ついに頓挫か、中国人100万人マレーシア移住計画
一帯一路で天に唾した中国、海外に初の“鬼城”を輸出する羽目に
2018.8.31(金) JBPRESS
マレーシア・イスカンダル計画の最大プロジェクト、中国主導の「フォレスト・シティ(中国名:森林都市)」。中国・華人100万人をマレーシアに移民させる一帯一路計画の模範プロジェクトだ。
日本人の「海外不動産投資ブーム」を牽引したのが東南アジアのマレーシアだ。
東日本大震災以降、マレーシア政府は早々に、マレーシアでのロングステイ、セカンドホーム「MM2H」や
コンドミニアム(マンション)購入投資の多様な商品を並べ、ジャパンマネーの取り込みを行った。
特に 、マレーシアでは不動産取得において、最低購入価格制限以外に外資規制がほとんどなく、シンガポールなど
他の東南アジア諸国と比較し、外国人に開放されていて、その結果、MM2Hのビザで永住する日本人も多い。
とりわけ人気だったのが、第2の都市、マレー半島最南端のジョホールバル(ジョホール州首都、最大都市)だった。
温暖な気候に整ったインフラ、英語圏で安価な物価、さらには親日国というのが売りで、投資や資産逃避に加え、
子供の留学の教育移住先としても日本人の受け皿になった。
中でもジョホールバルは、シンガポールに隣接し、香港と隣り合わせの深圳を髣髴させる好立地。
この地に、マレーシアとシンガポールが共同出資する人口300万人を目指す巨大都市開発構想「イスカンダル経済特区」
に伴うコンドミニアムなどの不動産開発ラッシュが起き、日本人の爆買いが注目された。
マレーシアの場合、「プレビルド」という、数年後に完成予定の物件を更地の状態のときに予約購入する
不動産購入方式が主流。
しかし、供給過剰で大量に建設された結果、完成したものの住むこともままならない状態に陥っている。
商業施設も住民が少なく、続々と撤退した。
「売れない、貸せない」状況が発生し、空き家だらけで、未来開発都市・ジョホールバルは「廃虚化したマンション
都市」との汚名が着せられる不測の事態となった。
そんな辛酸を嘗めた日本人バイヤーが淘汰される一方で、地元不動産を爆買いし始めたのが、急速な経済成長で
中間富裕層拡大の中国からの華人だった。
彼らの不動産購入・投資先は、イスカンダル計画の目玉で70万人の居住区構想である最大プロジェクト
「フォレスト・シティ」(中国名:森林都市)。
しかし、彼らの目的は日本人と違った。
彼らは、不動産取得を通じ、「マレーシアの長期ビザ、ひいては永住権、市民権を獲得するのが目的だったからだ」
(マレーシア政府関係者)。
中国の不動産が高騰する一方で同物件価格は北京の4分の1ほどの値段だ。さらに子供の英語教育の機会を模索する
だけでなく、両親なども呼び寄せて、第三国の永住権を家族全員が取得可能な道しるべを作る狙いがある。
要するに、不動産購入は中国人にとって「海外逃避のための手段」に過ぎないのである。
最長10年(更新可能)のビザ取得が可能なマレーシアのセカンドホームプログラム(MM2H)利用でも、
2002年の開始後、中国人が最も多くなっている事情がこうした背景にある。
例えば、フォレスト・シティに関しても購買者の8割から9割が中国からの華人だ。
結果、将来的にはフォレスト・シティは「華人によって文字通り、空室だらけで人が住まない“森林”になるだろう」
(シンガポールの不動産関係者)と揶揄され始めていた。
そんな中、マレーシア国内での“華人共和国”建設の動きに当初から反対を表明したのがマハティール元首相(当時)
だった。
「マレーシアの広大な土地が外国に占拠されてしまう。外国による領土化だ。マレーシアは大国の植民地ではない」
そう言って、5月の総選挙で野党を率い、選挙公約に「フォレスト・シティなどの中国資本による巨大開発事業の
(凍結を含む)見直し」をかかげた。
中国政府と蜜月だったナジブ前政権の腐敗、癒着の象徴として同事業を挙げ、国民の賛同を得て61年ぶり初の
政権交代を果たした。6月に首相再登板後、初の外遊先の日本で20年ぶりとなった日本記者クラブでの会見でも、
次のようにフォレスト・シティに関する筆者の質問に厳しい姿勢で臨むことを表明していた。
「米国でもメキシコからの移民を排除しようとしている。外国人居住地を認める国はない。入国を拒否する
権利がある。このまま、計画が進めば、政府として対抗策を講じる」
その選挙公約に沿って8月27日、マハティール首相は「フォレスト・シティの外国人不動産販売を中止し、
ビザも市民権も与えない」と都市計画のイベントで発言。
欧米批判で知られるマハティール首相の”差別的発言”と言葉尻だけをとらえてロイター通信など海外メディアが
伝えたが、28日、首相府は我々メディアに声明を送付。
