イギリスで設立された会社は、イギリスの会社法及び税法の規定に基づき、イギリスの住所を会社の登録住所として登記し、年1回の株主総会を開催し、Statement of Confirmation(年次報告書)を提出し、財務諸表を作成しなければならず、且つ特定の規定に従いその年次財務諸表に対する監査が公認会計士によって行われなければなりません。
また、会社は期限内に歳入関税庁(HMRC)へ法人税申告書及びその証拠書類(年次財務諸表及び納税申告書等)を提出する必要があります。英国会社の経営業務が酒類・たばこ販売等の規制業種に該当する場合には、特定の免許又は許可の申請が必要です。
会社法によるコンプライアンス要求
1 会社秘書役(Company Secretary)
英国会社法により会社秘書役を選任する要求がありませんが、秘書役を利用して取締役の役割を一部担わせるために、秘書役を選任する会社は少なくありません。
会社秘書役は会社の取締役を兼任できますが、以下の者であってはいけません。
(1) 会社の会計監査人
(2) 債務をまだ負担している破産者(法廷に承認される場合を除く)
個人が破産した場合、借金を帳消しにした後に破産者に課される制限は解除されます(「免責」と言われる)。破産者名簿を通じてある人の債務が免除されたかどうかを調べることができます。
2 登録住所(Registered Office)
英国会社法の要求により、全ての英国会社は設立された日からイギリスにおける登録住所を有しなければなりません。登録住所は、会社までの連絡・通知を受け取れる住所です。メールアドレスを会社の登録住所とすることができません。英国会社の登録住所は設立地における住所でなければなりません。従って、イングランドやウェールズで設立された会社はイングランドやウェールズにおける住所を提供しなければなりません。同様に、スコットランドの会社もスコットランドにおける住所が必要です。
英国の法令に基づき、英国会社は取引先に連絡したとき、会社の登録住所を明示する必要があります。インボイスやレターの上にも登録住所の明示が必要です。英国会社の会社名は登録住所に明示されなければなりません。例えば、住所がオフィスビルにある場合、オフィスビルの入り口に会社表札を貼り付ける必要があります。英国の2006年会社法により、英国会社はその公式サイトにも登録住所を明示する必要があります。
3 現地取締役(Local Director)
英国会社法の要求により、全ての英国会社は取締役を最低1名選任しなければなりません。取締役の主な役割は会社の経営管理を担当し、且つ正確な財務諸表や報告書などが作成されていることを確保することです。
会社の取締役は満16歳以上であり、且つ取締役に就任する資格を取り消されたことがない者です。取締役は英国非居住者でも可、世界中どこに住めても可、取締役に任命されても英国に住む必要がありません。
取締役の氏名及び個人情報は、会社登記所(Companies House)を通じて一般公開がされています。取締役はサービス住所(連絡先の住所)を提供しなければなりません(当該住所も会社登記所を通じて一般公開がされています)。取締役は自宅の住所を使用する場合、会社登記所に記録簿から当該住所を削除することを要求できます。
4 特定事項の申告要求
英国の2006年会社法の規定に基づき、英国会社は以下のいずれかの変更が生じたときには、会社登記所に申告しなければなりません。
(1) 会社の高級職員の変更、または高級職員の個人情報の変更
(2) 会社の登録住所の変更
(3) 株式分配の変更
(4) 会計年度の変更
(5) 変更登記(会社を含んでいる利害関係者による変更登記)
(6) 会社名の変更
(7) 会社定款の変更
なお、会社の議事録および名簿・登記簿を会社の登録住所または指定の住所に保存する必要があります。
5 Statement of Confirmation(年次報告書)
全ての英国会社は会社登記所にStatement of Confirmation(旧称:年次報告書)を年1回に提出しなければなりません。Statement of Confirmationを提出する目的は以下の情報を申告することです。
(1) 会社の登録住所
(2) 会社の主たる経営活動
(3) 株主名簿の保存住所
(4) 会社の種類(例えば株式有限責任会社または保証責任有限会社)
(5) 取締役の氏名と住所
(6) 秘書役の氏名と住所(適用される場合)
(7) 発行可能株式総数、額面金額及び株式の権利
(8) 会社債券の保存詳細(適用される場合)
英国会社は期限内にStatement of Confirmationを提出できていない場合、罰金が発生しませんが、規定に従い期限前にStatement of Confirmation(年次報告書)を正確に提出してなかったならば、会社又は取締役が会社登記所に罰される可能性があります(例えば、会社又は/及び取締役が起訴され、または法人登記が抹消されます)。
