競馬マニアの1人ケイバ談義

がんばれ、ドレッドノータス!

よっ、横綱!4

2017年02月20日 | よっ、横綱!
 富士泉関の初日の相手は月光関。突っ張りを得意としてる力士です。3場所前から幕内にいますが、十両時代富士泉関との対戦はありません。
 いよいよ富士泉関と月光関が土俵に立ちました。大きな声援が飛びます。富士泉関の身体が高揚し、赤くなってきました。
 塩撒き、四股。仕切り線の前で蹲踞。相手をにらんで両手を土俵に付けます。この行動を何度も何度も繰り返します。呼出しさんが富士泉関に汗拭きタオルを渡しました。これは制限時間いっぱいを伝える合図です。富士泉関の身体はもっとも赤くなりました。いよいよ取組です。
 仕切り線を挟んで富士泉関と月光関が腰を割りました。見合って、手を付いて、発気揚々(はっけよーい)! 残った!
 月光関の両手(もろて)突き。そして突っ張り。すごい回転の突っ張りです。その突っ張りを受け、富士泉関の身体が徐々に下がっていきます。でも、富士泉関は精神的余裕がありました。この程度の突っ張りなら、十両にもたくさんいます。
 富士泉関の踵(きびす)が俵に触れました。その瞬間、富士泉関はさっと右手側に廻りました。いなしです。月光関の身体がぐらつきました。今がチャンスと富士泉関は得意の右四つで月光関の身体を掴まえました。さらに間髪入れずに右踵を月光関の左アキレス腱に絡ませました。内掛け。富士泉関の身体と月光関の身体が重ね餅になって土俵に激しく倒れました。勝負あり。富士泉関、幕内初勝利です!
 内掛けがあまりにも見事に決まったせいか、場内は一瞬シーンとなりました。が、次の瞬間、ものすごい歓声が巻き起こりました。
 幕下まで落ちてしまった富士泉関は、何か得意技はないかと研究し、相撲界に入る前に励んでいた柔道を思い出し、大内刈りを変形させた内掛けを試してたのです。最初のうちはあまりうまく決まらなかったんだけど、徐々に徐々に手に入れてきたんだよ。
 でも、今の内掛けは凄かったなあ。先場所も何度か内掛けをやったけど、こんなに見事に決まった内掛けはなかったよ。これならもっともっと上に行けるんじゃないのかな。
 富士泉関は次の力士に力水をつけると、支度部屋に向かって歩き始めました。ぼくはその富士泉関に声をかけてみました。
「やったね!」
「ああ、やっと片目が開いたよ。1年半もかかっちまったなあ」
 富士泉関はとってもうれしそうです。
 支度部屋に帰ると、そこに横綱富士ケ峰関が待ってました。
「よくやったなあ、いずみ、おめでとう!」
「ありがとうございます!」
 富士泉関は満面の笑みで応えました。

 その後富士泉関は風呂に行きました。と言っても、富士泉関はシャワーしか浴びないんだけどね。
 本当だったら初勝利の喜びを噛みしめたいところなんだけど、今の富士泉関の興味は横綱富士ケ峰関に移ってました。先場所横綱は8勝7敗。もし今場所も同じような成績だったら、間違いなしに進退伺です。大好きな横綱。なんとしても生き残って欲しい。富士泉関は大きく願いました。
「じゃ、行ってくる」
「頑張ってください!」
 横綱富士ケ峰関が土俵に向かいました。富士泉関はただ見送るしかありませんでした。

 土俵上は東大関銀奨関と平幕赤富士関の取組。銀奨関は先場所・先々場所も14勝1敗でした。負けは2つとも横綱朝桜関です。その横綱が本場所直前にアル中で緊急入院してます。なんとか初日には間に合いましたが、完調にはほど遠いのはたしか。風は完全に銀奨関に追い風です。銀奨関は今場所初優勝を決めて、なんとしても横綱に昇進したいはずです。
 いよいよ立会。銀奨関は赤富士関の身体をガシっと捕まえると、そのまま寄り切ってしまいました。取組時間わずか0.9秒。完勝です。銀奨関は今場所も調子がいいようです。
 続いて横綱富士ケ峰関が土俵に上がりました。相手は市松関。市松関は先々場所13勝2敗と絶好調で関脇に上がりましたが、先場所は5勝10負と負け越してます。今場所は東前頭筆頭にいます。
 塩撒きと四股と蹲踞を繰り返し、いよいよ取組の時間となりました。両者腰を降ろし、呼吸を合わせます。発気揚々! 残った!
 次の瞬間、市松関の右肘が飛びました。これはかち上げです。バシーン! その肘が富士ケ峰関のあごにヒットしました。なんと横綱の身体は、そのまま崩れ落ちてしまったのです。
「卑怯者!」
 場内に罵声が響きました。実は市松関は先々場所かち上げを連発して勝ち星を稼ぎましたが、あまりにも強烈なかち上げを喰らって失神する力士が続出し、大問題に。場所後親方衆の会議で市松関の親方が善処すると宣言し、先場所市松関はかち上げを封印。けど、市松関は負け越してしまいました。そのせいか、今場所は初日からかち上げです。富士ケ峰関は当然かち上げはやってこないと思ってたから、まともに喰らってしまいました。
 しかし、市松関のかち上げは度を越してます。相撲技というよりプロレス技のエルボーパッドですよ。場内は大ブーイングとなりました。
 富士ケ峰関が支度部屋に戻ってきました。右手で自分のあごを押さえてます。
「横綱、大丈夫ですか?」
 富士泉関が声をかけると、
「ああ、なんとかな。しっかし、こいつぁ強烈だなあ…」
 どんな理由があろうと、負けは負けです。今場所ある程度勝ち星を稼がないといけない富士ケ峰関は、初日いきなり敗北となってしまいました。
 ちなみに、今場所直前にアルコール中毒で入院となった朝桜関は、結びの一番で無難に勝ちを拾ってました。

