kamacci映画日記 VB-III

広島の映画館で観た映画ブログです。傾向としてイジワル型。美術展も観ています。

誰よりも狙われた男

2014年10月27日 | ★★★☆☆
日時:10月25日
映画館:新生サロンシネマ
パンフレット:B5版720円。

原作ジョン・ル・カレと言うだけでそそられますなあ。

時代は現代。冷戦時代の諜報戦のメッカと言えばイスタンブールとかウィーンだったが、現在はハンブルグらしい。かの地に国際指名手配されているチェチェン人の青年が密入国し、ドイツの銀行家に接触を図ろうとする。どうやら巨額の資金が動くらしい。テロ組織に資金が流れることを危惧した、ドイツの諜報機関とCIAが彼を巡って暗闘を繰り広げる。さらにテロ組織への資金提供窓口を運営しているとおぼしきイスラム教徒の学者を巻き込んでいく。

ちなみにタイトルである「誰よりも狙われた男」とはフィリップ・シーモア・ホフマンのことだと思っていたが、実はチェチェン人の青年を指す。

【以下、ネタばれあり。】

ドイツ諜報機関の行動チームのリーダーがフィリップ・シーモア・ホフマンで、チームがやっていることは犯罪まがいの盗聴・盗撮・誘拐。毒を以って毒を制すと言えば聞こえは良いが、実行部隊は泥臭い。

映画そのものには全然派手さがなく、テロや陰謀が存在していたがどうかもよく分からない。無関係と思えるささいな事件をきっかけに大きな事件に繋げていく展開は、ル・カレそのもの。「スマイリーと仲間たち」なんかを思い出した。

ただ、その地味さが映画に向くかどうかは別で、そこを引っ張るのがフィリップ・シーモア・ホフマンなのだが、彼がアメリカ人の本人にしか見えず、ドイツ人には見えないのが難。(ル・カレは彼がイチオシで、ジョージ・スマイリーも演じさせたかったとか。)雰囲気的にはステラン・スカルスガルドがピッタリだと思うが、そんなキャスティング・ディレクターは給料泥棒だろう。あまりにベタだね。

セリフももちろん英語なのだが、「Michael」をマイケルとベタ英語読みする原語を「ミヒャエル」とする字幕には好感が持てる。

ドイツ人銀行家を演じるのがウィレム・デフォーなのだが、これもアクが強過ぎてドイツ人に見えない。きっとテロ組織を裏で操っているに違いないと思いきや、ル・カレの小説にそんな荒唐無稽などんでん返しがあるわけではなく、スマイリー・・・じゃなくてホフマンに翻弄される不運な銀行家・・・。

と、書けば書くほど、ル・カレ風味のよく出た映画と分かるのだが、とにかく「まずフィリップ・シーモア・ホフマンありき」みたいな狙いすぎたキャスティングで損をしてしまっている。案外、ドイツ人俳優で地味に固めた方が映画としては面白くなったかも知れない。

ところで今回初めて行った新生サロンシネマ、劇場の壁面は宮崎祐治のイラストで飾られている。
その中にあったこれについて

FB友だちから「右の人、kamacciさんに似ていますね。」とコメントが。

そんなことを嬉しげに言いふらしている野郎は、きっと「誰よりも狙われた男」になることだろう。






題名:誰よりも狙われた男
原題:A Most Wanted Man
監督:アントン・コービン
出演:フィリップ・シーモア・ホフマン、レイチェル・マクアダムス、ウィレム・デフォー、ロビン・ライト
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ポンペイ

2014年06月29日 | ★★★☆☆
日時:6月25日
映画館:バルト11
パンフレット:A4版720円。

史劇とかペプラムものは、基本的にワタシの守備範囲外。本作も同様の扱いだったが、POPには「「バイオハザード」の監督最新作!」の身も蓋もない惹句が!
ポール“ダメな方の”アンダーソン(以下、PWSAと略。)と揶揄されるが、後述する理由で彼の作品をチェックしているワタシは守備範囲外でも観なくてはなるまい。

