「中国」から「台湾」へ 広がる「正名運動」
「チャイナエアラインはどこの航空会社?」
(産経 2003.02.20 朝刊国際欄)
台湾で「中国」や「中華」を冠する企業や団体の名称変更を求める「正名運動」がじわりと広がっている。台湾最大の航空会社「中華航空(チャイナエアライン)」であっても海外では中国の航空会社と誤解されることが多いほか、台湾の人々も「中国」や「中華」の名称に違和感をもち始めているからだ。五月十一日には「正名運動」を訴える十万人規模の決起集会が計画されている。そこには“国名”を「中華民国」から「台湾」に変えたいと願う台湾独立派の思惑も見え隠れしているようだ。(台北 河崎真澄、写真も)
■「中国」から「台湾」へ名称変更-「正名運動」じわり
◆“本丸”は独立と国際認知
台湾を訪れた日本人観光客の多くが「中国石油」のガソリンスタンドの看板をみて、「なぜ台湾に中国が?」と首をひねる。ホテルで新聞を手に取れば「中国時報」の題字にも「?」。台湾大学のすぐ近くに「中国文化大学」があると聞いて頭がますます混乱する。
台湾内外およそ百の民間団体で構成する「511台湾正名運動連盟」が作成したリストには、「中国」や「中華」を冠につけた百四十八の台湾の企業や団体の名がある。台湾総統府の黄昭堂国策顧問は、「まずそうした企業や団体から、名称の変更を求めていきたい」と話す。
台湾が戦後、中国大陸から撤退してきた「中国国民党」による「中華民国」に支配されたことからくる“名残”で、なかでも団体に関しては「台湾」を冠することを法律で禁じてきた。九八年一月に法改正されて規制がなくなったが名称の多くは手付かずのまま。しかし「中華民国」が中国を代表しているという“虚構”からくる名称は国際社会でも認知されないとして、より一般的な「台湾」を名称に使おうというのが運動の趣旨だ。
現実との矛盾解消を目的に立ち上がった「511台湾正名運動連盟」では、昨年を「宣伝年」として活動をスタート。今年を「行動年」と位置づけて実質的な運動展開を進める予定だ。同時に台湾当局も、こうした動きに呼応し始めている。
台湾当局が管轄している財団法人「中日経済貿易発展基金会」が昨年七月、「台日経済貿易発展基金会」へ名称変更するなど、公的部門の一部で静かに正名運動が進行している。また呂秀蓮副総統は今月十七日、「中国鋼鉄」本社での講演で「社名から中国の二文字を削除し台湾に改めるべきだ」と述べるなど、自らが「正名運動」に動いていることを強調した。
しかし「正名運動」が狙う“本丸”は名称問題の先にありそうだ。前総統の李登輝氏が総呼びかけ人となる五月十一日の集会では、総統府前に十万人を結集させることを目標にしているが、そのスローガンは「台湾の名称で国連加盟を申請せよ」。台湾全土で百万人の署名も集める計画だ。
「企業や団体の名称問題は台湾人アイデンティティー(帰属意識)確立に向けた手段の一つにすぎない」と同連盟の王康厚執行長は話す。“台湾独立”と国際的な認知がゴールといいたげだ。
とはいえ道のりは平坦(へいたん)ではない。「一つの中国」を主張する中国政府はかねて、台湾が独立宣言すれば武力行使も辞さないとの発言を繰り返している。「台湾」名で国連加盟申請すれば、中国に武力行使の口実を与えかねない。しかも台湾内部に「将来の中台統一をめざすべきだ」(周守訓・中国国民党スポークスマン)との考え方も根強いうえ、国名変更には住民投票による「中華民国憲法」改正という壁がある。
黄国策顧問はこうした内憂外患を抱える「正名運動」に関し「時間をかけても一歩一歩前進するしかない」と話す。台湾の「正名運動」はそろりと足を踏み出した。
《提唱者の「511台湾正名運動連盟」王献極プロジェクトリーダーに聞く》
