未来の少女 キラシャの恋の物語

みなさんはどんな未来を創造しますか?

第11章 疑惑の中で ②

2021-06-25 16:58:25 | 未来記
2008-02-21
2.宇宙の海賊をやっつけろ!
 
 
ようやく約束の場所に着いたタケル。あたりを見回すがキララらしい姿は見かけられない。
 
 
ゲーム・コーナーも、人はまばらだ。タケルはまだ、宇宙ステーションに来てから、一度もゲームをやってないことに気がついた。
 
 
通りで紹介されているゲームの動画をながめていると、タケルの目がクギづけになるくらい、おもしろそうなゲームがそろっていた。
 
 
サバイバル・ゲーム、バトル・ゲーム、シューティング・ゲーム…。男の子だったら試してみたい、いろんな攻撃装置を使ったゲームがたくさんある。
 
 
キララは、いつ現れるかわからない。それまで、ゲームをして時間をつぶそうと思った。
 
 
最初に目をつけた“宇宙の海賊をやっつけろ!”というゲームのボックスに移動した。
 
 
あたりには誰もいない。タケルは入り口で、Mフォンをかざしてゲーム料金を支払い、星のようなイルミネーションで輝くドアから、中へと入った。
 
 
真っ暗な部屋の中へ入って、タケルは声の案内を頼りに、指示された方向へと進んだ。BGMはミルキーウェイをイメージした音楽だ。
 
 
タケルの耳は、音がかすれて聞こえるので、その音楽がどんなに甘く切ないメロディーであっても、心を動かされることはない。
 
 
タケルは、用意されたマシンスーツとヘッドフォンを装着するよう指示され、銃と盾を受け取ると、指定された位置についた。
 
 
すでに、何人かが準備を終え、ゲームが始まるのを待っていた。
 
 
ゲームの始まりが告げられると、第1ステージで、 煌びやかな衣装をまとった金持ちの王族が現れ、代々伝えられた秘宝が海賊に狙われていることを語り始めた。
 
 
その秘宝を無事に隠すために、王族の後を追いながら、近づいてくる海賊をやっつけて欲しいと、ゲームの参加者に向かって告げた。
 
 
王族が3D動画の中で残すヒントを手がかりに、その行き先を追いながら、海賊が現れたら、すぐに戦闘準備に取り掛からなくてはならない。
 
 
海賊を倒せば倒すほどポイントが加算され、すべての海賊を倒して、王族の秘宝が無事に隠し果せたら、プラス1万ポイントもらえる。
 
 
このポイントの合計は、出口でMフォンに転送される。ポイント数に応じて、好きなゲームが楽しめるし、残ったポイントは、相場に応じて換金もできる。
 
 
ゲームの要領は、MFiエリアで複雑なゲームに慣れたタケルには簡単すぎたが、時々すっと後ろに現れて、いきなり攻撃してくる海賊を警戒しなくてはならない。
 
 
海賊の光線銃が発射される前に、かすかに準備の合図の音がしたら、盾で攻撃を防ぎ、近くの岩に隠れて自分を守るのだが、タケルの耳には聞き取りにくい高さの音だった。
 
 
こちらからの攻撃は、銃を構えて海賊の急所に視線を合わせると、銃がそれを察知して、自動的に光線を発射。
 
 
ただ、発射されるときには、銃がやけに重くなるので、ぶれないように注意が必要だ。
 
 
発射後、爆破音がして、海賊の悲鳴があがるとポイントになる。
 
 
第2ステージでは、勢いに乗ってどんどん海賊を仕留め、他の参加者より高ポイントをゲットしたタケル。
 
 
海賊からの攻撃で、身体中を撃たれてしまった参加者は、その時点でゲーム・オーバー。ステージが進むに連れて、だんだんと周りの人数も減って行った。
 
 
グルーン、ピピピピ…。
 
 
「うーっ、やられた…」
 
 
海賊の撃つ銃の音を聞き逃して、タケルのスーツの足に光線が当たったらしい。戦闘能力がいっきに下がって、足を引きづり、次のステージへと進まなくてはならない。
 
 
次のステージへ進むために、王族の残したヒントを探すことに気をとられていると、たちまち海賊に取り囲まれてしまった。
 
 
「うわっ、絶体絶命!」
 
 
海賊から総攻撃されると思って、ゲームをあきらめかけたタケルの心へ、キララの声が届いた。
 
 
『まだ、あきらめちゃだめだよ! タケル、ジャンプするンだ!
 