タイトルが全てを語る映画なのだが、そこはいつも脚本が乱暴なPWSA、今回のストーリーはローマ人に家族や仲間を皆殺しされたケルト人の少年が奴隷の剣闘士として成人し、ポンペイで仇敵と対決するというもの。その途中で市長の娘と身分の違う愛を育むが、その一方でヴェスピオ火山の噴火が迫る・・・って、採録するワタシが恥ずかしいような内容。

まあ、そんなことはいつものことなのでスルーしてしまい、やはりPSWA映画の魅力といえば武骨な巨大メカ!メカ!メカ!メカ!
三銃士映画でさえ「ゴレンジャー」みたいなナゾの飛行船を繰り出したPWSAのことだ。ポンペイとはいえ、きっと16頭立ての巨大戦闘馬車が爆走してグラディエーターと戦うに違いない!と妄想したが、今回、巨大メカネタは完全封印。

今回は剣闘と大パニック描写に力が入れられ、そこは成功している。中盤まで中だるみするのは止む得ないが、10対100のグラディエーターの対決から、火山の噴火でポンペイが壊滅していく70年代パニック映画風の展開まで、畳みかけるように話が進む。逃げ惑う大群衆に、3Dで見なかったことを悔やむような悪趣味で迫力ある災害シーン。ワクワクするなあ。

特に、煤煙が降り続く中、廃墟となったアリーナで、憎々しげなマカロニ顔のローマ人剣士(演じるサシャ・ロリンズがロマノ・プッポぽくって最高。)とスキンヘッドの黒人グラティエーターが対決するシークエンスは涙が出そうになるくらい、カッコいい。PWSA映画で泣けるシーンがあるとは思ってもみなかった。

キャスティング的には見るべきものはなく、主役とヒロインは見栄えがしないし、敵役を演じるキーファー・サザーランドが浮きまくって「グラディエーター」のホアキン・フェニックスを思わせる。(ちなみにジャレッド・ハリスがリチャード・ハリスの息子とは初めて知った。)まあ、映画のタイトルが暗示するように登場人物は全員死にます。

ところで、前々からワタシの予想(妄想?)では、PWSAの最終目標は独ソ戦映画(もちろん、主演のロシア兵は嫁のジョヴォビッチ)ではないかと思っており、本作の目的は歴史大作を描ける監督としての地位の確立と、これまであまり描いてこなかった俯瞰での映像技術ではなかったのかと憶測している。とにかく、CGとはいえ俯瞰の映像は手を変え品を変え登場してきて、「ウエスタン」ばりのクレーンショットもどきまである。

よって何度も登場するポンペイの街並みの息遣いとその災害の俯瞰に、ロシアの平原を邁進し、激突する独ソの戦車群をオーバーラップさせるのです。






題名:ポンペイ
原題:POMPEII
監督:ポール・W・S・アンダーソン
出演:ジェシカ・ルーカス、エミリー・ブラウニング、キーファー・サザーランド、ジャレッド・ハリス、キャリー=アン・モス
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キャプテン・アメリカ ウィンターソルジャー

2014年05月13日 | ★★★☆☆
日時:5月11日
映画館:バルト11

前回書き込んでから随分、日が経ってしまったが、ポール・ジアマッティ、ポール・ダノ、そしてミヒャエル・ファスベンダーの悪い白人演技が際立ち、鞭打ちのシーンの長回しにビックリした「それでも夜は明ける」、今さらながらに「座頭市物語」、礼儀としてビール片手に鑑賞し、すごい展開に付いていけなかった「ワールド・エンズ 酔っ払いが世界を救う」、まあそれなりの続編「テルマエ・ロマエ2」とそれ相応に映画館には通っているので、ご安心を。(何のこっちゃ)

さて、ここ数年のアメコミ原作映画の濫発ぶりはさすがに追いつけないのだが、それなりに前作が面白かった「キャプテン・アメリカ」の第2弾。どうしようか悩んでいたが、ポスターの中に懐かしい顔が。おお、ロバート・レッドフォードじゃないか!

