アメリカ流「餃子の作り方」に物申す⁉
<食専門の人気テレビ局がFacebookに投稿した「餃子の作り方」動画が、あまりにもヒドい! 案の定コメント欄は炎上しているが......>
最近、日本では「餃子ブーム」が起きていると聞く。一方、和食人気に沸くここニューヨークでは「日本の餃子」は今もスシやラーメンのような市民権を獲得しておらず、日系ラーメン店のサイドメニューか、IZAKAYA(居酒屋)にある一皿という扱いだ。ニューヨーカーにとって、餃子は小籠包を含む「ダンプリング」カテゴリーの一種であり、まだまだ中華料理なのだろう。
餃子の街・宇都宮出身の私としては寂しい限り。何とかして餃子を「和食」として認知させたいと意気込んでいたところ、先日驚くべきニュースが飛び込んできた。
朝起きてFacebookを開くと、料理番組でアメリカ人女性が「餃子の作り方」を教えている。アメリカ人も餃子を作るようになったのか、と驚いたのも束の間、観ていてギョッとした。「ポーク・ダンプリング」として紹介されているのは、今まで見たこともない餃子だったからだ。
https://www.facebook.com/FoodNetwork/videos/10154234912496727/
動画を提供しているのは、アメリカ版『料理の鉄人』を放送したこともある食専門の人気テレビ局「フード・ネットワーク」。真っ赤なマニキュアをした女性がキャベツや白菜、ニラを入れない代わりに細ネギを千切りにして炒め、豚挽肉にまさかの卵を投入。オイスターソースではなく甘味噌である海鮮醤を垂らしている......。この動画が、アップされてから1日で200万回以上も再生されていた。
FacebookやTwitterなどのソーシャルメディアで「フェイクニュース」が拡散し、受け手それぞれに「ファクトチェック(事実確認)」をする姿勢が求められるなか、この餃子動画に思わず「フェイク餃子に気を付けて!」と言いたくなった。
人々の情報ソースとして、ここ数年で特に成長しているのがソーシャルメディア上に流れる「動画」だが、そのうち動物と料理を取り上げたものは多くのオーディエンスを獲得するキラーコンテンツの代表格。Facebookの動画再生回数は1日に80億回を超えるというから、この餃子動画も世界中に拡散されているに違いない。
フード・ネットワーク局にフェイクニュースの意図はないにしても、これを餃子と紹介するのはいかがなものか――。そう思っていたところ、案の定Facebookのコメント欄が炎上していた。
中国系とみられる人たちからの批判的なコメントが多いなか、なかには「これは彼女流のポーク・ダンプリングの作り方だ。これが正真正銘の中華ダンプリングとは言っていない。怒るほどのことではない」といったコメントも。
確かに、ネット上にこれだけ「我流」レシピが氾濫しているのを見ると、全ての人が「正統なレシピ」を求めているとは限らないし、そもそもアレンジしたらフェイクなのか、という疑問もある。「味の好みは人それぞれだ。彼女は彼女のレシピを使っただけで、それを美味しいと思うのであればいいじゃないか」というコメントも腑に落ちた。料理レシピに限っては、「フェイク」という概念は当てはまらないということなのか。
日中「餃子」戦争の勃発に備えて
ニューヨークに来たばかりの頃はおよそ「和食」とは呼びたくない代物を出す「ジャパニーズレストラン」に目くじらを立てていたこともあったが、そうした和食を美味しいと慣れ親しんだ人たちが、いつか「本場の和食を食べたい」と日本を目指してくれればいいのかもしれない。