 次の日も富士泉関は富士ケ峰関とともに自動車出勤です。昨日ははしゃいでいた富士ケ峰関ですが、今日はずーっとむすーっとしてました。昨日の負けがかなりショックだったみたい。富士泉関は何か話しかけようと思いましたが、何を言っても慰めにもなりそうにないので、ただただ黙ってました。
 この日の富士泉関の相手は風花関。すでに35歳のベテラン力士です。以前は大関一歩手前まで昇進しましたが、今は平幕下位です。得意技は突っ張り。富士泉関は2日連続で突っ張りを得意とする力士との対戦となりました。富士泉関は昨日の月光関戦をイメージしてます。あの戦法を使えば勝てると思ったのかな? それはちょっと甘いような気がするけど。
 いよいよ取組です。見合って、見合って、発気揚々、残った!
 思った通り、風花関の強烈な突っ張り。それを受ける富士泉関ですが、昨日の月光関とは明らかに違う感触を感じました。まずい・・・
 富士泉関の踵が土俵の俵に触れました。昨日のように廻り込もうとしましたが、風花関が精一杯伸ばした突っ張りに土俵を割ってしまいました。完敗です。年を喰ったとはいえ、さすが元大関候補です。格が違いました。
 富士泉関がとぼとぼと支度部屋に向かって歩き始めました。ぼくはその富士泉関に声をかけようと思ったけど、富士泉関の付き人が両側についてしまって、ちょっとむり。
 と、富士泉関の前に1つの人影が立ちふさがりました。この人は・・・、なんと、横綱朝桜関でした。横綱が待ち伏せしていたのです。横綱はおもむろに声をかけてきました。
「どうした、今の敗戦は?」
「あは、相手が強過ぎました」
「おいおい、相手は元関脇とはいえ、今はお前と同じ平幕下位だぞ」
「でも、あの突っ張りは防ぎようがないですよ・・・」
 それを聞いて朝桜関は、ちょっと斜め上の方に視線を向けました。と、何かを思いついたようです。で、富士泉関の耳元に口を持っていきました。
「立会だ。相手より1歩速く出ろ」
 というと、富士泉関の顔を見てほんの少しにこっとしました。それを見て富士泉関はあれっとした顔を見せました。
「じゃあな」
 と言うと、朝桜関は行ってしまいました。相手より1歩速く出る。でも、富士泉関の親方は、立会相手と呼吸を合わせろといつも言ってます。横綱は相手と呼吸を合せる必要はないとでも言いたかったのかなあ?
 しかし、横綱朝桜関はなんで関係のない部屋の力士にアドバイスしたのかなあ? 今までこんなことあったかなあ?
 富士泉関が支度部屋に戻ると、今度は同じ葵部屋の横綱、富士ケ峰関が話しかけてきました。
「残念だったな。まあ、毎日うまく行くとは限らんな。今は15日終わった時点で勝ち越していれば、それで十分さ」
 これがふつーの先輩力士のアドバイスですよね。

17フェブラリーSの写真

2017年02月19日 | 競馬写真
今日は東京競馬場に行ってきました。今日の東京競馬のメインレースはG1フェブラリーステークスでした。

 

 



今年のフェブラリーSの覇者はゴールドドリームでした。ダート路線は比較的ベテランの馬が優勝するのですが、今年は4歳馬が優勝しました。しかし、ゴールドアリュールが逝去した次の日にゴールドアリュールの息子が優勝するなんて、何か出来過ぎのような。

フェブラリーSは毎年開門から30分経っても席は満杯にはなりません。寒いし、そんなに慌てる必要はないと思い、6時40分に家を出発。途中松屋で朝食を取り、東京競馬場の正門に着いた時刻は8時40分。門の前はすでにかなりの列ができていてちょっと焦りましたが、8時50分開門すると、私が目指す席はスカスカでした。というわけで、欲しい席は楽々ゲット。ちなみに、席がすべて埋まった時刻は9時20分ごろでした。
今日はG1のせいか、馬券を買いまくりました。と言っても、いつものように単勝と複勝ばかりでしたが。1回勝って2回負けるという感じでしたが、東京8・9・10レースはキャロットの馬の単勝を買って3連勝。


フェブラリーSは3ゴールドドリーム・6モーニン・11ノンコノユメに注目。なんでこの馬に注目したかって? 3頭とも外国人ジョッキーだったんですよ。当初この3頭の馬連BOX馬券を買うつもりでした。けど、9ベストウォーリアも気になり、急遽こんな馬券を買ってみました。


結果1着3・2着9。的中。土壇場で予想を変えて大成功でした。今日は5000円ほど黒字になりました。

17ダイヤモンドSの写真

2017年02月18日 | 競馬写真
今日は東京競馬場に行ってきました。今日の東京競馬のメインレースはG3ダイヤモンドステークスでした。

 



今年のダイヤモンドSの優勝馬はアルバートでした。上り3ハロン33.4秒。3400mも走ってこれですよ。これは勝って当然ですよね。ちなみに、上り3ハロン2位は、全体6着のフェイムゲーム。34.1秒でした。
考えてみたら、ダイヤモンドSは毎年パスする重賞です。ダイヤモンドSを最後に見た年はいったいいつのことやら。

よっ、横綱!3

2017年02月17日 | よっ、横綱!
 いよいよ本場所初日の日がやってきました。会場までの移動ですが、富士泉関は富士ケ峰関のクルマに同乗させてもらうことになりました。この前のクルマとは別の、いかにも横綱のクルマらしい立派なショーファードリムジンです。
 横綱はうれしそうです。横綱は先場所8勝7敗でした。今場所ある程度勝ち星を積み重ねないと進退伺となるのですが、そんな様子はまったくありません。ともかく上機嫌です。かつての付き人だった富士泉関が、今場所から露払いをしてくれるせいかもしれませんね。
 ちなみに、昨日の晩そーっと横綱のマンションの部屋をのぞいてみたら、横綱は競馬新聞に釘付けになってました。それが3時間以上。なんか全レース予想してたみたい。富士泉関の心配がなんとなくわかってしまいました。
 当の富士泉関は、自分のことを心配してました。富士泉関は新入幕のときは初日から5連敗。しかも5日目にひじを骨折して、途中休場になってました。つまり、まだ幕内未勝利なのです。
 今場所はそれ以来の帰り入幕です。富士泉関のとりあえずの目標は片目を開ける、つまり幕内初勝利なのです。
 もう1つ心配してることがあります。それはさっき言った横綱土俵入りの露払い。相撲の道に入って初の大役です。これはドキドキするよね。
 ふつー力士が乗るクルマは、会場の南門の前に停まります。門と会場の間には花道が出来ていて、力士たちはその中を声援を浴びながら入場します。けど、横綱と大関のクルマは、会場の地下駐車場にまで入っていけます。そう、特権階級てやつだね。
 富士泉関は地下駐車場に入ると、眼を輝かせました。めったに見る機会のない地下駐車場です。いつかはこの駐車場に自分のクルマを駐めたいと思ったみたい。

 横綱と富士泉関がクルマを降りると、ふと声がかかりました。
「おーい!」
 横綱と富士泉関が同時に振り返ると、そこには横綱朝桜関が。朝桜関がかつかつと歩いてきました。富士泉関はこれまで朝桜関を何度も見てます。けど、こんなに間近に相対するのは初めてです。大横綱を前に富士泉関は、かなり緊張ぎみになってしまいました。
 朝桜関はまず、なぜかぼくを見ました。
「なんだ、おまえ、ここにいたのか?」
 ああ、朝桜関、それはだめだって・・・ 富士ケ峰関はきょとんとしてます。富士泉関は「ええっ?」とびっくりとした感じ。ぼくを見ることができる人が自分以外にもいるんだと初めて知ったみたい。
「おおっと、これは失礼」
 朝桜関は慌てて今の発言を取り消そうとしたんだけど、今更遅いよ。
「お前、大丈夫か?」
「ああ、もうアル中は治ったよ」
 富士ケ峰関は今の発言を不審に思って質問したんだけど、当の朝桜関は5日前のアル中入院のことだと思ったみたいで、てんで関係のない返答をしてしました。富士ケ峰関は仕方がないから、朝桜関に話を合わせて会話を続けました。
「そういや、そこにいるのが富士泉か?」
 朝桜関の興味が突如富士泉関に向かったようです。
「ああ、そうだが」
 朝桜関が富士泉関の左肩をポンと強く叩きました。
「お前、強そうだなあ。いい身体してる」
 大横綱の突然の行為に、富士泉関はフリーズしてしまいました。
「お前、きっと将来横綱になるぞ!」
 その発言に富士ケ峰関が、
「おいおい、ほんとうか? こいつ、帰り入幕なんだぞ」
「いや、なんとなくわかるよ。こいつはきっと大物になる」
 で、朝桜関はまたぼくを見て、
「な」
 だからぼくに問いかけないでって。
「なんか11日目か12日目に対戦しそうだな。楽しみにしているよ」
 と言って、朝桜関は待たせている付き人の方に歩いて行きました。富士泉関は帰り入幕だから、幕尻に近い番付です。11日目・12日目に対戦するとなると、かなり調子がよくないといけません。今場所対戦するとは思えないんだけど。
「さあ、オレたちも行くか」
 富士ケ峰関と富士泉関が並んで歩き始めました。
「あいつ、いいやつだな」
 富士ケ峰関は歩きながらポツリと言いました。
「年は同じだが、あいつの方が1年早く横綱になってるし、横綱になってからもずーっとやつの方が上だ。なのにあいつは、いつも同じ目線でしゃべってくるんだよ。
 ところで、あいつ、誰としゃべってたんだ?」
「さぁ」
 富士泉関はそう言うと、ぼくをちらっと見ました。

 支度部屋です。すでに付き人衆によって明け荷は解かれ、横綱の綱や化粧廻しが用意されてました。でも、今日は初日。幕内土俵入りの前に、協会ご挨拶があります。横綱はこれに出ないといけません。
「じゃ、行ってくるぞ」
 横綱は土俵に向かいました。一方富士泉関は付き人の手を借りて化粧まわしの用意です。それも終わって、ようやく落ち着くことができました。すると富士泉関がぼくに話しかけてきたのです。
「なんで朝桜関はおまえのこと知ってるんだ?」
「さあ」
 ぼくはちょっととぼけました。でも、富士泉関はなんとなくわかってしまったようです。そうです。ぼくは横綱朝桜関と友達で、1ケ月前まで横綱の部屋にいたのです。でも、ぼくは朝桜関に飽きちゃいました。そんなときに富士泉関を見て、なんか言い知れぬ魅力を感じちゃって、なんとなくこっちに来ちゃったのです。

 幕内土俵入りです。富士泉関にとって1年と6か月ぶりの幕内土俵入りです。でも、富士泉関の心は、今ここにはないようです。ともかく今富士泉関は、横綱土俵入りの露払いのことで頭がいっぱいなのです。
 幕内土俵入りが終わり、ついに横綱土俵入りの時間となりました。横綱富士ケ峰関は横綱らしい純白の綱を付けてます。その前には露払い役の富士泉関が立ってます。
 初日の横綱土俵入りは、より偉い東の横綱が先に行います。その土俵入りが終わりました。
「よし、行くぞ!」
 その横綱の声に富士泉関が答えました。
「はい!」
 横綱富士ケ峰関の入場です。呼出しが拍子木を打ち鳴らして入場。続いて行司、さらに露払い役の富士泉関、そして横綱富士ケ峰関が続きます。ちなみに、殿の太刀持ちは今場所も他の部屋の関取が務めてます。
 呼出しが土俵に到達しました。横綱富士ケ峰関が二字口から土俵入りします。同時に露払い役の富士泉関と太刀持ち役の力士も土俵入りです。柏手・四股、横綱土俵入りは華々しく進んで行きます。そんな中、富士泉関はさっきの朝桜関の言葉をふと思い出しました。
「お前、きっと将来横綱になるぞ!」
 自分はほんとうに横綱になれるのだろうか? 横綱になってここまで雄大な土俵入りができるのだろうか? 富士泉関はちょっと考え込んでるようです。でも、自信はあるみたい。それはぼくがいるからだって。おいおいて感じ。
 さっきも話した通り、ぼくは富士泉関と友達になる前は、横綱朝桜関と友達だった。それはほんとだよ。だからと言って、富士泉関が横綱になるとは限らないよ。ぼくと友達になった力士の中には、平幕で終わった力士も何人かいるし。
 横綱土俵入りが終わり、横綱一行が支度部屋に帰ってきました。でも、富士泉関は幕尻に近い力士だから、すぐに取組があります。化粧まわしを解くと、そのまんま土俵へ。
「おい、いずみ、がんばれよ!」
「はい!」
 横綱富士ケ峰関の激励に富士泉関は大きな声で応えました。でも、ぼくはその直後の残念な横綱を見てしまいした。横綱は富士泉関の姿が消えると、さっとスマホを取り出したのです。たぶん今日の馬券の結果を見てるんだと思います。この顔色は・・・、あ~、今日は大敗したみたい。