 
海賊を飛び越えたら、何秒か攻撃がストップする…』
 
 
「えっ? 海賊を飛び越える!?」
 
 
そう思った瞬間に、タケルの身体がふわっと浮いて、空中をクルクルと回転し始めた。
 
 
タケルは自分の体制を整えつつ、軽々と海賊を飛び越えながら、海賊を次々に撃ち続けた。
 
 
ドガーーン。ギャーーーー。叫びながら倒れる海賊達。
 
 
タケルがパスボーで鍛えた反射神経は、まだ衰えてないようだ。
 
 
それにしても、マシンスーツを身につけているわりに、キララが何か魔法でも使ったような鮮やかなジャンプだ。
 
 
キララの手引きで、次々に海賊の攻撃を免れたタケルは、ステージを進むごとにもらえるポイントで足の負傷を治し、ただひとり最終ステージまで進んだ。
 
 
『このステージの海賊の攻撃は、スピードがケタ違いに速いからね。油断禁物だよ』
 
 
キララのつぶやくような声が終わるか終わらないうちに、海賊の攻撃が始まった。
 
 
タケルはあわててジャンプすると、攻撃をかわしながら海賊をひとりひとり狙い撃ちした。
 
 
『ホラ、気ィ抜くんじゃないよ! 右、斜めからも狙ってる…』
 
 
タケルはムッとして、荒々しくジャンプを繰り返しながら、光線銃を乱射し、すべての海賊が消えてゆくまで、戦い通した。
 
 
最後に王族の3D動画が現れ、
 
 
「君のお蔭で、ようやく大事な秘宝を隠し果せた。
 
 
感謝の意を込めて、君に1万ポイントをプラスしよう!」と告げた。
 
 
ゲームの参加者の中で、たったひとり海賊をすべて打ち負かしたことに、タケルは久しぶりに優越感を感じた。
 
 
出口で合計ポイントを確認し、タケルはこの宇宙ステーションに来て良かったと思った。
 
 
キララがいなかったら、きっと出口のドアを蹴って、ふてくされていただろう。
 
 
しかし、問題はこれからだ。キララが何者で、タケルに何を望んでいるのか。
 
 
まずは、パパが言っていたように、キララは本当に幽霊なのか、確かめたかった。
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第11章 疑惑の中で ③

2021-06-24 17:00:40 | 未来記
2008-02-22
3.“キララ”の正体?
 
 
激しいゲームを終えたタケルは、近くのロビーで休憩を取り、栄養ドリンクとサプリを買い込んで、グッと飲んだ。
 
 
『キララの声はしたけど、いったいどこにいるンだ? 
 
 
キララには、どんな能力があるんだろう。オレにも、あんな超能力があったらなぁ…』
 
 
ぼんやりと、自分に超能力を与えられたら、何をやってみたいだろうと、タケルは想像してみた。
 
 
スクールにいた時は、パスボーがすべてだったけど、もっと他に夢中になれることがあるかもしれない、と宇宙の長旅の間にタケルは思い始めていた。
 
 
かといって、火星に行くことしか考えていなかったから、具体的なことが思い浮かばない。
 
 
『パパやママは、今ごろ何をしているんだろう?』
 
 
ふと心配になったタケルは、Mフォンのメールのチェックを音声モードにして、耳のそばに当てて聞いてみた。
 
 
[タケル、パパとママは部屋に戻っているからね。
 
いつでも待ってるよ。
 
なるべく早く帰って来なさい]
 
 
『パパの声、…まだ聞こえる。そうか、パパとママには心配かけちゃったな。
 
キララに会ったら、一度部屋に戻ってみよう』
 
 
そのとき、“キララ”の声がした。
 
 
「タケル。あのゲーム、おもしろかったね。タケルのゲーム、応援してて、楽しかった。
 
他の子は、ジャンプヘタだったから、つまンなかったヨ!」
 
 
“キララ”はうれしそうな顔をして、タケルの目の前にいた。
 
 
その姿は最初に出会ったときと同じだ。
 
 
「がっかりだな。お化けみたいなカッコで現れると思ってたのに…」
 
 
「アタシのこと、幽霊って言う人もいるけど、でも、幽霊じゃないンだ。
 
タケルと同じくらいの年だよ。時々、消えるケドね」
 
 
“キララ”はそういって、タケルのすわっているベンチの横にちょこんとすわった。
 
 
タケルは、こんなことを普通に話す子と一緒にいることが、不思議だった。
 
 
「オレ、キララが見えないのに、ナンで声だけ聞こえたのか、知りたい…」
 
 
「声はネ、わかるヨ。アタシ、タケルのこと、応援したいって思ったンだ」
 
 
「応援したい? 」
 
 
「アタシ、家族いないから、タケルはアタシの仲間なんだ。
 
 
タケルを助けてやりたいと思ったら、タケルの心に届いた…」
 
 
「キララのこと、幽霊っていうのは?」
 
 
「アタシは、幽霊って言うのがわかンないのさ。幽霊って、死んだ人間のことだろ?
 
 
宇宙船で生まれたらしいけど、ここへ着いたときは、アタシひとりだった。
 
 
宇宙船から出ても、だれもアタシに気づかない。
 
 
言葉もわからなかったけど、いろんな動画見て、おぼえたンだ。
 
 
宇宙船がこわされたから、このステーションで暮らしてる。
 
 
倉庫に売れ残りの服が、置きっぱなしになってるンだ。
 
 
時々、気に入ったのを見つけて着てるけど、シャワーは人に気づかれないように入ってる。
 
 
アタシ、Mフォン持ってないからね。
 
 
さっきみたいに、掃除してりゃ、チップがわりに、食べ物やドリンクをくれるンだ。
 
 
幽霊って、食べたり飲んだりは、しないンだろ?
 
 
Mフォンなしに消えるから、シャワー室でお湯と泡だけ流れてたとか言って、おかしいって騒ぐ人はいるよ。
 
 
でも、普通の人間だって、Mフォンで移動できるンだろ? 
 
 
ここじゃ、ボックス使って移動するのが普通だから、突然消えるのが、おかしいンだろうけどね。
 
 
だから、いつもは誰にもジャマされない秘密基地を見つけて、そこにいるンだ。
 
 
アタシを見て、話しかけてくれる人間もいるから、何とかやってこれたンだけどね…」
 
 
『キララって、自分が死んだのわかってない幽霊なのかも?
 
そんな幽霊が、宇宙にはウヨウヨしてるって、聞いたことがある。
 
やっぱり、パパのいうこと信じてた方が良かったのか…』
 
 
「タケル。まだアタシのこと、幽霊って思ってるンだろ?
 
アタシの言うこと信じないと、これから怖い目に遭うんだよ!」
 
 
“キララ”は意地悪そうに笑っていた。タケルはあ然として“キララ”を見つめた。
 
 
「タケル、アンタ幸せすぎるよ。きっと、やさしいパパとママがいるからだろうネ。
 
人にだまされたことないだろ? 
 
アタシには、家族がいないから、どんなことがあっても平気。
 
何があっても平気じゃないと、生きてけないンだ。
 
タケルは、もうアタシの仲間だから、言うことはチャンと聞いてもらうよ。
 
アンタの耳が聞こえなくなっても、アタシの言うことは、アンタに聞こえるからネ。
 
アンタのことは、先のことまでアタシに見えるんだヨ!
 
…で、タケルがアタシの言うこと聞かないと、どうなるかわかる?
 
 
……タケルのパパとママが、殺されるンだ…」
 
 
“キララ”の顔が小悪魔に変わり、その目は冷たく光っていた。
 
 
タケルは背筋が凍りついて、思わず逃げようとしたが、金縛りにあったように、動けなくなった。
 
いったい、この“キララ”という女の子は、何者なンだ?
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第12章 ロング・ホームルーム ①

2021-06-23 15:40:56 | 未来記

2008-02-25

1.ケンカの原因

 

MFiエリアのスクールでは、みな神妙な顔をして、ホームルームが始まるのを待っていた。

 

「どうしたら、チルドレンズ・ハウスで仲良く暮らせるか…?」

 

