今年度の法人内の実践報告会にガイドヘルプについてのレポートをエントリーしました。
惜しくも発表事例には選ばれませんでしたが、日中の通所施設職員にはガイヘルの実態を伝えるいい機会と思っています。
これを読んで少しでも多くの方がガイドヘルプに興味を持ってくれると嬉しいです。
「ガイドヘルプ ~笑顔に会いに行く~」
1.事例の概要
日中施設(生活介護、就労継続B型)からヘルパー派遣事業所に異動になった。平日の日中に施設に通われてくる利用者に対して支援を行う職員とは違い、利用者から依頼された場所・時間に赴き支援に従事する。施設職員とは働き方が大きく異なる移動支援(ガイドヘルプ)の従業者(ヘルパー)さん達へのアンケートを通して、ガイドヘルプの側面から障害者支援を捉え、障害福祉に携わることのきっかけや目的、また、その苦労ややりがいについて報告する。
2.課題の理解と目標設定
・ガイドヘルプとは
まず、ガイドヘルプとは、(知的)障害をお持ちの方が社会参加等に必要な外出時の支援を行う事業である。お休みの日(土曜、日曜、祝祭日)の余暇的なお出かけや、平日に小中学校への通学等の送迎支援など一人で出かけることが難しい際に、介助・支援を行う。利用者はヘルパーの介助・支援を受けて目的地への移動や、移動先で必要な社会的手続き等を行う。障害者総合支援法では地域生活支援事業に位置付けられている。
・ヘルパーとしての活動
ヘルパーステーション樫の木では、その担い手となるヘルパーと利用者(の依頼)を結び付ける連絡・調整を行っている。ヘルパーは依頼によって異なる時間に支援場所へ出向き、支援を行う。主に利用者宅から支援を開始し、利用者宅へ帰着する内容のものが多いが、ワンウェイで開始場所と終了場所が異なることや、同じ利用者でも送迎バススケジュール等によって時間が変わるなどフレキシブルな勤務形態が求められる。また、余暇的なお出かけは月に1~2度あるかないかなど固定で依頼があることが少ないことや、送迎などの依頼は一回の支援時間が短いためまとまった収入にはなりにくい側面がある。
上記の理由からヘルパーとしての活動だけで生計を立てるは難しいと思われるが、実際には担い手がいないと利用者の生活が成り立っていかないのも事実である。いま、樫の木に限らず、どのヘルパー派遣事業所もヘルパー不足と言われている。このことから、課題はヘルパー活動の実際を知らないことと捉え、ヘルパー自身が感じている移動支援の実態を掘り下げていくことで、その全貌を捉えようとすることを試みていく。
3.課題への支援方法
・アンケート調査の実施
現在、ヘルパーステーション樫の木に登録し定期的に活動を行っているヘルパーを対象にアンケート調査を行った。約40名のヘルパーに対してアンケート調査を実施し20件の回答があった。その中から項目ごとに内容をピックアップして、抽出されたエッセンスをまとめる。
・就業場所について
質問の内容として、一つ目の設問は就業場所に関してを問うた。これは開始場所と終了場所が①同じ場合と②違う場合(自宅→学校など)との2パターンにプラスして、自由記述を回答してもらった。結果、支援場所について①と②では、それほど大差ない結果が出た。②では、例えば自転車で開始場所に向かい、そこに自転車を置いておくと、送り届けた後に取りに戻らなければならないなど手間のかかる状況になるのだが、それほど否定的な受け止め方ではないことが分かった。その他には、自宅から支援場所が近い方が良い、利用者の要望なので気にしたことがなかったなどの意見があがった。ちなみに支援の開始場所まで向かう、終了場所から帰る交通費は事業所の負担でまかなわれる。
・就業時間について
利用者の依頼によって活動する時間が異なるガイドヘルプ。平日は日中施設や学校に通われている利用者さんが多いため、主に通学・通所支援(自宅→学校・施設もしくは自宅→送迎バスポイント)や降所支援(学校→放デイ・BOPもしくは送迎バスポイント→自宅)など朝・夕の時間帯にニーズが集中している。平日の昼間はほとんどニーズがないのが現状である。この点については、ガイドヘルパーを始めようとされている方で誤解しているのを散見する。スキマ時間に短い時間で依頼を受けてちょっとしたボランティア感覚で仕事に従事することを想定して資格を取りに来られる方もいるが、実際には平日の昼間は需要がそれ程ない。
土日になると、朝は9時もしくは10時に支援を開始して、長い方で7時間~8時間のガイドヘルプの依頼が大多数を占める。だいたいのお店が10時開店ということに合わせてのこともあるが、グループホームの勤務の関係で夜勤者が業務を終えて、日中は職員を配置しない場合にその間の過ごしとして依頼を受けることも増えてきている。
ヘルパーとしては、自分の都合と依頼の時間が合わないものは断るなど、取捨選択できることが長く続けるコツと言う方が多かった。
・ヘルパーをはじめたきっかけについて
