万葉集覚書10 〜万葉集巻二十を閉じて〜
大伴家持の因幡国庁での新年、初春を寿ぐ歌を最後に、万葉集は二十巻に及ぶその全巻を閉じる。その背表紙を閉じた後に、万葉集の草稿を待っていた歴史の深い闇と沈黙とに思いをはせるとき、言いようのない重みをもって、様々な感慨が頁を繰るものに迫ってくる。
しかし、その深い闇の中から、やがて、覆いようもなく、この列島に生きた有名無名の人々の声がよみがえる。人に恋い、人の死を悼み、嘆き、喜び、花を愛で、紅葉を賞美した、その確かな痕跡が、多くの人々の心ざし、尽力によってよみがえり、永遠の命を吹き込まれることになるだろう。人から人へ、時代から時代へ、繰り返し読まれ、伝えられることで生き続ける古典。祖先から我々に贈られた、何ものにも替えがたい、かけがえのない宝物、万葉集。この列島に人が生き続ける限り、この宝は永遠に失われることはないだろう。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます