【社説】米国の北朝鮮制裁、笛吹けど踊らず
抜け穴の中国企業を名指ししないオバマ政権
2016 年 8 月 19 日 14:30 JST THE WALL STREET JOURNAL
北朝鮮は17日、核兵器の原料となるプルトニウムの抽出を再開したことを確認した。だがこれは驚くことではない。
分からないのは米国がな ぜ、北朝鮮の金政権を生き長らえさせている武器やモノの取引、マネーロンダリング(資金洗浄)に関与して
いる中国企業のただの1社に対しても制裁を発動し ていないのかだ。
北朝鮮は今年1月に4回目の核実験を実施した。これを契機に制裁の範囲が大幅に拡大された――少なくとも紙の上では。
国連は制裁の対象とする北朝鮮の個人や企業の範囲を拡大し、天然資源の輸出を制限し、貨物を検査の対象とし、贅沢品や武器、
軍民両用(デュアルユース)品 へのアクセスを禁じた。
米議会は北朝鮮とのつながりを維持している外国企業(主に中国)に対して広範囲に二次制裁を科す法律を制定した。
これはオバマ政権 が北朝鮮の金融システム全体を「主要なマネーロンダリングの懸念先」と呼んで以来、特に強化された措置だ。
二次制裁が有効なのは、外国 の銀行や貿易会社、港湾が北朝鮮との取引かもしくはドル建ての取引のどちらかを選ばざるを得なく
なるためであり、通常であればこれは容易な選択だ。10年 前にすでに経験済みでもある。
米国がマカオに本拠を置くバンコ・デルタ・アジアを制裁対象にした時のことだ。
米国の金融システムへのアクセスを失わないよ う、中国系の銀行が次々と北朝鮮との取引を止めたのだ。
だが、この手法は米国が権力を行使し、違反した企業をブラックリストに載せない限りうまくいかない。
連邦議会が2月に制定した制裁強化法に盛り込まれているようにだ。オバマ政権は一度たりとも、それを実現させたことはない。
制裁に関する専門家のジョシュア・スタントン氏は自身のブログ「ワン・フリー・コリア」の中で、それが実現していないのは制裁対象が
ないからではないと記 している。米国と韓国の情報機関は長年、北朝鮮が国外に持っている「裏金」を追跡してきた。
金政権の高官らの脱北によって、それがさらに強化されたのは確 かだ。
国連が2月に公表した報告書には制裁対象となっている北朝鮮企業の隠れみの、もしくは連携先として数十におよぶ中国企業の名前
が列記されている。
ま た、北朝鮮とつながりのある顧客が米国の複数の銀行を介した不正な電信送金で4000万ドル(約40億円)を手に入れた際に
中国銀行が手助けしたとされる 問題で、その手法について詳(つまび)らかにしている。
ここでせいぜい言えることは、米国が尻込みしているのだから、中国は独自に制 裁を科すことができるということだ。
この春、中国の協力を示す兆候があった。北朝鮮の銀行が中国の国境の町、丹東で営業していた支店の送金を凍結し、その 支店を
閉鎖したことなどだ。当時、米国はこれを称賛した。
だが2006年以降のどの制裁協議においてもそうであったように、中国による 対北朝鮮制裁はその後の数カ月の間に幻想と化し
た。中国は北朝鮮から石炭や鉄鉱石の輸入を増やす一方、引き続き原油を北朝鮮に輸出している。
中国が黄海で の漁業権を手に入れる代金として北朝鮮に今月支払った金額は7400万ドルになる。
これは北朝鮮が銀行口座にアクセスできることを物語っている。
国連は今 月、北朝鮮が日本の近海にミサイルを発射したことを非難する声明案を提示したものの、
中国の強い反対に遭い、断念を余儀なくされた。
こ れらはすべて、あることを改めて示している。中国の企業は米国によって強制された場合にのみ、制裁を履行するということだ。
中国は米国の制裁が一方的で不 安定だと非難するだろうが、核兵器の開発を進める北朝鮮を中国が甘やかしているのが根本的な
問題なのだ。
制裁の目的は、核兵器かもしくは生き残ること(お よび中国にめぐらされた収入源)のどちらかを選ばざるを得ない状況に金正恩・朝
鮮労働党委員長を追い込むことだ。