ラグビーW杯「世界の終わり」 オールブラックスの敗退に母国衝撃
【10月26日 AFP】26日に行われたラグビーW杯日本大会(Rugby World Cup 2019)の準決勝で
オールブラックス(All Blacks、ニュージーランド代表の愛称)がイングランドに敗れ、W杯3連覇の夢が絶たれたことを
受け、母国ニュージーランドに大きな衝撃が走っている。
現地紙ニュージーランド・ヘラルド(New Zealand Herald)は、「世界の終わり! オールブラックスが驚くべき
パフォーマンスを見せたイングランドに敗れる」と報じた。
横浜国際総合競技場(International Stadium Yokohama)で行われた一戦で、ニュージーランドは
7-19でイングランドに敗れ、2011年大会のトンガ戦から始まったW杯での連勝は18でストップした。
気迫と優れたパフォーマンスを見せたイングランドに対し、オールブラックスは脅威を与えることができず、
元代表SOスティーブン・ドナルド(Stephen Donald)は、後半開始5分で0-10とリードを許していた時点で
不吉な予感がしたという。
2011年のW杯決勝で試合を決めるペナルティーゴールを決めたドナルドは、解説を務めた試合の放送の中で
「ここからひっくり返すには、相当な努力が必要になる」と話していた。
現地紙ニュージーランド・ヘラルド(New Zealand Herald)は敗因を探しながら、スコット・バレット
(Scott Barrett)をブラインドサイドフランカーに起用したのは「ギャンブルの失敗」だったと伝えた。バレットは、
この試合でハーフタイムで下げられている。
一方で、ほとんどのニュージーランドメディアは、イングランドがただ良すぎたと認めている。
ヘラルド紙のコラムニスト、グレガー・ポール(Gregor Paul)氏は、イングランドは「世界最高の攻撃的な
チーム(ニュージーランド)を、だらしがなく、悪いアイデアばかりで自信のない寄せ集め集団」に変えたと評した。
ニュースサイト「stuff.co.nz」のラグビー担当記者マーク・ヒントン(Marc Hinton)氏は、
「ニュージーランドは認めなくてはいけない。イングランドが素晴らしかったと」と述べた。
国営のラジオ・ニュージーランド(Radio New Zealand)は、オールブラックスの3連覇の野望は「力で勝る
イングランドの選手によって打ち砕かれた」と報道。
テレビ・ニュージーランド(Television New Zealand)は、イングランドの「絶え間ない圧力と容赦のないペース」を
敗因に挙げ、地元メディアNewshubは、オールブラックスは「開始直後の一撃に動揺し」、そこから立ち直れなかったと
伝えた。
ラグビーの神・NZをイングランドが圧倒できた理由
2019年10月27日 WEDGEInfinity 大元よしき (ライター)
10月26日ラグビーW杯準決勝が行われ「ニュージーランド7-19イングランド」で2003年以来
2度目の優勝を目指すイングランドが決勝戦へ駒を進めた。
イングランドといえば前元日本代表ヘッドコーチ(HC)として日本のファンにはなじみ深い
エディー・ジョーンズがHCを務める世界ランクランク2位の北半球最強のチームである。
しかし、4年前の前回大会では開催国でありながら予選敗退という悪夢のような屈辱を味わっている。
しかし、エディー・ジョーンズがHCに就任してからは、2年連続(2016、2017)シックスネーションズ
で優勝を果たし、ラグビー母国としてのプライドを取り戻した。
対するニュージーランドはラグビーW杯史上初の3連覇を懸けて本大会に臨む世界ランク1位のチーム。
両チームの通算成績はニュージーランドの33勝7敗1分でイングランドを圧倒している。
エディー・ジョーンズHC率いるイングランドが再び頂点に立つためには、どうしても超えなければ
ならない巨大な壁だった。
闘いは試合前から始まっていた。ニュージーランドの戦いの舞「ハカ」に対してイングランドは
「V字」の隊列で扇状に開き真っ向から対峙したのだ。
ラグビーW杯日本大会・準決勝、イングランド対ニュージーランド。試合前にハカを披露するニュージーランドの選手(2019年10月26日撮影)
「ただ立っているだけで終わらせたくなかった。敬意を表する形にしたいと思っていた」と試合後に
イングランドキャプテン主将のオーウェン・ファレルは語っている。
また、ハードなタックルで存在感を示し続けたフランカーのサム・アンダーヒルは「我々もしっかり
準備ができていることを示す意味があった」と試合後に語っている振り返った。
試合は入りから目まぐるしく動き出した。
イングランドのキックオフをニュージーランドがタッチへ蹴りだし、直後のラインアウトから
イングランドがショートパスで攻め続け、開始から1分40秒でセンターのマヌ・ツイランギが
ニュージーランドのゴールラインを陥れた。
まるでビデオの早回しのような同じ時間軸とは思えないアクションに対し、ニュージーランドは
後手に回った。それはあっという間の出来事で、まさに「間」は「魔」となったのだ。
王者たるニュージーランドは、ボールを保持していない間もおおよそ自分たちのペースで、自分たちの