今日はヴァレンタイン・デー。

 

保育や初級コースの子供達は、自分の好きな子にメールを送ったり、授業でお世話になった人へのプレゼントを作ったりする行事で一日を過ごす予定だ。

 

一方の中級コース・上級コースは、進級・卒業テスト前とあって、午前中は平常通りの授業のはずだった。

 

あの事件さえなかったら…。

 

それでなくても、誰が誰にプレゼントを渡すのか、神経がぴりぴりしている時に、想定外の事件が起こってしまった。

 

もちろん、大好きな子のことしか頭にない子は、周りで何が起ころうと、マイペースでハッピーなのだが…。

 

ホスピタルに入院しているパールは、おばさんと相談して、お小遣いを戦争に反対する団体に寄付することにした。

 

去年までは何の迷いもなく、タケルに特別なプレゼントを渡していたキラシャも、今年はタケルがいなくなったおかげで、誰かに何かをあげるという気持ちになれない。

 

パールの話に心を動かされたキラシャも、戦争に反対する団体に寄付することにした。

 

この日のホームルームには、ユウキ先生の計らいで、キラシャとパールも病室からオンラインで参加することになった。

 

パールは転校生でもあり、ヤケドなどのハンディを負っている上、おとなしくて美人、いわゆる男の子にモテるタイプなので、やきもち焼きの女子から、もっともイジメられやすい。

 

そして、キラシャはイジメられている子を助けようと、張り切りすぎて、イジメの相手に手を出してしまう。

 

イジメの問題を抱えた2人の今後を考えて、ユウキ先生が参加を決めた。

 

スクールの中でも生徒の人数が多いクラスを担当する先生は、管理することに気を取られ、生徒ひとりひとりのことを考える余裕がない。

 

しかし、キラシャのクラス担任のユウキ先生は、何かと生徒の様子を心配して、話しかける先生なので、わりと生徒から慕われていた。

 

ユウキ先生にとっては、自分のクラスにケンカの始まる当事者がいたこともあって、これ以上自分のクラスでのイジメやケンカは、避けてもらいたいようだ。

 

生徒たちも、そんな先生の気持ちが伝わっていたから、少しはまじめにこの問題に取り組んでみようという雰囲気はあった。

 

それに、ユウキ先生のおかげで、久々に美しいパールが顔を見せてくれる。それだけで、男の子はウキウキしていた。

 

ホームルームの時間が始まると、ユウキ先生は口の周りにアザをつけているカイをつれて、学習ルームに入って来た。

 

以前から、無口でおとなしい存在だったカイは、騒ぎを起こすような生徒ではない。

 

ゼノンは廊下で仲間とたむろしては、おとなしい子にちょっかいをかけていたが、カイは例えつばを吐きかけられても、拭き取りもせず、だまって通り過ぎていた。

 

そんなカイを知っている女の子は、カイにたずねた。

 

「なんで、あんな大ゲンカになったの? カイって、おとなしい人だと思ってたのに…」

 

「ゼノン ボクニ アシ ヒッカケタ」

 

「その後で、大ゲンカしたんでしょ?」

 

「ボク カオ ウッタ。アト オボエテナイ…」

 

クラスが、ざわめいた。

 

ユウキ先生が、あわてて補足した。

 

「みんな静かに聞いて欲しい。カイは、あのケンカには加わっていないんだ。これは、防犯カメラでも確認したから、本当だよ」

 

それでも、クラスはまだざわざわしている。

 

「さぁ、静かにして! カイは、ケガをしたショックで気を失っていたんだ。

 

もう少し、カイが説明したいと言ったから、みんなも少し協力して聞いてくれないか。

 

さぁ、カイ。腹から深呼吸して。君はいつも、遠慮がちにしかしゃべらない。

 

だから、みんなをイライラさせるし、イジメられたのだと思う。

 

元気を出して、みんなに聞いてもらいなさい」

 

カイは、ためらいながら話し始めた。

 

 

「…オリエント・エリア センソウデ イッパイ ヒト シンダ。

 

ゼノン オナジ エリア。ボク イジメテ コロソカモ シレナイ オモッタ」

 

クラスがシーンとした。

 

だが、ここは平和なエリアだ。反論する生徒もいる。

 

「いくらゼノンだって、そんなバカなことしないよ。オレ達だって、ひどい目に遭ってるけど、通報すれば、すぐパトロール隊が助けてくれるし…」

 

「あたしたちだって、ゼノンからひどいこと、いっぱい言われてるよ。スクールでそんなの真に受けてたら、それこそ生きてけないわ!」

 

クラス中から口々に意見され、カイは、怒ったように大声で叫んだ。

 

「センソウ ノ ユメミテ ネムレナイ…

 

ケド アサ ハヤイ。

 

Mフォン ウルサイ ダイキライ! 