◆「国共内戦以来の矛盾解消」
--「正名運動」を提唱したきっかけは
「最近まで台湾人民は数百年間、外来政権に支配され続け、自らの『国名』をもったことがなかった。一方、外来ではない民進党が初めて政権を握った二〇〇〇年に、敵対すべき相手ではないと感じたのか、逆に台湾の社会運動全体が停滞ぎみとなった。そこで運動を起こすことが急務だと感じた。正名運動を通じ台湾人民を団結に向かわせることが可能になる」
--昨年ブッシュ米大統領が「台湾共和国」と発言したことがあった
「単なる失言との見方もあったが、ブッシュ大統領は日常的に『リパブリック・オブ・タイワン』と話す傾向にあり、昨年四月の公式発言の後に何の訂正もなかった。これは意図的な発言と受け止めるに足りる。ブッシュ発言後に台湾の正名運動の賛同者は急増しており、国名変更は自然の流れだと実感している」
--「正名運動」に対する中国からの反発は
「公式には中国は何の反応も示してきてはいない。ただ事務局には中国や香港の記者が頻繁に取材に訪れる。中国が関心をもっていることをうかがわせるが、仮に圧力があってもわれわれは屈することはない。台湾が外交関係をもつ二十七カ国の関係維持にも自信がある。『国共内戦』以来の矛盾と虚構を解消することに、国際社会は賛同してくれるだろう」
【写真説明】台湾最大のネットワークをもつ「中国石油」のガソリンスタンド(台北市内で)
「チャイナエアラインはどこの航空会社?」
(産経 2003.02.20 朝刊国際欄)
台湾で「中国」や「中華」を冠する企業や団体の名称変更を求める「正名運動」がじわりと広がっている。台湾最大の航空会社「中華航空(チャイナエアライン)」であっても海外では中国の航空会社と誤解されることが多いほか、台湾の人々も「中国」や「中華」の名称に違和感をもち始めているからだ。五月十一日には「正名運動」を訴える十万人規模の決起集会が計画されている。そこには“国名”を「中華民国」から「台湾」に変えたいと願う台湾独立派の思惑も見え隠れしているようだ。(台北 河崎真澄、写真も)
■「中国」から「台湾」へ名称変更-「正名運動」じわり
◆“本丸”は独立と国際認知
台湾を訪れた日本人観光客の多くが「中国石油」のガソリンスタンドの看板をみて、「なぜ台湾に中国が?」と首をひねる。ホテルで新聞を手に取れば「中国時報」の題字にも「?」。台湾大学のすぐ近くに「中国文化大学」があると聞いて頭がますます混乱する。
台湾内外およそ百の民間団体で構成する「511台湾正名運動連盟」が作成したリストには、「中国」や「中華」を冠につけた百四十八の台湾の企業や団体の名がある。台湾総統府の黄昭堂国策顧問は、「まずそうした企業や団体から、名称の変更を求めていきたい」と話す。
台湾が戦後、中国大陸から撤退してきた「中国国民党」による「中華民国」に支配されたことからくる“名残”で、なかでも団体に関しては「台湾」を冠することを法律で禁じてきた。九八年一月に法改正されて規制がなくなったが名称の多くは手付かずのまま。しかし「中華民国」が中国を代表しているという“虚構”からくる名称は国際社会でも認知されないとして、より一般的な「台湾」を名称に使おうというのが運動の趣旨だ。
現実との矛盾解消を目的に立ち上がった「511台湾正名運動連盟」では、昨年を「宣伝年」として活動をスタート。今年を「行動年」と位置づけて実質的な運動展開を進める予定だ。同時に台湾当局も、こうした動きに呼応し始めている。
台湾当局が管轄している財団法人「中日経済貿易発展基金会」が昨年七月、「台日経済貿易発展基金会」へ名称変更するなど、公的部門の一部で静かに正名運動が進行している。また呂秀蓮副総統は今月十七日、「中国鋼鉄」本社での講演で「社名から中国の二文字を削除し台湾に改めるべきだ」と述べるなど、自らが「正名運動」に動いていることを強調した。