しかも、ストーリーは70年代ポリティカル・スリラーを意識したものらしい。60年代スパイ映画とアメコミが見事に融合した「X-MEN ファースト・ジェネレーション」の成功例もあることだ。

世界平和を守る組織、S.H.E.I.L.D.の一員として生真面目に活躍するキャップだったが、フューリー長官が謎のスーパー暗殺者、ウィンター・ソルジャーの襲撃を受け、不可解な事件が続く。そしてキャップ自身もS.H.E.I.L.D.から追われる身になる。

巨大組織内の陰謀に巻き込まれ、追いつめられる主人公なんて70年代の王道の話で、ロバート・レッドフォードの登場もいい感じなのだが、クリス・エバンズを筆頭とするこの顔ぶれの中では異質すぎるので、それだけでネタばれになっているんですけどね。(笑)

70年代を意識したカーアクションは派手で、最近のCGまかせではない生身の迫力があるし、それと前後して起きる銃撃戦もなかなかのもの。

ところが残念ながら、70年代ポリティカルスリラーの肌触りが伝わってこない。元々主人公とお仲間ご一行が強過ぎる上、ドラえもんのひみつ道具みたいな便利グッズで急場をしのぐから、70年代の追い詰められる主人公たちみたいな切迫感がない。

さらに当時は事件の真相を暴露しようにも大手メディアは信用できず、「妄想癖のある人間のたわ言」として片付けられそうだったものが、現代はネットで全て暴露できてしまう。そういった肌感覚の違いはやっぱり埋められないんだな。

そこにウィンター・ソルジャーの話が同時進行してしまうのだが、肩に露助の赤い星を付けているなら、その辺も70年代的に上手くストーリーに絡めて欲しかったところだ。

話がキャスティングに戻るが、S.H.E.I.L.D.の女性理事は前回に引き続いて、懐かしのジェニー・アガター。残念ながらパワーズ・ブースは出てこないが、何とスミソニアン博物館のナレーターがゲイリー・シニーズ。妙なところのツボの押さえ具合が何ともいえない。

ところでラストに次回の悪役となるフォン・シュトラッカーが登場し、どこぞで見覚えのある顔だと思いきや、これが21世紀にクリスチャン・ベルケルと並んでドイツ軍服が似合う「スターリングラード」「戦場のピアニスト」「ヒトラー最期の12日間」「ワルキューレ」のトーマス・クレッチマン。
「21世紀のアントン・ディフェリング」の称号は先のクリスチャン・ベルケルにしているので、彼のことは「21世紀のウォルフガング・プライス」と呼ぶことにしよう。(笑)







題名:キャプテン・アメリカ ウィンターソルジャー
原題:Captain America: Winter Soldier
監督:ルッソ兄弟
出演:クリス・エバンス、スカーレット・ヨハンソン、サミュエル・L・ジャクソン

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ローン・サバイバー

2014年04月16日 | ★★★☆☆
日時:4月4日
映画館:バルト11
パンフレット:A4版720円。増税の関係で20円なんて端数のあるパンフレットなんて初めて買った。

ディスカバリーチャンネルの「米軍:エリートへの道」という、米軍の専門部隊の選抜過程を追ったプログラムがなかなか面白い。(レンジャー、スナイパー、パラレスキュー、工兵など専門部隊が取り上げられるが、これらでさえデルタやシールズといった特殊部隊よりはまだ普通の部隊なのだから恐ろしい。)

このプログラムが面白いのは、その選抜過程というより、その選考過程を支える教育システムや公平さのシステマチックな組み立てられ方で、さすが何十万人の中からエリートを選ぶことに長けたアメリカ人らしさがよく分かる。(志願者はなぜか白人かヒスパニック系が多く、アフリカ系アメリカ人は驚くほど少ない。(と思う。))

広報番組ということもあるのだろうが、インタビュイーの志願兵の発言も「自分を高めるために参加しました。」「自分の限界に挑戦したいのです。」ととことんまで前向き。

映画のオープニングではそんな番組のダイジェスト版を見せてくれて、エリート中のエリートの物語であることが分かる。

現代のアフガニスタンでシールズの4名がタリバンの重要人物確保作戦に出動するが、予想外の展開からタリバンに追い詰められるお話。ストーリー展開は数年前の事実に基づいているだけあって、描写も正確なのだろう。ディテールも細かく、まさに先のドキュメンタリーの延長のよう。時代考証を無視した軍装がふんだんに出ていた戦争映画の頃とは隔世の感。

