ドゥテルテ比大統領、米との軍事同盟転換を示唆 中国・ロシアから装備調達を命令
米海軍との南シナ海巡視も停止か
2016 年 9 月 14 日 09:53 JST THE WALL STREET JOURNAL
【マニラ】フィリピンのドゥテルテ大統領は13日、同国の長年にわたる米国への軍事的な依存をやめることを突如示唆した。同大統領はロレンザナ国防相に対し、麻薬密売人や反政府勢力と戦うため、中国とロシアのサプライヤーから軍事・防衛装備を求めるよう命じた。
同大統領はまた、もう一つ別の政策シフトとして、米海軍とともに南シナ海上を巡視する活動を停止するつもりだと述べた。中国を刺激しないようにするためで、フィリピン軍はその代わりに麻薬とテロとの戦いに集中すると語った。
フィリピンは何十年間にもわたって米国と密接な関係を維持してきた。例えば最近では2014年の米比軍事協定を通じて軍事協力を強化した。米国政府もフィリピン政府も、同盟関係をテコにして中国に対抗している。
しかし6月30日の大統領就任以来、ドゥテルテ氏は国家として米国から距離を置きたいと述べている。それは、アジア太平洋地域の戦略バランスを変更しかねないスタンスだ。同氏は12日、米軍に対し、ミンダナオ島から退去するよう求めると述べた。
ドゥテルテ氏は数々の発言で物議を醸しており、今週の発言もその一つだ。12日の警察の統計によると、同氏が着手したいわゆる「麻薬・犯罪との戦争」は既に2956人の死者を出している。また同氏の発言は時に粗野で、その標的はローマ法王、国連事務総長、オバマ米大統領にも及んでいる。
だが、どんなシフトも、米国離れというドゥテルテ大統領の政治的シフトほどに重要なものは恐らく他にない。米国は1946年までフィリピンを植民地とする宗主国だった。
ドゥテルテ大統領は13日の演説で、軍人たちに対し、国内的な優先課題に専念するよう命じた。そして、フィリピン軍は南シナ海における戦闘の可能性よりもむしろ、麻薬密売人や反政府勢力との戦いに集中すべきだと語った。
今日までフィリピンは、この種の戦いに必要な軍事・防衛装備を米国や、韓国などのアジアの同盟国から購入してきた。しかしドゥテルテ大統領は、ロシアと中国のサプライヤーを探すようロレンザナ国防相に命じ、その理由としてロシアと中国は期間20年から25年のソフトローン(低利融資など緩やかな条件の借款)をオファーしていると述べた。
ドゥテルテ大統領は「武器など軍需品が欲しいが、(米国製の)F16ジェット戦闘機は必要ない。われわれに何の役にもたたないからだ」と述べた。そして「われわれはいかなる国とも戦うつもりはない。プロペラ機で満足しようではないか。もっぱら反体制派勢力の撲滅に使えるからだ」と語った。
マニラにある米国大使館も、中国とロシア両国の外務・国防両省も今のところ、コメントの求めに応じていない。
フィリピンの軍部はドゥテルテ大統領の発言に意表を突かれた様子だった。国防省スポークスマンは「大統領の政策発言をどう履行するかに関するガイドラインを待つつもりだ」と述べた。
ドゥテルテ氏はフィリピン議会で圧倒的多数の支持を受けており、彼を公の場で批判しようとする反対派はほとんどいない。加えて、同氏は軍部と警察を味方に付けようと、彼らの給与を倍増すると約束している。
ドゥテルテ氏が米国との相互防衛条約を廃棄する公算は小さい。とはいえ、同氏は最も緊密な同盟国・米国との関係を損なうリスクを招いている。それは「政治的レベルにおける友好的で建設的な関係が、同盟関係をうまく機能させる潤滑油になる」(アルバート・デル・ロサリオ戦略国際問題研究所=ADR-ISIS=副所長のアンジェリカ・マンガハス氏)からだ。
米シンクタンクのランド研究所によれば、米国は2002年から13年までにフィリピンに対し安全保障強化資金として4億4100万ドル(約441億円)を提供した。またオバマ政権は今年だけで過去最高の1億2000万ドルの同国向け軍事援助を計上した。また米国は13年に大型台風で大きな被害に遭ったフィリピンにかなりの規模の援助を提供している。
米国際戦略問題研究所(CSIS)のグレゴリー・ポーリング氏は「ワシントンでは2つの陣営がある。一つは、ドゥテルテ氏は(米比)同盟関係を崖から突き落とそうとしており、米政策当局者がこれを阻止することはできないと考える陣営だ。もう一つは、この同盟関係は米比両国にとってあまりにも重要なため、進むべき道を見つけなければならないと主張し続けている陣営だ」と述べた。しかし同時に、「後者の主張は、ドゥテルテ氏が反米的な言動を続けているため、日に日にその根拠を失いつつある」と語った。
ドゥテルテ大統領は13日、フィリピン空軍関係者たちに対し、「われわれは米比同盟を断絶することはしないが、独立した外交政策を追求するつもりだ」と語った。
しかし、同氏は米国の戦略上のライバルである中国とロシアに傾斜しているように見え、米国への敵意を公の場で示しているため、米比関係は危うくなっている。
ドゥテルテ氏は12日、「私は米国人が好きではない。それは非常に基本的なことだ」と述べた。