中国が喜ぶ反米フィリピン大統領
「雲が晴れつつある」と中国大使、脅かされる米国の同盟システム
2016 年 10 月 5 日 11:09 JST THE WALL STREET JOURNAL
ベトナム戦争を除き、東アジアにおける米国の同盟システムは半世紀余りにわたって平和の維持に役立ってきた。
それが今、やっかいな状況に陥っている。フィリピンのドゥテルテ大統領による無礼な中傷は、たちまち米国に対する広範で明確な敵意へと膨らんでいった。この変化は米政府にとって重要なアジアの同盟関係の一つを脅かすものであり、オバマ大統領がアジアに「軸足」を置くとした目玉政策を後退させるものでもある。
ドゥテルテ大統領の前任者たちと長らく衝突してきた中国は、フィリピンと米国の関係が冷えつつあることに歓喜している。
「雲が晴れつつある」。駐マニラ中国大使の趙建華氏は中国の国慶節(10月1日)の式典でこう述べた。「太陽が地平線から昇りつつあり、二国間関係の新たな章を美しく照らすだろう」
オバマ氏への罵倒が発端
当初は単なる腹立ち紛れの発言に見えた。1カ月前、ドゥテルテ大統領はオバマ米大統領のことを「売春婦の息子」と罵倒した。数千人に及ぶ死者を出しているドゥテルテ大統領の麻薬撲滅対策をオバマ大統領が批判したことに対する反応だったからだ。ところが、ドゥテルテ氏の怒りはたちまち激化した。
数日後、ドゥテルテ氏は紛争地帯のミンダナオ島南部に駐留する米軍顧問の撤退を求めた。さらにその後、大統領は米国への軍事的な依存をやめ、中国やロシアのサプライヤーから軍事・防衛装備を購入することを宣言。今月中にフィリピンの財界代表団を引き連れて自ら中国を訪問する。
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そして先週、ドゥテルテ大統領は中国への挑発にならないよう米軍との合同海軍演習を中止すると発表した。4日から始まった合同練習が表向きは最後ということになる。
ドゥテルテ大統領の感情の爆発は、世界における米国の役割に対して疑念が生じているなかで出てきた。共和党大統領候補のドナルド・トランプ氏は同盟関係が米国にとって悪い取り決めになっていると考えている。こうした取り決めは基本的に、自国の防衛費を十分に負担できるほど裕福な国に対する慈善活動の形になっている、というのが同氏の主張だ。
同じ意見の米国人が多いように見える。2013年に米世論調査機関ピュー・リサーチ・センターが実施した調査によると、「米国は自国のことに専念すべきだ」と思うかとの設問に対し、回答者の52%が「イエス」と答えた。
ダートマス大学のスティーブン・G・ブルックス氏とウィリアム・C・ウォルフォース氏は近著「America Abroad: the United States’ Global Role in the 21st Century(仮訳:21世紀における米国のグローバルな役割)」の中で、米国の大きな戦略について論じている学者の「圧倒的多数」は米国が後退すべき時が来たとみていると指摘。著者らは反論し、米国のそうした姿勢が軍拡競争と核の拡散につながると論じている。
ドゥテルテ大統領はさらに踏み込み、フィリピンの軍事基地の利用を米軍に認めている両国の合意を見直そうとしている。節目となったこの2014年の合意は、フィリピンが1990年代前半に米軍を撤退させているだけに胸を揺さぶるものだった。「米国が戻ってきた」という力強いメッセージを発した。
具体的に言えば、米国は東南アジアに戻ってきた。アジアに「軸足(ピボット)」を置くというワシントンの戦略は、台頭しつつある中国への対抗が狙いだった。米海軍第7艦隊が拠点を置く日本、あるいは米兵2万8500人が駐留する韓国に対する米国のコミットメントについては疑いの余地がほとんどなかった。ところが東南アジア諸国は、急速に拡大する中国の軍事力を目の当たりにし、米国から無視されていると感じていた。
オバマ大統領は外交上の安心感と軍事上の支援を提供した。南シナ海で領有権を主張する国のなかで唯一、米国の同盟国であるフィリピンに対しては、米沿岸警備隊の退役したカッター船やレーダーをはじめとする防衛装備を供与した。海洋での石油掘削や漁業権を巡って中国と衝突しているベトナムに対しては、兵器の輸出制限を緩和した。ミャンマーの民主化へ向けた動きもオバマ大統領は後押しした。同国は事実上、中国の得意先である。
南シナ海裁判への快い報復
ドゥテルテ大統領は独自の外交政策を推し進めるとしているものの、一方で米国との同盟関係を依然として支持している。だが彼の扇動的な発言はまるで友情を壊そうとしているかのようだ。先週は奇怪な論法でヒトラーを引き合いに出し、自身の麻薬撲滅運動をホロコーストになぞらえて正当化した。
中国にとって、ドゥテルテ大統領の転身は快い報復だ。オランダ・ハーグの仲裁裁判所に彼の前任者が申し立てていた仲裁手続きで、同裁判所は今年、南シナ海のほぼ全域に領有権があるとする中国の主張を退けた。この屈辱的な判断に対する報復といえる。
中国の外交官はフィリピンを、中国に服従すべきアジア諸国の中で最も反抗的な国と捉えていた。
米国防総省は危機感を抱いているかもしれないが、表面上はそうは見えない。フィリピンの国民や軍事関係者の間では米国との同盟関係を支持する割合が高い。中国のために米国を捨てるのはドゥテルテ大統領にとって政治的にリスクがあるだろう。カーター米国防長官は先週、海軍兵士に向かってフィリピンとの同盟関係は「鉄壁」だと言った。
一方で中国は威嚇の新たな標的を見つけた。シンガポールだ。米国の同盟国ではないものの米国の軍艦や偵察機が配備されている。
中国共産党系の英字紙「グローバル・タイムズ(環球時報)」は最近、シンガポールに狙いを定めた。ベネズエラで開催された非同盟諸国首脳会議の公式声明に南シナ海に関する厳しい文言を盛り込むよう試みたとしてシンガポールを非難したのだ。これを受けて駐中国シンガポール公使は「作り話が満載の無責任な報道」と述べ、公に同紙を批判するという異例の行動をとった。
中国からはこうした圧力が今後も続くだろう。ドゥテルテ大統領の地政学的な方向転換から中国が導き出した重要な教訓とは何か。それは、この地域の米国の友好国や同盟国をしつこく攻撃し続ければ、最終的に報われるということだ。
ドゥテルテ大統領の100日
米国との関係をかなり危うくしてます。
米国、中国ともに上の立場にたって上手く操つりたいのでしょうけど、この大国を侮っては
大きな火傷をするのではないでしょうか。
米国は事件をでっち上げるのが得意ですから、罠にハメられるかもしれまっせんよ。
訪日の予定がありますが、安倍首相はどう対応するのでしょう。
いつもお読み頂きましてありがとうございます。