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<人工肉時代 ②>人工肉時代の到来、目指すは「食卓のテスラ」 

2019-06-17 11:10:00 | 食べ物・食の安全

人工肉時代の到来、目指すは「食卓のテスラ」  

最終的にこの市場が成功するかどうかは「味」にかかっている

2019 年 5 月 6 日 08:06 JST    WSJ By Mischa Frankl-Duval


 米カリフォルニア州バークレーを拠点とする新興企業、フィンレス・フーズのクロマグロは海を

見たことがない。同社は研究室でマグロから細胞を取り出し、必要な栄養分を与え培養して繁殖させ、

「一本釣りなし」で本物の食用マグロにする。


 フィンレスは年末にこのクロマグロの販売を開始する計画だ。これまでは揚げ物やフィッシュケーキ

などに混ぜて、少量の試作品を報道関係者に提供している。同社の創業者で最高経営責任者(CEO)の

マイク・セルデン氏はまず、高級レストランに卸し、その後より手頃なレストランやデリ、最終的には

スーパーマーケットで販売する青写真を描く。研究室育ちの「人工培養マグロ」はまだ販売されて

いないが、5年以内には市場の大きな部分を占めるようになると同氏は予想する。


 セルデン氏のフィンレスほか、メンフィス・ミーツ、ニュー・エージ・ミーツ、アレフ・ファームズ

などの培養肉メーカーは、顧客に商品を届ける上で複数の障害に直面している。

まず、農場や養魚場で飼育されたものではなく、細胞から培養した人工培養(魚)肉を顧客が実際に

食べるかどうか(ましてお金を払うかどうか)分からない。

また培養マグロはかなり割高だ。フィンレスがマグロを培養するのに、1ポンド(約453.6グラム)

当たり4000ドル(約45万5000円)弱かかった。これは金価格のおよそ2割の水準だ。従来のマグロの

価格は開きがあるものの、メーン州の水産物サプライヤー、ブラウン・トレーディングは

ポンド当たり8〜12ドルで仕入れ、同19ドルでレストランに卸す。


 コストの高さと顧客の抵抗を克服するため、フィンレスなどの一部メーカーは、直感に反する

戦略を採っている。希少価値の高い、従来の高級肉の戦略を踏襲し、大枚をはたく価値のある

「革新的な人類のぜいたく品」と位置づけようとしているのだ。関係者は人工培養肉について、

電気自動車(EV)のテスラを念頭に「夕食の食卓を飾るテスラ」を目指している。


 イスラエルの新興企業、アレフ・ファームズのディディエ・トウビアCEOは「低レンジ、低コスト、

低価格の商品は目指さない」と話す。同社は生体医学のエンジニアリング技術を使って、筋肉、脂肪

、血管などの細胞から牛肉を再現する会社だ。

 

 同社は昨年、世界初の人工培養ステーキ肉を開発したと発表した。薄いステーキ肉1枚の生産コストは

50ドル。トウビア氏は同社のステーキ肉が2021年にもレストランで提供され、23年までには

小売店舗で販売される可能性があると述べる。生産コストを低下させる方針だが、著しく下げることは

ないという。「一定のプレミアム価格で販売することに違和感を抱くべき理由はない」

 

 フィンレスなど一部メーカーが高額戦略を掲げるにはいくつかの理由がある。人工培養食品の

最初の買い手は、テクノロジー技術を最初に取り入れた層と同じように、価格への敏感度が低く、

大衆市場と比べた希少価値に対しプレミアムを支払うことに前向きである公算が大きい。

フィンレスのセルドン氏は「これは『フランケンミート(人工培養肉)』であり、研究室で作られた

偽物との見方がある」とした上で、「こうした見方に対し、高級品として売り出すことが大きな

支援になると考えている」という。


イスラエルの新興企業アレフ・ファームズが開発した世界初の人工培養ステーキ


 セルドン氏は、生産規模を拡大することで、従来のマグロと同水準までコストは下がるだろうと

しているが、具体的な数字は明かさなかった。

フィンレスのマグロの試作品コストは、2017年当時のポンド当たり1万9000ドルから下がっている。


 人工培養肉の推進派は、クロマグロなど絶滅危惧種の保護に寄与するほか、地球温暖化ガスの排出を

抑制するとともに、廃水や土地・エネルギー利用を減らすことができると主張している。

また、動物を殺すことなく本物の肉を味わえる方法を提供し、ベジバーガーや豆腐ドッグ

(豆腐を原料とするソーセージ)も不要になるとしている。

 

