未来の少女 キラシャの恋の物語

みなさんはどんな未来を創造しますか?

第17章 未知の世界へ ③

2021-04-20 16:54:58 | 未来記

2010-11-14

3.地下の世界へ

 

ドームの入口が開き、薄暗い道路を進んでゆくと、両側で多くの人が倒れているのが見えた。

 

白衣を着た医療技師や看護士が介抱しているが、圧倒的に倒れている人達の方が多い。

 

亡くなった人だろうか、布が被され、そのままにされていた。

 

キラシャ達は、見てはいけないものを見てしまったように、自然にうつむいてしまった。

 

すると、デビッドおじさんは、叱るように言った。

 

「君達! 目をそむけないで、見て欲しい! 

 

地球で人類が生まれてから、ずっとこういう出来事が繰り返されてきたんだ。

 

平和なエリアにいると、生きることが当たり前のように思うこともあるだろう。

 

でも、生きることが許されず、同じ人間に傷つけられて

 

苦しんでいる人がこんなにたくさんいるんだよ! 」

 

傷ついた人のにおいに、心が折れそうになるのを必死でこらえながら、キラシャはパールがずっと無事であることを祈った。

 

広い広いドームの中を、キャップ爺の葬儀に向かったときみたいな、重たい空気を感じながら、キラシャは歯を食いしばって、沈黙に耐えた。

 

自然と、涙がこぼれた。

 

しばらく、子供達の鼻をすする音しか聞こえなかったが、車が止まり、エレベーターのような車庫に入ると、グィンと重みを感じた。

 

ケンがデビッドおじさんにたずねた。

 

「これから、どこへ行くの?」

 

「パールは、もちろん知ってるけど、他の子はまだ知らなかったのかな?」

 

パールは、少し恥ずかしげに答えた。

 

「ゴメンナサイ。ワタシタチ ドーム ノ シタデ クラシタ…」

 

「ドームノ シタ…?」

 

マイクもキョトンとした顔で、パールを見た。

 

「そう、パールは地下で暮らしていたんだ。

 

それで、あの大流星群の被害を避けることができた。

 

そして、戦争も避けてはいたんだが、戦争ほど怖いものはないね。

 

どんなに安全な場所だって、一瞬にして、戦場にしてしまう…」

 

「人間は災害が起こるたびに、生き延びる方法を考えて、対策してきたのに

 

戦争はその努力を無にしてしまう。恐ろしいものなのね…」

 

オパールおばさんも、かすれた涙声で話した。

 

車はスーッと止まり、再び重みを感じた。

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第17章 未知の世界へ ④

2021-04-18 16:56:11 | 未来記

2011-06-12

4.危険な賭け

 

タケルがMフォンを必死でさがしているのに気づいたキララ(ウエンディ)は、タケルの心に突き刺さるような声で怒鳴った。

 

「タケル! ここじゃアタシのルールに従いな!

 

でないと、みんなが困ることになるンだ。

 

アタシが良いって言うまで、これはアンタに渡せない! 」

 

キララはタケルをグッとにらみながら、Mフォンをちらりと見せた。

 

タケルは、Mフォンへ手を伸ばそうとしたが、キララの魔術で金縛りに遭ったときのことがフラッシュバックして、すぐに身体が固まってしまった。

 

『ナンて奴なンだ。どれだけオレを利用しようってのか…。

 

クソ~ッ、キラシャは、オレの言うことちゃんと聞いてくれたのに!

 

オマエとは違うンだ!

 

人の弱みに付け込んで、利用するだけ利用しやがって!

