今朝の日経新聞 関西版に『荒川化学工業「粉じんに引火し爆発」』とのタイトルで、昨年の事故原因と今後の対策が、小さな記事で出ていた。
日産のゴーン容疑者逮捕のニュースの裏に隠れた記事であるが、これらと類似の粉体製品を製造している化学会社や、逆に、この荒川化学が出荷したような粉体を原料として取り扱っている会社にとっては、大変重要な情報である。
爆発火災で尊い従業員2名の方が命を落とされた事故は、小生がこのブログで発生原因は『原料仕込み時の静電気爆発』ではないかと類推したが、出来上がった製品を充填時、使用したフレコンとの間で発生したスパークが主原因で静電気爆発が起こり、この火災がダクト内の粉塵に伝播し、さらに大きな爆風となり、可燃性原料の配管破損や熱媒へも引火した事で重大な事故となったとの事。
<昨年のブログから>
荒川化学(富士工場) 爆発火災事故発生 2017-12-01 12:14:52 | 安全管理
・・ツイッターの記事を見ていると、かなり大きな爆発が起こったようであるが、操業中で、反応中の事故となると、異常反応なのか、原料を仕込んでいる時の静電気などでの着火爆発なのか、現役の時代のKYが思い起こされる。・・
今製造現場で問題となっている『技術の継承問題』や『ナゼナゼ問答力の低下』が原因でなければいいが。
・・
あたりまえに供給されていたものが、突如供給されなくなる。
当然BCPで検討は進めていたかと思うが、『風や桶屋』をもう少し深く追及する必要があるかもしれない。
+****
この新聞記事から荒川化学のHPを開いてみると、『富士工場における爆発・火災事故について(第7報)事故調査委員会の報告書について』という新着情報が出ており、調査結果の詳細がPDFで添付されていた。
朝からこの調査報告書を見ているが、今後の化学産業全体での『安全共有』と言う点で、化学関係や消防・防災等の色々な機関の解析もこれから出て来るかと思うが、もう少し詳細な情報が欲しい所である。
<事故原因の概略(荒川化学発表から)>
今回の爆発・火災事故は,印刷インキ用樹脂製造棟1階のロジン変性フェノール樹脂の製品包装作業中,FIBC(=フレキシブルコンテナ)内でコーン放電が起こり,変性フェノール樹脂の粉じんに着火したことから始まったと推測される。
<報告書での疑問事項>
100ページ近くの報告書であり、まだすべて読み切れていないのでどこかに記載されていれば申し訳ないのであるが、さらに詳しく知りたい事項がいくつか出て来た。(順不同であるが)
(1)フレコンの組成、形状
報告書では、充填対象は、FIBC(=フレキシブルコンテナ)との記載があり、静電タイプとの事であるが、素材、形状が明確になっていない。
フレコンについては、昨今ユーザーからの要望で材料支給などもあり、特殊形状の物や、素材もRoHSや可塑剤Free対策などで、仕様・規格が様々になっている可能性がある。
今回のフレコンでは470Kg充填との事であり、充填後の空間容積も嵩密度にもよるが、もしフレコンとの間でのスパークであれば、空間容積の議論が必要ではないかと思われる。
さらにポンチ絵で明確では無いが、フレコン形状から見て、充填口(スライド弁)から充填面までの高さも気になる所である。
この他、底面設置でのアースの可能性を考える時、釣りバンド、外巻バンド、底面抜出有無なども知りたい所である。
リサイクル使用の場合、洗浄が必須であればこの洗浄方法等で内面の痛みなども気になる所であり、取り扱い基準が今後の参考になるかと考える。
(2)ロジン変性フェノール樹脂の特性
この報告書ではいくつかのこの樹脂の特性が記されており、樹脂製造後溶融物をトレーに流し込み、チョコレートの板を細かく割っていくような工程で粉砕化をされている様である。
篩分器ONの重量や粉塵の安息角の測定結果は公表されているが、当該品の外観が判るような顕微鏡写真が見てみたい。(クラッシャで粒度分布が異なるとの記述あり)
販売先の印刷用インクでのノウハウに係わる事であるかもしれないが、星型か球状では帯電特性が異なり、帯電後の放電特性も異なるのではと愚考している。
過去粉体物を取り扱ったとき、舞い上がりの試験を大型のメスシリンダの様な筒で実験した事があるが、粉体の形状や先端部の特性で大きく変わる事も経験した。
