トランプ氏が対北圧力で突く中国の泣き所
カギを握るのは地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)だ
――筆者のジェラルド・F・サイブはWSJチーフコメンテーター
***
北朝鮮の核・ミサイル計画を巡る国際社会の緊張は高まる一方だが、カギは「中国が北朝鮮への圧力強化に向けて
本気で米国と協力する気なのか」ということだ。
ドナルド・トランプ米大統領は、先週ホワイトハウスでウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のインタビューに応じた
際、警戒しながらも答えが「イエス」だと楽観している様子を見せた。中国が少なくとも経済的に北朝鮮を圧迫し始めてい
る兆しはあると述べていた。そして16日にはトランプ氏らしいツイートで、その楽観的な見方を改めて示した。
だが、中国が北朝鮮封じ込めに向けて本気で米国の新大統領と協力する意向なのかどうかをうかがい知る方法は現
実にある。「韓国への新型ミサイル防衛システム配備に反対しなくなるか」ということだ。
この点で中国はまだ態度を変えていない。北朝鮮が開発段階のミサイルを披露した挑発的なパレードから2日後、そし
てミサイル発射に失敗してからわずか数時間後の17日、中国外務省は、米国製ミサイル防衛システムの韓国配備に反
対していることを改めて示した。
この表明は残念ではあるが、おそらく想定の範囲内だ。中国側の対応は、米中間には北朝鮮の脅威に対する見解の
相違が依然残っていることを示すものだ。それによって北朝鮮に対する有効な国際的圧力をかける動きは阻害されかね
ない。
問題になっているのは地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)だ。
昨年半ば(つまりバラク・オバマ氏がまだ大統領で、北朝鮮の直近の挑発行為が始まるかなり前)に、米国と韓国は北
朝鮮抑止策としてTHAAD配備を決めた。米国防総省は「防衛手段」として在韓米軍がTHAADを運用すると述べてい
た。
一方、韓国を訪問中のマイク・ペンス米副大統領は17日、米国が引き続きTHAAD配備を目指す計画を改めて示し
た。韓国大統領代行の黄教安首相にも同様の意向がうかがえた。韓国政府は朴槿恵(パク・クネ)前大統領の収賄疑惑
などで流動的な状況にあるが、黄氏は「早期の配備と稼働」を呼びかけ、中国の「不当な行為」を終わらせるために米国
の力を借りる意向を示すなど、THAADについて決然とした態度を見せた。
ここで「不当な行為」とは、THAAD受け入れを決めた韓国に対して中国が経済的な報復措置に乗り出したことを指す。
北朝鮮問題は中国も差し迫った地域的脅威だとみなしている。その脅威に対する自衛策を講じた韓国を責める中国の
行為が非論理的に映るなら、実際その通りだ。
北朝鮮 キム主席生誕105年で軍事パレード
確かに概ね非論理的ではある。ただ中国側の視点に立つと、THAADは単に韓国を守る防衛システムではない。
THAADのポイントは発射されたミサイルを探知・追跡する高度なレーダーシステムであることだ。中国は米軍が中国と
対立することがあれば、中国のミサイル追跡・制圧にTHAADを使いかねないと懸念している。中国の戦略的思想は数カ
月ないし数年単位ではなく数十年単位でものをみていることから、そうした懸念は意外ではない。
それでもなお、今回の中国の対応は、長期的には賢明だが短期的には愚策に映る。北朝鮮が核弾頭を搭載したミサ
イルの準備を整え、近隣国に加えて米国を射程圏内に収めるとの観測は、中国周辺の安定にとってずっと現実的で差し
迫った危険だ。米中が全面的な軍事対立に至る可能性どころではない。
北朝鮮の核は、実際に使える核爆発装置を手にしている意味で既に取り返しのつかない状況にある。いま必要なのは
その脅威を抑え、可能であれば北朝鮮を逆戻りさせることだ。単なる核装置から核兵器に至る工程を完了させないス
ピードが求められる。
それには、この工程を続けることで支払う代償は、それによって得られる戦略的優位を上回ると北朝鮮に分からせるこ
とが必要になる。ここでカギになるのが中国からの経済的圧力の強化だ。この戦略にはいずれ(今はその時ではないよ
うだ)、北朝鮮が引き返したくなった場合に面目を保ちながら脱出するルートを提供する外交術が求められそうだ。
だが一連の戦略には、北朝鮮の新たな武器のおもちゃには最高指導者の金正恩(キム・ジョンウン)氏が期待するよう
な威力はないと同国民を納得させる過程も必要になる。そこがTHAADの出番であり、中国が依然立ちふさがっている場
所でもある。