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ドゥテルテ氏の政策シフト、米同盟諸国は困惑 中国も慎重

2016-09-22 00:16:33 | フィリピン

ドゥテルテ氏の政策シフト、米同盟諸国は困惑 中国も慎重

2016 年 9 月 15 日 09:59 JST   THE WALL STREET JOURNAL

ドゥテルテ氏(写真)の政策シフトで米同盟諸国は困惑

 【マニラ】フィリピンのドゥテルテ大統領が反米的な発言を連発していることについて、アジアの米同盟諸国は当惑している。米国は、アジア関係国との軍事同盟で強硬姿勢を強める中国を封じ込めたい考えだが、一連のドゥテルテ氏の発言で、同氏がこの米国主導の軍事同盟にコミットするのか疑問が生じている。だが一方で、中国政府も同様にドゥテルテ氏の言動に慎重だ。

 ワシントンから東京、そしてキャンベラに至るまで米国と同盟国政府は、ドゥテルテ氏の厳しい発言の真意を理解するのに苦慮している。それが単なる「大ぶろしき」にすぎないのか、あるいは何十年間もの米国との同盟関係から本当に離れようと意図しているのか明確でないからだ。

 中国でも同様に状況は不明瞭と受け止められているようだ。

 一見して反米的とみられるドゥテルテ氏の発言は、中国の長年の取り組みにとって「棚からぼたもち」だ。中国は、この東アジア地域で頂点に立つ国として自己を確立しようとし、米国中心の同盟関係を弱体化させようと努力してきた。第2次世界大戦終了の1945年以降、アジアを軍事的に支配してきた米国の防衛パートナーシップ関係の弱体化だ。ドゥテルテ氏の発言はまた、「中国の南シナ海領有権を認めない」とする7月のハーグ仲裁裁判所の判決を切り崩そうとする中国政府の試みにとっても幸先がいい。この裁判は、フィリピンの前政権が提起したものだった。

 だが、たとえ幸先がいいとしても、ドゥテルテ氏はいつでも方向転換する可能性があるし、南シナ海領有権紛争で同氏が余りに大きく中国に譲歩したとみなされれば、同氏は国民的な支持を失うだろうと中国当局は計算している。

 例えば、対外強硬主義的なタブロイド「環球時報」(中国共産党機関紙・人民日報の傘下)は「ドゥテルテ氏の気質が気質なだけに、同氏が誰を非難していても、第3者が同氏を利用するのは簡単ではないだろう」と指摘。「長期的には、中国がドゥテルテ氏を扱うのも同じように容易でないかもしれない」と論じた。

ドゥテルテ氏の長期戦略(戦略があるとすればだが)を識別することは、発足わずか2カ月半のドゥテルテ政権から出てくる混乱したシグナルによって一層難しくなっている。同氏の報道官は「ドゥテルテ氏は荒っぽい言葉遣いをするきらいがあり、口にしたことを本当に意味しているわけではない」とメディアに告げるのが日常茶飯事だ。

 最近数日間でも、71歳のドゥテルテ氏は、フィリピンが米海軍と共同で行っている南シナ海の巡視活動を取りやめるつもりだと述べ、それは北京に対する「敵対行為」の一部になるのを回避するためだと語った。同氏はまた、一部米軍部隊の撤収を求めるとともに、もっと独立した外交政策を追求し、中国とロシアで武器を購入するつもりだとも述べた。

 これに対する中国側の公式な反応は曖昧だった。

 中国外務省の報道官は「中国としては、フィリピンと手を携えて、2国間協力を全面的に再開し推進する用意がある」と述べた。ただ、中国がフィリピンへ武器売却で有利な条件を提案してきたとするドゥテルテ氏の発言への質問に対しては、情報を一切持っていないと語った。

フィリピンが伝統的な同盟から離脱すれば、オバマ米大統領の取り組みに大きな打撃になるだろう。中国の影響力拡大に対抗するため、アジア諸国との緊密な関係を強固にしようとしてきた取り組みだ。

 それはまた、フィリピン政府自身にとってもコストが大きい。米国との同盟は、他国の侵略に対するより信頼できる抑止力をフィリピン軍に提供しているからだ。フィリピン軍は、この地域で最も効率の悪い軍隊の一つとされている。

 シンガポールにあるISEASユソフ・イシャク研究所の上級フェロー、イアン・ストーリー氏は「これはリスキーで危険な戦略だ」と述べた。そして、ドゥテルテ氏が同盟を離脱しようとすれば、この地域の同盟諸国との関係を疎遠にし、圧倒的に米国に友好的なフィリピンの一般市民の間で不評になり、米軍と何十年間も結束して行動してきたフィリピン軍部は動揺するだろうと語った。

 同氏は「米比関係は前進に向けはずみがついていたが、ドゥテルテ氏は突然それを急停止させた」と述べた。

 ドゥテルテ氏の観点からすれば、フィリピンがこの同盟から受けている恩恵は小さい。ドゥテルテ氏は、米国の干渉が、フィリピンで長年存在している反体制勢力を一層刺激したと述べた。同氏はまた、南シナ海で中国が人工島を建設するのを阻止できず、装備の乏しいフィリピン軍に十分なハードウェアを供与しなかったのは、いずれも米国の落ち度だと述べた。

 米国の今年のフィリピン向け軍事・安全保障援助額は1億2000万ドル(約120億円)で、同国の国防予算の約3%相当だ。

 フィリピンの議会ではドゥテルテ支持派が圧倒的過半数で、ドゥテルテ氏は国内で政治的な反対をほとんど受けていない。しかし、米国から中国への同氏の傾斜に関するソーシャルメディア上のコメントは、圧倒的に否定的だ。

 フェイスブックのあるユーザーは「彼の発言の真意は『私は中国に降伏する』ということだ」と書いた。

 米国務省のカービー報道官は今週、ドゥテルテ氏の扇動的な発言について「有害だ」と述べ、米政府としては同氏の厳しい発言がそのまま公式の政策になるのかどうか見極めようとするだろうと語った。

 日本も、安倍晋三首相の下での取り組みが後退するリスクがある。それは、東南アジア諸国とオーストラリアとの同盟を構築して、中国への拮抗力にするという取り組みだ。

 先週、安倍首相はドゥテルテ氏と初めて会談した。その際、日本側は低利融資を提供してフィリピンが大型巡視船2隻を購入することに同意した。既に約束している10隻の小型巡視船に追加されるものだ。日本側はまた、監視用に使用できる軍事用訓練機5機をリースすると述べた。そして安倍首相はドゥテルテ氏に対し、日本はパイロットや整備士の訓練でも支援したいとの希望も伝えた。

 日本の外務省は14日、ドゥテルテ氏の発言についてコメントを避けた。フィリピンに武器を売却している韓国もコメントを避けた。

ドゥテルテ氏の反米的な見解は目新しくない。だが、同氏がそのような見解を現時点で強調する決断をしたのは、同氏が継続中の「麻薬戦争」に対する国際的な非難が引き金になった可能性がある。警察発表によれば、ドゥテルテ氏が大統領に就任した6月30日以降、この麻薬戦争で3000人近くが死亡したという。

 ドゥテルテ氏は先週、「ののしり言葉」を使って、人権問題で説教しないようオバマ大統領に間接的に警告した。これを聞いたオバマ大統領は、計画していた同氏との首脳会談をキャンセルした。

 その後ドゥテルテ氏は13日にも、「君たちが私を攻撃ないし説教したいならば、公の場でそうしないことだ。ある大統領(オバマ氏)や国連と同じようにするな、ということだ」と述べた。そして、「いいかい。君たちも私に説教したら、私は怒る」と語った。