最近もイタリア系アメリカ人から「ニューヨークはピザが有名だが、あんなものはピザではない」と聞いて笑ったのだが、一方でイタリアには「本場のピザ」があるという言い方はできたとしても、これは「本物」のピザ、こちらは「偽物」という線引きは難しいだろう。
それを言ってしまうと、日本で食べるピザやニューヨークのデリでサンドイッチのように売られているスシなど、ご当地バージョンに姿を変えたものはすべて偽物になってしまう。もっと言えば、本場の味を追求できるかどうかは場所に限らず、店であれ家庭であれ、作り手の腕次第だ。
アメリカ人の間で餃子ブームが起きたとき、彼らが「本場」として目指すのは中国なのか日本なのか。今はアメリカ流の餃子に物申すよりも、餃子戦争が勃発したときに備えて日本の餃子の魅力を伝えるほうに専念したほうがいいのかもしれない。
先日、ニューヨークで大人気の日本人シェフ・萩原好司さん(居酒屋「六ツ木」料理長で、専門は中華料理)に絶品餃子の作り方を伝授してもらったので、次のページで紹介します。餃子好きの皆さん、外国人に美味しい餃子をたらふく振舞って、「本場は日本だ」と言い張りましょう。
萩原好司さん流「焼き餃子」の作り方
材料(約60個分)
〇キャベツ 大 1/4個
〇ニラ 1束
〇豚挽き肉 450g(1ポンド)
〇生姜 1かけ
〇春雨 1/2パック
〇白胡椒 大さじ 1/4
〇塩 小さじ 1/4
〇オイスターソース 大さじ1
〇ごま油 大さじ 1と1/4
<焼くとき>
〇ごま油 適量
〇水 適量
〇小麦粉 適量
<作り方>
1)豚ひき肉と皮は冷蔵庫から出して、常温に戻しておく。
2)キャベツを微塵切りにして塩をふり、両手で掴んで絞るようにしてもむ。水を出し切ったら、水を出したボールにそのまま入れて置いておく。
*ポイント:水分(アク)を全て出しきるまで、強くもむ。
3)豚挽き肉をボールに入れて手でこねる。脂の白い部分がなくなって、赤身と混ざってピンク色になればOK。
4)春雨をお湯で戻し、1センチ幅に切る。生姜を微塵切りにする。
*ポイント:生姜はおろすのではなく、微塵切りにする。萩原流にはニンニクは入らないが、入れたい場合は生姜の1/5の量をお好みで。
5)3)に春雨と生姜を入れて混ぜる。さらに白胡椒、塩、ごま油、オイスターソースを入れて、手でよくこねる。
6)水切りしたキャベツを再び固く絞ってから5)のボールに入れ、こねるようにして混ぜる。
7)ニラを1ミリ幅の千切りにして、6)に入れて混ぜる。
*ポイント:ニラから水分が出るのを避けるため、ニラは最後に入れる。
8)7)で出来たタネを餃子の皮で包む。
*ポイント:タネは冷蔵庫で少し寝かせておいたほうが、固くなって包みやすい。
9)フライパンを強火で熱してから、ごま油を2ミリくらい加える。餃子を丸く並べてから、すぐに小麦粉を溶いた水を回しかけて蓋をする。水の量は、餃子の頭が少し出るくらいまでたっぷり入れる。水400ccに対して小麦粉大さじ1が目安。
10)5~10分くらい、強火のまま蒸し焼きにする。もう少しで水がなくなりそう、というタイミングで蓋を取り、ごま油を餃子の上からすべての餃子に行き渡るように回しかける。水が飛んで餃子の周りに羽根が出来たら、火を止める。
11)餃子を羽根ごとヘラではがし、ひっくり返すようにして皿に乗せて、出来上がり!