「外国人の不動産取得はマレーシアの規定や法の下、認められるが、不動産取得は市民権(あるいは永住権)を
同時に授与されるものではない」と発表。
マハティール首相の懸念は、不動産取得そのものではなく、森林都市計画という名の下の中国によるマレーシアの
領土化、中国人“大量移民”の居住区設置計画なのだと、マハティール首相の“独特の”レトリックを噛み砕いて
補足説明した。
その上で、ナジブ政権時代、中国側との“密約”で、中国人の不動産売買でビザや市民権が贈与されるといった
影の条件を否定した。
同時に、フォレスト・シティに関しては、特別委員会を設置し、関係省庁や中国などの不動産開発業者などから
聴取を行い、不動産の取得条件など合意内容の再審査や見直しを実施することも明らかにした。
フォレスト・シティ計画は、ジョホール州南部の海域(ジョホールバルとシンガポールを結ぶセカンドリンク付近)を
埋め立て、4つの人工島を建設する世界最大級の大規模総合開発だ。
2016年3月に起工式を行い、完成は2035年を目指す。総事業費約1000億ドル(約11兆1300億円)を投じ、
東京ドームが300個入るという、約14万平方キロメートルの全敷地に、住宅、別荘、ホテルなどの商業施設、
学校、病院などを建設予定だ。
同プロジェクトは、中国第3位の大手不動産開発会社で香港株式上場企業の「碧桂園」(カントリー・ガーデン・
ホールディングス)とジョホール州政府子会社クンプラン・プラサラナ・ラクヤット・ジョホールによる合弁会社が
手がける。
同州企業はジョホール州スルタン(州王)が最大株主で、実質、中国とジョホール州王室とのジョイントベンチャーだ。
同州は、シンガポールを領土としてかつて保有し、国内の州の中でも莫大な資産、資本を抱え、州政府の中で唯一、
州軍も所有する”独立色”の強い州でも知られる。
さらに、同州の権益はスルタンが所有し、大型投資などの案件許諾も独占して握っている。
王室の権限を縮小したいマハティール首相と王室統治の「ジョホール州・ファースト」を提唱する同州スルタンとは、
長年の因縁の間柄。また、スルタンはナジブ前首相と懇意の仲だ。
同プロジェクト中止を目指すマハティール首相の狙いは、憲法上、国の統治者となっているこうした王室絶対主義の
修正への民主化加速への狙いも影にはある。
一方、中止した東海岸鉄道プロジェクトとともに、フォレスト・シティ計画は、習近平政権が進める「一帯一路」に
関連する中国の大手企業による開発だ。
2016年3月の同計画起工式後の同年末発行の「瞭望週刊」(新華社発行)では、中国政府の幹部が同計画は
一帯一路戦略の「模範的プロジェクト」と絶賛。碧桂園集団の朱剣敏副総裁も「一帯一路戦略上の計画」と公言した。
碧桂園は、年商1500億元(約2兆5500億円)、社員約10万人の中国を代表する企業で、中国政府の
バックアップのもと、森林都市計画が進められており、中国からの大量移民による「植民地100万都市構想」で
中国人を100万人、マレーシアに定住させる思惑が根底にあるといわれている。
しかし、この1000億ドル計画も、中国政府が昨年、不動産投資目的の海外への外貨送金を禁止したため
頓挫するのでは、とささやかれ始めている。
中国人のフォレスト不動産購入者は、手付金は支払ったものの、購入資金の送金がその後できなくなり、しかも、
購入を断念するとペナルティーとして、「購入価格の30%」を開発業者の碧桂園に支払うことが義務付けられており、
契約解除で支払済みの預託金の返済を求めることすら、困難になっているという。
そのような状況下で、一部完成しているフォレストの高級マンションは、買い手があっても誰も住まず、よって
商業施設もオープンしない悪循環に苛まれているという。
中国国内には、完成しても人が住めない「鬼城(ゴーストタウン)」が散在して社会問題に発展している。
このままいけば、森林都市計画は、海外での中国「鬼城」が“輸出”された初のケースになる可能性も出てきている。
一方、中国の華人にとっては、独裁国家の中国ではあり得ない民主選挙で選ばれた政権交代で、政策が180度転換し、
中国による投資がマレーシアでは歓迎されない予想外の結果に戸惑っている。
皮肉にも、自らの行いが中国への反発を呼び、マレーシアでの政権交代を実現させたと痛感しているだろう。
シニカルなレトリックを好むマハティール首相は「フォレストシティは、本当の意味で森になるだろう。なぜなら、
そこの住民はサルとヒヒ(汚い醜い人)で十分だからだ」と述べた。
中国の植民地計画は醜い、そう一刀両断する小国の老練宰相が大国を戒めるときが再び、来るだろう。
マレーシア、マハティール首相が都市開発の外国人物件購入を禁止 狙いは中国人投資家排除?