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<脱中国①>”マレーシア・ファースト”で脱中国依存鮮明に 外資誘致で市場開放も、最優先は国内産業保護

2018-05-23 15:28:01 | 中共日本浸透工作・中共浸透工作・一帯一路・中国経済侵略

”マレーシア・ファースト”で脱中国依存鮮明に

外資誘致で市場開放も、最優先は国内産業保護

2018.5.15(火)  JB PRESS

初の閣僚会議後、記者会見するマハティール新首相。”マレーシア・ファースト”の外交経済ビジョンの行く末は、寄り合い所帯の野党連合の結束にかかっている(12日、クアラルンプール近郊。)

 

「マレーシアにとって、国益にかなっているかどうか、再検討する」――。

 61年ぶりに政権交代を果たしたマレーシアのマハティール新首相は12日、クアラルンプール郊外で記者会見を開き、

次のような質問に対して、そう答えた。


 「マレーシアには中国の一帯一路の下、約40の関連プロジェクトがある。特に、東海岸鉄道計画(ECRL)や

マレーシア-シンガポール間の高速鉄道計画(HRL)に代表されるような大規模プロジェクトなどを押し進めますか。

マレーシアにとって有益でしょうか」


 それに対してマハティール新首相は、「世界のあらゆる国と同等で、フレンドリーな外交関係を構築したい。特定の国を利する

ことはないだろう」とバランス感覚のある外交を展開すると前置きした上で、


 「外資による事業全般の調査を行い、再検討する」とECRLや HRLの計画を見直すことを新政権発足後、初めて公式に表明した。


 マレーシアは「一帯一路」関連で、中国から約1350億ドル(約14兆9000億円)以上の規模のインフラ整備事業を受け入れており、

アジア域内で中国最大の投資先となっている。


 選挙戦でも、ナジブ前政権の中国一辺倒の外交経済政策の是非が争点になっていた。


マハティール新首相は中国主導による大規模開発事業への懸念を示しており、筆者との単独インタビューで

「一帯一路は否定はしない」としたものの、「協力事項は、個別で交渉する必要がある」と強調していた。


 日本が最も興味があるのは、HRL(今年末入札、来年9月受注先決定予定)の取り扱いだが、ECRLに関しても重要で、

本コラムでも以前、問題点を指摘してきた。

 

 ECRLは、シンガポールを封鎖された場合のマレー半島の優位性を説く「マラッカ・ジレンマ」において、HRLの計画と同様、

地政学的に極めて重要拠点となるマレーシアを取り込む上で、中国の習近平国家主席提唱の経済構想「一帯一路」の生命線。


 マハティール元首相(当時)が率いる野党が政権交代を実現すれば、マレーシアにおける中国の一帯一路戦略は見直しされるだろう、

と予測していたが、“脱中国依存”の方向性を政権発足後早くも打ち出した。


 さらに、12日の記者会見の後、マハティール新首相は国営テレビの単独インタビューに応じ、“マレーシア・ファースト”の

経済ビジョンを打ち出した。


 会見の中でマハティール新首相は「ビジネスフレンドリーな環境の中、外資(FDI=外国直接投資=など)を積極的に誘致したい。

規制緩和も促進する」と強調。


 しかしながら、「インフラ整備や不動産開発などの受注契約事業は、マレーシアの企業や事業者に最優先に委託されることが

望まれる」とした上、「FDIは、ファンドや技術を提供できるものに限る。工場建設や製造業などで、国内市場向けか輸出目的のものだ」

とした。


 また、「マレーシアの企業は、(インフラ、不動産を含めた)土地開発事業ではすでに国際競争力がある。国民のための国づくり

(都市開発建設など)やそれに必要不可欠なことは、自分たちで構築することができる」


 その上で、「これらのすべての機会は、地元企業に開かれるものだ。仮に、大規模なインフラプロジェクトがあれば、

外資参入は、地元企業にその技術や能力がない場合に限る」と強調し、ナジブ前政権下での「中国との蜜月政策」からの離脱を表明。


 前述の東海岸鉄道プロジェクトだけでなく、クアラルンプールの新国際金融地区「TRX」 に建築予定の超高層タワーや

ダイヤモンド・シティ、さらにはイスカンダル地帯に建設される大規模開発、それらすべてが一帯一路に関連する中国の

大手企業による開発だ。


 中でも、 4つの人工島を建設して、約70万人が居住する大型高級住宅街、教育施設、オフィスを構える都市開発計画

「フォレスト・シテイ」は、中国の大手不動産「碧桂園」が開発中で、 2035年の完成を目指す。


 建設にあたり租税恩典も与えられ、買い手の約90%が中国本土からの「大陸人」だといわれ、マハティール首相が

最も懸念を抱く外資、とりわけ中国主導によるプロジェクトだ。

 