 米食品医薬品局(FDA)と米農務省は昨年、人工培養食品に関する規制について共同で取り組む

ことで合意した。


 米食肉大手タイソンフーズと米穀物メジャーのカーギルは共に、メンフィス・ミーツ

(サンフランシスコ)に出資している。メンフィス・ミーツは、人工培養の鶏肉、カモ肉、牛肉の

開発を手掛ける。タイソンはタンパク質に対する世界の需要を満たす新たな方策を見いだすことが

投資の目的と説明。カーギルは人工培養肉は消費者に一段の選択肢を提供する手段と考えている。


 ただ、最終的にこの市場が成功するかどうかは「味」にかかっている。

ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の動画シリーズ「ムービング・アップストリーム」で

ホストを務めたジェイソン・ベリーニは昨年、アレフの人工培養肉を実際に試食した。肉の食感や

血のような独特の味がしたが、50ドルのステーキ肉のような味はしなかったと述べている。

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Clean Meat (クリーンミート)

培養肉業界は誕生からまだ日が浅く、従来型の食肉を扱う企業が投資するのは初めて。培養肉は肥育や

食肉処理の施設を必要とせず、環境に優しいと考えられることから「クリーンミート」と呼ばれ、

複数の新興企業が製品開発に乗り出している。(中略)食肉各社は肥育時の抗生物質投与などへの

依存を減らし、家畜の扱い改善を求める圧力にさらされている。


【ワード解説】

 経済協力開発機構(OECD)の統計によると2014年の世界の1人当たりの平均年間食肉量は34kgで、

24年には35.5kgに増加が予想される。この需要を賄うために世界で飼育される家畜は現在、

牛が15億頭、豚と羊がそれぞれ10億頭、そして鶏が190億羽という。


 これらの飼育に使われる土地は全世界の土地の4分の1を占め、飼育用穀物は全生産量の3分の1に上る。

このコストや環境面への配慮から世界の食肉業界が開発競争に乗り出したのが

「clean meat=クリーンミート」という人工培養肉だ。

 

 「クリーンミート」は最近多用されだした呼称で、通常は「cultured meat=培養肉」と呼ばれている。

「培養」という文字通り、これらの動物の幹細胞を採取し、それをバイオリアクター(生物反応器)で

肉の塊へ生成させたものだ。13年8月にオランダの大学教授が率いるチームが初めて牛の培養肉を

使ったハンバーガーを発表した。その試食会での多数意見は「脂肪分が少ない普通の赤身の肉の

ようだった」という。


 「クリーンミート」の由縁は、この製造方法だと牛の息に含まれる温室効果ガスであるメタンを

減らし、飼育で必要な抗生物質も使わない「クリーン」な肉から来ている。

 

 期待の大きい「クリーンミート」だが、普及への最大のネックはコストだ。牛の細胞を使った

1ポンド(約450グラム)当たりの人工肉生産コストは2016年時点で約1万8000ドル(約200万円)。

今年中には2400ドルまで下げられるとしているが、まだまだ高すぎる。一方、動物細胞ではなく

小麦やジャガイモ、ココナッツミルクなどの植物性蛋白質を原料としてつくられる人工肉は格安だ。

ニューヨークではこの肉を使ったハンバーガーを10ドル強で提供するレストランも登場している。

 

「培養」の訳が充てられている「cultured」には「養殖」の意味も充てられている。

日本では既になじみのタイ、マグロ、ブリなどの「養殖魚」は「cultured fish」という。

 
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