正恩氏の防弾ベンツ、北朝鮮の知られざる密輸手法
【ソウル】今年に入り北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長がメルセデスベンツの
リムジンに乗る姿が報じられた。制裁下にある北朝鮮がいったいどんな方法で高級車を手にする
ことができたのか、各国に困惑が広がった。
メルセデス・マイバッハ
だが、ここに来て専門家は、金体制の知られざる密輸手法が明らかになったとの見方を示している。
北朝鮮はベンツを運ぶため、3機の輸送機を使い、約4カ月かけて5カ国を通過させてきたようだ。
米ワシントンの先進国防研究センター(C4ADS)の報告によると、1台当たり50万ドル
(約5400万円)超の防弾仕様とみられるベンツ2台が2018年、平壌に届いた。
出発地はオランダで、6月から10月まで時間を掛けて輸送された。
C4ADSが港湾の公開情報や貿易記録から輸送ルートを追跡したところによると、2台の重装甲仕様の
ベンツは欧州から41日掛けて中国へ海上輸送され、そこから日本と韓国に回り道し、最終目的地の
ロシアで荷揚げされた。ロシアからは北朝鮮の政府が保有するジェット機3機で平壌に運ばれたと
みられる。
車はまずオランダから船で中国の大連に送られ、その後、日本の大阪に着いて、韓国の釜山広域市に入った。
正恩氏が特別仕様リムジン「メルセデス・マイバッハ S600 プルマン・ガード」に乗って
政府庁舎へ向かう姿が最初に目撃されたのは今年1月下旬で、追跡された納車時期からわずか
数カ月後に当たる。ドナルド・トランプ米大統領をはじめとする国家元首との会談では、正恩氏は
他のセダン型ベンツなどの高級車を利用していた。
世界を股(また)に掛けた特別仕様車の輸入は、北朝鮮に高級品が流れる複雑な貿易ネットワークを
映し出している。C4ADSによると、国連安全保障会議が10年余り前から北朝鮮への高級品輸出の
阻止に取り組んできたにもかかわらず、デザイナーブランドの化粧品や有名ブランド服、アップルの
スマートフォン「iPhone(アイフォーン)」まで、さまざまな品物が依然として同国に持ち込まれて
いる。
C4ADS によると、金体制は2015年から17年の間に、こうした輸入に米同盟国を含む最大90カ国を
巻き込んでいた。従来考えられていたより多くの国が関係しており、現行の禁輸措置は「全く不十分」
だという。
国連安保理の3月の報告書によると、核兵器の放棄へ圧力を高める経済制裁で包囲されながらも、
北朝鮮は制裁を逃れるさまざまな手法を見つけ出してきた。報告書は、北朝鮮が石油製品の密輸や
小型兵器の販売ルートを維持していると指摘している。
北朝鮮は米国との核協議で制裁解除を勝ち取ることを優先している。ただ、北朝鮮は高級品に
多額を費やしていることから、少なくとも金持ちのエリート層は、経済制裁にもかかわらず快適な
生活水準を維持していることがうかがわれる。
C4ADSによると、高級品の売買に関わるのはたいてい、「ドンジュ(マネーの達人)」と呼ばれる
個人実業家や、海外に赴任している北朝鮮の外交官だ。これまで知られていなかったが、ここ数年で
高級車800台超が購入されていたことも明らかになった。
そうした高級車には正恩氏の専用ベンツ2台も含まれる。車両識別番号が特定できないことから、
C4ADSは平壌で正恩氏が乗る様子が写真に収められたベンツが追跡車両と同一かどうかは確認
できないとしている。
リムジンで平壌をパレードする金正恩・朝鮮労働党委員長と中国の習近平国家主席(6月20日)
ベンツのメーカーである独自動車大手ダイムラーの広報担当者は、車両がどこからどのように
納入されたのか見当がつかないとし、同社は15年以上、北朝鮮との取引がないと述べた。
また、欧州および米国の規制を順守するため、包括的な輸出管理プロセスを活用しているものの、
第三者もしくは中古車の販売は同社の管理外であり、責任を負えないと語った。
2018年10月、ベンツ2台を載せた輸送船が韓国からロシアへ向けて出港した。
その直後、同船の無線通信は18日間にわたって検知できなくなった。高等国防研究センターはこうした
行為を制裁に違反し、追跡を恐れる船舶の常とう手段と説明している。
これと同時期に、北朝鮮国営の高麗(こうらい)航空が運航する輸送機3機がロシアのウラジオストクに
派遣された。
C4ADSによると、輸送船の無線通信が回復したときには、同船は韓国の水域を通過中で、数千トンの
無煙炭を積載していると報告された。
さらに数カ月が経過した今年2月、韓国当局が同船を拿捕(だほ)した。違法な石炭輸送に関与し
制裁に違反した疑いが持たれている。
釜山でコンテナはDo Young Shipping社の所有する船舶DN5505に積み替えられ、北朝鮮へと到着
している。高等国防研究センターはDo Young Shippingのオーナーの名前を特定できなかったものの、
これに関連する人物としてロシア人実業家のダニール・カザチュク氏の名前が浮上していることを
明かしている。