太陽LOG

「太陽にほえろ!」で育ち、卒業してから数十年…大人になった今、改めて向き合う「太陽」と昭和のドラマ

#553 ドックとマミー

2019年04月30日 | 太陽にほえろ!
めずらしく渋い色味のジャケットを購入したものの、やっぱり地味じゃないかと署に戻ってからも
ぐだぐだと悩むドック(神田正輝)。
若いもんは少々地味なくらいが似合うとボス(石原裕次郎)に励まされ、マミー(長谷直美)とともに
街に聞き込みに出たところ、幼い女の子から父親と間違われてジャケットの裾を引かれる。

迷子らしいその子は「ちえみ」と名乗り3歳だと言うが、対応に困っていたところに近くで男が殴られ重傷との知らせが入る。
やむなくちえみを連れて急行したふたり。
ドックは自分とそっくりのジャケットを着た被害者を見て驚くが、なんとその男はちえみの父親だった。




可愛いうえに人懐っこい最強の3歳児。

一晩だけという約束でマミーの家に連れて帰ってもらったが、ちえみは「お兄ちゃん」の一点張り。
電話口でお兄ちゃんを呼んでとせがむちえみと、うしろで泣き叫ぶ自身の双子。
マミーの「ちょっと、おかあさーーん」が妙にツボです。


岩城家阿鼻叫喚の図。


マミーから連絡を受けまんざらでもないドックと、ドックよりもなぜかさらに嬉しそうなラガー(渡辺徹)。

アパートにちえみを連れて帰ったドックは、ちえみの家がコーヒーを扱っている店らしいことをつかむ。
翌日コーヒー豆を扱う店を中心に探したドックとマミーは、ついに高谷というちえみの家に行きつき、
近所の人から、妻を喪ったちえみの父親に最近再婚話があったものの破談になっていたことを聞く。

高谷は北署が3年前から追っている島田紀子という女から、結婚詐欺で500万円もの金を奪われていた。
島田の行方を探そうとした矢先、高谷が心不全を併発し死んでしまった。


ちえみが欲しがっていた『赤ずきん』の絵本を買い与えたドックとマミー。
狼に食べられた赤ずきんとおばあさんを猟師のお兄さん(=ドック)が狼のお腹を切って助けた…と読み聞かせたマミーの
アレンジがのちのちまで影響します。

パパは死んでしまってもう会えないと伝えるドックに、「狼のお腹をハサミで切って」とせがむちえみが悲しい。
「パパは狼に食べられちゃったの?」と聞かれてそう答えてしまったマミーの気持ちもわかりますが、
ならばちえみは当然お兄ちゃんに助けてもらいたいと思うでしょう。

父親の死を、このときのちえみがどのように理解していたのかはわかりませんが、
声をふるわせながら真剣に伝えようとするドックと、こらえきれずに涙ぐむマミーの様子から、
幼いながらに大変なことが起きたということは感じたのではないでしょうか。

そこに山さん(露口茂)が現れ、ちえみを施設に連れて行けと命じる。
せめて今夜だけはそばに置いてやりたい。かわいそうです。
そう訴えるドックに山さんが告げた一言が、最初に観た時から忘れられません。


「明日になれば、かわいそうじゃなくなるのか」

ホントにそうだと思います。ひとときの感傷に流されず、本当にちえみのことを思えばそうするしかないでしょう。
そしてそれはドックのためでもある。
冷たいようだが…そう淡々と、しかし厳然と言い放つ山さんの言葉には、深い深い愛情が込められています。


施設に預けようとした際に、ドックの腕にしがみついて離れようとしないちえみ。
このシーンがとても自然で感心します。
いつの時代も天才子役といわれる子はいますが、だいたい何歳くらいから“演じる”という自覚ができるんでしょうね。

彼女はいわゆる上手い子役という感じではなく、あくまで自然で演技くさくないので、
逆にどうやって3歳の子に芝居をさせていたのか知りたいです。

幼い子の多くは、大人の男性を敬遠し女性には懐きやすい傾向があると思いますが、
ちえみはマミーといるときよりドックといる方が明らかに嬉しそう。
3歳にしてすでに女子力が高い感じで末恐ろしさもあります。

これだけ可愛いのに他の作品で観た記憶がなく、今はどうしているんでしょう。


高谷がだまし取られた大金を取り返そうと島田紀子を探すものの、彼女は何者かに殺されていた。
島田と共謀していた男が高谷を殴り殺し、口封じに島田をも殺害したと思われた。
であるならば、あの日高谷と一緒にいたちえみも危ない!

施設から、森にお兄ちゃんを探しに行くと言って出ていったちえみの行方を追うドックたち。
今回、いつもに増してドックの運転が攻めていて、うん、いいですねw

間一髪、男がちえみに手をかける直前に駆けつけたドックとマミー、そしてラガーの連携で事件は解決。

ちえみを引き取ると宣言したドックに、まさに子育て奮闘中のマミーが諭す。
「子どもはペットじゃないのよ。病気もするし、悪さもするの」

自分を慕い懐いてくる天涯孤独となったちえみに情が移るのはわかるものの、
ふだん冷静で合理的なドックが「引き取る」と決めたことに驚きました。
これがボギー(世良公則)やラガーならなんとなく納得しますが。

いっしょに育ててくれる相手の当てがあったのか?
男手ひとつで育てるなら、一係の仕事は続けられないでしょう。
たとえば内勤に変わってでも育てるつもりだったのか。

いい加減な気持ちで決めたわけではないと思いますが、それでもやはり思い直して
ドックはちえみを引き取りたいという高校教師夫妻に託すため、
ちえみが気に入っていたジャケットから革ジャン・黒いサングラス姿に着替え、
大嫌いな犬(しかもボクサー)を連れてちえみの前に立つ。

教師夫妻の夫の方が来ていたジャケットはちえみの父親のもの?ドックのもの?
ちえみがジャケットの匂いを嗅いで安心したように緊張をゆるめたのが印象的でした。

わざと嫌われて自分のもとから離れさせようとするドックの意図を酌んだ教師夫が、
さりげなくドックに慈悲のこもったまなざしを向けるのが泣かせます。
そして、ちえみもなんだかドックの気持ちをわかって吹っ切ったように見えるのは深読みしすぎでしょうか。



夫人から真っ赤な帽子をプレゼントされ、まさに赤ずきんちゃんになって施設を去るちえみ。
彼女の明るい笑顔と夫妻のやさしく温かな声。
それを背中に受けながら別れを告げるドック。
そんな彼を気遣うように見上げるボクサーw

このころのドック編は、初期にはなかったほろ苦い結末が増えた気がします。

「着ているもんが違うだけでそっぽ向かれちゃうんだもんな」
犬の効果が絶大だったと思うのですが、それは言わないドックのやさしさ。
それがボクサーにも伝わっていたのでしょう。
「お前を気に入ってキャンキャン鳴きどおしだと」


やっぱり。そんな気がしてた!