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🤳《不易流行》🤳あしたの詩を唄おうよ…🎵

 故郷は遠くにありて・・・忘れかけてた【遠い背景の記憶】原点回帰[205]【あゝりんどうの花咲けど】 

2023-11-24 | こころの旅

 今回は、【あゝりんどうの花咲けど】編集版 第1章(P16~P18)【5】P134~P135の紹介です。

 もちろん、大学進学は、中学時代からの佐千夫の大きな悩みであった。「学資のことは心配せずに、学校へ進みな
さい」 母はいつもそう言う。母の愛情はわかる。しかし、それにあまえて、母に白髪をふえさせていいものだろうか。
ときには佐千夫は、母の期待が重く感じられることもあった。
 大学進学などやめてしまって、卒業と同時にどこかへ勤めて母子ふたりで平穏に暮らす、それがもっともいいように
思われることもある。しかし、その道はものたりない。まだ漠然としていてはっきりとしたかたちはとっていないが胸の
なかで燃えている野心と、あまりにもかけ離れている。佐千夫は、迷っていた。他のクラスメートのように受験勉強に
熱中できないのも、そのためかもしれなかった。
 玲子は言う。「おかあさんにとって、あなたは生きがいなのよ。はたらくことも、その生きがいに殉じているんだから、
たのしいし、しあわせなんじゃないかしら。おかあさんの言うとおりにしたほうがいいんじゃないかしら」「しかし、はたして
ぼくは、母の期待どおりになれるかどうか、あやしいんだ。自信がない。おふくろはぼくをかいかぶりすぎている」じぶんの
弱さや欠点は、佐千夫自身がもっともよく知っている。それがやがて表面に出てきたとき・・・母の夢はこわれる。それが
こわいのだ。
 佐千夫の悩みは、それだけではなかった。玲子には言っていない。はずかしくて、言えることではない。それはもう、
玲子と知り合う前から佐千夫の心をひきずりまわしている問題であった。貧しいながらも母子ふたり、かばいながら生きて
きた。そこへ、あの「くだもの屋のおやじ」があらわれたのだ。
 母の恋。
 父が死んで、五年たつ。母はまだ若い。母の勤めている病院で胃を切ったその「くだもの屋のおやじ」は、やもめである。
結ばれ合って、おかしくはない。だれにも、それをとがめだてする権利はない。祝福すべきであるとは、頭ではわかって
いる。しかし、感情はどうしてもついていかないのだ。強い反発をおぼえるのである。
 再婚の意志を母にほのめかされたとき、佐千夫は返事もせずに座を立ち、そのまま家を出た。夜おそく帰ってきた
佐千夫に、「バカな子だね、冗談よ」母はそういったが、冗談ではないことは、直感でわかった。反対すべき理由はない。
岡本謙三はいつもにこにこしており、いかにも善人そうな人だ。佐千夫にもやさしい。胃の手術がおわって退院して、
佐千夫の家に来るようになって、何回か碁の相手もした。三段であった父にくらべて、碁ははるかに弱い。負けるとムキ
になる点には、こどものような無邪気さがあった。
 母から母たちの気持ちをほのめかされて以来、佐千夫は岡本を避けはじめた。母からも、一歩遠ざかった。佐千夫は
無口になった。そんな佐千夫に、ふたりは遠慮しているようである。佐千夫の心を傷つけないように、慎重に行動してい
るようである。それがわかるだけに、佐千夫はじぶんを責める。おまえはエゴイストだ。ヤキモチヤキだ。それとも、相手が
小商人だからミエを張っているのか。父のために母を思っているなんて、へりくつじゃないのか。
 (あるいは、母はおれの学資のために再婚しようとしているのかもしれんぞ)
 そんなことなら、進学なんてまっぴらだと、佐千夫はひとり肩をそびやかすこともある。逆に、人のいい岡本を金のため
に母が誘惑しているのではないかと疑うこともあった。おとなのまともな自然のなりゆきを、こどもの佐千夫が幼稚な感情
からさまたげているとはげしくじぶんをののしることもあった。
 そんなときにあらわれた玲子は、いわばひとつの窓であった。玲子といるとき、佐千夫は進学についての悩みも母の恋
も、忘れることができた。遠くへ押しやることができた。「あなたのクラスにも、すてきな女の子がいるでしょう?」
「いや、くだらんやつらばかりだ。学校以外ではだれともつきあっていない。つきあおうとも思はない」(あなたひとりだけだ)
けだ) 「ほんとうだったらうれしいわ。あたしのほうは女の子ばかりだもの。明瞭だわ」そんな微妙な会話がふたりの間に
とりかわされるようになってまもなくの日曜の午後、佐千夫ははじめて、玲子の招きでその家を訪れた。(つづく)


 次回は、【あゝりんどうの花咲けど】編集版 第2章(P19~P22)【6】P90~P92を紹介します。


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