大手自動車の新たな製造拠点:北アフリカ
中東とアフリカの走行台数、2040年に9000万台に急増するとの見方も
2018 年 10 月 1 日 14:46 JST THE WALL STREET JOURNAL
一部の大手自動車メーカーは北アフリカを世界で最も新しい自動車産業の集積地に変貌させてきた。
これはアフリカ大陸では珍しい産業化の成功例と言えるだろう。ドイツのフォルクスワーゲン(VW)、
フランスのルノーとグループPSA(旧社名PSA・プジョーシトロエン)、韓国の現代自動車、
日本のトヨタ自動車などは近年、成熟した自動車市場にはない成長が見込めるアフリカに数十億ドルの
投資を行ってきた。米国、中国、欧州の新車販売は好調だった10年間を経て低迷している。
ドナルド・トランプ米大統領による政策の影響で貿易障壁が世界中で高まるなか、地元や地域の需要に応えることを
主眼としたそうした産業クラスターは、グローバルなサプライチェーンを見直している企業にとってモデルケースと
なる可能性がある。
市場としてはまだ小規模だが、石油輸出国機構(OPEC)の予測によると、中東とアフリカの自動車走行台数は
現在の5900万台から2040年には9000万台に急増すると見込まれている。
アフリカ大陸の自動車製造拠点としてすでに南アフリカを追い抜いたモロッコは近い将来、年間生産台数で
イタリアを上回るとみられている。モロッコは欧州の自動車工場の主要サプライヤーにもなりつつある。
スペイン東部バレンシアにある米フォード・モーターのハイテク工場も座席、内装、配線、その他の部品を
モロッコから輸入している。
自動車メーカーによる投資がこの地域で拡大している一因として、アフリカ諸国の一部が製造工場を誘致するために
自動車の輸入を敬遠し始めたということがある。
アルジェリアは昨年以来、国内で販売されるほぼすべての新車に国内製造を義務付けてきた。
そうした決定もあってVWは同国のルリザンヌに組み立て工場を新設することにした。その工場では商売人に
人気の小型バン「キャディ」やコンパクト車「ポロ」などの量産がすでに始まっている。同社傘下のスペインの
自動車会社セアトはコンパクトセダン「イビザ」とコンパクトSUV「アローナ」を、
チェコの子会社シュコダは人気のセダン「オクタビア」をルリザンヌ工場で製造している。
この地域の市場でシェア40%余りを有するルノーはこの5年間でモロッコに2つの組み立て工場を建設し、
年間20万台以上を生産している。プジョーも大規模な拡大計画の一環として年内に稼働予定の工場をモロッコに
建設している。
VWはアフリカの発展途上の自動車産業に最も積極的に投資してきたメーカーの1社で、ケニアとルワンダにも
工場を建設してきた。同社は最近、ナイジェリアとガーナにも組み立て工場を建設する計画があると発表した。
インフラ整備に関連する中国からのローンを返済する目的もあり、外国投資を呼び込むのに熱心な地域の政府は
通貨管理の緩和や自由貿易区の創設、奨励金の提供など、企業寄りの政策を導入している。一部の政府は道路、
鉄道網、深水港なども建設・拡張している。
国際通貨基金(IMF)は5月に発表したある報告書で、民主化運動「アラブの春」の後に市場改革に取り組み、
数十年に及んだ景気停滞を終わらせる方策を模索した北アフリカと中東の政策立案者を称賛した。
自動車メーカーは腐敗、経済不安、テロ、政治的混乱などがはびこっている国が多いアフリカで事業を
展開するリスクを承知している。有望視されたこともあった南米、ロシア、インドといった外国市場への過去の
進出は概して自動車産業の財務を悪化させてきた。
マグレブ(北西アフリカ諸国)では全域にわたり若年失業者が大量にいたために移民や犯罪、
イスラム過激思想といった問題が深刻化してきた。しかし、こうした問題は経済的機会の拡大によって緩和される
可能性がある。一方、欧州諸国の政府は、マグレブの安定と繁栄が自国の安全保障の鍵になるとみている。
VWのセアト・ブランドの経営幹部でアルジェリア工場の責任者を務めるエルデム・キジルデレ氏は「もちろん、
リスクはある」と語った。「しかし、この地域に可能性も見いだしている。非常に若いその市場は日々成長しており、
工業化している」
北アフリカへの外国直接投資の額は2011年の50億ドル(約5700億円)近くから2016年には120億ドルに急増した。
調査会社フロスト・アンド・サリバンによると、これは自動車メーカーの投資によるところが大きい。
「アフリカ大陸の状況は安定化している」。投資を保護するという政府の確約と引き換えに、ガーナとナイジェリアに
組み立て工場を建設する契約を8月に交わした際、VW幹部のトーマス・シェーファー氏はそう述べた。
「現地の自動車産業の発展を阻んでいる最後の障害が取り除かれようとしている。これは当社にとって非常に
大きな好機だ」