 

ココモ キット センソウニ ナル!!」

 

これを聞いたダンは、カッとなって立ち上がって叫んだ。

 

「このエリアは、絶対に戦争なんかしないぞ!

 

戦争しないために、みんな努力してるんじゃないか。

 

朝早く起きるのだって、毎日の訓練だって、ドームに万が一のことがあった時に、たくさんの人が助かるように、みんなガマンしてやってるンだろう?

 

Mフォンだって、誰だって好きで使ってるンじゃないよ。ルールで決まっているから、うるさ過ぎるけど、黙って従っているンだ。

 

カイなんて、自分のことしか考えてないだろ! みんなのこと考えろよ! 

 

オマエのおかげで、反省会しなくちゃいけないンだぞ! 」

 

周りの子供たちも、「そうだよ! 」 と叫んだ。

 

カイは、よけいに不満を募らせ、吐き捨てるように言った。

 

「ミンナ ボクキライ。ココ デル! 」

 

 

ひとり、決心したように出て行こうとするカイの肩を 先生があわてて押さえた。

 

 

「ちょっと、カイ、待ちなさい。苦しいのは君だけか? 

 

自分のエリアに帰りたくても帰れない、つらい思いをしているのは君だけじゃないだろう。

 

 

君より、ひどい目に遭っている子のことを忘れてないか? 

 

カイ、先生にちょっとだけ時間をくれ。

 

さぁ、パール。聞いてるか? カイのためにも、君のことを話しなさい。

 

カイ、パールの話を聞いてから、出て行きたかったら、このクラスを出なさい。

 

後のことは、先生とよく話し合おう! 」

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第12章 ロング・ホームルーム ②

2021-06-22 15:43:55 | 未来記

2008-02-26

2.戦争をしないルール

 

久しぶりに見る、元気そうなクラスの様子をながめていたパールは、我を忘れて騒動を見守っていた。

 

ユウキ先生から、急に話をするように言われても、カイに何を言っていいのか、すぐに答えることができない。

 

キラシャが、そばで耳打ちをした。

 

「今まで、パールが話してたことを話せばいいんじゃない? 

 

うまく言えなかったら、あたしも助けるからね…」

 

キラシャは、パールの肩に優しく手をかけた。

 

「アリガトウ キラシャ…」

 

パールは、言葉に迷いながら話し始めた。

 

「カイ… キイテル?

 

ワタシ アナタ ト オナジ…。

 

アフカ カエリタイ。

 

パパ ママ キョウダイ アイタイ。

 

デモ イキテル ワカラナイ。

 

ワタシ イマ カエル。 ナニアル ワカラナイ。

 

ワタシ ト カイ オナジ。

 

ココノ ルール ビックリ。

 

アサ ハヤイ。

 

ショクジ ミンナ オナジ。

 

Mフォン シンセツ。

 

デモ チョット ウルサイ…」

 

学習ルームから、笑いが起こった。

 

「キラシャ イツモ イウ。

 

アンナ ルール ナイト イイノニ!

 

デモ アフカ・エリア イマモ カワラナイ。

 

ワタシノグループ ルール キメナイ。

 

コレ イケナイ。

 

アレ シナイ。ソレダケ…」

 

「パール、イケてる。その調子だよ…」横でキラシャがささやいた。

 

「オオキイ ルール ツヨイ グループ キメル。

 

ワタシノグループ ヒト オオイ。

 

デモ ツヨイ グループ コワイ。

 

ダカラ ナニモ キメナイ。

 

カイ イマ カエル。

 

ナニモ カワラナイ。

 

ツヨイ グループ イジメル ダケ。

 

カイ… ベンキョウ シヨウ。

 

