2010-11-14
3.地下の世界へ
ドームの入口が開き、薄暗い道路を進んでゆくと、両側で多くの人が倒れているのが見えた。
白衣を着た医療技師や看護士が介抱しているが、圧倒的に倒れている人達の方が多い。
亡くなった人だろうか、布が被され、そのままにされていた。
キラシャ達は、見てはいけないものを見てしまったように、自然にうつむいてしまった。
すると、デビッドおじさんは、叱るように言った。
「君達! 目をそむけないで、見て欲しい!
地球で人類が生まれてから、ずっとこういう出来事が繰り返されてきたんだ。
平和なエリアにいると、生きることが当たり前のように思うこともあるだろう。
でも、生きることが許されず、同じ人間に傷つけられて
苦しんでいる人がこんなにたくさんいるんだよ! 」
傷ついた人のにおいに、心が折れそうになるのを必死でこらえながら、キラシャはパールがずっと無事であることを祈った。
広い広いドームの中を、キャップ爺の葬儀に向かったときみたいな、重たい空気を感じながら、キラシャは歯を食いしばって、沈黙に耐えた。
自然と、涙がこぼれた。
しばらく、子供達の鼻をすする音しか聞こえなかったが、車が止まり、エレベーターのような車庫に入ると、グィンと重みを感じた。
ケンがデビッドおじさんにたずねた。
「これから、どこへ行くの?」
「パールは、もちろん知ってるけど、他の子はまだ知らなかったのかな?」
パールは、少し恥ずかしげに答えた。
「ゴメンナサイ。ワタシタチ ドーム ノ シタデ クラシタ…」
「ドームノ シタ…?」
マイクもキョトンとした顔で、パールを見た。
「そう、パールは地下で暮らしていたんだ。
それで、あの大流星群の被害を避けることができた。
そして、戦争も避けてはいたんだが、戦争ほど怖いものはないね。
どんなに安全な場所だって、一瞬にして、戦場にしてしまう…」
「人間は災害が起こるたびに、生き延びる方法を考えて、対策してきたのに
戦争はその努力を無にしてしまう。恐ろしいものなのね…」
オパールおばさんも、かすれた涙声で話した。
車はスーッと止まり、再び重みを感じた。