未来の少女 キラシャの恋の物語

みなさんはどんな未来を創造しますか?

第10章 危険を感じながら ⑤

2021-06-28 16:03:54 | 未来記

2008-02-18

5.タケルの反抗心

 

タケルはレストランでの食事中、両親のいつも通りの会話をうわの空で聞いていた。

 

タケルの頭の中で、ミリがやってくるまでのわずかな間に、トオルが耳元で伝えた言葉が、グルグルと回っていた。

 

「いいかい? タケル。君は今、普通の状態じゃないんだ。…良く聞いてくれ。

 

君は狙われている。

 

パパには、まだ、それが何のためなのか、なぜ君を選んだのか、わからない。

 

でも、これだけははっきり言っておきたい。…君は幽霊にとりつかれている。

 

…パパには…

 

君がいっしょうけんめい話していた相手の姿は、パパには見えなかった。

 

その幽霊のことをいろいろと教えてくれた人がいる。

 

いいかい。

 

…パパはタケルを守りたい。

 

しばらくは、ママにも内緒でいたいから、男の約束をしてくれるか?

 

タケルがこれから、この宇宙ステーションでその幽霊に会うことがあっても、パパやママを敵にするような行動は取らないで欲しい。

 

パパもママも君を信じているからね。

 

その幽霊が、タケルに何かをして欲しいとか、頼んできても、絶対に相手にしないこと。

 

君を守るためだ。…そして、それはパパやママを守ることでもある。

 

いや、この宇宙ステーション全体の安全にも関わることかもしれない。

 

とにかく、みんなのことを考えて行動して欲しい。地球にいたときも、そう習っただろう?

 

いいね。約束だよ…」

 

ミリが、「あなた達、いつからそんなヒソヒソ話するようになったの?」と笑顔で話しかけても、タケルはぼんやりとして、反応できなかった。

 

ミリは、まだタケルが睡眠から解けて、頭が思うように働いていないのだと思ったようで、自分たちの会話に夢中になっていた。

 

タケルはさっきまでのことを思い返しながら、トオルの言ったことを懸命に否定しようとした。

 

『キララは幽霊? そんなはず、ないじゃん。ちょっと、変わってたけど…

 

女の子と話して楽しかったの、久しぶりだったっていうのに…

 

だけどさ、僕を守るためって言いながら、パパはいつもママと2人で楽しそうにしているだけじゃないか。

 

…ママだって、そうだよ。

 

だいたい、僕の耳を治そうって言って、ここまで来たんじゃないか…。

 

僕がもらったパスボーの賞金だって、ほとんどパパに預けているのに、今から地球に帰ったら、スッカラカンになるだけだよ!

 

何のためにここまで来たって言うんだ! このままじゃ、帰ったって意味ないじゃン!

 

地球で習ったこと? ルールばっかり厳しくて、きゅうくつな生活だったっていうのに…。ここにいる方が、よっぽどましだよ!

 

…いったい、キララはどこへ、消えちゃったんだろう…?』

 

その時、キララらしき女の子の声が聞こえた。

 

『タケル…? アタシの声、聞こえる…?』

 

タケルは、耳をすました。

 

そして、心の中で『聞こえるよ』と、つぶやいた。

 

『そう、もっと話したいことがあるんだ…。

 

アタシだけだよ、あんたを守ってあげられるのは…。

 

あんたのパパが言ってたこと、ウソじゃないけど、あんたを狙ってるのはアタシじゃない…。

 

もし、アタシのこと、信じてくれるんだったら、例のゲームコーナーで待ってるよ。

 

パパたちには、だまって来るんだよ…』

 

『どうして?』

 

タケルは、心の中でキララに問いかけた。

 

『今は、誰もアタシのこと信じちゃくれない。…タケルだって、不安でしょ?』

 

タケルは、ちょっとムッと来て、強気になって答えた。

 

『不安って言うより、パパの言ってたこと、まだピンと来ないンだ。…会ったら、ホントのこと教えてくれる? キララのことも…』

 

『ああ、いいよ。タケルに勇気があったらね…』

 

『…じゃぁ、行くよ…。だけど、実はこんなお化けでしたなんて格好で、出てこないでくれよ!』

 

『さぁ、どんな格好ででてやろうか…?

 

まぁ、楽しみにしててよ…。じゃぁ、待ってるよ!』

 

キララの挑発的な声が消えてから、タケルはしばらく考え込んでいた。

 

両親が黙り込んでいるタケルに気づき、いたわりの言葉をかけたが、タケルは何かを吹っ切ろうとするかのように首を横に振り、すっと席を立った。

 

「パパ、ママ。ちょっと用事があって、行く所があるんだ。

 

何かあったら、Mフォンで知らせるよ。

 

…パパ、危険なことはしないと思うけど、僕の自由にさせて欲しいんだ。

 

ママを悲しませるようなことはしない。だから、僕のこと、信じて欲しい。…男の約束だよ」

 

タケルは父親の手をとって、一方的に握手をした。

 

そして、「それじゃあ」と両親に向かって手を振りながら走り出し、人ごみの中へ消えて行った。

 

コメント
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