センソウ シナイ ベンキョウ シヨウ。

 

MFiエリア センソウ シナイ ルール アル。

 

 

…カイ ジブン シンジテ。

 

MFiエリア コドモノ サイバン アル。

 

アイテ ワルイ オモウ。

 

ワルイコト ウッタエル。

 

ダイジ オモウヨ…」

 

生徒は静かに、パールの言葉を聞いた。

 

先生もパールの言葉に、大きく頷いて言った。

 

「そうだな。パールの言うように、カイはケンカの被害者だ。ここでは、子供でも裁判で相手を訴える権利がある」

 

「先生! ちょっといい? あたしにも言いたいことがある!」

 

キラシャも発言を求めたので、先生は、だまって頷いた。

 

「カイ! …さっき、パールも言ったけど、あたしもルールに対しては、不満だらけなンだ。だから、スクールのルール破って、ケンカに入って、怒られてるけどね。

 

でもさ、…スクールでやってる裁判は、自分の言いたいことが、言わせてもらえるよ。

 

だから、ケンカがひどくなったからって、やけになったりしないで!

 

裁判になったら裁判になったで、あたしは正々堂々と自分の意見を言うようにしてるンだ。

 

カイだって、今みたいに、言いたいこといっぱいあるンでしょ? 

 

だったら、裁判で言えばいい。

 

ゼノンみたいに、スッゴイ怖い相手の時は、しっぺ返しされないかって、ビビることもあるし、言っても無駄かなって思う時だってあるけど…。

 

みんなで決めたルールだから、ルールは簡単には変わらないけど、カイが言ったことが、後でみんなのためになることだって、きっとあると思うンだ。

 

だから、カイもがんばって! 

 

ゼノンと戦わずに、ただイヤだから出てゆくなんて、つまンないよ!」

 

クラスでは、拍手喝さいが起こっていた。

 

「やっぱり、キラシャだね」

 

「元気いいじゃン。もう退院してもOKだよ」

 

クラスの子供達は、笑いながらキラシャを見守った。

 

先生は、カイに向かって、自分の席につくように言った。

 

カイも、しぶしぶ、先生の言葉に従った。

 

「さて、今、パールやキラシャがカイに言ったことは、先生もみんなに言いたいことなんだ。他のエリアにはないルールが、MFiエリアにある。

 

他のエリアを脅かすような戦争は、しないというルールだ。

 

ケンカやイジメは、裁判で決着すればいい。

 

ただ、相手を恐れるばかりで、自分の思いを殺しても、いつかは問題になって出てくる。それが、今回の大ゲンカにつながってしまったんじゃないかな?

 

今回のケンカは、オリエント・エリアに関わるものだから、先生にも立ち入れないかもしれない。

 

ただ、不安や不満に思うことは、どんどんカウンセリングを利用して、吐き出して欲しい。

 

ダンも言っていたけれど、君たち全員、毎日朝早くからドームに住んでいる人のことを考えて、まじめにやっているなぁと、先生は感心しているんだ。

 

みんなもがんばってるし、カイだって、決してサボってはいなかったんだよ。

 

むしろ、朝早く起きられない仲間のことも、起こしに行って面倒も良く見ていたから、カイがひどい目に遭ったのを見て、周りがほっとけなかったんだ。

 

そうだろう? 」

 

カイは、何も言えず、自分の席で顔をおおった。

 

「他のエリアから来た子供達の苦しみや、悲しみは、簡単に理解してあげられるものじゃない。

 

先生だって、君達への指導が適切だったかどうか、反省してる。

 

君達も、このエリアにやって来て、つらい思いでいる子供達のことも考えてほしいし、同じクラスでイジメを見て見ぬふりをしていないか、いろいろ反省してみて欲しい。

 

それから、これを今の君たちに報告することが、適切かどうか、先生は迷っていたんだけど、少し前までこのクラスにいたタケルのことを伝えておきたいんだ」

 

ケンが叫んだ。

 

「先生、タケルがどうかしたの?」

 

「タケルは、今、危険な状態にいる。

 

…と言っても、先生には、遠い宇宙で何が起こっているのかわからないが、ひょっとしたら君達が、彼を助けることができるかもしれない。

 

