驚きの事実、韓国は北朝鮮内を偵察できていなかった
韓国の日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄は日韓両国にどのような影響を与えるのか。
さまざまな意見が飛び交うなか、朝鮮半島の軍事情勢に精通した米国の専門家が、同協定の破棄は
韓国側にとってきわめて不利になるという見解を公表した。日本は偵察衛星を使って北朝鮮内部の
ミサイル発射の動向などを探知できるが、韓国にはその能力がないからだという。元米軍高官の
同専門家は、今回の韓国の措置は米韓同盟を傷つけ、北朝鮮や中国を有利にするだけだとして厳しく
非難している。
日本と韓国の情報収集ギャップ
同専門家は、現在ワシントンの安全保障研究機関「民主主義防衛財団(FDD)」の上級研究員を
務めるデービッド・マックスウェル氏である。マックスウェル氏は韓国のGSOMIA破棄についての
見解を、防衛問題専門紙の「ディフェンス・ニュース」(8月29日号)に論文として発表した。
マックスウェル氏は米国陸軍の将校として在韓米軍・参謀本部に勤務した経験を持つ。在韓米軍では
特殊作戦部長を務めたほか、在日米軍や国防総省にも勤務した。陸軍大佐として2011年に退役した
後は、米国防大学やジョージタウン大学で朝鮮半島の安全保障などについて教えると同時に、FDDの
研究員としても調査や研究を続けてきた。
「韓国は北朝鮮とその支援国の手中に陥っている」というタイトルの同氏の論文は、韓国が日本との
軍事情報を交換する協定の破棄を決めたことの誤りや危険性を強調していた。
同論文がとくに注目されるのは、韓国には人工衛星で北朝鮮内部の軍事動向を探知する偵察能力が
まったくないという指摘だった。一方、日本にはその偵察能力があるから、GSOMIAの破棄はむしろ
韓国にとって不利な状況を招くという。
その点について同氏の論文は以下のように述べていた。
「韓国と日本は2016年11月に、北朝鮮の弾道ミサイル発射と通常戦力作戦に関する秘密情報を含めた
軍事情報を交換する協定『GSOMIA』に調印した。だが韓国側の人工衛星による情報取得の能力は、
南北軍事境界線の南側の領域対象だけに限られている。一方、日本の自衛隊は、軍事境界線の北側の
北朝鮮軍の動向を偵察できる偵察衛星数機を保持している。GSOMIAはこうした両国間の情報収集
ギャップを埋める協定だった」
マックスウェル氏はこれ以上は韓国の偵察衛星の能力には触れていなかったが、韓国が現在に
いたるまで北朝鮮領内を偵察できる独自の人工衛星を保有していないことは韓国側からの情報でも
明らかとなっていた。
断られた偵察衛星の「レンタル」
考えてみれば、これは驚くべき現実である。北朝鮮は長年、韓国を公然たる敵とみなし、いつでも
軍事攻勢をかけられるかのような言動をとってきた。トランプ政権の圧力により最近こそ敵対的な姿勢は
後退したかに見えるが、北朝鮮の韓国に対する軍事的脅威は変わってはいない。
その韓国が、北朝鮮内部のミサイル発射や地上部隊の進撃の動きをつかむ人工衛星を保有していない
というのだ。
韓国の中央日報などの報道によると、韓国政府は2017年8月に、レーダー搭載衛星4機と赤外線
センサー搭載衛星1機の計5機の偵察衛星を2021年から3年の間に打ち上げて運用するという計画を
発表した。しかし、この計画が完成する2023年まで、つまり2017年から約6年間は、北のミサイル
発射の兆候を探知する方法がない。そこで、韓国軍は偵察衛星の「レンタル」というアイデアを
思いつき、諸外国に打診したという。
このあたりの実情は日本でも産経新聞の岡田敏彦記者が2017年9月に詳しく報道していた。
韓国政府はイスラエル、ドイツ、フランスの3国に偵察衛星の借用を求めたが、いずれも断られたと
いうのだ。その結果、現在にいたるまで韓国は独自の北朝鮮偵察用の衛星を持っていない。この韓国の
態度を、岡田記者は楽観や怠慢が原因だとして批判していた。
韓国「偵察衛星貸して」 諸外国に依頼も全て断られる。北脅威に為す術なしの現実
一方、日本は北朝鮮のテポドン・ミサイルの脅威への自衛策として、2003年頃から北朝鮮の軍事
動向を探知できる人工偵察衛星の打ち上げ計画に着手した。2013年には光通信衛星とレーダー衛星
という2種類の偵察衛星を打ち上げて組み合わせることで、北朝鮮内部の動きを探知できるようになった。
人工衛星はその後、機能強化、追加の打ち上げなどを経て、現在も光通信衛星2機、レーダー衛星
5機の運用体制が保たれているという。つまり、北朝鮮内部の危険な軍事行動を察知する人工衛星の
情報収集能力は、韓国よりも日本のほうがずっと高いということなのだ。
マックスウェル氏は、だからこそ韓国が日本との軍事情報交換の協定を破棄することは賢明ではないと
断じるのだ。北朝鮮の軍事動向に関する情報源は、もちろん人工衛星以外にも北朝鮮内の通信傍受や
スパイや脱北者からの通報など多々あるが、偵察衛星の役割も非常に大きいといえる。
米国の人工衛星での情報収集能力は、言うまでもなく日本よりずっと高い。韓国政府はGSOMIAが
なくても、これまでと同様に米国からその情報を入手することができる。だが、それでも日本からの
情報を遮断する措置は害はあっても益はない、ということだろう。
米国にとっては「裏切り行為」
マックスウェル氏はこの論文で、韓国のGSOMIA破棄が米韓同盟に悪影響を与える点も強調していた。
同論文によると、トランプ政権のエスパー国防長官は、8月に韓国を訪問して文在寅大統領と会談
した際、GSOMIAの継続を相互に確認し合ったと解釈していた。だから、米側は文政権の今回の措置を
裏切り行為に近いと捉えているという。
また同論文は 韓国の措置が米国の政策にも害を及ぼし、逆に北朝鮮とその背後にいる中国やロシアを
利することになる点を強調して、韓国政府への非難を繰り返していた。