神奈川絵美の「えみごのみ」

伝統を継ぐということ -風姿花伝 観世宗家展-


先日の取材前に、松屋銀座で開催中の、この展示を観に行った。
(会期は21日(月)まで)

観阿弥生誕680年、世阿弥生誕650年を記念し、
観世宗家に伝わる面、衣装、
そして日本最古の能楽論「風姿花伝」を始め、台本や舞台図といった資料が
一堂に公開されている。

私は、能の知識はあまりなくて
正直なところ、書物類のありがたみはよくわからなかったが、
今なお艶めく能装束の美しさ、独特の色遣いや文様は
どれもとても趣深いものだった。


これは火焔太鼓が配された唐織の衣装。
確か、敵に立ち向かうなどの
勇ましい役どころの女性(役)が纏うと説明に書いてあった。


こちらは「翁」という演目のワンシーン。
祝言の意味合いをもった舞中心の演目で、
観世宗家ではお正月に必ずこれを舞い、新年を迎えるそう。
26世宗家の観世清和氏の言葉だったか
「これを舞うたび観世家に生まれて良かったと思う」
というコメントが能装束の説明書きに記されていた。

この装束にあしらわれているのは蜀江錦(しょっこうにしき)といい、
翁の狩衣の決まり文様だそう。
もともと、蜀江錦は中国に起源を持つ織り方の名称だったが、
日本に入ってからは文様自体もそう呼ばれたとのこと。


狩衣とは…公家が日常的に纏う服だったが、時代が下るにつれ公服にも
用いられるように。

観世宗家に伝わる衣装は、
重厚な文様だけでなく、
例えば水鳥や水玉模様などは、
現代の軽い小紋に、こういう柄があってもいいなあ、と思うほど
くだけた感じ。

糸巻きや太鼓、間垣と比べれば、伝統柄と呼ぶほどの
重みはないが、
でも、こういう柄が何百年も残り、今でも通用しそう、ということに感心させられた。


伝統は、継ぐべき人がいて継がれるものだが
「継ぐ」=「続く」とは限らない。


会場内には複数のビデオ上映コーナーもあり、
出口に近いモニターには、観世清和氏が以前出演したNHKの番組が
流されていた。
人だかりがかなりあったので、通りすがら観ていった程度だが
ふっと耳に入ってきたコメント内容が、心に残った。

 -伝統は、受け継ぐだけではだめ。
   その時代に合わせ、形を変えながら、観てくださるお客さまと一緒に
     つくっていくもの-

 (主旨はこうだと記憶しているのですが、文言には自信がありません。すみません…)


なぜ、主旨を記憶しているかというと、
このとき、私は咄嗟に中村勘三郎さんのことを思い出したからだ。


勘三郎さんが亡くなったとき、一部メディアで
「既存の歌舞伎のスタイルを壊し」というように報じられていた。
確かに斬新な試みをしたかも知れないが、
決して伝統に抗って「壊し」たのではないことは、
ちょっとでも歌舞伎を知っていればわかるはず。

伝統を継ぎ、踏まえた上で、時代に合ったもの、
現代のお客さまに合ったものを創造した、という表現がより適切だと思うし、
今回の、観世清和氏が言っているのも
同じことなのではないかなあと思った。



※本展示のサイト(松屋銀座内)はコチラ

コメント一覧

神奈川絵美
りらさんへ
こんにちは
伝統って、その時代その時代に選ばれたものが凝縮されているようにも思うんですよね。
観世流なら、六百数十年の間ずっと伝えられてきたエッセンスもあるでしょうし、一方で、淘汰されちゃったり、江戸時代あたりに新たに加わった要素なんかもあるような。
こういうことは、きちんと研究していらっしゃる人なら史実に即してもっと的確に言えるのでしょうけれど…。
だから、伝統をふまえる=質の高い精神性をそなえる、ともいえるのではと思います。