ところが困ったことに、これが映画として面白いかといえば、そこは疑問符。タイトルからして1人しか、1人だけ生き残るというオチが分かっているのだし、戦うのも4人なので演出的に幅が出ない。先にも述べたように特殊部隊の隊員は人間的には優れているので、いがみあうようなこともない。つまり生真面目に延々と銃撃戦が続くだけ。悪くいえば映画としてのケレン味に乏しい。

観ながらどうしても比較してしまったのが「ブラック・ホーク・ダウン」。最新兵器の米軍がよそ様の土地で袋叩きにあう同種の話だが、「ブラック・ホーク・ダウン」が作戦規模が大きく、ドラマに幅があるし、関与している人間が多いだけに、それぞれの思惑や英雄的行動が上手く出ていた。(まあ、監督の演出力の差も大きいのは間違いないのだが。)

それに事件と映画の時間的な差も要因だろう。本作は事件から日が浅いだけに、フィクションの入る余地がなさそうなのだ。

単調な銃撃戦はさておき、印象的なのは岩山、特にその岩山からの転落シーン。ワタシ自身、里山ハイキングが好きなので、それだけでワクワクする。特に広島市内ではこの映画のような岩稜が続く鎌倉寺山が大のお気に入り。あんなところから転がり落ちるのかと思うと観ているだけで、イタイ。普通死ぬやろと思わせるが、そこはシールズなので、かろうじて立ち上がり続ける。

そんな岩山をタリバンは執拗に追いかけてくるのだが、地元の山を知っていれば通りやすいルートも当然、熟知しているわな。

実際、アフガニスタンには行ったことがないのだが、景観に違和感をおぼえたら、ロケ地はニューメキシコ。やっぱり、植生が違うような気がするんだよな。

ところで、ここんとこ里山ハイキングに行けていないので、1日も早く行きたい。転がり落ちたりはしないけど。






題名:ローン・サバイバー
原題:Lone Survivor
監督:ピーター・バーグ
出演:マーク・ウォールバーグ、テイラー・キッチュ、エミール・ハーシュ
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ロボコップ

2014年04月13日 | ★★★☆☆
日時:4月7日
映画館:バルト11
パンフレット:A4版720円。(4月以降価格)前半にオムニ社の取扱商品カタログ付き。

オリジナル「ロボコップ」をリアルタイムで映画館で観た世代。

「ロボコップマーチにあわせて麻薬工場の取引現場に乗り込んで、悪党同士で誤殺する勢い、いいですね!」
「工場廃液で溶けた悪党が車で木っ端微塵になったあげく、ワイパーでふき取られるシーン最高。」
「バレッタ・ライフル、何て名前でしたっけ?そうそう、コブラ・キャノン!!」

とバイオレントなシーンの思い出話に花が咲き、その後、「ターミネーター」とあわせて無数のエピゴーネンを観続けてきた。

そのリメイク。事前情報としても賛否両論、いろいろあった。

個人的な結論から言えば、「悪くない。」

今回、ロボコップことマーフィーと家族の関係や法的なロボコップの存在意義といった点に比重が置かれており、オリジナルと似て非なる雰囲気をうまく作り出している。

マーフィーの人間顔を再三、出すことで、自己の存在理由を問うロボコップの感情が上手く伝わってくるし、活動時のみ黒いバイザーが降りるシーンに黒いボディ全体がカッコいい。

武装もテイザー主力で大丈夫かと思ったが、オリジナルの2・3みたいに一般犯罪者相手にロケットランチャーまで付けた重武装に比べると、話の展開に説得力がある。

犯罪者データベースとGPSと携帯電話の電波、CCTVの映像を組み合わせた捜査シーンは時代の流れを感じさせるし、無理のないリアリティを感じさせてくれる。今に本当にこうなるんだろうな。

逆に映画として弱いのが、悪役。前作のように絵に描いたような悪役がいないから、どうしても映画としての盛り上がりに欠けてしまう。犯罪組織は早々に、TVゲームのように退治されるし、民間軍事コンサルタントは悪役としての存在理由に弱い。黒幕も動機が寂しいぞ。

さらに芸達者な芸利ー・・・もといゲイリー・オールドマンが頑張りまくるので、彼のシーンが映画の中でバランスが悪い。もう少しマイナー系の役者でも良かったのではないか。

