2008-02-21
2.宇宙の海賊をやっつけろ!
ようやく約束の場所に着いたタケル。あたりを見回すがキララらしい姿は見かけられない。
ゲーム・コーナーも、人はまばらだ。タケルはまだ、宇宙ステーションに来てから、一度もゲームをやってないことに気がついた。
通りで紹介されているゲームの動画をながめていると、タケルの目がクギづけになるくらい、おもしろそうなゲームがそろっていた。
サバイバル・ゲーム、バトル・ゲーム、シューティング・ゲーム…。男の子だったら試してみたい、いろんな攻撃装置を使ったゲームがたくさんある。
キララは、いつ現れるかわからない。それまで、ゲームをして時間をつぶそうと思った。
最初に目をつけた“宇宙の海賊をやっつけろ!”というゲームのボックスに移動した。
あたりには誰もいない。タケルは入り口で、Mフォンをかざしてゲーム料金を支払い、星のようなイルミネーションで輝くドアから、中へと入った。
真っ暗な部屋の中へ入って、タケルは声の案内を頼りに、指示された方向へと進んだ。BGMはミルキーウェイをイメージした音楽だ。
タケルの耳は、音がかすれて聞こえるので、その音楽がどんなに甘く切ないメロディーであっても、心を動かされることはない。
タケルは、用意されたマシンスーツとヘッドフォンを装着するよう指示され、銃と盾を受け取ると、指定された位置についた。
すでに、何人かが準備を終え、ゲームが始まるのを待っていた。
ゲームの始まりが告げられると、第1ステージで、 煌びやかな衣装をまとった金持ちの王族が現れ、代々伝えられた秘宝が海賊に狙われていることを語り始めた。
その秘宝を無事に隠すために、王族の後を追いながら、近づいてくる海賊をやっつけて欲しいと、ゲームの参加者に向かって告げた。
王族が3D動画の中で残すヒントを手がかりに、その行き先を追いながら、海賊が現れたら、すぐに戦闘準備に取り掛からなくてはならない。
海賊を倒せば倒すほどポイントが加算され、すべての海賊を倒して、王族の秘宝が無事に隠し果せたら、プラス1万ポイントもらえる。
このポイントの合計は、出口でMフォンに転送される。ポイント数に応じて、好きなゲームが楽しめるし、残ったポイントは、相場に応じて換金もできる。
ゲームの要領は、MFiエリアで複雑なゲームに慣れたタケルには簡単すぎたが、時々すっと後ろに現れて、いきなり攻撃してくる海賊を警戒しなくてはならない。
海賊の光線銃が発射される前に、かすかに準備の合図の音がしたら、盾で攻撃を防ぎ、近くの岩に隠れて自分を守るのだが、タケルの耳には聞き取りにくい高さの音だった。
こちらからの攻撃は、銃を構えて海賊の急所に視線を合わせると、銃がそれを察知して、自動的に光線を発射。
ただ、発射されるときには、銃がやけに重くなるので、ぶれないように注意が必要だ。
発射後、爆破音がして、海賊の悲鳴があがるとポイントになる。
第2ステージでは、勢いに乗ってどんどん海賊を仕留め、他の参加者より高ポイントをゲットしたタケル。
海賊からの攻撃で、身体中を撃たれてしまった参加者は、その時点でゲーム・オーバー。ステージが進むに連れて、だんだんと周りの人数も減って行った。
グルーン、ピピピピ…。
「うーっ、やられた…」
海賊の撃つ銃の音を聞き逃して、タケルのスーツの足に光線が当たったらしい。戦闘能力がいっきに下がって、足を引きづり、次のステージへと進まなくてはならない。
次のステージへ進むために、王族の残したヒントを探すことに気をとられていると、たちまち海賊に取り囲まれてしまった。
「うわっ、絶体絶命!」
海賊から総攻撃されると思って、ゲームをあきらめかけたタケルの心へ、キララの声が届いた。
『まだ、あきらめちゃだめだよ! タケル、ジャンプするンだ!
海賊を飛び越えたら、何秒か攻撃がストップする…』
「えっ? 海賊を飛び越える!?」
そう思った瞬間に、タケルの身体がふわっと浮いて、空中をクルクルと回転し始めた。
タケルは自分の体制を整えつつ、軽々と海賊を飛び越えながら、海賊を次々に撃ち続けた。
ドガーーン。ギャーーーー。叫びながら倒れる海賊達。
タケルがパスボーで鍛えた反射神経は、まだ衰えてないようだ。
それにしても、マシンスーツを身につけているわりに、キララが何か魔法でも使ったような鮮やかなジャンプだ。
キララの手引きで、次々に海賊の攻撃を免れたタケルは、ステージを進むごとにもらえるポイントで足の負傷を治し、ただひとり最終ステージまで進んだ。
『このステージの海賊の攻撃は、スピードがケタ違いに速いからね。油断禁物だよ』
キララのつぶやくような声が終わるか終わらないうちに、海賊の攻撃が始まった。
タケルはあわててジャンプすると、攻撃をかわしながら海賊をひとりひとり狙い撃ちした。
『ホラ、気ィ抜くんじゃないよ! 右、斜めからも狙ってる…』
タケルはムッとして、荒々しくジャンプを繰り返しながら、光線銃を乱射し、すべての海賊が消えてゆくまで、戦い通した。
最後に王族の3D動画が現れ、
「君のお蔭で、ようやく大事な秘宝を隠し果せた。
感謝の意を込めて、君に1万ポイントをプラスしよう!」と告げた。
ゲームの参加者の中で、たったひとり海賊をすべて打ち負かしたことに、タケルは久しぶりに優越感を感じた。
出口で合計ポイントを確認し、タケルはこの宇宙ステーションに来て良かったと思った。
キララがいなかったら、きっと出口のドアを蹴って、ふてくされていただろう。
しかし、問題はこれからだ。キララが何者で、タケルに何を望んでいるのか。
まずは、パパが言っていたように、キララは本当に幽霊なのか、確かめたかった。