2008-02-17
4.呪われた船
タケルが、キララとの話に夢中になっている時、トオルも一息入れるため、ミリより一足先に、同じレストランに入ってきた。
タケルが今まで見せなかった明るい表情で、いっしょうけんめい話をしている姿に気がついて、思わず微笑んだ父親だったが、何だか妙な気がした。
そこへ、どこかの船長らしきスーツを着た、白髪の男性が心配そうに声をかけてきた。
「あそこにいる男の子は、あなた方の息子さんですか? 」
「はい、そうです。でも…、いったい、あの子は誰と話しているんでしょう? 」
トオルには、タケルの相手が見えなかった。
ここへ来て、目も悪くなったのかと自分を疑ってしまった。
「…お気の毒に。幽霊とです。早く、あの子から引き離さなければ…」
「うっ、ちょっと…、説明していただけませんか?
なぜ、うちの子が…」
「私にも、よくわからないが、このステーションや、
ここを出入りする宇宙船の乗客で、何度かこういうことがあったのです。
そして、あの子が現われるたびに、このステーションで恐ろしいことが起こりました。
だから、今回も…」
「それじゃぁ、うちの子は?」
「あ、いやいや。お宅の子が殺されるとか、そういうことではないのです。
…ただ、危険なことは確かです。早く手を打たないと…」
「どうしたら、いいのでしょう。…教えてください」
その白髪の男性は、事のあらましをトオルに伝えた。
その幽霊は、何年か前に船体を傷つけたまま、漂流してきた宇宙船に憑いて、浮遊してきたものらしいこと。
その宇宙船が発見された時、姿が見えないのに、女の子の泣き声や笑い声が聞こえたこと。
その宇宙船を解体処分した後、宇宙ステーションのあちこちで、謎の女の子が出没するようになったこと。
その後、宇宙ステーションで疫病が流行ったり、宇宙船の発着場で爆発が起こったりしたこと。
その幽霊と話した子が、謎の病気にかかり、今も入院している子がいること。
それを解決するには、早く幽霊から離れることだと言われていること…。
トオルは、話の多少聞き取れなかった部分も、自分で良い方に解釈しながら、白髪の男性に会釈して離れ、深呼吸してタケルに近づき、普段通りに話しかけることにした。
タケルは、ようやく話を終え、父親が近づいてくるのに気がついたようだ。
「パパ…。僕、この宇宙ステーションに来て良かった。紹介するよ…、あれっ?」
「どうした? タケル。何だか、さっきは楽しそうにしてたじゃないか」
「そう、パパ見てたの。キララって女の子としゃべってたンだ」
タケルはキョロキョロと、あたりを見回した。
「そのことだけどね。タケル。まぁ、先に食事を済ませよう。
ほら、ママもやってきた。さぁて、何を注文しようか…」