(3)湿度コントロール
今回の事故の一つの要因として湿度管理が装置の不具合で作動していなかったが、スタート時は既定であり問題なしとの事である。しかし現実は、充填作業途中、現場雰囲気温度が上がり、湿度が低下してしまった可能性もあり、この点も考慮した解析が必要とも思われる。
特に、この樹脂そのものが吸湿性を持つものかどうかは判らないが、ホッパ内の微小粒子が、充填当初はある程度の表面水分を保持していたが、途中から流れてくる樹脂でホッパ温度も上がり、雰囲気湿度が低下した可能性は否めない。
(4)ホッパ形状
充填ホッパの使用実績や清掃記録が失われている可能性があり、解析が難しい所であるが、樹脂が流れる速度や摩擦で帯電は発生し、これがフレコン内で逃げるときにスパークを発生させたかと思う。
ホッパの金属は電気を逃がすという思い込みではなく、表面粗さや付着物の状況などで異なる可能性もあり、今後の検証をお願いしたい所である。
特に安息角のデーターからも一旦流速が落ちると、ホッパー口で滞留する可能性も伺え、この上を粉体が走った場合などは、帯電がどうなるのかも検討課題かとも思われる。
(5)金属探知機
この事故の前年に軽微な火災で装置を変更されたようであるが、この中で、金属探知機に問題がなかったか。
多分磁場をかけて、この間を樹脂粉体を通す事で微小の金属異物を取る方法と考えるが、磁場をかける事での帯電性変化などが十分検証されていたかどうか。
(6)安全靴の過信
報告書では安全靴が静電特性を有しているので問題なしとの事であったが、この機能チェックが都度なされていたかどうか。
安全靴は経年で帯電(除電)性能が低下するため、作業員に貸与している安全靴の検査が必要であり、ミドリ安全等ではチェッカー(例)での定期検査を推奨(義務化?)している。
この点、可燃性液体を使用している化学会社として、静電気に対する知識が不足していたのではと思われる。
その他まだまだ知りたい事があるので、最終的な結論はともかくとして、化学工学や粉体工学の専門家の方も入れ込んで、これからも真の原因究明をお願いしたい所である。
この背景には、
先に発生の品質偽装問題ではあまり問題となっていないが、原料や材料を包装する素材も、規格として取り決めておかないと、後工程での品質や製造工程での安全が保てないと思われる事態がある。
一例として
化学製品を作る原料の場合、いままでの国産品が供給不可となり、中国やインドの原料メーカーへ切り替える事が出て来ることがある。
今まで国産品が複装ターポリン袋(最内装がポリエチレンをコーティング(貼付)された紙袋)で供給されていた原料が、輸入品では、厚手のポリ袋になったり、フレコンしか供給不可となる場合がある。
海外品へ切替時、紙袋であった場合でもとじ紐の切れ端混入や破袋の問題もあるが、多くの場合、コスト面や現地での調達の容易さから、ポリ袋やフレコンで提供される場合が多い。
この場合、一番危険なのは、これら原料を可燃性の溶媒が仕込んである反応釜へ投入する際である。
今回の事故での充填とは逆であるが、ポリ袋から粉体を取り出す際、粉体との間で静電気が発生し、たまった静電気が溶媒や飛散した粉体原料へ引火、爆発する事がある。
特に反応釜がグラスライニング(GL)の場合は、ポリ袋との間でスパークを起こす可能性が高く、釜内部で蒸気化した可燃性液体へ一気に引火し、大爆発を起こす事故が、過去何度か化学工場で起こっている。
ターポリン袋も必ずしも安全ではないが、紙袋部分で静電性が保てたり、直接釜の淵へ当たらない等の工夫が出来るが、静電気が蓄積する可能性のあるポリ袋やポリタンクなどからの直接仕込みは、作業時の危険予知がさらに必要となる。
さらにフレコンも、国内品の正規品では静電性検査が通っており、アース線が埋め込まれたりしていればなお問題はないが、海外品は、コスト対応のためか、ポリエチ、ポリプロを使用したものもあり、取り扱いを慎重に行う必要がある。
これらの事から、今回の事故も、当初仕込側での事故かと邪推したが、充填側、さらには使用者側での問題となる。
今回の事例を基に、粉体製品を使用される印刷インク製造メーカー等は、静電対応されたフレコンでも事故が起こる事を認知した上で、さらなる安全管理が必要となった事は事実である。