アクションの中で試合を運んでいることが多い。
しかし、イングランドのアクションの前に攻め崩された形だ。トライの瞬間、スタジアムは沸騰した
かのような歓声に沸いた。
ハカに対抗する陣形といい衝撃的な試合の入りといい、周到に準備されたもののはずだ。機先を制し
王者のメンタルに強烈な一撃を加えたのである。
試合後、エディー・ジョーンズHCは「彼らはラグビーの神だ。その勢いを削がなければいけない」、
また、「ニュージーランドの弱みを突いて我々の戦い方をした」と語っている。
ニュージーランドの焦りは序盤に留まらなかった。16分にはイングランドのペナルティからの
タッチキック、ラインアウトをスティールされ得点チャンスを逸し、30分のスクラムではコラプシング
(反則)を取られて反撃の糸口が作れない。
一方イングランドはオブストラクション(反則)によってトライが認められなかったようなシーンも
含め、目に見える形で流れを掴んでいった。
そして前半終了間際にPG(ペナルティゴール)で3点を加点し「10-0」で折り返した。
「ハーフタイムでは最後の20分をクローズする15人の役割がいかに重要であるか、という話を
しました。最初の20分よりも最後の20分、特にセットプレーが重要だと伝えました」
(エディー・ョーンズ)
後半の主役もイングランドだ。
開始から2分でPGを狙い(不成功)、5分でラインアウトモールからトライ(これはモール内で
ボールを落とし無効)を狙ったが、どちらも得点には繋がらなかったもののイングランド優位の印象を
強くした。その後、8分にPGを決め「13-0」とイングランドの優位は強まったかに見えた。
しかし、16分にイングランドのゴール前でのG前ラインアウトのキャッチミスを突いてニュージー―
ランドのアーディー―・サベアがトライを返し「13-7」。ニュージーランドが逆転のきっかけ
を掴んだかに見えたが、そこまでだった。イングランドは21分と28分にPGを決め「19-7」と
突き放し試合を決めた。
この試合をテリトリーの面から見るとイングランド62%、ニュージーランド38%である。いかに
ニュージーランド陣内で試合は進められたのかわかりやすい。
その点について、ニュージーランドのスクラムハーフ、のアーロンスミスは「相手陣内に行くことが
できなかった。イングランドはディフェンスで非常によいプレッシャーをかけてきた。
特にブレイクダウンで圧力を掛けられ、我々が突破しようとしていたところでターンオーバーをされたり
した。クリティカルな場面ででそういった状況がおきた」と語り、「他の試合ではスムーズにゲーム
プランを執行できたのに今日はイングランドのディフェンスのプランが優れていた」と語っている。
イングランドはフィジカル面でもメンタル面でも早い段階から優位に立つ戦略を立てていた。
それが前半の入りで見せた集中力であり、そこからのトライだ。あの一撃が一試合を通してニュージー
ランドを苦しめ続けたとみていいだろう。
それ以降、高いディフェンスラインを武器に一度も流れを譲ることなくイングランドはニュージー
ランドの攻撃を防ぎ試合の主導権を握り続けた。
ラグビーは15体15でひとつのボールを奪い合う競技だが、心と心の戦いでもある。ゆえにいかに
先に相手の心を攻め崩すか。そこに勝敗のカギが隠されている。
この日、ニュージーランドの反撃の糸口をハードなタックルで芽を摘み続けたサム・アンダーヒルは
「 ニュージーランドは非常に強い選手たちだからですから、最初から仕掛けていかなければ良い終わり
方ができません。途中でスイッチオフするような瞬間があれば強烈なアタックを食ういますので常に
我々は全開でいかなければならなかったりませんでした。それが80分までできたと思っているいます」
と勝因を挙げた振り返っている。
一方、ニュージーランドのスティーブハンセンHCは「イングランドは素晴らしいチームだった。
この試合にエネルギーの全てを費やしてきた。負けを認めるのはつらいが我々は負けを認める。
痛みはあるが恥ずかしさはない。全力を尽くしたが、我々よりも優れたチームに負けただけ。
オールブラックスに後悔はない。今は残念だが、明日の準決勝の敗者と戦うことにエキサイトしたい」
と敗戦を振り返った。
また、キアラン・リード主将キャプテンは「すべてを出し尽くしたが追いつけなかった。我々が
どれだけハードワークしたか見ていただいた通り。選手は全てを出し切ろうと戦った。何が欠掛けて
いるのか今はわからないがこれからも前進していきたい」と語ったている。
またイングランドのエディー・ジョーンズHCは、「相手には2度優勝している素晴らしいコーチがいる。
巧みな試合をしてきたので全力を尽くさなければならなかった。我々は世界最高のチームになろうと
プランを立てて2年半準備してきた。毎日のハードワークとこれまでの準備が習慣化して、この試合に
出すことができた。選手はエネルギーを持って規律を守って最後まで戦ってくれた。
歴史はまだ作られていない。来週の試合が残っている」とすでに頂点への道を見据えていた。
可能な限りの準備を積み重ねるエディー・ジョーンズHC。W杯における勢力図を書き換える準備は
すでに整えていることだろう。