喫煙を考える

「喫煙」という行為について共に考えましょう。
タバコで苦しむのは、喫煙者本人だけではありません。

個人飲食店の屋内禁煙化は店主の不安を解消することで進む

2018-01-25 07:59:04 | 喫煙を考える

1月23日(火)、Yahoo!ニュースに、フリーランスライターの石田雅彦氏による
「飲食店は『全面禁煙』にすべき5つの理由」という記事が掲載されました。
その数日前に、私が参加したある集会に石田氏もお見えになっていて
参加者から飲食店の禁煙化に関してさまざまな意見が出され
石田氏からは、企業が飲食店を接待で利用する際に
一人でも喫煙者がいると忖度せねばならない状況ができて
喫煙できるお店を選択せざるを得ない実態があると聞いている、ということや
記事内容にもあるように
「屋内全面禁煙するのが最もシンプルで効果的だし、喫煙者を含めたみんながハッピーになる」
ということなどを、伺うことができました。
では、飲食店の禁煙化を進めるにはどうしたらよいか、という話題で

・飲食店の禁煙化は、受動喫煙による健康被害の問題で、公衆衛生問題である
・飲食店と言えども従業員にとっては職場であり、職場の労働環境問題でもある
・飲食店が禁煙化しても、売り上げは落ちないという論拠(エビデンス)がある

以上の点をもっと個人飲食店に訴えて、皆さんにお知らせしていかなければならない
という意見が出され、参加者の皆さんも頷かれていました。
それをどのような手法で行えば、個人飲食店に届き、無関心層に響くのかが
私たちが工夫しなければならない課題であると思います。



しかし、私は上記の3点をどれほど論理的に説明し、数字を提示して理解を求めても
どうしても打ち破れない禁煙化を阻むものが、とくに個人飲食店ではあるように感じています。
私はこれまで、生活圏はもちろん、旅行先や出張先にある、既に禁煙化した個人飲食店で
店主や従業員の方に禁煙化までの経緯や禁煙化の理由について、お話を伺ってきました。
お話を伺った個人飲食店の方は、ふさわしい表現がどうかわかりませんが
利用客や従業員への受動喫煙による健康被害には無頓着で
売り上げが落ちないという論拠にも無関心でした。
お客の喫煙率低下を薄々は感じているものの、それが禁煙化の決定打ではなかったのです。
最も多かった回答は「時代の流れ」「ご時勢」で、非常にあいまいな感覚です。
タバコに関するニュースが増えてきた、タバコの話題を耳にすることが多くなった
というような感覚で、必ずしもその内容を知っているわけではないようです。
ご自身やご家族の体調変化や病気
子供の来店と健康増進法の施行を理由にした店もわずかにありました。
そして、驚くべきことに、禁煙化を躊躇した最も大きな要因として多くの店主が言及したのは
「喫煙する常連客の、恫喝ともとれる圧力が怖い」だったのです。
聞き取り事例は、約30店と多くありませんし、私が行く店ですので
地域や提供する食事のジャンルにも偏りがあります。
しかし、聞き取り事例が増えるにつれ、特徴や傾向があることがわかってきました。


1.屋内禁煙を阻む要因
 ・常連の喫煙者のお客に、「禁煙にしたら来ない」と言われ続けていた
 ・「禁煙なんかにしたらどうなるか、わかっているんだろうな」と
  恫喝ともとれる圧力をかけられた
 ・「コーヒーとタバコはセット。タバコが吸えないコーヒー店は魅力がない」と言われた
 ・「酒を飲む店なんだから、タバコが吸えなくなるのはおかしい」と、説得された
 ・近所の常連は喫煙者ばかりで、その人たちと親しい先代が禁煙化を許さなかった
 ・会社や組合の接待利用が多く、喫煙者がいる団体が禁煙化で離れるのが怖かった
 ・禁煙にしたら喫煙者の常連客になにを言われるか、なにをされるか怖かった

2.禁煙にした理由
 ・自分(店主)が病気になったから
 ・自分(店主)がタバコをやめたから
 ・店が小さいので、一人でもタバコを吸う人がいると店中に煙と臭いが充満してしまうから
 ・食べ物の香りを損ねたくないから
 ・従業員として働いている家族に健康被害が出たから
 ・子供が多く来店するため
 ・タウン情報誌に掲載されるのをきっかけにした
 ・健康増進法が施行されたから
 ・時代の流れ、ご時勢