 マハティール新首相は、「チャイナマネーの大量流入で、国内企業は衰退。マレーシアで最も価値ある土地が外国人に専有され、

外国の土地になってしまう」と懸念している。


 中国投資の見直しで諸外国の外資を誘致する新政権が打ち出す“マレーシア・ファースト”は、一方で支持基盤強化のための

国内産業保護優先と、懸念の声も上がりそうだ。


 さらに、新政権のアキレス腱は、5つの野党(サバ州のワリサン党含)から成る”寄り合い所帯“だということ。


 これまでは、「打倒ナジブ政権」で一致団結してきたが、元々、政策だけでなく、多民族国家のマレーシアを象徴するように

支持基盤となる民族や宗教は全く違う。


 その懸念が12日の会見でも露になった。


 新しい閣僚を10人(首相と副首相はすでに選出)公表するはずが、マハティール新首相は「様々な考え方や価値観の違い、

さらには民族、宗教の違いが絡み、今日は新たに3人の閣僚(内務相、財務相、防衛相)を発表するとどまった」と、

その船出が安易でないことを率直に認めた(なお、13日、財務相に指名された華人系の民主行動党=DAP=事務総長の

リム・グアン・イエン氏は係争中につき、国王による大臣承認が延期された)。


 新政権の船出を歓迎するものの、寄り合い所帯の野党連合率いるマレーシアの新政府への舵取りを懸念する動きも払拭できない。


 筆者が入手したマレーシア最大級の証券会社「TA Securities」の内部資料には、総選挙を統括し、次のような内容の声明が

証券トレーダーなどに配布された。


 「腐敗汚職改革を掲げるマハティール新首相の就任でマレーシアの株式は期待感を含む一方で、野党連合が足並みを揃えらるか、

未知数が多い」とした上、


 当面、「株式市場を静観する上、顧客にはめぼしい株は売って、政権が安定したところで再び買い戻すことをアドバイスするよう」

と、書かれている。

 

 そうした世間の不安を払拭しようと、マハティール新首相は12日の記者会見で、政権発足から100日間限定で、経済政策などの

指針を仰ぐ国内のベテラン専門家を集めた「上級専門家会合」を設立したことも発表。


 メンバーは、マハティール新首相がかつて自身の政権の経済政策の要と信頼してきたマレーシア政界の重鎮、ダイム元財務相を

トップに、アジア華人財界の大御所で、砂糖精製業などで財を成し“シュガー・キング”と別の異名を持つロバート・クオック

(香港在住。マレーシア国籍)、かつてはIMF(国際通貨基金)の専務理事の候補でもあったゼティ・アジズ(元マレーシア

中央銀行総裁)ら5人だ。


 さっそく昨日、ダイム元財務相がマレーシア航空などを所有する政府系投資会社「カザナ」などの各政府系投資機関のトップと面会。


 公開入札によるビジネス受注や契約における透明性を重視し、さらには、政治的や外部圧力による腐敗や汚職を厳しく

禁止するとともに、ラクヤット(マレー語で「民衆」)の最大限の利益を最優先するよう指示した。


 本来、マレーシアでは外国諸国との経済協力は経済企画庁(EPU)が直接の担当省だが、一帯一路プロジェクトに関しては、

ナジブ前首相直属の総理府がイニシアティブを取り、中国との随意契約で結ばれ、その契約プロセスなどの不透明さも問題に

なっていた。


 マレーシア-シンガポール両国間を結ぶ高速鉄道の受注に中国と火花を散らす日本にとって、マハティール新政権の

“マレーシア・ファースト”の経済政策は、外資誘致を図り、「ファンドや技術を歓迎する」という観点では、日本企業にとって

ハイテク分野、製造業など様々な分野で朗報かもしれない。


 しかし、高速鉄道に関しては、今年の4月、入札締め切りが6月から12月末に延期された。2026年末の開業予定に変更はないが、

事業者決定も2019年9月頃にずれ込むとされている。


 これまで、同高速鉄道受注では、中国が優勢と伝えられきた。それは、いわゆるシンガポールやマレーシアが東南アジアきっての

「華人社会」だということだけではない。


 実は、親米のシンガポールは中国の影響を警戒し、技術や安全性の高い日本式新幹線を支持している。


 問題は、マレーシアだ。中国の高速鉄道受注のための「マレーシア国内鉄道占有戦略」は着々と進み、在来線でも、

中国の一強状態だ。

 

 例えば、マレーシア国鉄(KTM)が運行するクアラルンプール近郊の通勤列車「KTMコミューター」は、マレーシア運輸省が

中国中車と「随意契約」。中国中車の新型車両が投入され、しかも修理点検などのメンテナンスでも中国中車が一手に引き受けている。


 高速化でも3年前から、中国中車に日系商社主導だったものが、あっさり切り替えられた。


 高速鉄道受注の肝心な国内在来線の足場は、すでに中国に“外堀から”固められているのが現状だ。


 筆者の取材したKTMの関係者は「中国とナジブ前政権が交わした契約はすべてが密室の随意契約。技術的、安全性、

価格においても優位勢は見られない」と前政権の暗躍したレガシーを批判する。


 今回のマハティール新首相の「高速鉄道見直し発言」で、日本勢が受注を有利に運べるか。筆者との単独インタビューでも

「高速鉄道より在来線での刷新が必要」と言及している。


 膨大な借金を抱えるマレーシアに、魅力的なファンドと技術を提供できるか。ルックイーストの時代は終わり、日本にとっては、

脱中国依存で絶好の投資チャンスである一方、正念場の時代に突入したともいえるのではないか――。


<参考>

 

政権交代で中国の一帯一路を封印したいマレーシア

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52796

 


マレーシア総選挙に中国の陰 民主化遠く

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52715

 

 

マハティールの野党勝利 61年ぶりにマレーシア政権交代へ)

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53065