家の玄関を恐る恐る開けてみると、暖かい空気とトントンという音がした。玄関と茶の間の境の戸を開けるとかあさん、かあさんが居る「かあちゃん!」私は思わず叫んだ。「お帰り、待っていたよ、遅かったね」「どうしてこんな所に‥」「馬鹿だねここにはずっといたじゃないか、さ、早くお上がり、お前の好きな芋のにっころがしを作っておいたよ」「かあちゃん、俺‥‥」もう後は涙で言葉に詰まってしまった。俺はかあちゃんの膝で思いっきり泣いて今まであったことを話した。「そうかい、そうかい、辛かったね、でも辛い時も楽しい時もかあさんは何時もお前の側にいるからね、だってお前は私の子供だもの‥」かあちゃんの膝は暖かくて懐かしくてまた俺は思いっきり甘えてないた‥‥。「お客様、お客様‥」という呼び声で俺は気がついた。「どういたしました」涙でぐちゃぐちゃの顔を恥ずかしさのあまり隠しながら「いえ、なんでもないです‥」「そうですか、もうまもなく終点駅ですので」と言うと車掌はいってしまった。ふと窓を見るともう白々と夜は明け始め「あれは夢だったんだ‥」かあちゃんの膝の温かさを感じる、そう思いながら時計を見るとちょうど六時だった。車掌は悔しそうに「なぜあの客はバスには乗らなかったんだ、戻って来たのはあの客だけだ‥‥」 『戻れない列車』
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