 

こんな化けもンに、最初から関わらなきゃ良かったンだ…』

 

キララは、タケルには目もくれず、意識を集中して宇宙船の様子をみんなに見せた。

 

「いいかい? 奴らはアタシらが消えても、この宇宙船のどこかにいることはわかってる。

 

これからどうするか、話し合ってるところだ」

 

タケル以外の男の子達は、悪党達の話に聞き入った。

 

最初は消えた子供達を見つけようと、意見を言い合ったが、捕まえる方法がわからない。

 

それより、燃料や食料が少ないことを気にし出すと、船をストップさせ、その問題をどう解決しようかと、相談を始めた。

 

出発前のステーションでの騒ぎが通報されたと知らせがあって、宇宙パトロール隊が捜索していることも気にしているようだ。

 

ここに長くとどまっていてはまずいと、船長らしき人物が言った。

 

そこへ、この宇宙船のカメラが、近くを通り過ぎようとする別の小さな宇宙船を映し出した。

 

「こいつを利用しようぜ!」

 

すぐに、SOSの送信をするように、船長は操縦士に命令した。

 

宇宙航行のルールとして、SOSを受信した近くの宇宙船は、近くを航行する宇宙パトロール隊へ報告する義務とともに、急を要する場合には救助に向かう義務がある。

 

今のところ、この近くに宇宙パトロール隊は見当たらないようだ。

 

しばらくして、船内の様子を知らせるように求める返信があった。

 

「船内で火災が起こって、大やけどの重症人が出たと伝えろ!

 

船も今は動かせないから、そいつを一刻も早く、近くの宇宙ステーションまで乗せて行ってくれと頼め!

 

あとは、いつものようにな! 」

 

悪党達は、ニヤリと笑って目配せをした。

 

それまでじっと聞いていた子供達は、どうしようとお互いを見つめ合った。

 

キララは、小さな宇宙船に意識を集中させて、内部の様子を映し出した。

 

 

タケルは、宇宙パトロール隊の宇宙船じゃないか、と密かに期待していた。

 

ところが、キララが映し出した3D動画は、宇宙旅行を楽しむ団体という感じだ。

 

子供連れの家族もいて、子供達が親に甘える姿も映し出された。

 

その映像をじっと見つめる少年達の目は、離れた所にいる自分の家族を思い出して、うらやましそうにも見えた。

 

「悪党達の思うようには、絶対させないよ!」

 

キララは、怒って言った。

 

「助けなきゃ…」

 

「でも、どうやって?」

 

「あいつらより先に、あの船に乗り込むンだ!」

 

「どうやって…?」

 

「行くよ! 戦う気持ちはあるかい? 」

 

「あるさ! 」

 

「それさえあれば、何とかなるさ」

 

「でも今度は、ホントに殺されるかも…」

 

「そんな弱気じゃ、ダメだよ! 」

 

「じゃぁ、オレ生きてる方に賭けるよ! 」

 

「いくら? 」

 

「オレの財産全部! 」

 

「勝ったら、いくらもらえるンだ? 」

 

「生き残った奴が、他の奴の財産全部を山分け! 」

 

金縛り状態のタケルは、色めきたっている他の子供達の中に入ることはできない。

 

それでも、このまま悪党の犯罪を見過ごしにして良いのか…。

 

タケルにも、自分達が何をするべきか、わかっていた。

 

『あの宇宙船に乗ってる人達を助けられるのは、オレ達だけなンだ…』

 

でも、それを実行するのは、危険な賭けでもあった。

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第17章 未知の世界へ ⑤

2021-04-16 16:57:39 | 未来記

2011-10-12

5.懐かしい光景

 

地下の駐車場で車を止めると、パールの民族の人達が待っていたようだ。

 

キラシャの一行は、オパールおばさんを車椅子に乗せると、集まった人達にご挨拶をして、預かっていた贈り物を渡した。

 

カール青年の知り合いが、荷物なども予約してあるホテルへ運んでくれるらしい。

 

そこからは、目的地に向かって、歩いて行くことになった。

 

街の中へと進んで行くと、思いもよらない光景が広がっていた。

 

そこは、MFiエリアの子供達にとっても、どちらかというと、懐かしい風景だ。

 

