2008-02-22
3.“キララ”の正体?
激しいゲームを終えたタケルは、近くのロビーで休憩を取り、栄養ドリンクとサプリを買い込んで、グッと飲んだ。
『キララの声はしたけど、いったいどこにいるンだ?
キララには、どんな能力があるんだろう。オレにも、あんな超能力があったらなぁ…』
ぼんやりと、自分に超能力を与えられたら、何をやってみたいだろうと、タケルは想像してみた。
スクールにいた時は、パスボーがすべてだったけど、もっと他に夢中になれることがあるかもしれない、と宇宙の長旅の間にタケルは思い始めていた。
かといって、火星に行くことしか考えていなかったから、具体的なことが思い浮かばない。
『パパやママは、今ごろ何をしているんだろう?』
ふと心配になったタケルは、Mフォンのメールのチェックを音声モードにして、耳のそばに当てて聞いてみた。
[タケル、パパとママは部屋に戻っているからね。
いつでも待ってるよ。
なるべく早く帰って来なさい]
『パパの声、…まだ聞こえる。そうか、パパとママには心配かけちゃったな。
キララに会ったら、一度部屋に戻ってみよう』
そのとき、“キララ”の声がした。
「タケル。あのゲーム、おもしろかったね。タケルのゲーム、応援してて、楽しかった。
他の子は、ジャンプヘタだったから、つまンなかったヨ!」
“キララ”はうれしそうな顔をして、タケルの目の前にいた。
その姿は最初に出会ったときと同じだ。
「がっかりだな。お化けみたいなカッコで現れると思ってたのに…」
「アタシのこと、幽霊って言う人もいるけど、でも、幽霊じゃないンだ。
タケルと同じくらいの年だよ。時々、消えるケドね」
“キララ”はそういって、タケルのすわっているベンチの横にちょこんとすわった。
タケルは、こんなことを普通に話す子と一緒にいることが、不思議だった。
「オレ、キララが見えないのに、ナンで声だけ聞こえたのか、知りたい…」
「声はネ、わかるヨ。アタシ、タケルのこと、応援したいって思ったンだ」
「応援したい? 」
「アタシ、家族いないから、タケルはアタシの仲間なんだ。
タケルを助けてやりたいと思ったら、タケルの心に届いた…」
「キララのこと、幽霊っていうのは?」
「アタシは、幽霊って言うのがわかンないのさ。幽霊って、死んだ人間のことだろ?
宇宙船で生まれたらしいけど、ここへ着いたときは、アタシひとりだった。
宇宙船から出ても、だれもアタシに気づかない。
言葉もわからなかったけど、いろんな動画見て、おぼえたンだ。
宇宙船がこわされたから、このステーションで暮らしてる。
倉庫に売れ残りの服が、置きっぱなしになってるンだ。
時々、気に入ったのを見つけて着てるけど、シャワーは人に気づかれないように入ってる。
アタシ、Mフォン持ってないからね。
さっきみたいに、掃除してりゃ、チップがわりに、食べ物やドリンクをくれるンだ。
幽霊って、食べたり飲んだりは、しないンだろ?
Mフォンなしに消えるから、シャワー室でお湯と泡だけ流れてたとか言って、おかしいって騒ぐ人はいるよ。
でも、普通の人間だって、Mフォンで移動できるンだろ?
ここじゃ、ボックス使って移動するのが普通だから、突然消えるのが、おかしいンだろうけどね。
だから、いつもは誰にもジャマされない秘密基地を見つけて、そこにいるンだ。
アタシを見て、話しかけてくれる人間もいるから、何とかやってこれたンだけどね…」
『キララって、自分が死んだのわかってない幽霊なのかも?
そんな幽霊が、宇宙にはウヨウヨしてるって、聞いたことがある。
やっぱり、パパのいうこと信じてた方が良かったのか…』
「タケル。まだアタシのこと、幽霊って思ってるンだろ?
アタシの言うこと信じないと、これから怖い目に遭うんだよ!」
“キララ”は意地悪そうに笑っていた。タケルはあ然として“キララ”を見つめた。
「タケル、アンタ幸せすぎるよ。きっと、やさしいパパとママがいるからだろうネ。
人にだまされたことないだろ?
アタシには、家族がいないから、どんなことがあっても平気。
何があっても平気じゃないと、生きてけないンだ。
タケルは、もうアタシの仲間だから、言うことはチャンと聞いてもらうよ。
アンタの耳が聞こえなくなっても、アタシの言うことは、アンタに聞こえるからネ。
アンタのことは、先のことまでアタシに見えるんだヨ!
…で、タケルがアタシの言うこと聞かないと、どうなるかわかる?
……タケルのパパとママが、殺されるンだ…」
“キララ”の顔が小悪魔に変わり、その目は冷たく光っていた。
タケルは背筋が凍りついて、思わず逃げようとしたが、金縛りにあったように、動けなくなった。
いったい、この“キララ”という女の子は、何者なンだ?