萩原好司シェフ:昨年末までニューヨークで行列のできる大人気もつ鍋店「博多トントン」で8年間料理長を務め、今月初めには鉄板焼きのベニハナの青木恵子CEOとタッグを組んでマンハッタンに居酒屋「六ツ木(ROKI)」をオープン。六ツ木では、特製「鉄板焼き棒餃子」「蒸し餃子」「茹で餃子」の3種類を提供中。
本場中国の餃子は肉が中心でニンニクも入りません。
日本の餃子は日本独自のレシピで中国のものとは別物と考えていいと思います。
日本の餃子は肉に対して野菜が多いのが好まれますね。
肉は野菜をつなぐ為に入れる感じでしょうか。日本の餃子餡も味を追求して切磋琢磨してます。
名人の萩原氏は米国人好みに合わせ日本の特徴もいれての結果、肉が多いのでしょう。
インチキ和食屋に感謝せよ
「こんな店が『ジャパニーズレストラン』を名乗るなんて!」
1年前、ニューヨーク支局に赴任したての頃の私は店名に「ジャパニーズレストラン」や「スシ」と掲げながら日本ではまずお目にかかれ
ない代物を出す「エセ和食屋」に腹を立ててばかりいた。
ニューヨークの和食ブームは引き続き飛ぶ鳥を落とす勢いで、道を歩けば和食屋に当たる。だがそのうち日本人が経営するなどの日
系店となると数は絞られ、通りがかりのジャパニーズレストランに入ると中国人や韓国人が経営するアジア系の「なんちゃって」だったと
いうことが少なくない(日系かどうかを見分けるポイントの1つは味噌汁で、「れんげ」が入って運ばれてきたときは大抵アウト。「ミソスー
プ」という感覚だとれんげが入る)。
日系でなくても、(サービスに関しては百歩譲るとして)味が良ければ文句は言わない。だがこうしたエセ和食屋で出てくる料理は、少な
くとも日本で出したら突っ込みどころが満載ということがほとんどだ。例えば、ニューヨークの和食屋ランチメニューにお馴染みの「照り
焼きサーモン」弁当ボックス。日本で言うところの「塩鮭定食」的な位置付けだが、ほとんどの店で付け合せとして出てくる焼売や餃子は
冷凍食品をチンしただけだし(冷たいこともある)、カリフォルニアロールの中身はカニカマ、アボカド、キュウリと海苔だけ。一度照り焼
きサーモンが生焼けだったことがあり店員にその旨伝えたら、数分後に熱々になったお皿が運ばれてきた。サーモンは先ほど手を付
けたままの形だし皿の上のわさびがカピカピになっているところを見ると、皿ごと電子レンジで温めたのが一目瞭然。日本ではなかなか
出来ない体験に、これはもう笑うしかなかった。
そのため1年前の自分だったら、このほど発表された「和食がユネスコの無形文化遺産に登録される見通し」というニュースを「エセ和
食ではなく本物の和食を世界に伝えるチャンス」と受け止めたかもしれない。要はかつて、海外で出回るエセ和食を憂いた農林水産省
がまっとうな日本食レストランを「正しい和食」と認証する制度を構想したのと同じ発想だ。裏を返せば海外の「なんちゃって和食屋」を
あぶり出すことになるこの制度は欧米メディアから「寿司ポリス」と大バッシングを受けて頓挫したが、当時の政府も1年前の自分も、根
底にあったのは「本物の和食以外は迷惑」という幾分排他的な発想だったと思われる。
だが半年前、ニューヨークに海苔を卸している日本食材メーカーの駐在員さんの言葉を聞いてその発想が変わった。私が寿司ポリスさ
ながらに「日本に行ったことのない人がエセ和食屋でお寿司を食べて『アイラブスシー!』とか言っているのは本当に残念。エセ和食に
憤慨することはありませんか」と聞くと、「いやー、そういうお店のおかげで僕らは儲けさせてもらってますから」と一笑に付されてしまっ
た。和食ブームで日本食材メーカーが儲かるのは分かるが、そのブームを下支えしているのは実は乱立するエセ和食屋のほうかもし
れないというのは盲点だった。ニューヨーカーの中には、日本人経営の高級寿司屋に行ったことがなくても週1回は街角のデリでランチ
に寿司を買う、という人も少なくない。何であれ和食的な物が売れれば日本食材メーカーが儲かる――私が初めてエセ和食屋に感謝し
た瞬間だった。
06年の寿司ポリス騒動から7年、インチキ和食を敵視していた農林水産省もその存在価値を認め始めたのだろうか。政府は和食のユ
