ガーナの首都アクラ郊外にあるスラム、アゴグブロシは電子機器の墓場だ。パソコンのマザーボード、モニター、ハードディスクなどが燃やさ
れ、黒煙と悪臭が一帯を覆う。住民が、聖書に出てくる火で滅ぼされた都市にちなんで「ソドムとゴモラ」と呼ぶのも納得できる。
絶望的な景色の裏には皮肉がある。過去数十年の間、欧米諸国は西アフリカの途上国を支援する目的で次々とパソコンを寄付したが、結局
それが逆効果になった。寄付の名目で、欧米で要らなくなった電子機器の廃棄物がどんどん送られるようになり、村々には壊れて使いものにな
らない廃棄物があふれ返った。多くの地域がそうした廃棄物のごみ箱と化した。貧しい人々は廃棄物を燃やし、そこから出る有害物質にさらさ
れながらも銅など金属を抽出する「宝探し」を行う。
国連環境計画の試算によれば、毎年5000万トン以上の電化製品が廃棄処分になっている。しかし、例えばヨーロッパだけを見ても、こうした
廃棄物のうちリサイクルされるのは25%にすぎない。廃棄物の処理については各国政府が規制を行っているが、寄付だと規制の対象になりに
くいという現実がある。業者にとって寄付が手っ取り早い廃棄手段になっている。ただ、被害を受けているのはガーナの人たちばかりではない。
米国務省は、ガーナに行き着いたパソコンのハードディスクから個人情報を盗む犯罪が横行していると報告している。そうした犯罪によって結
局、欧米諸国の人々も被害者となっている。
南アフリカ生まれの写真家ピーター・ヒューゴは、1年近くかけて「デジタル災害」の現場を記録した。彼の作品は、人類をさらに賢く、速く変化
させた情報技術革命の負の側面を生々しく描き出している。
ピーター・ヒューゴの写真(PHOTOGRAPHS BY PIETER HUGO--YOSSI MILO GALLERY, NEW YORK)
廃棄物の集積所で泥だらけで働くデビッド・アコレ(写真中央)。92年には有害廃棄物の管理を規制するバーゼル条約が発効したが、アメリカとアフガニスタン、ハイチは批准していない
かつてアゴグブロシの一帯には湿地帯や農場、牧草が広がっていた。しかし今では有害な廃棄物で汚染されてしまった。
それでも、いまだに牛などの動物が暮らしている
アブドゥライ・ヤハヤは焼かれた電子機器のごみの中から金属などを集めて生計を立てる
ガーナの首都アクラ郊外にあるスラム、アゴグブロシでは約4万人が生活している。ナスラ・ヤティのような若い女性も数多い
家電・パソコン...恐怖の汚染とは
2016年6月29日 ON AIR ザ・世界仰天ニュースより
日本で古くなった電化製品。
リサイクルされているはず...安全に処分されているはず...何となくそう考えていた。
そんな電化製品の行方...実は全ての家電製品が正しくリサイクルされ、
処分されているわけではなかった。
世界中の先進国が使い古した、本来ならリサイクルされるべき家電が、
ある国に膨大な量捨てられ、そこに住む人々の命を脅かしているのはあまり知られていない。
"汚染地域、アグボグブロシーとは"
史上最悪と呼ばれるチェルノブイリ原発事故。今も放射能汚染が続く。
だがある調査機関によればそれ以上に深刻な汚染地域がある。
赤道に近いアフリカ・ガーナ。
国土は日本のおよそ3分の2。その多くが熱帯気候で、チョコレートの原料となる
カカオ豆の生産地として有名な首都アクラは人口230万。
街は活気に溢れ、黄熱病研究のため、
この地で亡くなった野口英世博士の記念館があり日本とゆかりも深い...。
問題の汚染地域はその首都の中心地からほど近い所にあった。
そこへ仰天スタッフが日本のメデイアとして初めて足を踏み入れる。
その地の名はアグボグブロシー。10数年前までは美しい湿地帯だったが、
今は、他の国々が捨てた家電製品や電子廃棄物で埋め尽くされている。
その広さはなんと...東京ドーム32個分。
いつしかこの地は「世界最大の電子廃棄物の墓場」と呼ばれるようになった。
それにしてもなぜここに、世界中の家電が集まったのか?何より大きな問題が...