もっとも多かったのが、身近に知的障害を持つ方がいてそのことをきっかけにしてガイドヘルパーを始めたという方であった。実際に移動に関わる困難を肌で感じているからこその要因と思われる。しかし、単純に楽しそうと思ったなど、これといった決め手が明確とは言い切れないような回答もあった。一方、アンケートからは外れてしまうが、ガイドヘルパーを養成する研修で出会うのは、友人に誘われて始めてみようと思った、社会貢献のために自分に何かできることはないかと思い、施設に勤務するほどではない(他に本業も持っている)が知的障害の方と触れ合う機会が得られるためなどの声が聞かれ、福祉のすそ野を広げる入り口としての役割の部分を担っているように感じられた。
・ガイドヘルプの楽しさ・やりがいについて
上記で見てきたように、仕事の内容(場所や時間など)が決まりきったものではないため、その都度ヘルパーが依頼に合わせていくことが求められる勤務形態だが、そのことにこそ見出されるものがあると回答してくれた方が多くいた。ヘルパー自身、利用者の依頼がなければ足を踏み入れることがなかったであろう場所に行くことができ、新たな発見ができた。普段行く場所であっても、利用者と一緒に行かなければ利用のしやすさや改善点に気付くことができなかったなど、ガイドヘルプでなければ味わえなかった醍醐味や、得られなかった新たな視点など、視野や世界が広がる面白さを語ってくれた。
そして、回答で一番多かったのが、楽しいと言ってもらえた、嬉しそうな・イキイキ表情がみられた、また一緒に出かけたいと声かけてくれたなど、利用者からの直接・間接的な手応えをつかんだ場面を挙げる方の多さだ。余暇的な過ごしを共にして、利用者の目的・思いが叶うことをサポートする支援だからこそ感じることができる部分であろう。また、その中で、社会とのつながりが感じられたと回答くださったのが印象的であった。
・苦労した点やエピソードについて
利用者一人では、目的の場所に移動することができないために利用するガイドヘルプだが、ヘルパー自身も初めて行く場所である場合も多々ある。いまは、スマートフォンでおおよその場所の地図や情報が手に入るので、実地踏査をせずともヘルプ前に大まかな行程を組むことができる。しかし、利用者によっては、駅前にレストランが多過ぎて食べたいものがなかなか決められない、目的の物と違うものがどうしても買いたくなってしまったなど、予算内の金額で時間内に帰ることが難しくなってしまうような場面に出会うこともあり、なかなか苦労する点は割と共通してみられるようだ。ヘルパー誰しもが通るようだが、その乗り越え方はそれぞれのようであった。
同じ利用者とのお出かけ回数を重ねると、だんだんと関係性ができて立ち位置や距離感、意思疎通が互いにつかみやすくなってくるが、関係が浅いと対応に苦慮することも多い。
また、周りの無理解や混雑していない状況でも車椅子を嫌がるなど社会との接点で苦労することを回答したものも多かった。
・ヘルパー活動を続ける秘訣
回答で一番多かったのが、無理をしないということ。自分の都合とあわない依頼は無理に引き受けないというスタンスがコツのようだ。自分のペースで、ほどほどに依頼を受け、そして利用者と一緒に思いっきり楽しむことが長く活動を続けさせている。また、うまくいかない場合でも事業所や先輩ヘルパーに聞くことや、くよくよせず次につなげることを意識するといった意見もあった。そこから、自分ならこんなヘルパーと出かけたいという姿を思い浮かべながら活動するヘルパーの姿を想像した。
4.支援の結果
移動支援事業についての概要と、そこで働くヘルパーについてアンケートをもとに全体像を大雑把にではあるが、捉えてみた。そこで見えてきたのは、①ある程度垣根の低い障害福祉への入り口になっていること。②少しニッチ的な立ち位置ではあるが、きちんと知的障害者の自己実現を支えるための支援ということ。③そのことを通して、社会との接点としての役割を大いに担っていることが分かった。公共交通機関、飲食店、商業施設の利用など社会の一員として、いち消費者としての利用者の手助けを行うだけでなく、そこで出会う方々との橋渡し役としてのヘルパーがいることで社会への啓発を促す存在である。ヘルパーも無理なく、やりがいを持って息の長い活動として続けられるよう、工夫をしながらそれぞれで取り組みを発展させている。
5.まとめ
ガイドヘルパーの実際がつかめればとの思いで、アンケートを実施した。基本的には一対一での仕事になるので、施設職員に比べると横のつながりの部分は弱くなる。そのことで、「こんな人たち」とイメージすることが難しい。また、必ずここに行けば会えるという訳ではないので、存在を認知しにくいという側面がある。だが、今回のレポートで、その中身の一端が垣間見ていただけたのであれば、何よりである。
コロナ禍で、外出がままならずガイドヘルプから離れてしまったヘルパーも多くいた。しかし、より安定した施設での勤務に移るなどして支援関係の仕事は継続している人も多い。ガイドヘルプを障害福祉の入り口として、利用者と関わる楽しさを味わい、いずれかの形で支援活動を継続していってくれているのであれば、ガイドヘルプが担うのは、移動を支援することだけではないと言えるのかもしれない。より多くの方にその魅力が伝わるよう努めていきたい。