が離れていったり、「いきなり!ステーキ」を選択肢から除外する消費者が増えて
いったりしたのではないか。
「いきなり!ステーキ」のブームが一巡したことも大きいだろう。今年4〜7月の客数がマイナスとなったのは、
反動減による影響がある。昨年4〜7月の対前年同月比増加率はいずれの月も20%超と大きく上振れていた。
昨年3月以前はマイナスの月も多く、昨年4月から急激に客数が増えていったことがわかる。
昨年4〜7月において客数が大幅に増えたのは、話題性のあるキャンペーンやイベントがあったことが大きい。
食べた肉のグラム数を記録できる「肉マイレージカード」の発行枚数が100万枚に達したことを記念し、
同年4月10日〜5月9日に総額100万円のプレゼントキャンペーンを実施したほか、同年5月にペッパーフード
サービスが東証マザーズから東証2部へ市場変更し、そのわずか3カ月後の同年8月には東証1部に昇格する
ことが話題となった。こうしたことで「いきなり!ステーキ」に関心が集まり、客数が大幅に増加した。
今年4〜7月の客数が大幅に減ったのは、こうしたブームが去ったことも影響したと考えられるだろう。
もっとも、「いきなり!ステーキ」の業績は決して悪いわけではない。むしろ絶好調といっていい。
直近の18年1〜6月期の同事業売上高は、前年同期比2.1倍の234億円と大幅な増収を達成した。
わずか半年で98店も新規出店し、店舗数が284店に拡大している。店舗数の拡大が業績に大きく寄与した
かたちだ。
新規出店では特にフランチャイズ(FC)店の出店が目立った。国内では、4割に当たる約40店が
FC店での出店だ。
業績不振に陥ったラーメンチェーン大手の幸楽苑ホールディングスがフランチャイジーとなって、
昨年12月に傘下のラーメン店「幸楽苑」の店舗を転換するかたちで「いきなり!ステーキ」の
1号店を出店した。同社は、その後も同様にFC店を次々と出店している。
また、CDやゲームソフトを販売するワンダーコーポレーションも今年6月に「いきなり!ステーキ」を
出店している。このようにして、FC店が一気に増えていった。
各社は勢いのある「いきなり!ステーキ」をFC展開することで新たな収益源を確立することができ、
ペッパーフードサービスとしては効率的に規模を拡大することができる。一方で、ペッパーフードサービスは
直営店も大量出店している。こうして出店を進めたことにより、「いきなり!ステーキ」事業は大幅な
増収となった。
ペッパーフードサービスの業績も好調だ。18年1〜6月期の連結決算は、売上高が前年比81.5%増の
279億円、営業利益は同24.1%増の14億円だった。「いきなり!ステーキ」事業が伸びたほか、
低価格ステーキ店「ペッパーランチ」を運営する事業も伸長しており、大幅な増収増益となっている。
とはいえ、客数減は一時的なものではない可能性も十分ある。こうした好業績に隠れてしまいがちだが、
「いきなり!ステーキ」の客離れは深刻な事態であるととらえなければならないはずだ。こうした事態を
投資家も懸念しているのか、4月10日に7000円つけていた同社の株価が、9月末には4015円にまで
低下している。今後の客数の動向をより注視する必要があるといえるだろう。
2018.10.11 Business Journal
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