よっ、横綱!2

2017年02月16日 | よっ、横綱!
 葵部屋の稽古が終わると、もうお昼ちょっと前です。お相撲さんはここで朝食兼昼食です。食事が終わると取的衆は大部屋に行き、昼寝です。お相撲さんにとって成長を促す昼寝も大事な仕事なのです。
 富士ケ峰関は近くのマンションに居を構えてますが、そこには帰らないようです。運転士と数人の付き人を従え、どこかに行くみたい。と、ここで富士泉関が現れました。
「おお、いずみ」
 いずみとは富士泉関のことです。部屋の中ではこう呼ばれてます。
「どうだ、お前もスポーツジムに行ってみないか?」
 実は横綱は昼寝を惜しんでほぼ毎日スポーツジムに通ってるんだ。せっかくの横綱の誘いです。富士泉関もスポーツジムに行けばいいと思うんだけど、富士泉関は躊躇しました。
「いや、オレはちょっと」
「そっか・・・」
 富士ケ峰関は付き人を連れて行ってしまいました。ぼくは慌てて富士泉関に声をかけました。
「なんで一緒に行かなかったの? 横綱がせっかく声をかけてくれたのに」
「横綱、今何を持ってた?」
「ええ?」
 思わぬ質問です。ぼくは記憶を辿りました。横綱の手に握られていたもの、あれはたしか・・・
「スポーツ新聞?」
「正解」
「相撲取りがスポーツ新聞持ってても、不思議じゃないんじゃん」
「競馬だよ。横綱はあの新聞で予想して、また馬券を買う気なんだよ」
 け、競馬?・・・、ぼくはちょっと唖然としちゃいました。横綱が馬券を買ってることくらい、ぼくだって知ってるよ。横綱は大の競馬ファン。でも、そんなに競馬にのめり込んでるとは思えないけどなあ。
 でも、富士泉関はそれを否定するように言葉を続けました。
「横綱の調子が悪くなったのと、横綱が馬券を買うようになったのと、ほぼ同時期なんだ。横綱が弱くなったのは、どう考えたって競馬だよ。競馬さえやめてくれれば、横綱はまた強くなるんだよ!」
 それはいくらなんでも考え過ぎだよ。ぼくはもう何も言えなくなってしまいました。

 でも、2人の間になんらかのわだかまりがあるとマイナスですよね。そこでぼくは一計を案じました。
 次の日の昼下がり、横綱富士ケ峰関は今日も付き人を引き連れてスポーツジムに行く気を見せてます。ぼくはそれを確認すると、富士泉関のスマホを隠しちゃいました。スマホは鳴らせば発見できます。富士泉関はスマホを発見すると自分の部屋に向かったのですが、そのとき横綱と鉢合わせになりました。
「あ、横綱」
「おお、いずみか。どうだ、今日こそはスポーツジムに行ってみないか?」
 さすがに2日連続で横綱にお断りすることはできません。富士泉関は今日は横綱についていくことにしました。

 葵部屋の門の前に8人乗りの乗用車が横付けされました。富士ケ峰関と富士泉関は真ん中の列に座りました。本当は3人で座れるベンチシートなんだけど、身体が大きい相撲取り2人です。2人だけでゆっくり座りました。ちなみに、後列はいつも付き人が2人で座るのですが、今日は富士泉関に押し出された付き人が廻ってきたので3人です。これはかなりきつそう。
 富士泉関はぼくを見ました。たぶん眼でこう言ったんだと思います。
「おまえが仕組んだことか?」
 もちろん。でも、ぼくはあえて無視しちゃいました。
 自動車が走り出しました。
 車中、横綱富士ケ峰関がスポーツ新聞を開きました。競馬欄です。それは富士泉関が見たくない光景です。富士泉関は唇を噛んでます。でも、横綱はメインレースの表だけ見てるんだよね。続いてスマホを取り出して、ピッピッピッとタッチ。スマホで馬券を買うみたい。でも、すぐに終了。ぼくは馬券のことはぜんぜんわからないんだけど、たぶん横綱はメインレースだけ買ったんだと思う。たった1レース。富士泉関はなんでそんなに悔しがるんだろ? ちなみに、今行われてるレースは、公営競馬の浦和競馬でした。
 横綱はスマホをしまうと、今度は富士泉関に話しかけました。
「おい、いずみ、露払い頼むぞ。いや~、お前が露払いやってくれてオレはうれしいよ、ほんとに」
 露払いとは横綱土俵入りのときの先導役です。ちなみに、横綱の後ろで大きな日本刀を持ってる力士を太刀持ちと言います。
 太刀持ちと露払いは基本同じ部屋の力士が努めるんだけど、幕内力士しかできないってルールもあるんだ。葵部屋では幕内力士はずーっと富士ケ峰関だけだったから、先場所まで他の部屋から関取を借りていたんだよ。だから自分の部屋から露払いができる人が現れて、とってもうれしく思ってるんだ。でも、富士泉関は相変わらず反応が悪いんだよね。

