霧の中をさまよいながらやっとのことで山小屋にたどり着く。でもそこは山小屋ではなく荒れ果てたペンションの様な建物だった。でも電気は点いている。「すいません、すいません、誰かいらっしゃいますか!」薄暗い奥の部屋から「は~い、どなたでしょ」一人の老婆が出てきた。「すいませんが道に迷ってしまい少々休ませていただけませんか?」「それはお困りでしょう、どうぞ中にお入りください」「助かります、失礼します」そういって私は上がりこんだ。広い居間に通され「お疲れでしょう、ソファにでもお座りになりおくつろぎなさい、今、熱い物でもお持ちいたしましょう」といって老婆は奥に入っていった。「ああ、よかった」と私は少々不思議に思いながらもソファに腰を下ろした。しばらくすると老婆は暖かいコーヒー持って現れた。品のよさそうな老婆に安心し、「どうしてお婆さんはこんな山奥に‥」と尋ねると「いえいえ私一人ではもう一人息子がおります。今息子は下の町まで買出しにいっとります」しばらく老婆と世間話をして外を見てみるとまた霧は濃くなっていた。「外はもう暗いですし、よければ一晩お泊りなされ、息子も霧が晴れれば戻りましょう」それは有り難い、私も霧の濃さと暗闇の中を歩くのは不安だったので「有り難うございます、お言葉に甘えさせていただきます」「では久々の来客に夕食でもごいっしょいただいて」「いいえ、お構いなく、私は寝る床さえあれば‥」老婆の誘いを無下に断る事も出来ずに私は老婆と夕食を共にすることにした。老婆は山の中の一軒家で過ごしているわりには物知りで世間通でもあった。楽しかった夕食は私を満腹感と疲れを誘い眠くなり始めた。「どうぞこちらでおやすみなさい」と老婆は奥の部屋を提供してくれた。私はフラフラする足取りでとりあえずそこを借りる事にした‥。続く。
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