このためにも、単に結果終息ではなく、工学的な面で原因究明、検証をお願いしたい。
日産のゴーン容疑者逮捕のニュースの裏に隠れた記事であるが、これらと類似の粉体製品を製造している化学会社や、逆に、この荒川化学が出荷したような粉体を原料として取り扱っている会社にとっては、大変重要な情報である。
爆発火災で尊い従業員2名の方が命を落とされた事故は、小生がこのブログで発生原因は『原料仕込み時の静電気爆発』ではないかと類推したが、出来上がった製品を充填時、使用したフレコンとの間で発生したスパークが主原因で静電気爆発が起こり、この火災がダクト内の粉塵に伝播し、さらに大きな爆風となり、可燃性原料の配管破損や熱媒へも引火した事で重大な事故となったとの事。
<昨年のブログから>
荒川化学(富士工場) 爆発火災事故発生 2017-12-01 12:14:52 | 安全管理
・・ツイッターの記事を見ていると、かなり大きな爆発が起こったようであるが、操業中で、反応中の事故となると、異常反応なのか、原料を仕込んでいる時の静電気などでの着火爆発なのか、現役の時代のKYが思い起こされる。・・
今製造現場で問題となっている『技術の継承問題』や『ナゼナゼ問答力の低下』が原因でなければいいが。
・・
あたりまえに供給されていたものが、突如供給されなくなる。
当然BCPで検討は進めていたかと思うが、『風や桶屋』をもう少し深く追及する必要があるかもしれない。
+****
この新聞記事から荒川化学のHPを開いてみると、『富士工場における爆発・火災事故について(第7報)事故調査委員会の報告書について』という新着情報が出ており、調査結果の詳細がPDFで添付されていた。
朝からこの調査報告書を見ているが、今後の化学産業全体での『安全共有』と言う点で、化学関係や消防・防災等の色々な機関の解析もこれから出て来るかと思うが、もう少し詳細な情報が欲しい所である。
<事故原因の概略(荒川化学発表から)>
今回の爆発・火災事故は,印刷インキ用樹脂製造棟1階のロジン変性フェノール樹脂の製品包装作業中,FIBC(=フレキシブルコンテナ)内でコーン放電が起こり,変性フェノール樹脂の粉じんに着火したことから始まったと推測される。
<報告書での疑問事項>
100ページ近くの報告書であり、まだすべて読み切れていないのでどこかに記載されていれば申し訳ないのであるが、さらに詳しく知りたい事項がいくつか出て来た。(順不同であるが)
(1)フレコンの組成、形状
報告書では、充填対象は、FIBC(=フレキシブルコンテナ)との記載があり、静電タイプとの事であるが、素材、形状が明確になっていない。
フレコンについては、昨今ユーザーからの要望で材料支給などもあり、特殊形状の物や、素材もRoHSや可塑剤Free対策などで、仕様・規格が様々になっている可能性がある。
今回のフレコンでは470Kg充填との事であり、充填後の空間容積も嵩密度にもよるが、もしフレコンとの間でのスパークであれば、空間容積の議論が必要ではないかと思われる。
さらにポンチ絵で明確では無いが、フレコン形状から見て、充填口(スライド弁)から充填面までの高さも気になる所である。
この他、底面設置でのアースの可能性を考える時、釣りバンド、外巻バンド、底面抜出有無なども知りたい所である。
リサイクル使用の場合、洗浄が必須であればこの洗浄方法等で内面の痛みなども気になる所であり、取り扱い基準が今後の参考になるかと考える。
(2)ロジン変性フェノール樹脂の特性
この報告書ではいくつかのこの樹脂の特性が記されており、樹脂製造後溶融物をトレーに流し込み、チョコレートの板を細かく割っていくような工程で粉砕化をされている様である。
篩分器ONの重量や粉塵の安息角の測定結果は公表されているが、当該品の外観が判るような顕微鏡写真が見てみたい。(クラッシャで粒度分布が異なるとの記述あり)
販売先の印刷用インクでのノウハウに係わる事であるかもしれないが、星型か球状では帯電特性が異なり、帯電後の放電特性も異なるのではと愚考している。
過去粉体物を取り扱ったとき、舞い上がりの試験を大型のメスシリンダの様な筒で実験した事があるが、粉体の形状や先端部の特性で大きく変わる事も経験した。
(3)湿度コントロール