 クルマがスポーツジムの地下駐車場に入りました。横綱と富士泉関がスポーツジムの建物に入ると、中にはいろんなトレーニングマシンが置いてありました。横綱は1つのマシンを見ながら、富士泉関に話しかけました。
「どうだ、これをやってみないか」
 そのマシンは、う~ん、なんて名前だろ。マシンの横にある説明書きを読んだら、チェストプレスて名前でした。富士ケ峰関と富士泉関が並んでそのマシンで運動を始めました。
 富士泉関はチェストプレスで運動しながら、横目で横綱を見ました。横綱のマシンは富士泉関のものよりずーっとハードにセットしてあるんだけど、軽々と運動してます。さすが横綱。富士泉関はフッと笑うと、眼を閉じました。何かを思い出してるようです。ちょっと富士泉関の脳にダイブしてみましょう。
 これは3年前のこと。横綱富士ケ峰関がまだ小結だったころの話です。その場所、富士ケ峰関は初三役てことで期待されましたが、4勝11敗と散々な結果で終わりました。
 千秋楽の日の夜は、ほとんどの部屋は慰労会です。葵部屋もたくさんのタニマチさんを呼んで宴を催しました。が、大敗してしまった富士ケ峰関はぜんぜん乗り気がありません。大酒を飲んだ挙句、宴会を途中で抜け出し、付き人数人を連れて高級クラブに繰り出したのです。ちなみに、その付き人の中に富士泉関もいました。いや、当時は幕下だったから、富士泉と呼び捨てにした方がいいかな。
 高級クラブの中でも富士ケ峰関はかなり不機嫌でした。富士泉たち付き人も何かあっては大変と、かなりピリピリしてました。が、ついに事件が起きてしまいました。入店してきたばかりの客が富士ケ峰関を見た瞬間、
「なんだ、今日は負け犬が来てるのか」
 と、言ってしまったのです。次の瞬間、富士ケ峰関の右ストレートが飛び、その客の顔面をかすめました。
「この野郎ーっ!」
 横綱はさらに殴ろうとしましたが、富士泉たち付き人が必死に押さえました。が、富士ケ峰関の目標は、今度は付き人たちとなり、富士泉たちを思いっきり殴る蹴るで、さらに店の備品もたくさん壊してしまいました。
 翌日富士ケ峰関は畳の上で泣いて泣いて泣きながら土下座しました。相手は親方やタニマチ衆。いやそれだけではありません。葵部屋に所属する全力士に向かって土下座したのです。当時も葵部屋の最上位の力士は富士ケ峰関でしたが、そんなのは関係なく、みんなに土下座しました。むりもありません。本来なら警察に逮捕されていても当たり前の行為を働いたのだから。
 でも、葵親方は許してくれませんでした。そして富士ケ峰関にこう宣言させました。現役の間は2度と酒を呑まない。この約束は今でも守られてるんだよ。
 次の日富士ケ峰関はスポーツジムに向かいました。みんなにやる気を見せようと思ったのかな? 富士ケ峰関のスポーツジム通いはこうやって始まったようです。
 実は富士泉はスポーツジムで身体を鍛えることには懐疑的だったようです。スポーツジムで手に入る筋肉と相撲取りが必要とする筋肉は別物だと考えていたからです。でも、当時富士泉は富士ケ峰関の付き人だったので、顔色一つ変えずにスポーツジムについていきました。けど、次の場所で富士泉は十両となり、付き人を卒業。スポーツジムにもほとんどついていかなくなりました。今回は久しぶりのスポーツジムなのです。
 一通りの運動が済み、2人は帰ることにしました。富士泉関は何かさっぱりとした気分になりました。最近横綱は競馬のことしか考えてないと思ってたのですが、実際は富士泉関の知らないところでたくさんの汗を流してたのです。
 でも、帰りのクルマの中、富士ケ峰関はスマホをさっと取り出しました。で、その画面を見てちょっとニコっとしました。どうやら馬券があたったようです。富士泉関の思いは、また現実に戻されてしまいました。

17/02/14付我がPOGの順位

2017年02月15日 | POG16-17
文中、◎はJRA-VANの指名馬、▲はnetkeibaの指名馬、△はUMAJIN地獄モードの指名馬、▼はUMAJIN一口馬主モード、▽は競馬王の指名馬です。

この土日我がPOG指名馬は、G3共同通信杯に出走した◎スワーヴリチャードは見事1着。同じレースに出た◎エアウィンザーは着外でした。
こぶし賞に出走した▲ディープウォーリアは着外。新馬戦に出走した▽ヘルデンレーベンも着外。未勝利戦に出走した▼サンタテレサは5着。別の未勝利戦に出走した△ベラッチは着外でした。

今週は3歳500万下一般戦に▲アンジュデジール・▲スズカフロンティア・△レッドオーガーが出走予定になってます。3頭とも別のレースを予定してます。
未勝利戦には▲サトノジーガーと▲ベルダムが予定してます。この2頭も別のレースに出る予定です。

現在の我がPOGの順位です。

JRA-VAN(10頭指名可)153,800,000P/10,143位
①牡ウインブライト 父ステイゴールド 母サマーエタニティ 美浦畠山厩舎 ウィン
19,500,000P
②牡ヴァナヘイム 父キングカメハメハ 母グルヴェイグ 栗東角居厩舎 サンデーレーシング
26,400,000P
③牡エアウィンザー 父キングカメハメハ 母エアメサイア 栗東角居厩舎 ラッキーフィールド
11,800,000P
④牡オールザゴー 父ステイゴールド 母アルーリングボイス 栗東矢作厩舎 サンデーレーシング
19,800,000P
⑤牝コロナシオン 父キングカメハメハ 母ブエナビスタ 栗東池添学 サンデーレーシング
8,500,000P
⑥牡スワーヴリチャード 父ハーツクライ 母ピラミマ 栗東庄野厩舎 NICKS
58,800,000P
⑦牡ダノンクライム 父ヴィクトワールピサ 母シェルズレイ 栗東矢作厩舎 ダノックス
0P
⑧牡ダノンロマン 父ディープインパクト 母イマーキュレイトキャット 栗東藤原英厩舎 ダノックス
7,000.000P
⑨牡プレスト 父キングカメハメハ 母ポップコーンジャズ 栗東池江泰厩舎 金子真人ホールディングス
0P
⑩牝レッドエレノア 父ハーツクライ 母サビアーレ 美浦木村厩舎  東京ホースレーシング
2,000,000P

