韓国文政権、極端すぎる賃金政策に現実の壁
最低賃金の大幅引き上げ、雇用や国内経済の重荷に
――WSJの人気コラム「ハード・オン・ザ・ストリート」By Mike Bird
***
韓国は資本主義の一大サクセスストーリーとして褒めそやされることが多い。だが最近は、世界有数の
大胆な左翼的経済政策に取り組む国として知られる。
文在寅(ムン・ジェイン)大統領は「所得主導型成長」を看板政策に掲げ、2017年の就任以来、
同国の最低賃金を劇的に引き上げてきた。世界貿易の低迷がすでに韓国を打ちのめす中で、賃金水準の
上昇が失業率をいっそう押し上げる要因となっている。
投資家は次の点に要注意だ。
韓国は輸出国のイメージが強いが、地元上場企業は売り上げの半分以上を国内で稼いでいる。
韓国の景気減速は、同国の通貨やすでに割高な株価への脅威となっている。
MSCI新興国市場指数のうち韓国株は約14%を占め、中国株に次いで2番に大きい。
他にも低い賃金を引き上げた国はあるが、「ムンノミクス(文大統領の経済政策)」が主導する韓国の
賃金上昇幅はあまりにも極端だ。同国の最低賃金は昨年16.4%上昇し、今年さらに10.9%上昇。
時給8350ウォン(7.44ドル、約820円)は現在の全米最低賃金よりも高い。
一方、1人当たり国内総生産(GDP)でみると、韓国は米国のほぼ半分しかない。引き上げ前でさえ、
韓国の最低賃金は2017年の賃金中央値の53%に相当していた。これは英国の水準に匹敵し、日本を
上回っている。
文氏の狙いは韓国の経済成長がもたらす恩恵をより公平に分配することだろう。だが、企業が
人件費上昇を抑えるため、雇用人数を減らすことが危惧される。韓国の失業率は12月の3.8%から
1月は4.4%に上昇。9年ぶりの大幅な伸びだ。ちょうど最低賃金引き上げ措置が発効するタイミングだった。
最低賃金と雇用の関係は明らかではない。一部の国では最低賃金を引き上げても失業率にはそれほど
影響がなかった。ただ、大半の調査は、韓国で現在実施されているものより緩やかな賃金政策を対象に
行われたものだ。
ここで投資家にとって重要な点は、韓国経済がふらついているのと時を同じくして、韓国株もすでに
魅力的には見えないことだ。ベンチマークの韓国総合株価指数(KOSPI)は昨年10月末に7年ぶり
安値をつけ、この時点で予想株価収益率(PER)は7.9倍だった。その後利益予想が落ち込み、世界的な
株高が進行した結果、予想※PERは10.7倍まで上昇。2016年半ば以降で最も割高な水準にある。
※PER(株価収益率)というのは、“会社の利益と株価の関係”を表していて、割安性を測ることができます。一般的に、『PERが低ければ低いほど、会社が稼ぐ利益に対して株価が割安である』といえます。具体的な計算式は次のようになります
PER(株価収益率)=時価総額※÷純利益 (=株価÷1株あたりの利益〈EPS〉)
景気減速は通貨ウォンの重荷にもなりかねない。韓国銀行(中央銀行)は11月、金利を1.75%に
引き上げた。だが今年は方針転換の必要に迫られるかもしれない。そうなれば、より高いリターンを求めて
投資マネーが流出するだろう。最低でも文政権は賃金政策を見直す必要がある。