ネスコ無形文化遺産への登録をきっかけに海外における和食ブームを後押しし、日本食材の輸出を拡大する構えだという。和食を日
本の輸出産業として売り込もうというわけだが、輸出先として数では日系店より圧倒的に多いエセ和食屋は大口のお客様に他ならな
い。そもそも和食をユネスコ無形文化遺産登録に申請したきっかけは国内における日本人の和食離れであり、海外のブームにあや
かって逆に危機に瀕した国内の和食を救おうというのだから、かつて寿司ポリスが取り締まろうとした和食屋にはますます頭が上がら
ない。
■「なんちゃって」が身近なきっかけに
とはいえ気になるのは、「何をもって和食と言うか」「日本が世界に売り込みたい和食とは何か」という点だ。
ユネスコに無形文化遺産登録されるのは「和食 日本人の伝統的な食文化」であり、ここでいう「和食」とは一汁三菜を基本的献立とす
るような日本の家庭料理だという。一方で日本で見かける「和食」と言ったらコンビニでも買えるカツ丼、そば、おでんなどから料亭で出
される高級懐石、さらにはルーツを海外にもつラーメンやカレーライスまでさまざまだ。ユネスコの定義に透けて見えるのは日本で廃れ
つつある「古き良き和食」を復興させようという伝統回帰だが、この限定的な定義を輸出産業としての「和食」にまで当てはめてしまうと
海外で和食への門戸を狭めることになりかねない。
例えばニューヨークで数年前から大人気の「和食」と言えばラーメンだが、ブームの火付け役となった「モモフク・ヌードル・バー」のシェフ
は韓国系アメリカ人だ。一部の日本人からはモモフクのラーメンは「異国風」だという辛口な声も聞かれるが、この店が外国人の間で人
気になったことがきっかけで「日本のラーメン」に光が当たったこともまた事実。ではラーメンは本当に「和食」かと言えば起源は中国だ
が、日本人の中で「本物のラーメンを食べたい」と言っ て中国を目指す人はほとんどいないだろう。ラーメンはそれほど日本の食文化
に深く根を下ろしているし、外国人のラーメンファンも「本物のラーメンは日本にあり」と思っている。ここではむしろ、「本物か」よりも「本
場か」どうかという議論のほうがしっくり来るのかもしれない。
日本政府観光局(JNTO)によれば外国人観光客が「訪日前に期待すること」の1位は「食事」だというが、この大部分の人にとって和
食との出会いがエセ和食屋だったとしても、日本の中にもイタリア人が食べたら怒りそうなピザ屋やパスタ屋があったり、そうしたピザ
や美味しいパスタを食べた日本人がいつか「本物」を食べたいとイタリアに行くように、「なんちゃって」がきっかけになればそれでいいの
かもしれない。海外の「本物」の和食屋は日本の高級フレンチさながらに高額ゆえ、身近なきっかけになりにくいのに対してエセ和食屋
は価格帯もお味に見合ったチープさのためより敷居の低い入口となり得る。(ちなみにニューヨークの日本人の間ではエセ和食屋より
も、高いくせに味は普通といった日系のぼったくり和食屋に対する風当たりのほうが強い)
そう考えると、ニューヨークではスシが日本でいうサンドイッチのように市民権を得、形を変えて人々の日常に溶け込んでいる様を見る
のも悪くない。あとで知ったことだが実はアメリカ発祥の元祖カリフォルニアロールはカニカマ、アボカド、キュウリと海苔だけが主流だと
いうから、私が日本で食べていた「サーモン入り」などのほうが日本でアレンジされた「エセ」だった。元祖カリフォルニアロールは生魚に
抵抗がある外国人向けに考案されたことを考えると日本のサーモン入りは反則に等しいが、ご当地ウケを狙っての創意工夫だからそ
こはご愛嬌だろう。
和食が国境を越えて進化しすそ野を広げることは、歓迎こそすれ憂うべきではない。外国人が発見した和食の新たな魅力を、日本に
持ち帰って再発見するのもいいだろう。既に政府は世界各地で日本食セミナーを行うなど積極的な和食輸出に乗り出しているが、こう
した動きが日本から外国へという一方的なものに留まらず、未来のカリフォルニアロールを生む双方的な「和食交流」になることを期待
したい。もちろん本音を言えば、海外に巣立った和食には味や質を落とさずに成長してほしいというのが親心なのだが。