netkeiba(10頭指名可)10,240P/13,334位
①牡サトノアーサー 父ディープインパクト 母キングスローズ 栗東池江泰厩舎 里見治
3,020P
②牝キャスパリーグ 父ディープインパクト 母レジェンドキャット 栗東浅見厩舎 杉山忠国
2,510P
③アンジュデジール 父ディープインパクト 母ティックルピンク 栗東昆厩舎 安原浩司
910P
④牡ディープウォーリア 父ディープインパクト 母アマノチェリーラン 栗東中竹厩舎 中村孝
740P
⑤牝オンリートゥモロー 父ディープインパクト 母アコースティクス 美浦萩原厩舎 池谷誠一
730P
⑥牡クリアザトラック 父ディープインパクト 母クロウキャニオン 栗東角居厩舎 金子真人ホールディングス
720P
⑦牝ヴィニー 父ディープインパクト 母コケレール 栗東池江泰 キーファーズ
605P
⑧牡スズカフロンティア 父ディープインパクト 母スズカフォイル 栗東橋田厩舎 永井啓弍
520P
⑨牡サトノジーガー 父ディープインパクト 母ルアーズストーリー 美浦国枝厩舎 里見治
485P
⑩牝ベルダム 父ディープインパクト 母ドナブリーニ 栗東石坂厩舎 サンデーレーシング
10P

UMAJIN地獄モード(10頭指名可)12,700P/1,765位
①牝ソウルスターリング 父Frankel 母スタセリタ 美浦藤沢厩舎 社台レースホース
8,800P
②牡バルデス 父ハービンジャー 母ディアデラノビア 美浦木村厩舎 キャロットファーム
850P
③牡マジカルスペル 父Creative Cause 母プラウドスペル 栗東藤原英厩舎  吉田勝己
380P
④牝ステレオグラム 父ローエングリン 母ステレオタイプ 美浦田中剛厩舎 社台レースホース
0P
⑤牡ヴァントシルム 父ジャングルポケット 母メジロシャレード 栗東須貝厩舎 キャロットファーム
0P
⑥牡レッドオーガー 父カジノドライヴ 母アドヴァーシティ 美浦藤沢厩舎 東京ホースレーシング
970P
⑦牝ブルーブラッド 父Dubawi 母セレブリティ 栗東角居厩舎 H.H.シェイク・モハメド
130P
⑧牝ハッピーランラン 父ワークフォース 母ハッピーラン 美浦手塚厩舎 馬場幸夫
1,090P
⑨牝チャーミングヤッコ 父ベーカバド 母ハネダテンシ 美浦田村康厩舎 森保彦
280P
⑩牡ペラッチ 父タートルボウル 母ルーシーショー 美浦手塚厩舎 荒牧政美
200P

UMAJIN一口馬主モード(10頭指名可)19,8495P/506位
①牡トゥザクラウン 父キングカメハメハ 母トゥザヴィクトリー 栗東池江泰厩舎 キャロットファーム
0P
②牡グローブシアター 父キングカメハメハ 母シーザリオ 栗東角居杞憂者 キャロットファーム
2,400P
③牝ミリッサ 父ダイワメジャー 母シンハリーズ 栗東石坂厩舎 キャロットファーム
1,180P
④牡レイデオロ 父キングカメハメハ 母ラドラーダ 美浦藤沢厩舎 キャロットファーム
8,400P
⑤牝アスティル 父ステイゴールド 母ヒストリックスター 栗東池添学厩舎 キャロットファーム
0P
⑥牡バルデス 父ハービンジャー 母ディアデラノビア 美浦木村厩舎 キャロットファーム
850P
⑦牝リスグラシュー 父ハーツクライ 母リリサイド 栗東矢作厩舎 キャロットファーム
6,280P
⑧牝サンタテレサ 父ドリームジャーニー 母アビラ 栗東池江泰厩舎 キャロットファーム
175P
⑨牝キュイキュイ 父ハービンジャー 母スナップショット 美浦手塚厩舎 キャロットファーム
610P
⑩牡ヴァントシルム 父ジャングルポケット 母メジロシャレード 栗東須貝厩舎 キャロットファーム
0P

競馬王(6頭指名可)1,770P/840位
①牡サトノアーサー 父ディープインパクト 母キングスローズ 栗東池江泰厩舎 里見治
2,990P
②牡ハリーレガシー 父ヴィクトワールピサ 母バルドウィナ 栗東音無厩舎 社台レースホース
280P
③牝レーヴルシード 父ディープインパクト 母レーヴディマン 栗東須貝厩舎 キャロットファーム
④牡ヘルデンレーベン 父ヴィクトワールピサ 母メイキアシー 栗東須貝厩舎 社台レースホース
0P
⑤牡モクレレ 父ディープインパクト 母アパパネ 美浦国枝厩舎 金子真人ホールディングス
0P
⑥牡トゥザクラウン 父キングカメハメハ 母トゥザヴィクトリー 栗東池江泰厩舎 キャロットファーム
0P

寝台列車に乗ったことはある?