今までだまっていたが、タケルは、耳が聞こえなくなるという病気を持っていたんだ…」

 

クラスがざわめいた。

 

「その病気を治すために、火星へと向かったんだが、環境の変化に耐えられなくて、情緒的に不安定になってしまったそうだ。

 

それに、先生にもよく理解できていないんだが、タケルは何か恐ろしいことに巻き込まれるのではないか、と心配しているお父さんからのメールが届いた。

 

どうか、これ以上タケルをひとりぼっちにしないためにも、誰でもいい。時間があれば、タケルにメールをしてやって欲しい。

 

今は、大きな宇宙ステーションに滞在している。希望者にはアドレスを教えよう。

 

タケルが、このMFiエリアに帰って来ることを、タケルのご両親が希望しておられるようだ。

 

だから、みんなもタケルを励ましてやって欲しい。

 

先生は、カイと話があるので、残った時間はダンが議長で、副議長を選んで反省会をすること。

 

そうだ、忘れるトコだった…。

 

今日はヴァレンタイン・デーだけど、中級生はこれ以上の混乱を避けるために、校長先生から、『スクール内でプレゼントを渡すことは禁止する』という指令があった。

 

チルドレンズ・ハウスに戻れば、自由に渡すことはできるが、それが原因で混乱が起きないように、パトロール隊がいつもより多く常駐しているから、気を付けて渡しなさい。

 

Mフォンには、渡し方のルールがダウンロードされている。

 

ちゃんとアドバイスに従うように!

 

他にも先生に用事があったら、Mフォンで呼び出しなさい」

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第12章 ロング・ホームルーム ③

2021-06-21 15:45:38 | 未来記

2008-02-27

3.いざこざ

 

カイと一緒に部屋から出て行ったユウキ先生に、すぐにメールを送って、タケルのメールアドレスを教えてもらったヒロは、早速タケルへメールした。

 

いったい、あいつは何やってるンだ!

 

オレの言うこと聞いてから出て行けばいいのに、

 

勝手に黙って出て行きやがって! 』

 

 

一方、病室で先生からタケルのことを初めて聞いたキラシャは、しばらくボウ然としていたが、心配そうに見守るパールに気づき、照れ笑いをした。

 

「ちょっと、びっくりしたンだ。先生がタケルのこと知っててだまってたなンて…。ずるいよね、知ってたら教えてくれてもいいのに」

 

「キラシャ タケル スキ? 

 

ワタシ タケルノコト シラナイ。

 

デモ キラシャ ワタシ タスケタ。

 

ダカラ ワタシ タケルノ ブジ イノルネ…」

 

学習ルームでは、生徒ばかりでザワザワしていたが、ダンが議長として前に出ると、副議長にマキを選び、反省会が始まった。

 

先生がいると、言いたいこともなかなか言えないが、この時間は生徒だけとあって、ダンが今回のケンカについて発言するように促すと、意見が上がった。

 

「あのケンカで、やっとゼノンも裁判にかけられるけど、ゼノンにイジメを受けた子はかなりいたと思うよ」

 

「そうそう、いつも通り道をジャマするようにたむろして、変なカッコウで踊ったりしてたよね。ゼノンにちょっかいかけられて、困ってた子たくさんいたんじゃない?」

 

「親戚が金持ちだからさ。何やっても許されるって言うンじゃ、まじめにやってるオレたち迷惑だよな…」

 

「ホォー、まじめネェ~」

 

子供達は、先生がいないという解放感から、クラス中がザワザワし始めた。

 

「オイ、静かに! じゃぁ、ゼノンのことは裁判に任せて、オレたちは自分らのこと話そうぜ。仲良くするための反省会なんだから、何か意見のある奴、いないのか?」

 

自然といつもの口調になったダンに、ジョディから非難の声があがった。

 

「ダンだって、先生の前じゃ文句言えなかったけど、女の子のこと、陰でずいぶん泣かせてるじゃない」

 

「えっ? オレが? それは初耳だな。何かワルイコトしたとでも言うのか…」

 

マギィも参戦した。

 

「あたしたち知ってるけど、男の子使って、気に入った女の子くどいてるでしょ!」

 

一部の女の子からブーイングが起こり、勝ち誇ったようにジョディが大声で言った。

 

「今日はヴァレンタイン・デーなのよ!

