2008-10-26
4.進級テスト
入院中のキラシャとパールは、ホスピタルで特別授業を続けながら進級テストに備えた。
ヒロからタケルのメールアドレスを教えてもらい、どんなメッセージにしようかと、前に撮った動画を見返しては、迷っていたキラシャ。
タケルから返事が来たら、また今までみたいに、楽しいメールのやり取りをしたい。
でも、タケルはどんなメールだったら楽しいと思うだろう?
そんなことをボーっと考えていたら、何を送ったらいいのか、わからなくなってしまった。
それより、目の前のテストを乗り越えることが、今のキラシャにとって、一番ダイジなことだ。
『タケルのことは気になるけど、テストが終わってから、メールしてみよう。
タケルだって、ヒロにはメールしてるのに、あたしには、まだ一度もメール寄こさないンだもン。
あたしのメールだって、ホントに待ってるのか、わかンないしね…』
パールは、ホスピタルで移民用の共通語でのテストを受けるようになっているが、内容は簡単な質問に答えられたら合格だ。
でも、キラシャは自分のクラスに戻って、みんなと同じテストを受けなくてはならない。
『あたし、テスト乗り切れるかな?』
キラシャはそんなプレッシャーを感じながら、テストの日を迎えた。
久しぶりの、学習ルーム。
ホスピタルは暖房が控えめだったが、大勢の子供がギリギリに座っている学習ルームは、暖かいのを通り越して『暑いなぁ』と感じた。
キラシャを見かけた仲の良い子は、「久しぶり!」「元気になったんだね!」と声をかけてくるが、みんな自分のテストのことで頭がいっぱいだ。
ヒロは、キラシャを見かけると、ニヤッと笑った。タケルに何かあったんだろうか?
ヒロにも、いっぱい聞きたいことはあるが、またカチッとくるようなことを言われそうだし、タケルに何があったのか、聞く勇気もない。
キラシャは、いろんな考えが頭に浮かんで、ボーっとしながら自分の席につき、テスト前のチェックをした。
中級の進級テストは、何しろ範囲が広い。
エリア語、共通語、歴史、地理、宇宙学、数学、生物、科学…。それに加えて、小難しいたくさんのルール!
特に、ルールは知らないうちに、突然変わることもあるので、進級テストの直前にひととおりチェックしておかないと、正解をのがしてしまう。
未来の11歳は、今の時代の何倍もの知識と、絶え間ない努力が必要なのだ。
ただ、問題の解答は選択性で、問題にヒントも隠されているので、ちょっとした知識や判断力があれば、正しい答えにたどり着く。
キラシャは、ホスピタルの特別授業で、いろんな先生からモノを覚えるコツと、判断の仕方を教えてもらいながら、楽しく学ぶことができた。
あのまま、学習ルームで知識をむりやり頭に詰め込む作業ばかりしていたら、テストを受ける気にもならなかっただろう。
キラシャは、ホスピタルでの治療を勧めてくれたユウキ先生と、勉強を教えてもらった先生達に感謝しながら、マイ・ペースで進級テストを乗り切った。
キラシャの結果は…
共通語・宇宙学・科学・数学・歴史と、たくさん落とした科目があった。でも、もう少し点が足りない科目が多かったので、再テストでがんばれば、なんとか進級できそうだ。
再テストは、進級テストの問題と似たような問題が、60%以上含まれているし、再テストが不合格でも、3科目までなら進級が許される。
進級してから、午後に行われる補講を受け、定期的に行われるテストの合格点を取れば終了。理解度に応じて、補講の期間が延びたり、早く終わったりする。
進級テストが終わったら、子供達は自分の成績を確認して、不合格だと再テスト。
再テストも不合格が4科目以上だと、また、同じ学年の再受講通知が送られてくる。
結果が出るまでの期間は、子供達はそれぞれに、自分の所属するクラブ活動の大会の準備、展覧会への出品などに追われた。
スクールの年間の最終行事として、表彰式と卒業式があり、終業式の日を迎えると、ようやく待ちに待った2週間の休暇がやってくる。
しかし、その前に最悪だった暴力事件の裁判が行われることを忘れてはならない。
裁判の結果によって、スクールのルール変更があり、普段の生活にも影響することもある。
楽しみにしている休暇の予定にも関わる場合もあるし、自分の将来にも関わることもあるので、この裁判は子供達にとって、重要な意味があった。