今回の事故の一つの要因として湿度管理が装置の不具合で作動していなかったが、スタート時は既定であり問題なしとの事である。しかし現実は、充填作業途中、現場雰囲気温度が上がり、湿度が低下してしまった可能性もあり、この点も考慮した解析が必要とも思われる。
特に、この樹脂そのものが吸湿性を持つものかどうかは判らないが、ホッパ内の微小粒子が、充填当初はある程度の表面水分を保持していたが、途中から流れてくる樹脂でホッパ温度も上がり、雰囲気湿度が低下した可能性は否めない。
(4)ホッパ形状
充填ホッパの使用実績や清掃記録が失われている可能性があり、解析が難しい所であるが、樹脂が流れる速度や摩擦で帯電は発生し、これがフレコン内で逃げるときにスパークを発生させたかと思う。
ホッパの金属は電気を逃がすという思い込みではなく、表面粗さや付着物の状況などで異なる可能性もあり、今後の検証をお願いしたい所である。
特に安息角のデーターからも一旦流速が落ちると、ホッパー口で滞留する可能性も伺え、この上を粉体が走った場合などは、帯電がどうなるのかも検討課題かとも思われる。
(5)金属探知機
この事故の前年に軽微な火災で装置を変更されたようであるが、この中で、金属探知機に問題がなかったか。
多分磁場をかけて、この間を樹脂粉体を通す事で微小の金属異物を取る方法と考えるが、磁場をかける事での帯電性変化などが十分検証されていたかどうか。
(6)安全靴の過信
報告書では安全靴が静電特性を有しているので問題なしとの事であったが、この機能チェックが都度なされていたかどうか。
安全靴は経年で帯電(除電)性能が低下するため、作業員に貸与している安全靴の検査が必要であり、ミドリ安全等ではチェッカー(例)での定期検査を推奨(義務化?)している。
この点、可燃性液体を使用している化学会社として、静電気に対する知識が不足していたのではと思われる。
その他まだまだ知りたい事があるので、最終的な結論はともかくとして、化学工学や粉体工学の専門家の方も入れ込んで、これからも真の原因究明をお願いしたい所である。
この背景には、
先に発生の品質偽装問題ではあまり問題となっていないが、原料や材料を包装する素材も、規格として取り決めておかないと、後工程での品質や製造工程での安全が保てないと思われる事態がある。
一例として
化学製品を作る原料の場合、いままでの国産品が供給不可となり、中国やインドの原料メーカーへ切り替える事が出て来ることがある。
今まで国産品が複装ターポリン袋(最内装がポリエチレンをコーティング(貼付)された紙袋)で供給されていた原料が、輸入品では、厚手のポリ袋になったり、フレコンしか供給不可となる場合がある。
海外品へ切替時、紙袋であった場合でもとじ紐の切れ端混入や破袋の問題もあるが、多くの場合、コスト面や現地での調達の容易さから、ポリ袋やフレコンで提供される場合が多い。
この場合、一番危険なのは、これら原料を可燃性の溶媒が仕込んである反応釜へ投入する際である。
今回の事故での充填とは逆であるが、ポリ袋から粉体を取り出す際、粉体との間で静電気が発生し、たまった静電気が溶媒や飛散した粉体原料へ引火、爆発する事がある。
特に反応釜がグラスライニング(GL)の場合は、ポリ袋との間でスパークを起こす可能性が高く、釜内部で蒸気化した可燃性液体へ一気に引火し、大爆発を起こす事故が、過去何度か化学工場で起こっている。
ターポリン袋も必ずしも安全ではないが、紙袋部分で静電性が保てたり、直接釜の淵へ当たらない等の工夫が出来るが、静電気が蓄積する可能性のあるポリ袋やポリタンクなどからの直接仕込みは、作業時の危険予知がさらに必要となる。
さらにフレコンも、国内品の正規品では静電性検査が通っており、アース線が埋め込まれたりしていればなお問題はないが、海外品は、コスト対応のためか、ポリエチ、ポリプロを使用したものもあり、取り扱いを慎重に行う必要がある。
これらの事から、今回の事故も、当初仕込側での事故かと邪推したが、充填側、さらには使用者側での問題となる。
今回の事例を基に、粉体製品を使用される印刷インク製造メーカー等は、静電対応されたフレコンでも事故が起こる事を認知した上で、さらなる安全管理が必要となった事は事実である。
このためにも、単に結果終息ではなく、工学的な面で原因究明、検証をお願いしたい。