二人は寒空の下、広い庭にあるベンチに腰を下ろした。隣りには葉が落ちて幹と枝葉だけになった一本の木がポツンと寂しげに立っていた。
ミニョンは寒くないと言うユジンに自分のジャケットをかけてあげた。ミニョンの大きなジャケットに、二人ともくるまって顔を見合わせた。ミニョンがそっとユジンの肩を抱いた。ユジンはミニョンの温もりと香りに包まれて、少しだけホッとしたのだった。
「今日がもっと寒かったら良かったのになぁ。きっともっと星が見えたはずです。」
おもむろにユジンが口を開いた。
「ポラリス、知ってますか。ポラリス。」
その目はキラキラして真っ直ぐに冬空を眺めていた。
「もちろん知ってます。北極星でしょう?」
ユジンはびっくりして思わずミニョンを見つめた。束の間の間、チュンサンと話している気分になったのだ。しかし、ミニョンの顔を見て、ミニョンはミニョンだと気がついて、我に帰った。
「昔、チュンサンが教えてくれたんです。山で道に迷ったら、ポラリスを探すようにって。他の星は動いてしまうけど、ポラリスだけはいつも同じ場所にあるんですって。」
ユジンはそう言って、目に涙を浮かべた。ミニョンはそんなユジンを見て切ない気持ちになった。ユジンの心にいつも一番に浮かぶのはチュンサンなのだと。
「ユジンさん、今迷ってるんですね。」
ユジンはミニョンを見つめて瞳を潤ませた。いつの間にハラハラと空から雪が❄️舞い落ち始めている。それはまるで、ユジンの悲しみをあらわしているようだった。
「わたしは今日、沢山の大切な人たちを傷つけてしまいました。母、チンスク、ヨングク、そしてサンヒョク。もう二度と許してもらえないかもしれない。どうしたらいいの。」
そうして悲しそうに笑って、ハラハラと涙を流した。ミニョンはそんなユジンを切なげに見つめて言った。
「ポラリスだけはいつも同じところにあって、動かないんですよね。僕はあなたからみんなが去って行っても、同じ場所であなたを待っています。僕があなたのポラリスになります、、、僕を信じてくれますか?」
ミニョンの真剣な眼差しに、ユジンの心は大きく揺さぶられた。ミニョンの瞳の奥に、ユジンの全てを受け入れようという決意を見た。ユジンがチュンサンではなくミニョンに自分の心を預けてみようと決心した瞬間だった。
ミニョンは涙を流しながら潤んだ瞳で自分を見つめるユジンの額に、そっと唇を寄せた。ミニョンの唇の温かさや温もりが、ユジンの心を溶かしていった。ユジンはミニョンにぴったりと身を寄せて、ミニョンは腕を回してユジンをしっかりと抱き寄せて、二人は寒空の下いつまでもそこに座っていた。
そのだいぶ前、スキー場のホールでサンヒョクの両親、ユジンの母、ヨングクとチンスクが途方にくれたように座り込んでいた。チェリンは用事があったため、先程の修羅場を見てはいなかったが、おくれてホールに入ってびっくりしてしまった。ミニョンとユジンとサンヒョクがそろって見当たらない。仕方なく、パニックになったチンスクを叱り飛ばして、なんとか事情が飲み込むことができた。ユジンとミニョンが一緒に出て行くなんて、自分が思い描いていたシナリオと全く違う。二人を引き裂いてやろうと企んだのにあてが外れてしまった。サンヒョクはさっきあんなにステージで幸せな様子だったのに、ひどいヘマをしたものだ。ちっとも帰ってこない三人に、チェリンはイライラするばかりだった。時間だけがすぎてゆく、、、。
さらに15分ほどたっただろうか。不意に入り口が開いて、冷たい風が吹き込んできた。みんなが一斉にドアを振り返った。そこに立っていたのはサンヒョク一人だった、、、。サンヒョクは只事ではない様子で、寒さに震えながら、真っ青な顔で立っていた。
他の二人は?誰もの脳裏に同じ疑問が湧き上がり、チェリンが口を開きかけたその時、ユジンの母ギョンヒが叫んだ。
「ユジンは?ユジンはどこなの?!」
それは娘を心配する母親の悲痛な叫びだった。
サンヒョクは真っ直ぐ前を向いたまま口を開いた。思いもよらない言葉が口から飛び出したのだった。