税法によるコンプライアンス要求
1 法人所得税の申告
英国会社は法人税申告書(Corporate Income Tax Return)を作成し、英国歳入関税庁(HMRC)に提出しなければなりません。税金を納める必要がなくても、法人税申告書の提出が必要不可欠です。会社が休眠中のため英国歳入関税庁によって別の要求がされる場合は別です。
法人税申告書には、以下の内容が含まれますが、これらに限定されません。
(1) 固定資産の購入に対する減価償却(Capital Allowance)
(2) 資産の売却価格が元の購入価格を上回ることによって生じた収益
(3) 会社の会計年度末までに未返済の取締役借金
(4) 税金を支払うために返済する取締役借金
(5) 税金の減免
(6) 前期の欠損金の繰越控除
法人所得税の納付期限は会計期間終了後9ヶ月と1日までです。法人税申告書の申告期限は会社の会計期間終了後12ヶ月です。大企業と定義されている会社は、英国の法人税を四半期ごとに納める必要があり、第1期の納付期限が会計期間開始後の6ヶ月と13日までです。法人税を滞納した場合の罰金は以下の通りです。
延滞日数 |
罰金 |
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1日 |
100ポンド |
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3ヶ月 |
追加100ポンド |
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6ヶ月 |
HMRCが概算した未納付の税金額に10%の罰金を加える |
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12ヶ月 |
HMRCの概算した未納付の税金額に10%の罰金を加えた後 に追加10%の罰金を加える |
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英国会社は3回連続で提出期限までに提出できなかった場合は、100ポンドの罰金が500ポンドまでに引き上げられます。
2 付加価値税(VAT)の登記と申告
(1) 付加価値税(VAT)登記
付加価値税とは、英国政府は英国内で提供される商品・サービス、および英国へ輸入する物品に対する税金です。付加価値税は日本の消費税(GST)と似ていますが、まったく同じではありません。
英国における物品・サービスの提供者の年間売上が85,000ポンドを超え、または85,000ポンドを超える見込みがある事業者(有限責任会社、パートナーシップ企業または独資企業)は、歳入関税庁にVAT登録する必要があります。前述の年間売上とは、12ヶ月の期間内、つまり毎年の4月6日から翌年の4月5日までの期間の売上を指し、英国の会計年度の売上ではありません。
ただし、年間売上が85,000ポンド以下でも、VATの任意登録はできます。VAT登録のメリットは二つあります。一つ目は会社のキャッシュフローが増加することです。二つ目は顧客からの信頼が増えることです。なぜかというと、VAT登録をしていない英国会社は規模がとても小さいからです。
(2) 付加価値税(VAT)の申告と納付
一般的に、全ての会社は四半期ごとにVATを申告・納付しなければなりません。月ごとに、または1年ごとに(年間売上が135万ポンド以下の場合)申告・納付することができます。
VATの申告と納付の期限は、VAT課税期間終了後1ヶ月と7日以内までです。例えば、英国会社は四半期ごとのVAT申告であれば、2020年第2四半期(4~6月期)のVAT申告・納付の期限は2020年8月7日までです。申告期限までにVATの総額を英国歳入関税庁(HMRC)の銀行口座に振り込まなければなりませんのでご注意ください。
(3) PAYE
PAYE(Pay As You Earn)とは、個人所得税と国民保険料を徴収する累積源泉徴収制度です。課税対象期間は毎年4月6日から翌年の4月5日までとなります。被雇用者としては、給料の総額に基づき計算すると税額がわかります。
PAYE制度に基づき、英国会社は雇用主として、従業員の給料からその個人所得税と国民保険料(National Insurance Contributions)を差し引いてから、HMRCに支払う必要があります。英国会社は雇用主負担分の保険料(Employer’s Class 1 National Insurance Contributions)を納付する義務もあります。
また、英国会社は定期的にHMRCに所得税及び国民保険料の予定金額と納付済額が記載された申告書を提出する必要があります。