2017年02月15日 | 散文
あります。かつて東京・大阪間を走ってた急行銀河です。仕事の関係で東京に住んでたころ、よく使いましたね。大阪に行った理由はすべて競馬でした。ビワハヤヒデて馬が神戸新聞杯に出走するときは、当初行く気はなかったのですが、突如ビワハヤヒデを見たくなり、この列車の切符を確保して阪神競馬場に行ったことがありました。メジロマックィーンが産経大阪杯を勝ったときも、そんな感じだったような。
あと、函館競馬場の帰りでも使ったことがありました。マイネルレコルトて馬が函館3歳ステークス(2歳ステークスだったかも)を勝ったときに使いました。

よっ、横綱!1

2017年02月14日 | よっ、横綱!
 日本人は相撲が好きだ。う~んと昔から好きだ。じゃ具体的にいつから相撲が行われてきたんだ? と質問されたら困っちゃうけど、ともかくはるか昔から行われてきたことはたしかなんだ。古事記や日本書紀にも描かれてるんだよ。それから…
 いやいや、そんな話を始めたら、いくら時間があっても足りないや。今は今の相撲の話をしよう。

 今一番強い横綱は朝桜関。この人はすごい。現在9場所連続で優勝中。1年半もずーっと優勝しっぱなしなんだよ。おまけに37連勝中で、この場所で50連勝達成は間違いなしと噂されてるんだ。今までいろんな大横綱がいたけど、こんなすごい横綱は他にいなかったんじゃないかな。
 立ち合いと同時に右四つに組むスピードは眼にも止まらぬ速さ。たとえ突っ張りを得意としてる力士でも、相手が突っ張りを出す前に組んでしまうほどの速さなんだ。で、電車道でそのまま相手を寄り切ってしまう。今これを防ぐ関取はいないんだよなあ。

 本場所5日前のことです。横綱朝桜関が所属する大櫻部屋に大タニマチさんが訪ねてきたんだ。タニマチとは相撲のスポンサーみたいな人だよ。
 タニマチさんは久しぶりに朝桜関にあった喜びで、宴会を開くと宣言したんだ。本場所5日前のことだよ。どう考えても迷惑千万な話だよね。誰かが止めに入ればいいんだけど、このタニマチさん、10年前超極貧で解散間近だった大櫻部屋に大金を注入して助けたことがあっんだ。だから大櫻親方はいっさい拒否できないんだ。悪いことに他の大タニマチさんたちはみんな出払ってました。そんなわけで、宴会は強行されることになったんだ。
 大櫻部屋としては宴会はなるべくこじんまりと行いたかったんだけど、酔ってハイになったタニマチさんにそんな気持ちは微塵もなくって、ついにタニマチさんは禁断の行動に出てしまったんだ。
 実は絶対無敵な大横綱朝桜関にも、いくつかの弱点があったんだ。その1つが下戸。朝桜関の肝臓はアルコールを分解する能力がまったくなかったんです。だから朝桜関は極力酒は避けてたんだけど、タニマチさんは宴会の最中、銘々膳を挟んで大横綱朝桜関の真ん前にでーんと座ったんだ。その右手には徳利が。横綱は「マズい」と思ったんだけど、
「なんだ、オレの酒は飲めないてゆーのか!?」
 と大タニマチさんにすごまれたら、何も言い返すことができません。横綱は横目で大櫻親方を見たけど、親方はニガムシをかみつぶしたような表情をしてるだけでした。横綱は仕方なくお猪口を差し出したんだ。
「おお、やっとその気になったか」
 タニマチさんはそのお猪口に酒を注ぎ込んだ。横綱は「1杯くらいなら・・・」と思い、一気にぐいっと。それを見たタニマチさんは、
「なんだ、いけるじゃねーか」
 タニマチさんは今度はビール用のコップを持ち、それに徳利のお酒を注いで横綱に突き出したんだ。
「ほれ、今度はこれだ!」
 横綱はさすがにこれはヤバいと思いました。他の力士や部屋付きの行司・床山さんや女将さんたちも異変に気付いたらしく、全員の手が止まりした。そう、凍り付くてやつだね。でも、唯一この異常事態を止めることができそうな大櫻親方は、やっぱり何も言えなかったんだ。
 しびれを切らしたのか、タニマチさんがぶち切れちゃいました。
「おい、なんだよ、やっぱり呑めないってゆーのか? はぁ!」
「呑めません!」
 さすがこれ以上はムリと判断したのか、横綱がきっぱりと断りました。
「なんじゃとーっ!」
 タニマチさんは激昂して、横綱の銘々膳を蹴ってひっくり返してしまいました。横綱の高い和装があっとゆー間に汚れちゃいました。修羅場です。大修羅場です!
 タニマチさんは立ち上がり、今度は親方を睨みました。
「おい、そこのボンクラ! なんだ、この無礼は? 10年前この部屋にくれてやった金、全部返せ! 今すぐ全部返しやがれ!」
「待て!」
 間髪入れずに声が入りました。その声は朝桜関でした。さすがの横綱もこれにはカチンときたみたいです。横綱は立ち上がり、そしてタニマチさんの手に握られていたコップを掴みました。
「これでいいですか?」
 意を決した横綱は、一気にコップの酒を飲み干してしまいました。
「へへへ、まだだよ、まだだよ。じゃ、次はこれだ」
 タニマチさんは今度は別の銘々膳にあった徳利を取りました。で、その酒をコップに注ぎこみました。今度はコップの淵から酒がこぼれ出るほどの量です。タニマチさんはそのコップをまた横綱に差し出しました。
「さあ、呑め!」
 横綱は一瞬嫌な顔をしましたが、タニマチさんをキッと睨むと、その酒を呑み始めました。が、すぐに異変が発生しました。横綱が一瞬うぐっとなると、呑んだ酒をあのドラマの松田優作みたいにぶばーっと吹き出しちゃったです。そのまま横綱の身体は真後ろに倒れ始めました。で、畳の上に大の字になってしまったのです。
「きゃーっ!」
 女性の誰かが悲鳴を挙げました。そして上を下への大騒ぎ。若い力士が横綱を抱き起そうとしてます。
「横綱! 横綱! しっかりしてください、横綱!」
 が、当の横綱は完全グロッキー状態。吐き出した酒か、泡を吹いてるようにも見えます。当のタニマチさんは、ここでやっと我に返ったようです。
「わ、わし、なんてことしてしまったんじゃ・・・」
 後悔後に立たず。すぐに救急車が来て、横綱を搬送。横綱は急性アルコール中毒で緊急入院となりました。

