【WSJ社説】北朝鮮をテロ支援国家に再指定せよ
2017 年 2 月 24 日 16:16 JST THE WALL STREET JOURNAL
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男氏が殺害された先週の事件について、マレーシアの警察は北朝鮮政府による犯行であることを示す証拠を集めている。このことで、米国が北朝鮮をあらためて「テロ支援国家」に指定すべき理由がひとつ増えた。そもそも2008年に指定を解除したのが間違いだったのだ。
捜査官や現場の動画によると、殺害を実行したのはインドネシアとベトナムの女だ。2人は北朝鮮の男数人に指示を受けながら、クアラルンプールのショッピングモールで犯行の練習をしていた。男らは空港で2人と合流し、事件の直後にマレーシアを出国している。警察は22日、容疑者である北朝鮮大使館の2等書記官と同国国営の高麗航空の職員に対する事情聴収を目指していると発表した。一方、北朝鮮は関与を否定しており、マレーシア警察の捜査について偽りだと非難するとともに遺体の引き渡しを求めている。
北朝鮮が真っ先に疑われるのは、01年に父親の不興を買ってから中国に住み始めた金正男氏に経済運営や世襲制を批判されていたためだ。金正恩氏は、金正男氏が外国の支援などを受けて体制を転覆することを恐れていたかもしれない。韓国は北朝鮮の金正男氏暗殺計画を何度か阻止していた。
犯人が使った毒の種類など、謎は依然多い。クアラルンプールの空港の動画を見ると、女2人の攻撃は3秒足らずで終わり、その後2人はばらばらに逃走している。警察は、2人が持っていたのは種類の異なる化学物質で、それが被害者の顔で混ざり合って致死性を帯びた可能性があるとみている。
今回の攻撃が北朝鮮の過去のパターンに一致することは疑いない。北朝鮮は長らく韓国や中国で、脱北者や体制批判者を狙ってきた。10年には北朝鮮の工作員2人が韓国で、黄長燁(ファン・ジャンヨプ)元朝鮮労働党書記の暗殺を試みたとされる件について有罪を認めた。黄氏は主体(チュチェ)思想を体系化したことで知られる大物だった。11年には、脱北してビラを散布する運動をしている人権活動家の朴相学氏を北朝鮮工作員がペン型の毒針で暗殺しようとしたが、韓国が阻止した。
こうした事件に先立つ08年、ジョージ・W・ブッシュ米政権は北朝鮮をテロ支援国家の指定から外していた。北朝鮮が核査察受け入れを約束したためだが、同国はいつもながらこれを破った。米国が北朝鮮をテロ支援国家に指定したのは1988年、ビルマを訪問していた韓国の閣僚らを北朝鮮工作員が殺害した83年の事件と、87年の大韓航空機爆破事件を受けた措置だった。
08年以降の北朝鮮によるテロの記録は暗殺どころではない。国連専門家パネルは、北朝鮮からイランへの違法な武器や軍需物資の密輸、シリアに対する化学兵器関連物質の密輸について繰り返し指摘している。イランは世界有数のテロ支援国家であり、シリアは民間人に化学兵器を使用したことがあり、テロ支援国家に指定されている。北朝鮮が14年に仕掛けたソニー・ピクチャーズエンタテインメントへのサイバー攻撃はテロとは言えないかもしれないが、映画館に対する脅迫はテロと呼べるかもしれない。韓国の原子力発電所に対するハッキング、攻撃の試みも同様だ。
米国は昨年、北朝鮮に対して新たに重大な制裁をいくつか科したため、同国をテロ支援国家に指定しても数年前に得られたほどの実質的効果はないだろう。だがドナルド・トランプ米政権が北朝鮮の脅威について、ありのまま認めることに積極的だというシグナルを発することになる。北朝鮮の体制を支える中国企業に対する制裁は長年の懸案だが、これも合わせて発動されれば、金正恩氏と中国にいる同氏の後ろ盾に対する通告になるだろう。