しかし、いたるところで指摘されているようにこの映画の最大の弱点はオリジナルの「ロボコップ」テーマの使い方。80年代を代表する、ベイジル・ポリドリウスのあの名曲をもっと活かさないでどうする。(笑)エンディングでThe Clashの「I fought the law」が流れるのは意味深でいいけど。

ところで、米軍や警察の高度情報化と重武装化を見ていると、映画としてロボコップに対抗できる重火力な犯罪者がなかなか出てこられないので、続編ではウクライナあたりからパワード・スーツでも密輸されないとバランスが取れませんね。(それがなぜ、デトロイト?)







題名:ロボコップ
原題:ROBOCOP
監督:ジョゼ・バジャーリ
出演:ジョエル・キナマン、ゲイリー・オールドマン、マイケル・キートン

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ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅

2014年03月12日 | ★★★☆☆
日時:3月9日
映画館:シネツイン
パンフレット:B5版700円。ページ数は少ないが、モノクロの落ち着いたデザインがいい。。

ワタシにとって「ネブラスカ」と言えば、一匹狼かべっぴんさんである。何のこっちゃ。

【以下ネタばれあり】

ちょっとボケの入った父親がインチキまがいの100万ドル当選手紙を信じ、1500キロかなたのネブラスカを目指そうとする。いくら止めても無駄と感じた中年の次男は車で一緒に旅することにする。

監督がアレクサンダー・ペイン。ワタシの大好きな映画の1本である中年男の悲喜劇を描いた「サイドウェイ」の監督。全編に監督らしい、さりげないしみじみとした空気が漂っている。

主演のジジイはブルース・ダーン。ボケているのか、素なのか判別できない強情さで息子を振り回す。「マシンガンパニック」「ブラックサンデー」「メイフィールドの怪人たち」の彼と言えば、前歯をむき出しながら悪態をついている印象しかないのだが、本作でも全く変わらない。これを円熟というのだろう。(ちょっと違う。)

そして、映画は全編、喪の黒・・・もとい、モノクロ。
これが時代を特定させないいい感じを醸し出している。観終わって、モノクロであったことが思い出せないくらい、白黒の映像が映画にしっくりきている。この寂寥感は「ジェシー・ジェームズの暗殺」に通じる心地よさがあるのだが、ネブラスカとカンサスシティは隣りあわせらしいから、それも納得。

二人は父親の生まれ故郷で、若き頃仕事していた町を訪れ、息子は父親の過去を少しずつ知り、困惑したりもする。久しぶりにあう顔ぶれは100万ドルのおこぼれにあずかろうと、あることないこと吹き込んでくる。ちなみにかっての仕事仲間(ステイシー・キーチ!)も同級生も元恋人ももジジイとババアばっかし。何の誇張もなく、平均年齢70歳くらいじゃないか?

父親はどうやら酒で身を持ち崩しそうになり、さらにちょっと世間ずれしたところもあったらしい。初めて知る父の横顔に困惑する息子。さらに親戚縁者の集まりのために、母親もやってくる。軽く暴走気味の父親にも母親にも強く言えず、ついつい流されて調子を合わせてしまう主人公にワタシ自身が重なって見える。ワタシの父親もちょっと似たところがあって、ワタシもなかなか本音で話すことができないでいる。

父親の積年の遺恨を兄と二人で晴らそうとするが、結局、思いっきり空回りしてしまうくだりは、大笑い。この少しピントの外れたところ、いいなあ。

ようやく宝くじの交換に来るが、実は父親の言うとおりで100万ドルが手中に・・・なんてことは一切なく、打ちひしがれたジジイは一層老け込んでしまう。半ばインチキと分かりながらも、100万ドルにこだわる父親。

「何か残してやりたいんだ。」

泣けるなあ、このセリフ。息子は日々の生活に困っている訳じゃないんだよ。何もいらなんだ。でも、父親として何かしてやりたいその気持ち。

最後に息子は父親のささやかな望みをかなえてやる。わかるんだよ、わかるんだよ、その気持ち。押し付けがましくないこの展開に何か救われたような気になる。

でも、ワタシは父親にそんな親孝行は出来ない。金の問題じゃなく、いろいろ現実的な問題としてね。だから、この映画がおとぎ話として心にしみてくる。






題名:ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅
原題:NEBRASKA
監督:アレクサンダー・ペイン
出演:ブルース・ダーン、ウィル・フォーテ、ジューン・スキップ
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キックアス ジャスティス・フォーエバー