デビッドおじさんが子供達を振り返り、「この風景に見覚えがあるかな?」と声をかけた。

 

ケンが、「オレ達の少し前のドームと同じジャン! スッゲー! 」と叫んだ。

 

デビッドおじさんは、オパールおばさんに向かってこう言った。

 

「このドームができたのは、あなたのお姉さんにも関係があるんですよ。

 

あなたと同様、とても美しい彼女には、多くのファンがいた。

 

あなたのお姉さんが、あることをきっかけに、非常につらい選択をした。

 

悩む彼女を何とか助けたいと、当時のMFiエリアの建築士達が立ち上がったのです。

 

まぁ、くわしいことは、いずれ彼女からお話があるでしょう。

 

これから、パールの家族に会いに行きます。間に合うといいのだが…」

 

その言葉を聞いたパールが、急に顔を曇らせたので、キラシャはそっとパールの手を握った。

 

『大丈夫だよ。あたし達がついてるからね・・・』

 

みな、複雑な思いで、大勢の人達が行き交う、にぎやかな通りへと入って行った。

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第18章 見えない明日 ①

2021-04-12 17:19:03 | 未来記

2011-11-30

1.いちかばちか

 

タケルは、自分の状況を整理してみた。

 

これから自分が何をすべきなのか。キララの言いなりに、戦うことを受け入れるだけなのか…。

 

もし、あの悪党達をやっつけることができたとしても、キララといる限り、タケルは自分の思うように動けない。

 

このまま、キララの言うように地球を目指して、たとえ無事に着いたとしても、今までの自分に戻れるのか?

 

 

ふと、ヒロのニンマリした笑い顔が、浮かんだ。

 

タケルに向かって、『このスポーツオタクが…』と、小ばかにしたような、

 

スクールで何度もこの顔に殴りかかった、あのいまいましい研究オタクのヒロの笑顔だ。

 

『あの野郎~! 何かやろうとしてるな~。

 

いったい、なにやってやがるンだ。クソ~~!!』

 

 

宇宙船は、どんどん近づいてくる。

 

『だいたい、キララはどうやったら、あっちへ移れるって言うんだ~! 

 

ボックスもなしに、生きて移れるわけないじゃン!!』

 

 

そのとき、キララが叫んだ。

 

「みんな、集中するンだ! いいか? 心を合わせるンだよ!

 

いちか、ばちか…

 

みんなで、ひとつの気をつくるンだ!」

 

周りの子供達も、無言で頷いた。

 

「行くよっ! 

 

あの宇宙船に 飛び込むンだ~っ!! ウォ~~~~~!!!!!」

 

キララは必死の形相で、オオカミが遠吠えするような声を出し始めた。

 

他の子供もそれに続いた。

 

「ウォ~!」「ウォ~~!!」「ウォ~~~!!!」

 

 

最初は、「何だこいつら…?」と、ちょっと小ばかにしかけたタケルだったが、空間にポンッと小さな“気”のかたまりができると、“気”の輪が、熱気を帯びながら、広がっていった。

 

唖然と見ているだけのタケルも、面白くなさそうなニックも、ひょんなことからこの事件に首を突っ込んでしまったアニキも、広がる“気”の中に、グルグルと巻き込まれていった。

 

タケルは、すべてのことがいやになりそうなくらいの脱力感を感じて、意識を失いそうになった。

 

その瞬間に、周りが真っ白になり、身体がフワッと動いた。

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第18章 見えない明日 ②

2021-04-10 17:20:26 | 未来記

2011-12-01

2.再会

 

ところどころに、爆発で破壊された窓や、焦げて崩れた壁が続く街並みを眺めながら、キラシャ達は重い足取りで奥へ奥へと進んだ。

 

小さなホスピタルの前で、先に歩いていたパールの民族の青年が、立ち止まった。

 

「確か、ここだったな…」

 

デビッドおじさんも、荒く刻まれているホスピタルの名前を確認した。

 