3.屋内禁煙後の変化
 ・常連の喫煙者に罵倒され、芋蔓式にその喫煙者の仲間が来店しなくなった
 ・売り上げに変化はなかったか、一時的に落ちたがすぐに回復した
  (ほとんどのお店があてはまる)
 ・売り上げが回復するまで2年かかった
  (企業や組合のご用店として使われることが多かったお店)
 ・ごり押しや無理ばかり言う喫煙者のお客が来なくなり、客層が変わった。
 ・子連れの家族が来てくれるようになった
 ・女性客が増えた
 ・自分(店主)や家族・従業員の体調が良くなった
 ・喫煙者のお客に「なんだ、タバコも吸えないのか」とか
  「せめて外で吸えるようにしてほしい」と言われ
  出入口に灰皿を置いたりテラス席を喫煙可とした
 ・禁煙化した後、かなり長い間喫煙者の常連客に嫌味を言われ続けた
 ・店が汚れなくなった


お店によっては、データを重視し、喫煙率や世論の動向、法規制等を予測して
経営方針を決定している経営者もいらっしゃることでしょう。
しかし、私がお話を伺った範囲では、データを重視して禁煙に踏み切ったお店は皆無でした。
お店の禁煙化を阻んだ要因は、「喫煙する常連客の圧力がひたすら怖い」のが現実のようです。
実際、禁煙店になった後、常連客から嫌味を言われたことを
つらかったり困ったりしたこととして、多くの店主が打ち明けてくださいました。
そう考えると、全国飲食業生活衛生同業組合連合会などが行っている
受動喫煙防止法案・条例案に対する意見にあるような
小規模事業事業者が甚大な影響を受けるため「自主的な取り組み」に任せてほしいという主張は
個人店舗の経営者、とくに禁煙化したいと考えている経営者にはかえって酷だと感じます。
喫煙室の設置基準にかなうだけの設備投資ができ、店舗面積に余裕がある店は稀でしょうし
喫煙室が設置されている店舗は、残念ながら禁煙店とは言えません。


「店の仕事に従事している人にタバコを吸う人は誰もいないから、禁煙にするのが長年の夢」
「お店での受動喫煙で喘息になった。でも働かなければならない。禁煙にしてほしい」
「お店に出る日は、帰宅すると家族からタバコ臭いと言われる。自分でも臭いと思う」
上記のようなお話は、いろいろな場所で聞きましたが、店舗内を禁煙化したいと思いつつ
喫煙者からの圧力を恐れて禁煙化できずに苦しんでいる個人飲食店の店主にお会いするたび
禁煙化の判断や責任を店主一人に任せ、苦情や圧力を一身に背負わせるのは
論理的な判断が難しい状況に陥っている店主にとって、大変つらいことなのです。
論理的に判断することは難しいが「時代の流れ」「ご時勢」に敏感で
喫煙する常連客からの圧力をうまくかわしながら飲食店店主が禁煙化に踏み切るためには
圧力に対抗できるだけの強力な理由、あるいは大義名分が欲しい
というのが偽らざるところなのではないか、と店主からの聞き取りで感じました。
立法化するための政治的解決方法としては、さまざまな選択肢があることはわかりますが
屋内一律全面禁煙を法律として明確に整えることこそ
面積や雇用や設備投資や資金の差やお客からの圧力に対する不安を解消し
個人飲食店を救うことになる、と私は考えます。
減収への不安は、既に禁煙化した個人飲食店から禁煙化前後の売り上げデータを収集し
禁煙化を決めた店舗への奨励金、もしくは禁煙化後の減収に対する補助金など
店主の不安を解消する手だてを講じれば、一気に禁煙化は進むのではないでしょうか。

上の写真はあるレストランのテーブルにあったものです。
禁煙化した時、喫煙者の常連客から
「なんで禁煙になんかしたんだ」
と、言われ
「こんど法律で決まったんだよ」
と答えたら、その常連客はなにも言わなくなり、その後も来店してくれているそうです。


奈良のBrighton Tea Roomのオーナーは、長年英国にお住まいで
2012年の受動喫煙防止法適用の前後の様子についてお話を伺ったことがあります。
そのお話のなかで私が感銘を受けたのは
「パブで禁煙なんてできっこないと、ほとんどの人が考えていたけれど
 実際に法律ができて施行されると、皆それを理解して屋内では喫煙しなくなった。
 法律として整備して、きちんと実行すれば国民は守るし
 『やればできるんだ』と、国民も自信を持った
という言葉でした。

