「中国寄り」のカンボジアに日本ができること
2018年4月25日 WEDGEInfinity
4月8日、河野太郎外務大臣は、カンボジア訪問を終え、記者団とのインタビュー冒頭、次のように発言した。
「今回、日本とカンボジアの外交関係65周年という機会にプノンペンを訪問し、フン・セン首相及びプラック・ソコン上級相兼
外務大臣と初めて会談をいたしました。短い滞在ではございましたが、お昼ご飯も挟んで様々意見を交わし、
また、フン・セン首相からは和平にまつわる話を直接聞くことができましたし、信頼関係の構築をすることが出来たのではないかと
思います。
カンボジアは、安倍内閣の掲げる積極的平和主義の原点でもありますし、私の父が宮沢内閣の官房長官の時代にUNTACへの
PKO部隊派遣に尽力し、また、副総理・外務大臣の時代にフン・セン首相ともプノンペンで会談したこともあるということもあって、
私個人としても思い入れが深いということをカンボジアのみなさまにお伝えをいたしました。
カンボジアから自由で開かれたインド太平洋戦略について、非常に早い段階でご支持をいただいておりましたが、
その実現に向けて、具体的な協力を積み重ねていくことで一致をいたしました。メコン地域の要衝にあるカンボジアの発展を
後押しすべく、物流の改善、人材の育成、そして都市機能の強化という3つの柱で引き続き支援を継続していくことをお伝えを
いたしました。
また、今日、交換公文への署名が行われました、首都圏の送配電網拡張整備に対する円借款の供与、それから、税関の監視艇2隻
の贈与も、こうした戦略の趣旨に一致するということであり、カンボジアからは、御礼の言葉とともに、更に協力を推進する
意思が示されました。」
日本がカンボジアで植えた「平和の苗」
カンボジアは、ASEAN(東南アジア諸国連合)10か国の中でも、一番中国寄りだと言われる。この岡崎研究所のコラムでも
最近取り上げた「孔子平和賞」(中国がノーベル平和賞に対抗して創設したもの)の2017年の受賞者は、カンボジアの
フン・セン首相だった。受賞理由として挙げられているのが、フィリピンが提訴した南シナ海問題での常設仲裁裁判所の判決
(中国の主張や行動を国際法上の根拠がなく違法とほぼ判断したもの)を批判したことだそうだ。
そんなカンボジアを、今回、河野外務大臣が訪れ、同国に借款や無償援助を供与した意義は大きい。
特に、フン・セン首相を表敬し、「自由で開かれたインド太平洋戦略」への協力を取り付け、それを実際に、無償資金援助を通して
具体化することが出来たことは、この地域の安定と発展に大きな成果があったと思われる。約5億円に上る日本からカンボジアへの
供与のうち、税関監視艇2隻の贈与は、それらを保有していなかったカンボジアの海上での法執行能力を飛躍的に高めることになる。
小型船舶等による密輸防止に使用されるとされ、北朝鮮への国連安保理決議に基づく制裁を確実化することにも役立つだろう。
カンボジアは、この7月に国政選挙を迎える。いかに民主的選挙が行われるかが問われているが、野党が解党させられたという
ことがあり、メディアからは批判や懸念の声がある。
振り返れば、四半世紀前の1992年、日本が、初めて自衛隊をPKOに派遣したのが、カンボジアだった。
日本は、国際社会の中でも、積極的に、カンボジアの和平と復興、そして民主化プロセスに関わってきた。
その過程で、日本人が犠牲になることもあった。1993年のカンボジア総選挙に国連監視団にボランティアで参加していた
中田厚仁さんと、国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)文民警察官の高田晴行警視である。
今回、河野太郎外務大臣は、お二人の慰霊碑に献花した。4月8日は、中田さんの命日でもあった。
その意味からも、日本がカンボジアの民主化に無関心であるわけがない。しかし、河野大臣も記者の質問に答えているように、
ASEAN諸国の民主主義は、様々な段階にあり、すぐに西側の民主主義のようにはいかない。タイしかり、ミャンマーしかりである。
民主化プロセスにおいても、ある種、ASEAN WAYを尊重しなければならないのかもしれない。
そうしなければ、よりASEAN諸国は中国寄りとなり、民主化に逆行する独裁色を強めてしまう。
カンボジアの和平・復興・発展の歴史には、日本外交の軌跡がある。カンボジアが内戦を終結して復興していく国際会議を、
日本が主催した。フン・セン氏の眼の手術が、日本で秘密裡に行われたこともある。そして、UNTAC国連事務総長特別代表は、
日本人の明石康さんが務めた。そして自衛隊、警察、民間から、様々な人がカンボジアとかかわった。
安倍総理は、2016年の自衛隊の観閲式の訓示で 南スーダンのPKOに参加していた自衛隊員にカンボジアのPKO隊員が
話しかけてきたことを披露した。そのカンボジアの隊員は、自分が幼い時に、自衛隊のお蔭で国が復興した、今度は、
自分が南スーダンの復興に役立ちたい、と自衛隊員に謝意を述べたそうだ。日本がカンボジアで植えた「平和の苗」が育ち、
今度は、アフリカで、その「平和の苗」が植えられていた。
河野大臣が「カンボジアは、安倍内閣の掲げる積極的平和主義の原点」と語ったのは、このことを言ったのかもしれない。
カンボジアは、中国寄りだが、反日ではない。むしろ、親日的カンボジア人は多いようだ。その証拠に、カンボジアのお札
(500リエル紙幣)には、日本の政府開発援助(ODA)で完成した、大河メコン川に架かる「きずな橋」と「つばさ橋」が
印刷されている。日本の国旗「日の丸」とカンボジアの国旗が並べて印刷されていることからも、日本とカンボジアの友情の
懸け橋と言われている橋であることがわかる。
500リエル紙幣 裏:きずな橋(日本の無償援助資金 63.82億円)
新しい500リエル紙幣 きずな橋 つばさ橋 日本国旗が印刷されている。
そして、現在、カンボジアには、今でも活躍している自衛隊のOBがいる。NPO法人JMAS(日本地雷を処理する会)で、
長かった内戦でいまだにカンボジア各地に埋まっている地雷撤去の活動等に携わっているのである。
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インフラ整備推進を表明 カンボジア首相に外相
- 2018/4/9 8:57 日経新聞
経済支援を通じてカンボジアへの影響力を強める中国をにらみ、日本の存在感をアピールする狙いがある。河野氏は会談後、
記者団に「カンボジアの発展を後押しするため、物流の改善、人材育成、都市機能の強化という3つの柱で支援を継続すると伝えた」
と明らかにした。
会談で河野氏は、フン・セン政権による最大野党の解散やメディア弾圧に欧米諸国が懸念を強めている現状を踏まえ、
7月の下院選に関し「国民の意見が反映される選挙にしてほしい」と求めた。
フン・セン氏は「自由で公正な選挙にするつもりだ」と述べたという。
河野氏は、プラク・ソコン外相とも会談。両外相は、密輸監視体制強化のため、日本の中古の監視艇2隻を改修して提供する
合意文書に署名したほか、変電所増設や送電線整備のため約92億円を限度とする円借款を供与することでも合意した。