しかし「正名運動」が狙う“本丸”は名称問題の先にありそうだ。前総統の李登輝氏が総呼びかけ人となる五月十一日の集会では、総統府前に十万人を結集させることを目標にしているが、そのスローガンは「台湾の名称で国連加盟を申請せよ」。台湾全土で百万人の署名も集める計画だ。
「企業や団体の名称問題は台湾人アイデンティティー(帰属意識)確立に向けた手段の一つにすぎない」と同連盟の王康厚執行長は話す。“台湾独立”と国際的な認知がゴールといいたげだ。
とはいえ道のりは平坦(へいたん)ではない。「一つの中国」を主張する中国政府はかねて、台湾が独立宣言すれば武力行使も辞さないとの発言を繰り返している。「台湾」名で国連加盟申請すれば、中国に武力行使の口実を与えかねない。しかも台湾内部に「将来の中台統一をめざすべきだ」(周守訓・中国国民党スポークスマン)との考え方も根強いうえ、国名変更には住民投票による「中華民国憲法」改正という壁がある。
黄国策顧問はこうした内憂外患を抱える「正名運動」に関し「時間をかけても一歩一歩前進するしかない」と話す。台湾の「正名運動」はそろりと足を踏み出した。
《提唱者の「511台湾正名運動連盟」王献極プロジェクトリーダーに聞く》
◆「国共内戦以来の矛盾解消」
--「正名運動」を提唱したきっかけは
「最近まで台湾人民は数百年間、外来政権に支配され続け、自らの『国名』をもったことがなかった。一方、外来ではない民進党が初めて政権を握った二〇〇〇年に、敵対すべき相手ではないと感じたのか、逆に台湾の社会運動全体が停滞ぎみとなった。そこで運動を起こすことが急務だと感じた。正名運動を通じ台湾人民を団結に向かわせることが可能になる」
--昨年ブッシュ米大統領が「台湾共和国」と発言したことがあった
「単なる失言との見方もあったが、ブッシュ大統領は日常的に『リパブリック・オブ・タイワン』と話す傾向にあり、昨年四月の公式発言の後に何の訂正もなかった。これは意図的な発言と受け止めるに足りる。ブッシュ発言後に台湾の正名運動の賛同者は急増しており、国名変更は自然の流れだと実感している」
--「正名運動」に対する中国からの反発は
「公式には中国は何の反応も示してきてはいない。ただ事務局には中国や香港の記者が頻繁に取材に訪れる。中国が関心をもっていることをうかがわせるが、仮に圧力があってもわれわれは屈することはない。台湾が外交関係をもつ二十七カ国の関係維持にも自信がある。『国共内戦』以来の矛盾と虚構を解消することに、国際社会は賛同してくれるだろう」
【写真説明】台湾最大のネットワークをもつ「中国石油」のガソリンスタンド(台北市内で)
From: "Junko FOX"
To: "林 建 良" ; "TADA Kei"
Sent: Thursday, February 20, 2003 3:39 PM
Subject: 「中国」から「台湾」へ 広がる「正名運動」
林様 多田様
今日20日付けの産経朝刊に正名運動の記事がありましたので
お送りします。王献極さんのインタビューも。
それはいいんですが、よく読むと「皮肉」な表現が随所に見ら
れます。少し前に「台湾の声」でも槍玉にあげられていた内田
勝久・交流協会台北事務所長の発言と同じように、台湾独立派
を「警戒する」印象がありませんか。
産経って、やっぱり「親台派」じゃなくて「親中華民国派」?
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「中国」から「台湾」へ 広がる「正名運動」
「チャイナエアラインはどこの航空会社?」
(産経 2003.02.20 朝刊国際欄)