2014年03月08日 | ★★★☆☆
日時:3月1日
映画館:バルト11
パンフレット:A4版700円。映画同様カラフルなデザイン。

ちょっと勘違いのダメヒーローと情無用の殺人娘ヒットガールの活躍を描く「キック・アス」の続編。キックアス、ヒットガール、マザーファッカー(元レッドミスト)の三人三様の成長を描き、登場人物もストーリーも完全に前作を引き継ぐ王道のパート2なのだが、映画評はあまり芳しくない。

【以下、ネタばれあり】

キックアスは、タカ派のリーダーが率いるマスク姿の自警団に参加して、危険な毎日を送り、一方、ヒットガールの方は普通の女子学生ライフの中でスクールカーストと戦うことになる。昨日まで命のやり取りをしていた人間がいきなり日常生活にウザさを覚えるあたりは「ハートロッカー」っぽい。

ところが、この主役二人の悩みが普通の青春映画すぎる。特にヒットガールの方は破天荒なキャラクター設定が生きていない。

一方、前作でマフィアの父親を殺されたレッドミストは更に悪の道を極めようとするが、やっていることがどうもセコい。が、そこがちょうどいい感じ。彼のパートの方が先の2人より面白い。

これを側面支援するのがジョン・レグイザモ。永遠のチンピラっぽさで、「スーパーマリオブラザーズ」とか「スポーン」といった実写系出演作品を彷彿とさせて、これもいい感じ。(なのか?)もちろん、無様な死に様を迎えます。

ちなみにレッドミストはお父さんがマーク・ストロング(遺影のみ)、お母さんがヤンシー・バトラー(ハードターゲット)、叔父さんがイアン・グレン(バイオ・ハザード3)と血筋がよろしい。(笑)

しかし、本作で一番輝いているのは元KGBの工作員(死語)で無心論者のアカで露骨に露助なコスチュームもバッチリ決まっているマザーロシア!スター&ストライプなアメリカ帝国主義を叩き潰す暴れっぷりと悪役ぶりが実に素晴らしい。(元KGBの工作員って、トシいくつやねん!)

かっての友人がお互い父親を殺しあい最後に対決というのは、ギリシア悲劇なみの展開だと思うのだが、全然、悲愴感がないのは良いのか悪いのか。パート3は出来るのか?

ところで、前作を受けて「今回は「続・夕陽のガンマン」が流れるんですよ。」と言ったガンマンがいましたが、それはなかったよ。(笑)






題名:キックアス ジャスティス・フォーエバー
原題:KICK-ASS 2
監督:ジェフ・ワドロウ
出演:アーロン・テイラー・ジョンソン、クロエ・グレース・モレッツ、クリストファー・ミンツ-プラッセ
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アメリカン・ハッスル

2014年02月09日 | ★★★☆☆
日時:2月6日
映画館:シネツイン本通り
パンフレット:B5横版700円。

オープニングタイトルの70年代風のロゴとスローモーション撮影で一気に盛り上がる1978年、「ゾンビ」な年。
野心満々のFBI捜査官に逮捕されそうになった詐欺師とその愛人の詐欺師コンビは、起訴と引き換えにFBI捜査官発案の汚職政治家摘発の囮捜査「アブスキャム」作戦に参画することになる。ターゲットはカジノ誘致を画策する市長。詐欺師には本妻と連れ子の息子がおり、彼女の破天荒な行動が作戦を狂わせていく。つまりはコンゲーム映画の王道なのだが、チラシからは全然、そんな風に見えませんね。(笑)

基本的に主要な5人はみんな野心か色欲か金が目当ての欲望に忠実な性格。そのためには、本心を隠したり、人を騙したりし、それでどんどん話が転がっていくのは、この類の映画の基本だ。