パールは、いてもたってもいられないような、それでも、不安で助けを求めるような顔で、キラシャを見つめた。

 

入り口から奥に進むと、板のような壁だけで仕切られている部屋の横を通り過ぎ、青年の手招きで、ひとつの部屋に入るよう促された。

 

その部屋には、ベッドに横たわった白髪の男性と、看病疲れからか、頬のこけた白髪交じりの美しい女性が、そばのいすに寄りかかっているのが見えた。

 

オパールおばさんにも、よく似たその女性は、キラシャ達に気がつくと、あわてて自分の髪の毛に手を当てながら、いすから立ち上がった。

 

パールが、ベッドにかけよりながら叫んだ。

 

「パパ ママ タダイマ!

 

ワタシ パール デス!」

 

パールは、涙をぽろぽろ流しながら、その女性の胸に抱きついた。

 

「ママ…。

 

ワタシ パール。

 

ワカル? 

 

カオ チガウ ケド…。

 

ワタシ パール ナノ…」

 

その女性も、しっかりとパールを抱きしめながら、精一杯の涙声で言った。

 

「もちろん、わかるわよ。私のパール。大事な私の宝物…」

 

 

パールとママが泣き止むまで、周りはじっと見守った。

 

パールは、この時のために必死で生きてきたンだと、キラシャはしみじみ思った。

 

 

パールが、ようやくママの胸から離れて、笑顔でキラシャ達を振り返ったので、改めてママに紹介をしてもらった。

 

パールは、まずキラシャを“命の恩人”と、ママに伝えた。

 

キラシャは照れたが、パールは真剣な顔をしてこう言った。

 

「キラシャト オパール オバサン

 

ワタシニ シンジャ ダメ

 

イキナサイ テ オコルノ…。

 

 

ワタシ トテモ クルシカッタ。

 

ダカラ シニタイ オモッタ。

 

 

デモ フタリトモ イッショニ イキル イッテクレタ。

 

ウレシカッタ…。

 

ダカラ パパト ママニ アエタ…」

 

 

キラシャは、パールの言葉を聞いていたら、当時のことを思い出して、涙が出てきた。

 

『あン時は、あたしもつらかったンだぁ。

 

タケルに会いたくても、会えなくて、一番つらかったンだよね…。

 

もし、パールを助けたいって思わなかったら、あたしだって、どうなってたか…』

 

でも、すぐにケンとマイクの漫才の掛け合いが始まって、キラシャは涙を流しながら、2人の激しい突っ込みとボケのスクールネタに、ゲラゲラと笑い転げていた。

 

オパールおばさんも、お姉さんに無事にパールを送り届けることができて、ホッとしたようだ。

 

姉妹はお互いを抱きしめ、長い間の疎遠をわびながら、いたわりの声を掛け合った。

 

 

少し落ち着いてから、パールのママの話を聞いた。

 

ベッドで眠っているパールのパパは、意識がないまま眠り続け、生きているのが奇跡と医療技師からも言われているという。

 

 

「きっと、パールが帰って来た時に、

 

必ず生きて迎えてあげよう、という思いがあったのだと思います。

 

パールにとっても、それが最良の出迎えだと信じて…

 

主人の大切な宝が、自分の目の前で焼き殺されようとしたのです。

 

自分が身代わりになってでも、という思いは私も同じです。

 

パールを私のふるさとへ送ってからも、

 

私は火傷に苦しむ主人のそばに居て、

 

2人でパールの帰りを待つことが、私のできる全てでした。

 

もしパールに何かあって、帰って来れなかったら…

 

私は主人とともに、死のうと思っていました…」

 

 

パールは、ママの話を聞きながら、何度もパパの頬にキスをした。

 

「ネェ オネガイ

 

パパ メヲ アケテ

 

ワタシヲ ミテ…

 

パールガ カエッテ キタヨ…

 

パパモ ママモ パールハ ダイスキダヨ…」

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