りら
あ!私もこの街の美術館で開かれているお能の展示を見に行こうと思っていたんでした!
忘れないようにしないと・・・・

私も「伝統とは・・・」と書かれているのを拝読して「着物も同じだなぁ」と感じていました。
コメントで絵美さんが仰っていること、ホントにそうだと思います。
香子さんが書かれているように「型を踏まえたうえで・・・」というのが大事なことなんですよねぇ。

勘三郎丈とて、若い頃から独自の動きをされていたのではなく、長い年月伝統を受け継ぐ修練を重ねた上での試みで、だからこそ大いに受け入れられたのだと思います。
神奈川絵美
とうこさんへ
こんにちは
わぁ、いいですねぇ。私はまだ観世能楽堂には行ったことがないのです。
三月公演には興味があるのですが(二人静とか)、行けるかなあ…。

松屋の展示も良かったですが、やはり纏って舞う姿を観るのが一番かと。私も久々にお能の世界観に浸ってみたいです。
とうこ
http://ameblo.jp/toukolilas/
観世能楽堂の一月のお能に行ってきました。(翁から始まりました)
すごく久しぶりだったので、楽しめるまでたどり着けなかったのですが、指先・足先まで神経が行き届いた舞に感動しました。
今回の銀座のこの展示も券があり行きたかったのですが、時間が~~~。シンデレラのように、電車に乗りました。

神奈川絵美
朋百香さんへ
こんにちは
今、思ったのですが、着物もそうですよね。
伝統を再現するだけでは、現代においては
興味を持ってもらえないかも知れないし、
例え芸術品であろうと、「使う人」「纏う人」が
いなければ、伝統にはなっていかないですものね。
(私は民藝運動の思想に多少影響を受けているので、
なおさらそう思います)

一方、着る人、使う人の方も、
伝統として受け継がれている理由を理解し、
尊重する気持ちを持たないとな、と思います。
インクジェット印刷の着物でも、同じじゃん!
ではいけないのではないかと。
(実際に着るのは、好みやその他条件等で
インクジェットを着ても個人の自由ですから、
それに口をはさむつもりはありませんが、
同じ着物なんだから価値も同じ、と思われたら
寂しいですよね)
朋百香
http://www.tomoko-358.com
絵美さま
確かに伝統を守りながらも新しいものを
作り出してゆくからこそ、継承され続ける
のですよね。温故知新、ものを生み出して
ゆく人が常に心していなければいけないこと
だと思います。
神奈川絵美
ゆかりーなさんへ
こんにちは
水鳥と水玉の着物は、会場の中ほど、少し奥まったところに飾ってあります。水鳥などは今でもよく見る、ぷっくりした千鳥ちゃんそのもので、可愛いですよ。

伝統的な能装束も、舞台映えする派手めの色の組み合わせや、そうは言っても若向き、年配向きといった役どころも考慮した色遣いなど、解説を読みながらふむふむ、と勉強になりました。
良かったらぜひぜひ
ゆかりーな
この展示のチケットを頂いたのですが、お能は????なので積極的に行こうとは思っていませんでした。

現代の軽い小紋にも生かせそうな装束などを見て、自分の感性に磨きをかけなくっちゃと、行ってみる気になりました。
神奈川絵美
香子さんへ
こんにちは。そうでしたか…半蔵門での写真展、余裕があったら行ってみたいです。
そうそう、型をふまえた上で破るからこそ、型破りなんですよね
神奈川絵美
風子さんへ
こんにちは
会場でも、翁のたぶんさわりが3分ほど上映されていました。そのときは血は騒がなかったのですが、何となく晴れやかな印象は受けました。
いつかきちんと、生で観てみたいです。
香子
この週末、ワタシは勘三郎さんの追悼デーになりました。
シネマ歌舞伎を観、勘三郎写真展に行き、BSフジを観。。。
…型を踏まえた上で破って行くんですよね

写真展は半蔵門の日本カメラ博物館で2/3まで無料で開催中です。
風子
翁、は、東京でも各流儀 お正月に演じられていますから
機会があったらぜひご覧になってください。

日本人の血が湧きます~♪

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