だが、この映画の面白いところは、囮捜査(と詐欺)のパワーバランスが次々と変化していく点。
詐欺師が主導権を握っていると思わせつつ、FBI捜査官が手綱を握り、不確定要因として本妻と愛人が事態を混乱させる。汚職しているはずの市長はなかなか尻尾をつかませない。自分の流儀に反した詐欺師は、結果としてマフィアを相手にすることになり(伝説のビッグボスをノンクレジットで演じるのは、あのお方。笑っちゃいますね。)、どんどん抜き差しならない状況に追い込まれていく。

誰もが一度は話の主役となり、緊張感が途絶えることがない。絶えず画面を意識していないとどこに伏線が仕掛けられているか分からない。(実は1時間過ぎたあたりでトイレに行きたくなってしまったのだが、大事なシーンを見落とすのが怖くて、残り時間ずっとガマンしていた。(笑))

本作は数多くの賞、特に演技賞関係にノミネートされているが、それもそうだろう。脚本の妙味か、どの登場人物にも裏表があって、演じる方も面白くて仕方なかったに違いない。イギリス人を装うエイミー・アダムスネタなど、なまりがちゃんと聞き取れればもっと面白かったのだろうが、ワタシの語学力ではそこまで分からず。

よく主役の俳優が頑張りすぎて、他のキャストが付いてこれない映画があるが、クリスチャン・ベイルは押し出しするところは押し出して、控えるところは控えたバランスのいい役回り。ちなみにこの映画館で以前、観たのが「マシニスト」。他にも「アメリカン・サイコ」とか「サラマンダー」とか「ダークナイトシリーズ」とか本当に役柄の広い人だ。(笑)

ジェレミー・レナーも悪役顔で好きな俳優の一人だが、何をしても裏表があるようにしか見えないのが配役の妙。地域の発展を思い、清濁併せ呑む政治家としての手腕ゆえ、結果として被害者となるキャラクターにピッタリ。

結果として、誰もハッピーエンドにはなれないオチなのだが、こんな手法が認められるアメリカって、本当に恐ろしい。

ところで、この映画はアカデミー賞にノミネートされているが、この作品や「ウルフ・オブウォールストリート」が作品賞を受賞したら、昨年の「アルゴ」に続いて、人を騙す人の映画が続くことになりますね。






題名:アメリカン・ハッスル
原題:American Hustle
監督:デヴィッド・O・ラッセル
出演:クリスチャン・ベイル、エイミー・アダムス、ブラッドリー・クーパー、ジェニファー・ローレンス、ジェレミー・レナー
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鑑定人と顔のない依頼人

2014年01月25日 | ★★★☆☆
日時:1月23日
映画館:シネツイン本通り
パンフレット:B5版700円。最後にネタばらしの解説アリ。

イタリア人監督による新作ジャーロ・・・というのはウソです。

ワタシの好きな俳優の1人がジェフリー・ラッシュ。面長で陰険な顔立ち、ダミ声、演技力、センスある作品セレクト(笑)その彼がエキセントリックで高慢な有名鑑定人兼競売人を演じるミステリー映画。

やっぱりミステリー映画はヨーロッパのもんよ。権謀術数に満ちた歴史、何か隠されていそうな築何百年の建築物、普通にしていてもいわくありげな登場人物たち・・・
同じヨーロッパでロケしても、アメリカの監督とヨーロッパの監督では全然、映画の撮り方や空気感が違う。それだけで充分楽しい。

オークショニアがあんなに儲かる商売なのかどうかは知らないが、金持ち主人公は本業の傍ら自分の気に入った女性の肖像画を秘蔵コレクションしている。日々のお楽しみは大好きな女性の絵に囲まれて、悦に入ること。そんな彼の元に競売の依頼がある。顔を見せない女性依頼人に惹かれて行く主人公。

【以下、ネタばれあり。】

パブリッシングではミステリー調を前面に出しているが、ストーリーは人付き合いをしてこなかった男と人付き合いのできない女の不器用な恋模様を軸に展開する。そして、思いがけないクライマックスとなるのだが、あとで思い返すと仕掛けられたトリックが見えてくる。