アグボグブロシーから上がる火の手。電子廃棄物が燃やされて、その結果、
有毒ガスがまき散らされている。
なぜ絶対にやってはいけない最悪の行為が 当たり前のように行われているのか?
この危険地帯には7万人もの人々が暮らし少年たちの姿も多い。
"ケーブルを焼く少年たち"
ダニエル・アムウエラ17歳。彼は、小さな村の生まれ。
実家に収入がない彼はここで働きながら仕送りをするようになり、もう5年になるという。
この汚染されたアグボグブロシーで一体何が行われているのか?
そして、なぜこんなにも世界中から家電が集まったのか?
そこには恐ろしい秘密があった!
ダニエルが住んでいる家は廃棄された冷蔵庫を積んで作った小さな小屋。
ここで仲間たちと暮らしている。
そして朝7時、ダニエルが仕事にとりかかる。
向かったのは...とあるものを専門に売っている店。
実はこの店、世界中から送られてくる使えなくなった家電の中でも再利用不可のモノだけを
扱う店なのだ。
ダニエルはこの日、使えないパソコンのモニター2台を日本円にして15円で手に入れた。
そして...壊れたパソコンモニターを金に換えるための方法が、この地の人々を命の危機に
さらしていたのだ。
まずはモニターを解体し、再利用可能な金属を取り出す。
さらに画面の表面のガラスを破壊し、中のケーブルを取り出した
そしてケーブルに火をつける。
こうしてケーブルを燃やすことで、銅などの金属を抽出していたのだ。
しかし、これこそが汚染の原因ともなる最悪の行為だった。
このケーブルを燃やす行為は人体に影響を及ぼす有毒ガスを発生させている。
更なる問題は...この毒性の高い塊を湿地帯の水で冷やしている事。
燃やしたケーブルから抽出した金属部品は売る。それでわずかな儲けを得ていた。
ダニエルによるとこの仕事が1日で日によって大体、9セデイ(300円)ほどの
儲けになるという。
このような作業はダニエルに限ったことではない。
この地では至るところで朝から晩まで繰り返される。
1キロの金属を抽出するために100キロ以上のケーブルを燃やすことになり、
生活のため、その作業に励むと有毒ガスがまき散らされるという悪循環。
それとともに、水で冷やす際に 猛毒物質が湿地帯である土壌に、
やがて、生活の水源である川に流れ込み、命をも脅かす、汚染された水になる。
実はこれら家電やパソコンなど電子機器はガーナ国内から出たものではなく、
豊かな先進国から来たもの。
なぜ自分の国で処分せず海を越えてはるばるガーナまで送られてきているのか?
"ゴミを送り続ける先進国"
首都アクラ市内にあるテマ港。
毎月、コンテナ500個分の中古家電や中古電子機器といった名目の貨物が
先進国から陸揚げされ、アクラの何百軒もある中古家電店に商品として並ぶ。
ガーナにおいて中古家電市場は年間250億円を超えるという
しかし、それら中古品の寿命は短い。多くが2~3年で使えなくなってしまう。
更に不条理な現実が。なんと、再利用不可能なものも中古品として輸入されていたのだ。
実はこれ、国際法上の違反行為にあたるものだった。
バーゼル条約。国際法で電子廃棄物の輸出は全面的に禁止されている。
なぜなら...電子廃棄物には様々な有害物質が含まれているから。
発途上国が先進国の有害ゴミのゴミ箱として利用されないよう、取り締まっているのだ。
しかし実際には...わずかな中古品を盾に一切、再利用出来ない大量の家電や
パソコンなどのゴミが送りつけられている。
調査によると海外からガーナに送られてくる中古品の貨物の内、ゴミと言える物は
89%にも上るという。
それにしてもなぜ国際法に違反してまでガーナに送られるのか?
