冷戦後で最大級の軍事演習、ロシアの狙いは
NATOはバルト海に早期警戒管制機を展開
ロシアは14日、冷戦終結以降で最大級の軍事演習を開始した。北大西洋条約機構(NATO)の偵察機1機が監視するなか、
ロシアはベラルーシとの国境まで戦車を進め、数百人の落下傘部隊を降下させた。
演習は今月20日まで続く見通し。これに伴い、ロシアの軍事力増大に懸念を強める欧米との間で緊張感が高まっている。
ロシアが数十億ドルをかけて軍装備を最新化させていることは、シリアやウクライナで明白になりつつある。
「ザーパド(西という意味)」と呼ばれる今回の演習の様子は、ロシアの国営テレビで放映された。ウラジーミル・プーチン大統領は、
西側に対抗するロシアの姿勢を際立たせることで、自らへの支持を高く維持しようとしている。
ロシアは演習の目的について、テロの脅威に対するロシア西部軍管区部隊の対応準備にあるとしている。
だが西側の軍事アナリストは、NATOとの紛争の場合にどう対応できるかを探ることが本当の狙いだと述べている。NATOと米国の
当局者は、偶発的な事態やロシア軍部隊による計算違いの可能性を警告している。
エストニアに本拠を置くシンクタンク「国際防衛研究センター(ICDS)」のスベン・サッコフ所長は、「彼らはテロリスト対策の訓練を
していると言っているが、これがNATOに照準を定めた訓練であることは明らかだ」と話す。エストニアはロシアと国境を接する
バルト3国の1つで、NATOに加盟している。
ザーパド演習は、とりわけバルト3国に懸念を生じさせている。バルト3国の政治的および軍事的な指導者たちは、
ロシアが軍事訓練を利用して、近隣諸国を威嚇する能力を示したり、この地域に配備されている軍事機器の性能を向上させたり
する恐れがあると警告してきた。
NATOは14日、偵察機1機をドイツの基地からラトビアへと飛ばした。偵察機はラトビアのリガ湾上空を3時間以上にわたって飛行。
これは、この地域のNATO加盟国を安堵(あんど)させる目的を持った行動だった。
NATOの早期警戒管制機(Awacs)は、民間ジェット機にパワフルなレーダーを搭載する改修を行ったもので、最大400キロ
離れた航空機を検知できる。つまり、ロシア領内で飛行しているロシア機や、リトアニア、ラトビアないしエストニアの国境に迫りつつ
あるロシア機を検知することが可能だ。実際、NATOが現地に飛ばしたAwacsは今回の演習中、ロシアの偵察機と特定された
航空機1機を上空から監視した。
参加人数は最大10万人か
NATOの発表によると、「バルト領空警備ミッション(BAPM)」は14日、リトアニアとエストニアからスクランブル(緊急発進)を
2回行い、戦闘機と爆撃機など10機以上のロシア機を確認した。ロシア機はバルト海上空の国際空域を飛行して、ロシア本土から
飛び地のカリーニングラードに飛んだという。ロシア機は飛行プランを提示せず、トランスポンダーを使わずに飛んでいたため、
NATO機が正体を確認するため飛び立ったという。
ロシアは、今回の演習には1万2700人の兵士が参加するとしている。しかし、欧米外交関係者は、ロシア側の数字が低めに
報告されていると指摘。同時進行で相互連関した他の演習が数多く実施されることから、実際の人数は総勢7万-10万人に達する
だろうと述べている。
NATO欧州連合軍のジェームズ・エベラード副最高司令官によれば、今回の演習に参加する兵士の数と動員される軍用機器の
種類をロシアは明確にしていない。NATOは、ロシアが西側オブザーバーに演習へのアクセスを十分に認めていないとしている。
エベラード氏は「人々を不安にさせるのは、このような透明性の欠如だ」と語った。
ロシアのインタファクス通信によれば、14日の演習には、仮想敵勢力との戦闘のため、落下傘部隊最大500人が投入された。
またロシア軍は声明で、対空追跡システムをテストするため、空軍が20回以上のフライトを行ったと述べた。
込められたメッセージ
ロシア国防省によれば、主要戦車部隊のひとつがベラルーシに展開するよう最初の命令を受けたのは14日の早い段階だった。
一方、兵たん物資は列車で西方に輸送されたという。
エベラード氏によれば、戦車部隊の展開にはメッセージが込められている。それは第2次世界大戦中にスターリングラード
(現ボルゴグラード)とベルリンでの戦闘に戦車部隊が参加したという歴史的事実だ。同氏はまた、この戦車部隊はロシアの最も
現代的な機材を有しており、最先端の電子戦争能力も備えていると述べた。
「ロシアは自分が何を持っているのか誇示しようとしている」とエベラード氏は語る。「この戦車部隊展開には象徴的意味がある。
そこにはメッセージが存在しているのだ」
NATO当局者は、ロシアが2014年に軍事演習を隠れみのに使ってウクライナに介入したことなどを踏まえ、今回の演習中や
演習後にも警戒を強めることが必要だと述べている。
ロシアへ警戒強めるベラルーシ、合同軍事演習で対立先鋭化
ベラルーシは西側との関係正常化を模索し、ロシアをいら立たせている
2017 年 9 月 20 日 07:22 JST THE WALL STREET JOURNAL By Thomas Grove
旧ソ連のベラルーシはロシアの軍事同盟国だが、ロシアが演習中に一段の兵士を投入しようとしたことに反発している。
今回の演習には、公式には両国軍から1万2700人が参加するとされるが、西側とベラルーシは、ロシア軍から7万〜12万人が
参加していると推測している。演習前には、ロシアが軍事演習を口実に、ベラルーシ内で軍事拠点を常設するのではないかとの
懸念も出ていた。
また通常は演習中に行われる首脳会談も今回は予定されておらず、両国の関係悪化が鮮明となっている。
ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領の報道官は、ルカシェンコ氏はロシアで行われている演習の視察にも呼ばれて
いないと主張。一方、ロシアのウラジミール・プーチン大統領の報道官は、両首脳の間に問題はなく、日程の都合上、会談の場を
設けることができなかったと説明している。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/71/4c/21bbb5d53389f7c97842ece9b8ae6f76.jpg)
背景には、ベラルーシが西側との関係正常化を模索していることがある。「欧州最後の独裁者」と呼ばれるルカシェンコ氏は、
欧州連合(EU)と通商協定の締結を目指し、向こう3年で世界貿易機構(WTO)に加盟したい考えを示している。
ロシア、ベラルーシ両国と国境を接するウクライナでは親ロシア派政権が崩壊、ロシアがその後の2014年にウクライナ南部の
クリミア半島に侵攻・併合した経緯があり、ロシアはベラルーシの西側接近に神経をとがらせている。
軍事力で劣るベラルーシは、ロシアとの合同軍事演習に参加することで、ロシアをなだめすかす狙いがある、とアナリストは
指摘する。プーチン氏はルカシェンコ氏に対し、ベラルーシ内にロシア軍の基地建設を認めるよう圧力をかけているが、
ルカシェンコ氏は度々これを拒否している。
ロシアによるクリミア併合後、北大西洋条約機構(NATO)はバルト海地域に約4000人を配備しており、ロシアにとっては、関係が
悪化する中でもベラルーシの戦略的な重要性が増しているとの事情がある。