 

お義理だけでも大変なのに、本命を強要しないで欲しいわ!」

 

「オレ、強要してないよ! 

 

マギィも、勝手にプレゼント送って、お返し強要してるじゃないか。

 

アレって、大迷惑だぞ! 」

 

マギィをかばうように、ジョディが強気で言った。

 

「あたし達は、本気なの! 恋愛学のパートナー選びって、一生に関わることなのよ!

 

女の子にとって、好意を示すことがダイジなんじゃない。アンタに、それがわかンないの? 」

 

 

「…オレだって、恋愛学のためにパートナー探してるンだ。

 

みんなも、同じだろ?

 

でも、オレはマギィみたいに、強要はしてないぞ!

 

かわいい子には、誰だって声かけたくなるジャン。

 

でも、プレゼントの無理強いはしてないぞ!

 

イジメの相手をやっつけてやったから、そのお礼にって、義理でくれる子もいるケド

 

正直、お返しのことを考えると大変なンだ…」

 

ダンの本音に、男の子からもブーイングが起こった。

 

「義理でも、いっぱいもらえていいなぁ~ 」

 

あせったように、ダンが言い訳を始めた。

 

「でも、お返しだって大変だぞ! 

 

オレ、自分のこづかいはたいて、ちゃんと返してるンだぜ。

 

頼むから、お義理は勘弁してほしいっていうと、

 

泣いたり、怒ったりする子がいるンだよな~ 」

 

当然、女の子から、激しくブーイングが起こった。

 

しびれを切らしたように、マキが大声で言った。

 

「もう、議長がコレじゃ、話になんないでしょ!

 

校長先生からスクール内でのプレゼント禁止されてるンだからさ、

 

こんなこと話し合ってていいの?

 

今は、ケンカしないためにどうすればいいか話し合っているのにさ、

 

議長が議題そらしちゃってどうするのよ? 」

 

周りからいっせいにはやし立てられ、さすがのダンも困った顔。

 

「…そうか、わかった。オレもう今年はプレゼントもらわない。絶対くれるなよ!

 

だから、女の子もプレゼント渡して、お返しを無理強いするのやめろ!

 

じゃ、時間もないことだから、もっと他にイジメで困ってることってないのか? 」

 

「ダン。ちょっといいか? 

 

話ぜんぜん変わるけど、オレ、タケルにメール送ってみたけど、返事がないンだ。

 

何だか嫌な予感がするンだ。

 

宇宙ステーションの警察に連絡した方がいいと思うけど、どうかな? 」

 

と、突然ヒロが言い出した。

 

「嫌な予感? タケルは大丈夫だよ。

 

あんな運動神経いいやつに、何があるってンだ。

 

それじゃ、他にもイジメで困ってる子はいないのか? 」

 

タケルが心配なキラシャは、たまらずにダンに問いかけた。

 

「ダン。お願いだから、タケルのこと考えてあげて! 

 

先生、タケルの耳が聞こえないって言ってたよ!

 

きっと、ここにいた時のタケルじゃないンだよ。

 

お願いだから、タケルのこと助けて欲しい! 」

 

学習ルームでは、男の子も女の子も口笛を鳴らし、ヤジを飛ばした。

 

「キラシャは、タケルのことがダイスキで~す! 」

 

「そんなにスキなら、今すぐ宇宙に飛んでっちゃえばいいのに~! 」

 

ダンが焦って、大声を出した。

                                                                                        

「オイ、あんまりうるさいとパトロール隊が入ってくるぞ! 

 

先生いないンだから、静かにしようぜ!」

 

そんな時、終了時間のチャイムがなった。

 

「じゃぁ、タケルのことはヒロに任せた。

 

でも、ユウキ先生に許可を受けてからにした方がいいと思うよ。

 

とにかく、これからも、お互いに相手のこと考えて行動しようぜ。

 

キラシャとパールがクラスに戻ってからも、みんなで仲良くやろうな!

 

以上で反省会終わります。

 

マキ、副議長引き受けてくれて、ありがとう! 」

 

ダンは、マキに握手を求めて、まだじっと自分をにらんでいるマギィやジョディには目もくれず、学習ルームを出て行った。

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