先進国では、使えなくなったパソコン1台を環境へのリスクを抑えながら処理すると、
およそ2000円かかる計算。
一方、これに対してガーナなどの開発途上国の輸入業者は、1台1500円で
買い取ってくれる。
つまり、仲介するリサイクル業者にとっては3500円もの利益になる。
そのため違法な輸出は際限なく行われていた。
こうして先進国から、アグボグブロシーにゴミが集まるようになって20年。
世界最大の電子廃棄物の墓場はそれを素手であさる少年たちの命を蝕むようになっていた。
"汚染された町の住人に起きた異変"
この地に来て5年の間、わずかな金を得るため毎日大量のケーブルを燃やし続けるダニエルは
最近、体にある違和感があるという。
ダニエルによると、煙を吸うと肺が痛み呼吸が上手く出来ず、咳もよく出るという。
それに1日中、炎の近くにいるから体が夜になってもずっと熱いまま。
頭痛と咳も出るため、眠れないことが多いという。
ダニエルの体に何が起きているのか?
ここで働く少年たちの健康調査を定期的に行っている、
ガーナ大学の調査チームによると、
燃やす作業をしている少年の口や目、鼻から有毒ガスが入り毒物が体内に
蓄積しており、ずっと吸い続けると癌などになる可能性が高いという。
もちろん、問題なのは煙だけではない。
土壌調査では数々の重金属、ダイオキシンなどが高濃度で検出されている。
猛毒のヒ素やアンチモンは基準値の10倍。
人体の神経システムに影響を与える鉛の量は基準値の100倍にも上る。
そして重金属が流れ出た川の中には生き物の姿は全く見られなくなった。
更に水銀による被害も。
1950年代から患者が報告された熊本の公害事件、水俣病。
肥料工場から出たメチル水銀を含む工業排水が地元の海を汚染。
そこに生息する魚介類を食べる事で、体内に蓄積された結果、地域住民が次々と発病。
1900人に近い死者を出した。
この地も水俣病のような被害が危惧されている。
近くを流れるどす黒く汚染された川は、5キロ先のギニア湾へ注いでいる。
河口の漁師に話を聞くと、採れた魚などの魚介類は市場に並び、人々の口に入るという。
また、アグボグブロシーの中では牛、ヤギ、鳥も食用として育てられている実態。
さらに問題を一層深刻にしているのはこの汚染された土地の周りに、巨大な野菜市場、
商業施設などが無数にならんでいる。
アグボグブロシーから近い場所にある小学校。
ここに通う500人の児童は日々危険に晒され、実際何かしらの症状も見られるという。
町には赤ちゃんも多い。町のあちこちで母親が授乳する光景。
すでに恐ろしい調査結果も出ている。
この周辺に住む乳児を持つ母親の母乳から基準値の82倍もの毒性化合物
ポリ塩化ビフェニルが検出された。
アグボグブロシーやその周辺でこれまで
有害物質により何人が命を落としているか正式なデータはないという。
この最悪の環境が引き起こす病気の実態も、患者数も正確に記録されていない。
"先進国の罪とは?"
ダニエルたちが命を削って取り出した銅などの金属は
実はヨーロッパや日本などのアジアが主な輸出先となっている。
国際法を犯し、ガーナにごみを送り込んだ先進国は少年たちが命を削って得た金属を
再び買い取っていた。土地を汚染させ、人々の命を脅かして得た金属をまた
先進国は買い上げていたのだ。
現在、国際会議でそれらの国々に燃やした金属の売買を禁止する条約を作ろうと
働きかけているところだが、まだその実現には至っていない。
ガーナのテマ港沖。ここには多くの船が停泊している。
これらのすべての船が電子廃棄物を積んだもの。
クリスマスになるとガーナに運ばれてくる電子廃棄物の量は5倍にも増える。
その理由は先進国でクリスマス前の時期に一斉に家電や電子機器の買い替えをするため。
世界中で出る電子廃棄物の量は増え続けている。去年、出た量は5000万トン。
その重量はギザの大ピラミッドの7倍にあたる。
日本はその中でも最大の排出国の一つなのだ。