リムパック不参加の中国海軍に見せたかったもの
ノーマルな状態に戻った一方で、残念な事態も
続いてRIMPAC-2016に参加した中国海軍は、またもや問題を起こした。RIMPACでは、合同演習に参加している
各国海軍が自国の艦艇でのレセプションに参加国代表たちを招待し合うことが慣例になっている。
だが、中国海軍は中国軍艦でのレセプションに海上自衛隊代表を招待しようとしなかった。主催者である
アメリカ海軍がその情報をキャッチし、事前に中国側に厳重注意をしたため、結果的には海上自衛隊も招待される
こととなった。
この事件に対してアメリカ海軍は、海軍の風上にも置けない中国海軍の態度に激怒した。
RIMPAC-2014に引き続きまたもや海軍の信義則を蔑ろにした中国海軍のRIMPAC参加は打ち切るべきであるとの声が、
連邦議会からも上がった。
しかしながらRIMPAC-2016閉幕後、オバマ政権そしてペンタゴンは再び中国海軍を次回のRIMPAC-2018へ招待した。
アメリカ海軍内外の対中強硬派は「いい加減にしろ」と激怒したものの、トランプ政権が誕生したからといって
オバマ政権が発した中国海軍への招待が取り消されることはなかった。
ところが、中国がRIMPACに参加し始めた2014年から、人工島の建設をはじめとする中国の露骨な南シナ海侵略は
勢いを増す一方であった。アメリカ海軍の対中強硬派たちは「RIMPACに中国海軍を参加させることによって、
南シナ海や東シナ海での中国海軍の傍若無人な行動は収まるどころか、ますます周辺諸国を圧迫し続けており、
国際海洋法原則なども紙切れに書いた文字になりつつある」と主張していたが、まさにその批判が実証される
こととなったのである。
そして今年春になって、対中強硬派で側近を固めたトランプ大統領は、ようやく中国との対決姿勢を明確に
打ち出すに至った。その結果、中国海軍による南シナ海での侵略的行動を理由として、中国海軍に対するRIMPACへの
招待をついにキャンセルしたのである。
中国“除名”でRIMPACの注目度が低下
アメリカ海軍などの対中強硬派は、RIMPACが「参加国にとって最大の仮想敵である中国海軍が参加しない」
ノーマルな姿に立ち返ったことに胸をなで下ろしている。しかしながら、中国を“除名”したことで2つほど残念な
事態が生じた。
その1つは、国際社会のRIMPACへの関心が薄れたことだ。
異分子であり(そもそも仮想敵が合同演習に加わるという異常事態なのであるから、中国海軍は異分子以外の
何物でもなかった)かつトラブルメーカであった中国海軍が参加していないため、一般のメディアにとって
RIMPAC-2018は「普通の多国籍海軍合同演習」にしかすぎなくなってしまった。そのため、「中国の排除」という
ニュース以降、RIMPAC-2018に対する注目度は極めて低調になった(もちろん、軍事演習であるRIMPACにとって、
本来はメディアや一般の人々の注目度は関係ないのであるが)。
中国に見せたかった日本の地対艦ミサイルの威力
2つ目は、日本の強力な地対艦ミサイルの実力を中国海軍に見せつけることができなくなったことである。
RIMPACは多国籍海軍の合同演習としてスタートしたが、参加国や演習内容の拡大につれて、海兵隊や
海軍陸戦隊をはじめとする水陸両用作戦に関与する陸上部隊も組み込まれるようになった。これまで海上自衛隊だけを
参加させてきた日本も、水陸両用作戦能力の構築に踏み切ったために、RIMPAC-2014からは陸上自衛隊を
参加させるようになった。
そして、南シナ海や東シナ海で戦力増強著しい中国海軍と対峙するためには海軍力に加えて地対艦ミサイルや
多連装長距離ロケット砲などの地上軍も投入しなければならないと考え始めたアメリカ大平洋軍司令部は、
陸上自衛隊が運用しているメイド・イン・ジャパンの地対艦ミサイルシステムに目を付けた。
そこで、RIMPAC-2018に陸上自衛隊が地対艦ミサイルを持ち込み「敵艦撃沈演習」を実施するよう、日本側に提案した。
陸上自衛隊の12式地対艦ミサイルの命中精度の高さに、米軍側は舌を巻いている。米海軍や米海兵隊の
対中強硬派は、RIMPACに参加する中国海軍の目の前で、そうした日本の超高性能な地対艦ミサイルが仮想敵艦
(日本にとっての仮想敵艦は中国軍艦である)を海底に叩き込む演習を実施するのはこのうえもなく「痛快」であり、
「中国側も日本の地対艦ミサイルの威力を思い知るであろう」と、大いに期待していた。
しかし、中国海軍がRIMPAC-2018から排除されたことで、その期待は泡と消えた。
日本にとっても、メイド・イン・ジャパンの地対艦ミサイルの威力を直接中国側に見せつけられなかったことは
残念至極であった。高精度の地対艦ミサイルシステムを九州から与那国島までずらりと並べることで、
中国海軍が東シナ海から西太平洋へは自由に抜け出ることができなくなるという警告を突きつけることができる
(拙著『トランプと自衛隊の対中軍事戦略』講談社+α新書、参照)。だが、残念ながらその機会が失われてしまった
からである。