そうです
日本だとて、やればできるのです。


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4 コメント

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Unknown (喫煙者)
2018-01-29 00:46:09
英国のパブなどについては、規制前から営業されており今も存続しているお店の場合は、その事実を持って乗り越えることが出来たお店ですよね。

もうひとつは売上の変化は日本の場合でもそのお店によって現在好調だったり不調だったり、その理由は様々な要因があると思います。

重要なのは英国で存続しているお店でなく、規制後に潰れてしまったお店だと思います。今も存続している及び規制後にオープンしたお店で統計をとっても、それは偏ったエビデンスになりませんかね。
限られた常連だけに親しまれているとか、運転資金に余裕がまったくないようなお店、毎月借金の支払いがギリギリのお店などは、あっという間に潰れてしまいます。
そういった弱い個人経営の方々にとって不利であるというのはいかがなものかと思うんですけれども。
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だからこそ一律完全禁煙化を (荻野寿美子)
2018-02-04 11:35:28
喫煙者さん、おっしゃるとおりで、店舗条件で差がつくような内容の規制は、極力しない方が良いと私も思っています。
だからこそ、一律完全禁煙化が最も公正だと考えているわけです。
もちろん、シガーバーや特殊な形態の店舗(たとえば、経営者一人で営業しており、喫煙可であることを強く望んでいる店舗)まで禁煙にしろとは申しません。

差し障りがあるので、あまり詳細には述べませんが、健康増進法改正案の飲食店に対する厚生労働省の基本的な考え方は、小規模事業事業主にとって無慈悲な内容だと思います。
そこを、政治的温情というものがあるのなら、政治家が恨まれることで温情を示してほしいと思いますが、塩崎さんの時の経緯を見ると、期待できないでしょうね。
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全面禁煙後の飲食店売り上げ調査 (網乾左母次郎)
2018-03-01 16:29:58
世界中で飲食店の全面禁煙がなされています。
そしてその後の飲食店の売り上げ調査がいくつか見られます。
そのうちタバコ会社が金を出した調査論文は減収が14件減収なしが1件でした。
ところがタバコ会社から金を貰っていない調査では減収が1件減収なしが63件です。
さらに論文掲載紙には査読制度というものがあり、査読とは論文を他の専門家が内容をチェックする制度です。
タバコ会社が金を出した調査は全て査読なしという結果で、これは学会誌というより同人誌に近いもので、専門家のチェックに耐えられない論文であることが分かります。
そんないい加減な調査を元に飲食店の売り上げが下がると脅かしているのがタバコ会社の手口です。

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タバコ会社は微笑みながら嘘をつく (荻野寿美子)
2018-03-04 02:04:14
網乾左母次郎さん、おっしゃるとおりで、タバコ会社は豊富な資金(海外の貧困層の児童からの労働搾取とニコチン依存症ビジネスによる巨利)を利用して、科学(医学)・政治に影響力を発揮し、司法をも歪めてきました。
アメリカのタバコ会社は、これまで人々を欺いて利益を得てきた悪徳会社と裁判所に断罪され、その懲罰として、これまで嘘をついてきたことを、テレビCMと新聞で公表しました。

https://www.tobaccofreekids.org/assets/content/what_we_do/industry_watch/doj/corrective_statements/2017_10_corrective_statements.pdf

日本では、能動喫煙者のタバコ使用によってニコチン依存が生じ、タバコを吸わない人には受動喫煙による健康被害が生じることをJTは認めていません。
アメリカのタバコ会社同様、紙巻タバコを販売するJTは、アメリカのタバコ会社がこれまで嘘をついてきたことを認めたことそのものを、嘘だと主張する気でいるのでしょうか。

JTも、ありとあらゆる手を使い、アメリカのタバコ会社顔負けの嘘をついてきました。

http://tobaccocontrol.bmj.com/content/early/2018/02/03/tobaccocontrol-2017-053971

http://www.jstc.or.jp/uploads/uploads/files/tobaccocontrol-2017-053971-inline-supplementary-material-1.pdf

タバコ会社は、優しく微笑みながら、嘘をつくのです。
飲食店の売り上げ云々の嘘は、その一部にしかすぎません。
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