ポイントは主人公は「女性」が好きなのではなく、「女性の描かれた高額な絵画」が好きということ。
実際に現実の女性が好きなら、肖像画や裸婦像の見方が変わり、絵画の向こうにある感情が見えたりするのだが、彼からそういった気配が感じられない。この辺の微妙な感覚は、「マレーナ」公開時に「監督はやっぱりエロかった。」と言われたトルナトーレらしさを感じる。

他にもいろいろと伏線が張られており、バラバラの部品からオートマタを再現するくだりなどこの手の話が好きなワタシなどもっと引っ張ってほしいところ。

ドナルド・サザーランドなど最初から怪しい。だいたい彼が温厚な役のわけがない。役柄的に仕事の相棒にすぎず、相談相手でもないのに、やたら出演時間が長いのだから、何かあると疑ってしかるべきだろう。(笑)あとで思い返すと「依頼人」の母親の絵を「美しい」というセリフに、真実が見えなくなっている主人公が表されていた訳だ。

この手のドンデン返し系のハリウッド映画は伏線やトリックが見え見えか、オチが強引すぎるか観客をなめているとしか思えないものもあるのだが、ヨーロッパの映画は見えるものと見えていないもののブレンド具合が上手い。やはり、ノワールやジャーロを生んだ土壌は豊かだ。

最後にこの映画の教訓。
「二次元の女にはまっていると、ロクなことにならない。」(ちょっと違う。)






題名:鑑定人と顔のない依頼人
原題:The Best Offer
監督:ジュゼッペ・トルナトーレ
出演:ジェフリー・ラッシュ、ジム・スタージェス、シルビア・ホークス、ドナルド・サザーランド

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ウルヴァリン:SAMURAI

2013年10月10日 | ★★★☆☆
日時:10月8日
映画館:TOHOシネマズ梅田。出張関係で20時頃まで仕事した後、ドタキャンをくらって、急遽レイトショーに飛び込み。シネコンとスマホの便利さを実感。(笑)
パンフレット:A4変形700円。

後輩に道を譲らず、13年間現役続投と揶揄されるヒュー・ジャックマンのウルヴァリン。何の因果か東京にやってきた。
「ミュータント、東京に現る。」

ストーリーはすでにメディアで報じられているので、ここでは触れない。(ただ、長崎の原爆の描写はフィクションとはいえ、ムカッとしたけどね。)

やはり、この映画の見どころは過去の因縁と向きあうウルヴァリンの活躍…ではなくビミョーにずれた日本描写。(でしょ?違うの?)

サムライ、ニンジャ、日本刀
ハイテク、ロボット、新幹線
ネオン、ヤクザ、ラブホテル
と、西洋人のこの辺のセンスはなぜこうなんだと思わせる場面は多々あるのだが、我々の知らない世界では本当に今も裏社会で忍者が活躍して、フルスピードで疾走する新幹線の上で乱闘しているのかも知れない。(この場面はバカバカしいながらも、なかなか斬新で面白い。)

よって、ウルヴァリンの周囲はヤクザとニンジャだらけで、これまでの特殊能力を持つミュータントがあふれかえっていたシリーズとはかなり趣が異なる。ウルヴァリンも暴力的に強すぎる割に、すぐ倒れて気絶してばかり。

相変わらずお綺麗なファムケ姐さんの登板も嬉しいのだが、びっくりしたのは福島リラ。西欧人好みの個性的な顔立ちで、「シン・シティ」のデボン青木程度の役回り程度にしか思っていなかったのだが、表情豊かでものすごい存在感がある。正直、全然好みじゃない顔なのだが、かなり惹かれた。これからも映画で活躍してほしい。

ところでヤシダ役のハル・ヤマノウチ。名前に覚えがあったので、調べてみたら、80年代のB級SFマカロニ・アクションで活躍してきたアル・ヤマノウチだった。(サムライ・ウォーリアーとかそんな役ばっかし。)
ヒュー・ジャックマンの目元アップとか、ハラダの登場シーンなどちょっとマカロニっぽさも感じただけに、彼の起用はちょっとうれしい。(笑)






題名:ウルヴァリン:SAMURAI
原題:THE WOLVARINE
監督:ジェームス・マンゴールド
出演:ヒュー・ジャックマン、真田広之、TAO、福島リラ、ファムケ・ヤンセン
コメント
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