 次の日、他のタニマチさん数人が吹っ飛んできて、当のタニマチさんを叱りました。いや、怒鳴り散らしたと言った方がいいかな。当のタニマチさんは小さくなって謝罪するばかりでした。タニマチさんは本場所初日を楽しみにしてましたが、すぐに田舎に帰ってしまいました。
 一方横綱朝桜関は、一日まるまる入院となりました。本場所4日前ですよ。この場所で連続10場所優勝と50連勝の大記録がかかってるというのに・・・
 横綱は一刻も早く稽古を始めたいようですが、身体がぜんぜんいうことをきいてくれません。こればっかりは大横綱でもムリです。
 けど、次の朝、いや、未明と言った方がいいかな。朝桜関の姿は病院から忽然と消えました。
 ここは早朝の大櫻部屋です。下位の力士、専門用語で言うところの取的衆が稽古場に下りてくると、異様な人の気配を感じました。なんとその人影は朝桜関だったのです。横綱は鉄砲柱に軽く突っ張りをしてました。取的衆は唖然と横綱を見てましたが、その内の1人が恐る恐る呼びかけました。
「よ、横綱、こんなところにいていいのですか?」
 が、横綱は鉄砲を止めずに、諭すようにいいました。
「バカヤロ。稽古は1日休めば、取り返すのに3日はかかるだろ」
 しかし、横綱の鉄砲にはイマイチ勢いがありません。取的衆は不安になってしまいました。本場所は3日後ですよ。はたして横綱は間に合うのでしょうか?

 一方ここは葵部屋の土俵です。今土俵では力士衆が見守ってる中、もう1人の横綱富士ケ峰関が腰を割り、大きく手を広げてました。
「さぁ、こい!」
「うおーっ!」
 気合を入れてぶつかっていった力士は富士泉関。そのまま富士ケ峰関を土俵の外まで押し出しました。
「よし、いいぞ!」
 富士ケ峰関はそう言うと、土俵のすぐ内側に戻って、また大きく手を広げました。
「もう一丁こい!」
 と、富士泉関は土俵の外からぶつかっていって、土俵の反対側に富士ケ峰関を押し出しました。そう、これはぶつかり稽古。相撲取りにとってこれは稽古の基本なんだ。
 富士ケ峰関はまた土俵に立ち、両手を大きく広げました。
「もう一丁!」
 富士泉関はまたもや土俵の外からバシッと富士ケ峰関の胸にぶつかっていって、富士ケ峰関の身体はまたもや土俵際に。でも、今回は違いました。富士ケ峰関は土俵際で身体を開くと、富士泉関の身体は無残に転んで砂だらけになってしまったのです。でも、これは別に意地悪してやったわけじゃないんだ。受け身の練習なんだよ。相撲取りは激しく転ぶことが多いし、転ぶと身体が大きい分大けがになる確率も高いから、ぶつかり稽古でもこうやって受け身の練習を取り入れてるんだ。
 富士ケ峰関は土俵に戻ると、富士泉関に向かってまた大きく両手を広げました。
「もう1回、来い!」
「うぉーっ!」
 なんかものすごく熱が入った稽古だよね。実は葵部屋にいる幕内力士はこれまで横綱富士ケ峰関だけだったんだけど、今度の場所で富士泉関が帰り入幕となったんだ。それで富士ケ峰関はとっても喜んでるんだよ。
 やっと富士泉関の稽古が終わり、今度は別の力士がぶつかり稽古に。富士泉関はぼくを見つけると、ぼくの方にやってきた。そしてぼくの横に立つと、土俵を見ながら話しかけてきたんだ。
「朝桜関、部屋に戻ったんだって?」
「うん、今見てきたけど、たくさんの記者が来てたよ」
 土俵を見てた富士泉関の眼は、いつの間にかぼくを見てた。もちろん横目で。
「今場所は休場するって噂があったけど、こいつは出るな。朝桜関が休場となれば、うちの横綱にもチャンスがあったんだけどなあ・・・」
 別の横綱の不幸を祈るなんて・・・、でも、そうは言ってられないほど最近の横綱富士ケ峰関は不甲斐ないんだ。2年前富士ケ峰関は15戦全勝で横綱に昇進したんだけど、それからがいまいち。横綱昇進の場所は12勝3敗だったけど、それ以降は10勝か11勝止まり。先場所はついに8勝で終わってしまったんだ。横綱なのに8勝7敗だよ。これでついに進退問題が発生しちゃったんだ。もし次の場所である程度の結果を出さないと富士ケ峰関は引退かも。富士泉関は一時期富士ケ峰関の付き人を務めていたから、富士ケ峰関のことを人一倍気にしてるんだ。
 ちなみに、今2番目に強い力士は、東の大関銀奨。銀奨関は先場所も先々場所も14勝1敗だったんだ。2場所とも横綱朝桜関だけに負けて優勝を逃してるんだよ。2場所連続で14勝1敗だったんだから横綱にしてもいいと思うけど、優勝経験がないのがネックなんだ。だから朝桜関が休場になれば俄然有利。横綱昇進が見えてくるんだ。

よっ、横綱!序章

2017年02月13日 | よっ、横綱!
懲りもせずにまたつまらない小説を書いてしまいました。タイトルは「よっ、横綱!」。タイトル通り、相撲小説です。
プロットはかなり前から温めてたのですが、実際書き始めたのは去年9月。でも、すぐに気はどこかに飛んでしまい、思い出したのは今年初め。ちょうど初場所を見ながらゆるゆると書いてました。
ちなみに、私は相撲はあまり興味がありません。よって劇中表現におかしな点があるかもしれません。その点は許してやってください。しかし、相撲にまったく興味がないのに、なんで相撲小説を書いたんだか?

明日から順次上げていきます。

17共同通信杯の写真

2017年02月12日 | 競馬写真
今日は東京競馬場に行ってきました。今日の東京競馬のメインレースはG3共同通信杯トキノミノル記念でした。

 

 

毎年日本ダービー馬・皐月賞馬を輩出する共同通信杯。今年の優勝馬はスワーヴリチャードでした。私は単勝馬券を買ってたので、的中です。


今日も我が馬券はイマイチだったのですが、この的中でかなり溜飲を下げることができました。収支はかなりのマイナスでしたが。

今日10レースはバレンタインステークスでした。なんかものすごく懐かしいレース名ですねぇ。入場曲はなぜか国生さゆりのあの曲でした。パフュームのチョコレイト・ディスコて選択はなかったのかいな?